MicrosoftのLTE接続対応2-in-1ノートPC「Surface Pro X」レビュー:見た目はクールでスタイリッシュ、でもイマイチうまくいってない

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55MicrosoftのLTE接続対応2-in-1ノートPC「Surface Pro X」レビュー:見た目はクールでスタイリッシュ、でもイマイチうまくいってない
Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

ARMが主流になる動きは加速化するか?

スマートフォンやタブレットを使っていて、「携帯でここまでできるなら、ラップトップじゃなくても良いよね」と思うことも大分増えてきました。メール、ワープロ、表計算、プレゼンテーションなど、クラウドベースで行なえることは大体手軽にできるようになったし、写真や動画の編集だって、簡単なものなら携帯で十分なほどに性能は進化してきました。それなら携帯用のARMプロセッサをラップトップに使えば、携帯譲りの復帰の速さ、電池の持ち、ネットワークとの常時接続を維持しつつ、オフィスワークくらいならサクサクこなせるラップトップになるんじゃないか、というのは自然の流れです。Microsoftも当然そう考え、WindowsをARMプロセッサに対応させました。今回は、初めてARMプロセッサを搭載したSurface Pro Xを米GizmodoのSam Rutherfordがレビューしています。


Surface Pro Xを開けた瞬間から、Microsoft(マイクロソフト)が自社ハードウェア新時代の幕を開けたと感じていました。過去のタブレットPCにあった大きなベゼルや尖った角とはオサラバし、それまでのMicrosoftでは見たことのないような、洗練されてクールなものに進化しました。そこにステルスなブラック・オン・ブラックのカラースタイル、隠されたスタイラスの収納ストレージなどの便利機能を考慮した結果、私はとあることに気づきました。Surface Pro Xはバットマンなのです。

大げさだと思うかもしれません。それにバットマンと言っても色々なバージョンがあるから、どれのことかと思っているかも知れませんよね。60年代のアダム・ウェストのバットマン? DCユニバースのベン・アフレック・バットマン?あるいはケビン・コンロイが声をあてたアニメ版?このSurface Pro Xに関しては、私はクリスチャン・ベールの『ダークナイト・トリロジー』に近いものだと考えています。特にその中の『ダークナイト・ライジング』のバットマンです。見た目はクールでスタイリッシュなんだけど、いろいろ詰め込みすぎて、どれもイマイチうまくいってないからです。

Microsoft Surface Pro X

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Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

これは何?:ARMプロセッサベースでよりスリムになったSurface

価格 :1,000ドルから(レビュー版は1,300ドル)

好きなところ:素晴らしいデザイン、スリムなSurface Penと収納ストレージ、細いベゼルのディスプレイ、反応の速いWindows Hello IRログイン

好きじゃないところ:多くの有力ソフトが非対応、ヘッドホンジャック無し、まぁまぁなパフォーマンス、Surface Connectポートはいらない

デザイン面は文句無し

まずはデザインから。Surface Pro Xの見た目とフィーリングは、まさしくゴッサムの黒騎士。13インチ、2880 x 1920のPixelSenseディスプレイは実に素晴らしい。3:2のアスペクト比でより縦方向に広いー作業には実にありがたいーだけでなく、発色はリッチで鮮やかです。露出計で測ってみたところ明るさは476nitと出ましたが、これはMicrosoftによる公式スペックの450nitを超えています。

さらに、Pro Xのスクリーンはタッチとスタイラス入力が可能な上、隠れたチャージスロットがあるので、Pro Xで新しく登場したSlim Surface Penはいつでも準備万端。いつでも頼りになるバタラングみたいですね。それだけでなく、Microsoftは二つのデバイスを連携させているので、スタイラスを取り出すとショートカット用のポップアップが表示され、WhiteboardとWindows Snippingツールにすぐにアクセスできます。

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Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

もっとも薄い部分で0.28インチ(約7ミリ)と非常に薄いものの、全ての付属品をつけると2ポンド(907グラム、もっと正確には2.3ポンドで、1.04キログラム)となり、Surface Pro Xはびっくりするほどしっかりした印象があります。キックスタンドの後ろにはカバーがあり、携帯ネットワークに繋ぐためのSIMカードスロットや、SSDに簡単に手が届きます。Pro Xの作りの良さは褒めても褒め足りません。将来のSurfaceのデザインもこれをお手本にして欲しいと思います。

不要なSurface Connect

しかし、バットスーツに浮いた乳首のようにPro Xも完璧ではありません。MicrosoftがようやくUSB-Cを歓迎したのは非常に嬉しいのですが、ラップトップの代わりとなるはずのものからヘッドホンジャックを外したのは頂けません。また、Surface Connect Portは無駄だと思います。Surface Connectのポートは充電やドッキングの助けとなるはずなのですが、USB-Cポートは同じことをできるだけでなく、より幅広いデバイスに対応しています。もしPro Xが、USB-Cポート二つにSurface Connectポート一つでなく、USB-Cポート三つにしてくれたら、もっと気に入ったと思います。

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Slim Surfaceペンには小さなライトもついているので、充電中はすぐにわかります。
Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

Pro Xには悪くないカメラ(5MPフロントカメラに10MPリアカメラ)がついており、さらにバットマン級の赤外線顔認識カメラで、瞬く間にログインできます。本当に文字通りの速さなんです。そして他のSurfaceコンバーチブル同様、Pro Xのキックスタンドはほぼ無限に調節の幅があり、狭い場所でもしっかり作業できます。

「ソフトウェアの互換性」という大問題

でも残念ながら、パフォーマンスの面になると、トム・ハーディのベインのように微妙になって来ます。IntelやAMDのx86プロセッサの代わりに、MicrosoftはQualcommと共同でARMベースのSQ1プロセッサを開発しました。ARMプロセッサにすることで、Microsoftは現代のスマホのような瞬間的なスリープからの復帰や、インターネットへの常時接続、電力使用の効率化を目指したのです。実際、その点では成功したと言えるでしょう。

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Image: Sam Rutherford/Gizmodo US


スリープから復帰してインターネットを閲覧するまでの時間は非常に短いと言えます。私たちが行なった、映像を再生し続ける耐久テストでは11時間28分の記録を出しました。これはMicrosoftが主張する12時間に約30分短いだけです。Dell XPS 13(9時間26分)、HP Envy 13(7時間2分)などの一般的なWindowsラップトップよりもはるかに長い時間です。しかし、この記録を出すためには、ARMプロセッサに最適化されたMicrosoftのEdgeブラウザを使用しなければなりません。

Chromeにスイッチした途端、Pro Xの優位は消えてしまいました。同じ明るさで同じYoutubeの動画をWifi経由で再生し続けたところ、7時間43分しか持ちませんでした。ここにPro X最大の欠点が現れています。ソフトウェアの互換性です。

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2012年に登場した初代のSurface RT以降、MicrosoftはWindowsをARMベースのプロセッサに対応させる動きを加速させて来ました。Windows Storeにあるほぼ全てのアプリはネイティブでARMに対応し、同時にWindows 10はx86プロセッサのみに対応した過去のアプリに関して優れたエミュレーションを提供して来ました。しかし、エミュレーションは結局エミュレーション。なので、ARM64に対応していないアプリはパフォーマンスに大きな影響を受け、動きや反応が鈍くなります。

例えばEdgeでWebXPRT 2015ブラウザベンチマークを試すと、372点と出ました。しかし同じテストをChromeで行なうと、226点となんと約40パーセントも下落しました。もう一つの良い例はAdobe Creative SuiteのPhotoshopです。こちらはARM64が現在サポートされていません。写真の加工程度ならPro Xは難なくこなしますが、同じ価格帯のラップトップと並べて比較すると、イメージをブロックに分けて一つずつレンダリングしなければならなかったり、クロップに少しもたつくことに気づくでしょう。

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先代Surfaceのように、スタイラスとキーボードはオプションなようで実は必須。
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もちろん、ARMプロセッサもサポートされているAdobe Photoshop Elementsを使用すれば、この問題は回避できます。しかし、本家Photoshopをすでに持っているのに、それより機能が少ないものに、スピードのためだけに80ドル(国内価格 税別1万7800円…)追加で払いたいかどうかは意見が別れるでしょう。一応、AdobeはCreative SuiteのARM64対応に向けて開発中としていますが、具体的な公開スケジュールはわかっていません。

Adobeですらこの有様なので、そういったメインストリームのアプリ以外の状況はより悪くなります。BlenderやCinebenchなど、私たちがベンチマークとして使うアプリは起動しないし、場合によってはインストールすらできません。ゲームに関しても、『League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)』、『Civilization 6(シヴィライゼーション6)』、『Into the Breach』、『Terraria(テラリア)』などそこまでパワーを必要としないものですらダメです。つまり、仕事が終わった後にリラックスしようと思っても、テレビや映画を観る以外のことはあまりできません。

一応Microsoftをフォローしておくと、SQ1のページには注意書きがあります。

アプリ毎に対応や互換性は異なります。現在Surface Pro Xは、ARM64に対応していない64ビットアプリはインストールできません。複数のゲームやCADソフトウェア、そしていくつかのサードパーティ・ドライバやアンチウィルスソフトウェアなどがそれに当たります。ですが、ARM64向けの64ビットソフトウェアはこれから続々公開されます。

互換性の問題自体は別に青天の霹靂ではないわけです。でもいずれにせよ、ARM対応Windowsアプリのエコシステムは、まだまだ他に追いついていません。

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あら残念 :(
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まだ不安定か

ここでもう一つ残念なお知らせ。テストを始めて一週間も経たないうちに、ブルースクリーン級の重大なエラーが2度発生し、他にもフリーズやハングアップが何度か起きました。昔からWindowsは決してトラブルフリーではありませんでしたが、Windows 10でブルースクリーンが発生することは滅多になかったため(過去数年で発生した回数は片手で数える程です)、これは正直驚きでした。

Microsoftは、よりオールラウンダーなものを求めているなら、Surface Pro 7がオススメだと言いますが私もこれに同意です。Pro Xのターゲット層は、ポータブルで反応が速く、電池が長持ちするものを求めるビジネスユーザーです。もしあなたがOffice 365、G Suite、Salesforceなどのクラウドベースのアプリをよく使うなら、Pro Xはいい選択かもしれません。ARM64に対応したSlackだってMicrosoft Storeで手に入りますしね。Surface Pro Xを所有するというのは、非常にハイエンドで、より幅広いデスクトップ級のソフトに対応している(でもAndroidアプリは対応していない)Chromebookを所有しているようなものです。

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Image: Sam Rutherford/Gizmodo US

まだこれからに期待!

Microsoftは、Surface Pro XのようなARMベースのシステムに対応することは、長期的な投資であるとしています。2012年以来、ARMプロセッサがどこまで成長したかを見れば、MicrosoftとしてはWindowsをx86プロセッサだけに留めておくわけにはいかないのです。Surface Pro Xは、MicrosoftのARMプロセッサに対する真剣度をはっきり表しているのです。

とはいえ、Pro Xは結局のところ、クリストファー・ノーランの他のバットマンシリーズよりは『ダークナイト・ライジング』に近いと言えます。いわゆるハリウッド映画のような見た目や洗練さはあるのですが、残念ながら、『ライジング』のプロットのように、SQ1プロセッサはちょっと風呂敷を広げすぎました。間近で見れば傑作の原石のようなものが見られ、特定のシチュエーションでは、Pro Xは立派なヒーローになりえます。しかし、Pro Xと『ライジング』で大きく違うところは、Pro Xはまだ序章で、これから先に期待ができることです。

READ ME

・ソフトウェアの互換性に相当力を入れているものの、まだまだARMベースのシステムに対応していないアプリはいっぱいある

・Surface Pro Xの電池の持ちは結構良いが、あくまでARM64対応のアプリを使っている時だけ

・デザインは実に素晴らしく、これから先のSurfaceのお手本になるべき

・ラップトップにヘッドホンジャックをつけないトレンドは好ましくない。それに、MicrosoftはSurface Connectポートを廃止して3つ目のUSB-Cポートにするべき

Surface Pro X ほしい?

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