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【社説】

香港長官強硬策 人民にこそ目を向けよ

 香港デモに対し長官が強硬姿勢を鮮明にした。中国の習近平国家主席による「暴力活動の制止と処罰」の要求に応えた形だが、何よりも優先すべきは人民の安全を守った上での香港の安定である。

 混乱が続く香港では十一日、警官がデモ参加者に実弾三発を発射。うち一発が二十一歳の男性に命中し、一時重体になった。

 警察当局は会見で「デモ隊が拳銃を奪おうとした」と実弾発砲を正当化しようとした。だが、香港メディアのネット映像を見る限り、警官は武器を持たない男性らに至近距離からちゅうちょなく発砲したように映る。

 デモ隊が警官に実弾で撃たれたのは三人目だが、警察にとって市民に向け実弾発砲することへのハードルが下がっていることは明白で、危険な状況と言うしかない。

 その背景には、林鄭月娥行政長官の強硬策への転換があるのは疑いない。林鄭長官は十一日に会見し「暴力を社会全体で厳しく非難すべきだ」と述べ、デモ隊の要求に応じることは一切ないとの姿勢を鮮明にした。しかも、香港の安定を取り戻すため林鄭長官が自発的に行った戦術転換ではなく、習氏の指示に忠実であろうとする行動にしか見えない。

 五カ月余に及ぶ香港デモの主因は、中国が国際公約した「一国二制度」をじわじわ踏みにじってきたことにあるのは間違いない。

 だが、混乱を長引かせている大きな原因は、北京の顔色ばかりを気にして、有効な打開策を打ち出せなかった林鄭長官の無策にある。長官が目を向けるべきは何よりも香港市民であるはずだ。

 長官の強硬策を受け、警官隊は香港大など三つの大学に初めて催涙弾を撃ち込んだ。これに対し、学生らが「黒警(やくざな警察)への報復」と、敵意をむき出しにしているのも気がかりだ。

 市民間でも、デモ隊がデモに反対する男性と口論になり、可燃性の液体をかけられ火を放たれた男性が重体となる事件も起こった。

 中国、香港政府に民主化を求める運動であるはずなのに、意見を異にする人たちの間で憎悪が強まり、社会の分断が深まるのは不幸である。デモ隊にはぜひ、理性ある非暴力の運動を貫いてほしい。

 中国は十月末の重要会議「四中全会」で「反乱扇動」などを禁止する法整備を香港政府に求めた。混乱に乗じて、武力を背景に鎮圧に乗り出すようなことは厳に避けるべきである。

 

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