「RPA」は事務作業を大きく効率化するツール
企業の変革に欠かせないツールとして注目されているRPA。RPAとは「Robotic Process Automation」の略語で、事務作業を担うホワイトワーカーがPCなどを用いて行っている一連の作業を自動化できる「ソフトウェアロボット」のことである。
多くのオフィスでは日々さまざまな事務作業が行われている。たとえば、メールに添付されてきた商品情報をまとめたExcelファイルの内容を、基幹システムの商品登録マスタに「コピー&ペースト」して転記する作業や、FAXで届いた発注書の内容を手入力でEDI(電子データ交換)システムに入力する作業などがある。これらの定型的で反復性の高い業務RPAを活用すると、大きな効果を発揮できる。
かつて、職人たち(ブルーワーカー)が手作業で行ってきた業務は、産業革命以降、機械化されて生産性が向上した。近代では溶接や接着などの組み立てなどを産業用ロボットが代替し、熟練した職人の手にも劣らないほどの質を保ちつつ、生産性向上に貢献している。RPAとは、いわば「ホワイトワーカーのための産業用ロボット」である。
RPAの得意分野と不得意分野
RPAは万能ではなく、得意分野と不得意分野がある。大原則としてRPAの適用範囲は「判断を伴わない、単純な作業」が中心となる。仮に「前進しろ」と命令されれば前に進むだけで、行く手に障害物があれば止まってしまう。障害物を検知し、迂回行動を自律的に判断できるのはRPAではなくAIである(AIとの違いについて、詳しくは後述)。
RPAの代表的な長所と短所を以下挙げよう。
【長所】
・正確に作業を実施できる
・人間に比べ、作業スピードが圧倒的に速い
・24時間365日、休まず働き続けることができる
【短所】
・アクシデントや例外処理に弱い。遭遇した際には、作業が止まる
・あらかじめ命令されたことしかできない(判断できない)
・複雑なことを実施させるためには、タスク分解された多工程の命令を与えなければならない
RPAは、しばしば「知識の浅い新入社員」に例えられる。教えられたことしかできないし、不可知のアクシデントに遭遇すれば、仕事が止まることもある。入社したての新入社員に対しては、一連の業務のうち、判断を伴わず、また例外処理がなるべく少ない一部の業務だけを切り出して任せることが多いだろう。
また、RPAは「人との協働作業」によって真価を発揮する。人間が判断を下してRPAが作業をする、また例外処理が発生した際には人の手助けが必要だ。ある一連の業務に関し、一気通貫で担うことができるシステムとは、この点で大きく異なる。
RPAとVBAはどこが違うのか?
PC操作の自動化といえば、「VBA」を思い浮かべる人もいるだろう。VBAとは「Visual Basic for Applications」の頭文字を取ったもの。マイクロソフトが提供するExcel、Word、AccessなどのOfficeアプリケーションにおける処理の自動化を実現できるプログラム(またはそのプログラミング言語)を指す。
だが、VBAは、Officeアプリケーション内で行われる処理を自動化するためのものであり、原則として同アプリケーションでしか動作しない。対してRPAは、PC内で行われる作業を全般的に自動化できる。ただし、VBAがExcelで実施できる複雑な統計加工処理などは得意ではない。
もう1つ、RPAとVBAの大きな違いは「プログラミング」だ。VBAで1つの処理を行わせるためには、VBA特有の命令文や構文などプログラミングを理解することが必要である。
対して、RPAは基本的にノンプログラミングである。複雑なプログラミングを学ぶ必要はなく、RPAの操作パネルを用いて、自動化させたい一連の操作を記録していくだけで済む。
Excelを始めとするOfiiceアプリケーションについて、各アプリケーションの特性を生かした高度な処理まで自動化できるのがVBAだ。対して、プログラミングなどの専門知識を必要とせず、PCで行う処理をアプリケーションに限定されず横断的に自動化できるのがRPAなのだ。
RPAとAIとの違いは?
RPAと混同されがちなものとして、AIも挙げられる。まず、AIについて確認しておこう。
AIとは「Artificial Intelligence」の頭文字を取ったものであり、「人工知能」と訳される。AIの最終的な目的は、人間の思考、知能、知覚や行動など、人間の振る舞いを人工的に再現することだとされる。対して、前述したとおりRPAはあらかじめ命令された作業処理しか行うことができない。
現在、RPAにAIを組み合わせることで、より高度な自動化処理を実現する研究が進められ、そして実現され始めている。たとえば手書きで書かれた申込書などを、AI-OCR(光学文字認識)の技術で読み取ってデジタルデータ化し、それをRPAでシステムのデータベースに取り込む技術も出てきている。FAXによるやり取りが多い日本では、業務改善に大きく貢献できる活用事例だといえる。
また、AIとRPAの間に明確な境界線は引きにくいのも実情である。現在のAIは、あらかじめ人が設定したルールを元に判断を下す「ルールベース型AI」と、過去のデータを元にして近しい類型ケースを抽出、処理に用いる「機械学習型AI」の2つが主流である。拡大解釈をすれば、RPAにおける定型処理を膨大に登録したものがAIであると言えなくもない。RPAとAIが相互に発展することで、これからの私たちの社会やビジネスに貢献していくと考えられる。
RPAの種類と主な製品、市場
ここからは、RPAの種類と主要な製品を紹介していく。RPAには、「デスクトップ型」と「サーバ型」の2つの種類がある。なお、サーバ型には、クラウドの技術を用いた「クラウド型」も含まれる。デスクトップ型とサーバ型の特徴、違いは以下のとおりだ。
【デスクトップ型】
・RPAソフトウェアをインストールしたPC内で稼働する
・比較的安価な製品が多い
・担当者のPC内で稼働するため、操作が比較的簡単で管理も容易
・横展開がしにくい。RPAの利用範囲を担当者から部門、事業部へと拡大していくのは難しい
【サーバ型】
・RPAがサーバ内で稼働するため、業務を横断的に自動化しやすい
・デスクトップ型に比べると、高額な製品が多い
・多数のロボット(デジタルレイバー)を同時に稼働可能
・組織における横展開がしやすい
このように、デスクトップ型、サーバ型(クラウド型も含む)には、それぞれ一長一短がある。中には、導入する組織や業務の特性に合わせて、両方のタイプや異なるRPA製品を導入している企業もある。近年はクラウド型で比較的安価なRPA製品も登場しており、製品選択の幅は広がっているといえる。
代表的なRPA製品(実績や料金形態は2019年10月執筆時点のもの)
Automation Anywhere(Automation Anywhere社)
世界1600社以上の企業で導入されている高機能RPA。利用料金は他RPAと比較しても高めだが機能・性能への評価は高い。
・BizRobo!(RPAテクノロジーズ社)
ビジネスパートナーが多く、業界に合わせた拡張パッケージも豊富。2019年、利用企業社数が1,000社に到達した。
・Blue Prism(Blue Prism社)
15年以上の歴史を持つ、RPAの老舗的存在。セキュリティや大規模環境での運用管理に強みを持つ。
・RPA Express(WorkFusion社)
無料RPAの代表格であり、「RPAを試してみたい」という方に適している。サポートが充実した有料版もある。
・UiPath(UiPath社)
グローバルで4000社、国内で1000社以上の導入実績あり。非営利団体、小規模事業者、教育機関、研究機関等は無料で利用可能。
・WinActor(NTTグループ)
NTTグループで開発された純国産RPA。導入実績は約4000社を超える。サーバ型、デスクトップ型の双方がある。
事実、RPA市場は拡大を続けている。矢野経済研究所のレポートによれば、2018年度のRPA市場は、134.8%増の418億円に拡大すると予測されている。同市場は今後も成長を続け、2020年度には約1.6倍の537億円へ、2022年には約1.9倍の802.7億円への拡大を見込んでいる。市場が拡大すれば、RPA製品および関連サービスの価格も下がる。ユーザーにとっては、一層RPAを導入しやすい環境が期待できるだろう。
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