Appleは15インチMacBook Proの後継モデルとして、11月13日に「16インチMacBook Pro」を発表しました。かつては17インチモデルが存在していたMacBook Proですが、2012年以来、最大サイズを15インチに抑えられ、以来「ハイエンドマシン」としての権威は薄まっていたわけです。
その間、Adobeのサブスクリプション化によってプラットホーム選択が自由化されました。グラフィックスなどでマシンパワーが思い切り必要なクリエイティブ・プロは、性能向上が著しいゲーミングPCを活用するようになり、デスクトップでもノートでも、Macを使う理由として好み以上のものを見つけることが難しいのが現状と言わざるを得ません。
そこに対して、AppleはiMac Pro投入、Mac miniのハイエンドデスクトップ化、Mac Proの更新と、矢継ぎ早にMac復権のための施策を打ち続けてきました。プロを振り向かせるMac強化戦略の集大成とも言える存在が16インチMacBook Proなのです。
Mac史上最高峰「16インチMacBook Pro」の極上サウンドを実現したT2チップの功績(松村太郎)
「おお」と声をあげてしまった
おそらく多くの人には関係ないかもしれませんが、8コアのIntel Core i9プロセッサ、VRAMを8GB搭載できるAMD Radeon 5500Mグラフィックス、最大64GBメモリ、そして途方もない金額になりそうな8TBのSSDストレージまで拡張できます。理想のスペックを1台のマシンに収めて世界中で創作活動に勤しみたい、そのためならいくらでも投資する、というプロを満足させるに足るマシンに進化したと言えます。
その一方で、筆者が個人的に期待していたディスプレイのテクノロジーの変化や、新たに機械学習コアを追加するんじゃないかと予測していたTチップの次世代版は登場せず。そのためiPad Proには搭載されたFace IDも、Macに初搭載とはなりませんでした。少し進化のスピードを早く見積りすぎて、読み間違った格好でしたが、これまでもMacBook Proに搭載されてきたT2チップには、まだまだ仕事が残されていました。
「おお」と声をあげてしまった音楽体験
T2チップは、Macのブートやディスクコントローラーのオンザフライ暗号化の他に、FaceTime HDカメラの制御や画像処理、そしてオーディオ処理、そしてTouch IDのセキュリティを担っています。
簡単に言えば、A10 FusionあたりのチップがMacに載っているような感覚で、Macのハードウェアと、その上で動くIntelベースのmacOSを従えているような存在と言えます。雑に言えば、MacにおいてIntelチップは、すでにAppleの独自チップが用意した箱庭で生きているようなものです。
そのT2チップが音楽方向に花開いたのが16インチMacBook Proの別の顔。何も知らずにこのマシンが奏でる音楽を聴いたら、外付けの高級スピーカーでも繋がっているんじゃないかと誤解するだろうし、録音した音を聞けば、絶対にUSBの外付けコンデンサーマイクがあるんじゃないかと思ってしまう。それほどにMacBook Pro 16インチのオーディオは、再生も録音も異次元の品質になっていたのです。
スピーカーは6つのドライバーで構成されていますが、特に強化されたのは低音。よくノートパソコンのスピーカーでシャカシャカ抜けた音が再生されていて、それが当たり前だと思っていると、MacBook Proのスピーカーには度肝を抜かれます。
分厚い低音はマシンのボディを振動させずクリアそのもの。ウーファーを背中合わせに設置することで振動を打ち消し合い、結果半オクターブ低い音を再生しても余計な振動に邪魔されない実装を行ったそうです。
そして中音域の厚みもうっとりするような豊かな表現で、マシンの横幅以上に広がったステレオサウンドが包み込みます。それは耳を傾けた瞬間、思わず「おお」と声をあげてしまったほど。
この感覚には覚えがあります。HomePodで初めて音楽を聴いたときや、iPhone 11で映画を見たときに似ていました。それもそのはず、AppleによるとMacBook Proでは、スピーカー自体の品質向上もさることながら、iPhone 11でも用いられた空間オーディオなどの昨今のAppleのオーディオ技術を駆使して、ノートパソコンのスピーカーとしては最高級レベルの音質を実現していたのです。
ノイズを極限まで抑えた圧巻のマイク性能
MacBook Proのマイクもまたこだわりの逸品です。3つのマイクが束ねられたユニットでは、人の声や楽器などの主題をクリアに捉えつつ、背景のツーというノイズを40%効果的に除去することで、まるでスタジオで録音しているかのようなサウンドを内蔵マイクで実現してしまうのです。ミュージシャンが鼻歌をしたり、たまたま盛り上がった移動中の自動車の中で仮歌をとったりするには十分な性能。もちろん電話会議の音声だってクリアに相手に届けることができます。そして筆者の場合、ビデオのナレーションや、Podcast収録、遠隔で番組に参加するときも、USBマイクを持ち歩かなくて済みそうです。
もちろんプロの本番がMacBook Proのスピーカーとマイクに置き換わることはないでしょう。しかし世界中どこへでもクリエイティブの現場を連れていく、「1台に全てを収める」というコンセプトの16インチMacBook Pro としては非常にふさわしいオーディオ進化を遂げた、という印象です。
文章と写真、ちょっとだけビデオ編集という用途でPCを使う筆者個人としては、オプションを何もつけないエントリーレベルを手に入れたとしても、快適なキーボードと極上サウンドで仕事に勤しむことができ、その環境を少なくとも5年は維持できる非常に合理的な投資になるでしょう。
Gallery: 16インチMacBook Pro | 30 Photos
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