写真広場
写真部のカメラマンが撮影した数々のカットから、お薦めのもう1枚を紹介します
【芸能・社会】〈記者メモ〉藤井聡太七段 王将リーグ大一番へ進境示す6連勝 木村名人の“不思議体験”に見る強敵の有り難さ2019年11月13日 10時59分
「やはり豊島名人のような強い先生と対局すると、得るものは大きいです」 10月7日の王将リーグ・豊島将之名人(29)戦から1カ月あまり。あの一戦について藤井聡太七段(17)に聞くと、そう答えが返ってきた。名古屋城本丸御殿で10日に開かれた「名古屋城こども王位戦」(中日新聞社主催)にゲストで来られた時のことだ。 序盤から窮地に陥りながらも渾身(こんしん)の読みを入れ続け、1分将棋になってから23手を指した藤井七段。結果は豊島名人に4連敗を喫したものの、必死の追い上げで名人の脳裏に一瞬「負け」の2文字をよぎらせる場面もあった文字通りの激闘だった。 強敵と戦ってこそ棋士は格段に強くなれる―。藤井七段は今、その過程の真っただ中にあるのだろう。私たちは歴史的な“成長劇”の目撃者になろうとしている。 注目すべきは豊島戦以降の直近の6連勝。その内容がいずれも完勝であることだ。王将リーグの糸谷哲郎八段(31)、羽生善治九段(49)戦もそうだった。ファンの間では「豊島戦でエンジンがかかったのでは」との声が聞かれる。 9日に名古屋能楽堂であった「全国将棋サミット2019」に出演し、翌日の「こども王位戦」にも姿を見せた中村太地七段(31)も、こう話されていた。 「豊島名人との戦いの中で、藤井七段は何かをつかまれたような印象を受けます。もちろん、タイトル挑戦を意識して充実しているのもあるでしょう」 思い起こされる故事がある。藤井七段の4代上の師匠・木村義雄十四世名人が1940(昭和15)年、尊敬する先輩の土居市太郎八段=後の名誉名人=を挑戦者に迎えた第2期名人戦第1局。木村名人は不思議な体験をしたという。 本来は早見えの天才として知られる土居八段が181分もの大長考の末に放った手が好手で、困り果てた木村名人。我を忘れて考え込むうち、ふと気がついて「30分くらいたったろうか」と記録係に聞くと「いえ、ちょうど3時間になります」と言われてハッとしたというのだ。 名人自身こう述懐している。「飽くまで深くかつ広くと、読みにはまり込んだ時は、周囲はもちろん目前にいる相手もなく、あるのはただ盤上の駒だけだから、時間の観念など全部なくなったわけで、いわゆる『無我』の境地とはあるいはこんな時ではないかと、はじめてわかったような気がする」と。その上で「やはり強敵に向かわないと、ほんとうの修行はできない」(木村義雄著・将棋一代)と言い切っておられるのだ。 藤井七段への期待はますます高まる。そのなか、いよいよ王将リーグの大一番を迎える。14日の久保利明九段(44)戦と19日の広瀬章人竜王(32)戦だ。現在3勝1敗で、この2戦に勝てば自力で挑戦権を獲得できる。そうなれば、屋敷伸之九段(47)の持つタイトル挑戦最年少記録(17歳10カ月)を30年ぶりに更新する。難敵が続くが、目が離せない。(海老原秀夫)
PR情報
|