◇12日 12球団合同トライアウト(大阪市・大阪シティ信金スタジアム)
中日を戦力外になった杉山翔大捕手(28)は「楽しくできた。悔いはない」。打撃では4打数無安打ながら11投手を巧みにリード。盗塁も刺し守備面でアピールした。だがそれよりも「一生懸命できた」と結果以上に充実感が心を満たしていた。
1軍から声がかからずモヤモヤした気持ちが募った秋口。追い打ちをかけるような出来事が起きた。9月9日に日本列島を襲った台風15号。各地に甚大な被害をもたらした天災は地元・千葉県旭市にも大きな傷痕を残していった。
「停電と断水が2週間。家の近くの電柱も倒れて大変だった」。幸い両親は無事だったが通信網の乱れが解消するのに時間がかかった。「電話しても回線がブツブツと切れて、聞き取れないことも多かった」。練習休みの日を利用して帰ることも考えたが「自分の立場を考えたらできなかった」。不安を抱えながら過ごした2カ月間だった。
運命のトライアウト当日。会場に来ることができなかった両親からは無料通信アプリ「LINE」でメッセージが届いた。「自信を持って頑張ってやっておいで」。さらに今年1月に結婚したばかりの新妻・春香さんからは「いつも通り」と送り出された。スタンドで見守る妻、遠く離れた両親に雄姿を届けた。
運命の日を終え「まずは待ってみて、そこから考えたい」と語った。ようやく一段落。「実家に一度帰ろうと思う」と話し、球場を後にした。