(番外編)最適なマフラー径について
目的、用途、チューニングレベルにあった選択が必要です
●ジムニーをはじめ軽自動車クラスの社外マフラーを見ていると、意外と50φ前後と一般使用には
やや太めではないかと思われる径のものが多いように見えます。
用途として、とにかく全開時の最高出力を追求するのが狙いなど、明確な目的があって意図的に太く
しているのであればそれで良いのですが、やはり街乗り主体で使用する場合は最高出力だけではなく
実用域のトルク特性も重要となりますので、いたずらに太くしても乗りにくくなるだけです。
そこで、現在ジムニー用でラインアップされている中から街乗りでの扱いやすさを兼ね備えた性能
アップを考えた場合、どのような径のマフラーを選択するのがベターか考えてみたいと思います。
※今回は主にメインパイプ径のみについて書きます。 サイレンサーの構造の違いやサイレンサーの
位置の違い、音量などについてまで考えると話が長くなるとともにややこしくなってしまいますので。
●マフラーの径の選択について
ジムニーの社外マフラーは38.1φ、41.3φ、42.7φ、45φ、50φ(50.8φ)あたりが多いです。
私のようなHT07-A/R12タービン装着でどちらかというと高回転指向であれば50φあたりを選択
するのが自然な感じもします。 しかし、たしかに高負荷、高回転域だけのことを考えれば50φと
いう選択も悪くはないのですが、街乗り主体の用途を考えると実用域の性能にやや不満が出ます。
実際、現在50φのリアマフラー(サクソンマフラーをベースに追加サイレンサーをつけたもの)を
使用していますが、高回転域は良いものの、低回転域や軽負荷域では排気流速が低下してしまうこと
で無駄に低速トルクを痩せさせてしまい、ストリート用としての全体のバランスから見ると100馬力
ちょっとのエンジンに50φはやや太すぎるのではないかと感じることもあります。
街乗りメインの場合、このへんのバランスをどう両立させるかがマフラー選びのポイントになります。
↑私がはじめにつけていたタニグチのマフラー(現在は生産終了製品)。 パイプ径は45φです。
音も非常に静かで、ノーマルタービンでのブーストアップ程度とのマッチングは良好でした。
排気ガスの量は単純に単位時間内にどれだけの混合気を燃焼させたか、つまりどれだけのパワーを
出したかで大雑把に考えることができます。
(厳密には最高出力をシリンダー数で割り、1シリンダーあたりの出力で比較するべきでしょうが、
実際に計算すると現代の高性能エンジンの効率はだいたい似たようなものなので、数値的に大差
ないためここでは大雑把にエンジン全体での馬力として比較することにしました)
たとえば500馬力や600馬力クラスのターボチューンエンジン車の1本出しのマフラー径はだいたい
80φから90φあたりが多いです。 これでもやや太いかと思いますが、たとえばこれを基準にして
考えた場合、仮に500馬力~600馬力で90φと考えますとパイプ断面積は約6360mm^2となります。
この断面積を元に1/5のパワー(100~120馬力)に当てはめて考えると約1300mm^2程度となり、
これを径に置き換えるとだいたい41φ程度になるわけです。
もうひとつの比較として、メーカー純正車両で考えると、たとえば純正で485馬力あるR35GT-Rで
さえメインパイプ径は70φですが(ただ、この車は6気筒を1本にまとめていることから各シリンダー
の排気干渉を考えると明らかに細く、パワーや音量を抑えるために意図的に細くしていると思われます)
これを単純に1/4の約120馬力に相当する断面積に換算すると僅か35φで済み、さらにノーマル64馬力
に換算するとちょうどほぼ1インチ(25.4φ)径で足りる計算になります。
自動車メーカーはマフラー径を決めるのに最高出力だけでなく低回転からの扱いやすさ、燃費、騒音等
すべてのバランスを取れたところで設計していますので、バランスという点を考えると参考になります。
これらの例をもとに総合的に考えると、市販されているマフラーの中で選ぶとするとノーマル~100馬力
程度までのエンジンにはφ38.1~φ41.3あたりが、100~130馬力前後にパワーアップされたエンジン
には42.7φあたりか、ちょっと太めでも45φあたりが低中速域から高回転までのバランスを考えた際
のひとつの選択範囲と言えるのではないかと思います。
そう考えると660ccで64馬力~100馬力ちょっとの軽自動車にとっては50φというパイプ径でも結構
太いということが解ると思います。 仮に50φだと馬力的には180馬力を超えるくらいにパワーアップ
した際に適した径と言えます。
50φという径でも軽自動車にとってはかなりの大径マフラーなんだという認識を持つことが必要です。
たとえばジムニー用マフラーでよくある42.7φと50.8φでは、パイプ断面積で言うと40%以上も変わって
しまうのです。 これだけ変わるとエンジンに与える特性はまるっきり変わってしまいます。
なお、この他に1気筒あたりの排気量を基準に考えるということもできますが、とくにターボの場合は
同じ排気量でもどれだけ過給するかによって排ガスの量も温度も異なってきますので単純に同じに考える
ことはできない難しさがあります。 ですのでここでは単純に馬力を基準にして考えてみたわけです。
過給器つきエンジンの場合は諸元上の排気量ではなくエンジンが実際に稼動している状態(つまりブースト
がかかった状態)でシリンダーへの充填率を加味したうえでの実効上の排気量で考えないといけません。
とくにターボエンジンは非過給領域と過給領域との排気ガス量や温度の差が大きいため流速の変化が
大きく、全体のバランスを考えた最適なバランスのマフラー径の選択はさらに難しくなります。
なお、スペックが極めて近いようなエンジンの場合は1気筒あたりの排気量によって径を比較することも
できますので、たとえばスズキのF6A(3気筒)とF6B(4気筒)では1シリンダーあたりの排気量の小さい
F6Bのほうがパイプ径は細くて済むことになります。 これはスロットルバルブ口径と同じ考え方です。
↑サクソンのJA22用マフラー、パイプ径は50φです。
径が太めなこととストレート構造のサイレンサーのため、高負荷、高回転域では良好ですが、街乗り
でよく使う領域では明らかな低中速域でのトルクの痩せを感じます。
●なぜマフラーのパイプ径が太くなると低速(低回転)トルクが落ちるのか
よく「マフラーを太くすると抜け過ぎるので低速トルクが落ちる」と言う方がいますが、これは結論は
正しいのですが、その理屈としてはまったく逆です。 マフラーを太くすると低回転時(言い方を変える
と排気ガス量が少ないときに)に排ガスの流れがよどんでかえって抜けにくく(正しく書くと吸い出され
にくく)なるため、シリンダー内に入る新しい混合気の量が減少するためにトルクが落ちてしまうのです。
まず考えていただきたいのは「トルクというのはどうして発生するのか」ということです。 トルク
というのはシリンダー内で燃焼するガスの圧力そのものですので、当然ながら大きなトルクを発生
させるためにはより多くの混合気をシリンダー内に取り込まなくてはなりません。 しかし吸気行程
前のシリンダー内にはその前の燃焼で燃えた後の排気ガスが充満していますので、まずはこの排ガス
をしっかり抜いてやらないと新しい混合気が入ってくれません。 「吸気を考える前にまず排気を
しっかり抜くことを考える」ということが重要なのです。
そこで重要になるのが「掃気」という考え方です。 これは排気ガスが排気パイプを抜ける際、その
抜けていくガス後方に生じる負圧によってまだシリンダー内に残る排ガスを引っぱり出して抜いてやる
ということで、これを「慣性排気効果」と呼びます。 排気ガスをしっかり抜いてやることではじめて
新しいフレッシュな混合気をシリンダーに取り入れることができ、結果としてトルクが上がるのです。
この慣性排気効果のもっとも高くなるピークをどの回転域に設定するかということでパイプ径を決定
するわけです。 ここで重要なのは排気ガスの「流速」で、この流速が速ければ速いほど排気ガスの
抜ける速度が速く(=シリンダー内から排気を吸い出す効果が高い)なり、慣性排気効果が高くなり
ます。 ですので、この排気流速のピークを低回転寄りにしたければパイプ径を細くして排気流速の
ピークを低回転寄りにしてやることで低速トルクを稼ぐ、逆に排気流速のピークを高回転寄りにして
高回転でのパワーを稼ぎたければパイプ径を太くするというわけです。
このことから、低回転トルク重視=細径マフラー、高回転パワー重視=大径マフラーという一般によく
言われる分類に繋がります。 しかしこれは径だけでは決まらない要素があります。 それは次述する
「排気パイプの長さ」です。
●メインパイプの長さによる影響
前述ではパイプの口径だけについて書きましたが、もうひとつそれと関連することに「パイプの長さ」と
いうのがあります。 これは排気ポート出口からマフラーの開口部(マフラーエンド)までの総長さです。
これは、一般的に長くなると低回転トルク重視およびコントロール性で有利になり、逆に短くなるとピーキー
にはなりますが高回転パワー重視になってきます。 これは、前述したパイプ径が「排気慣性効果」に効いて
くるのに対して、排気パイプ長は「排気脈動効果」に効いてくるためです。
吸気にも脈動効果があるように、排気にも脈動効果があります。 これは排気ポートから出た排気ガスが
排気出口から出るとそこで一気に大気圧になるため、その背後の負圧が排気出口からの圧力波として排気管
を逆流してくる現象です。 この圧力波(負圧波、反射波)が帰ってくるタイミングにちょうど排気バルブ
が閉じるタイミングが合えばそこで排気ポートからの新気の抜け過ぎを抑えることができ、シリンダー内の
充填効率が高くなることでトルクが高くなるわけです。 当然ながら排気管長が長くなると反射波の帰って
くるタイミングも遅くなりますので低回転型、逆に排気管長が短くなると反射波の帰ってくるタイミングが
速くなりますので高回転でよりトルクが出るようになります。
簡単に書くと「低速トルク重視=排気パイプを長く」「高回転パワー重視=排気パイプを短く」となります。
たとえばF1のエンジンは極めて高回転型かつパワー重視のため、ほとんどメインパイプと言える部分がない
ほど短くなっています。 逆に二輪のmoto-GPマシンなどではパワー重視でありながらよりコントロール性
を重視する(ピーキーさを抑える)ためにあえて排気管長を稼ぐために独特の取り回しをして排気パイプ長
をわざと長くしているエンジンもあります。
ですので、現実のマフラー製作においては、この排気パイプの「径」と「長さ」の両方のバランスを考え
ながら製作することになります。 たとえば、同じ50φのパイプ径でもパイプの総長さが異なればトルク
特性も変わってくるということになり、長ければ低回転よりに、短ければ高回転よりの特性になります。
ジムニーで比べれば、JA型のものは排気パイプ長さが短く、現行JB23は比較的パイプ長が長いです。
そのため、同じ程度のトルク特性にしたい場合は、JA系に比べJB23系はパイプをひと回り太くしたほうが
良好な場合も考えられます。 このように排気パイプは径と長さの両方からアプローチする必要があります。
●フロントパイプとの組み合わせについて
ジムニーに限らず、フロントエンジンのたいていの車の場合はフロントパイプ、リアマフラーの
2ピースか、中間パイプを含めた3ピース構成になっていることが多いです。
通常はフロントパイプからリアマフラーまでを同一のパイプ径にすることが多いですが、あえて
これらのパイプの径を同一ではなく異なる径で組み合わせるという面で考えたみたいと思います。
イメージ的にはフロントからリア(テール)にかけて次第に太くしていくほうが自然だと思われる
方が多いと思いますが、実用域からの性能を重視する場合これはまったく逆になります。
というのも、排気ガスというのは排気ポートから出た直後がもっとも高温、高圧であり、後方に
いくにしたがい温度、圧力、密度ともに低下していきます(冷却によってエネルギーが奪われる)
ので、温度および圧力の低下したテールに行くほどじつは径は小さくても構わないのです。
実際、市販車ではメーカー純正でそのような組み合わせになっている排気系も珍しくありません。
一見、ターボ通過後のパイプ径はできるだけ太くしたほうがターボ下流の抵抗が減ることで効率が
上がりそうな気がしますが、それは全開全負荷域のみの話で、街乗りでもっとも多用する領域では
むしろ後方にいくに従って次第にパイプを太くしていくと流速が著しく低下することで、排気負圧
による吸い出し効果、いわゆるイジェクター効果が低下して実用域のトルクダウンに繋がります。
太いマフラーをつけると、とくに低中速域のトルクが低下するのはそのためです。
よく太いマフラーをつけると「抜けすぎる」ので低速トルクが痩せると表現する人が多いですが、
実際は前述したように、太いマフラーをつけると低回転域でのこの「流速による吸い出し効果」が
減少することでかえって排気が抜けにくくなる=シリンダーに入る新気の量が減少することで低速
トルクが減るのです。 ですのでもっともトルクを出したい回転域に合わせたパイプ径を選ぶ必要が
あるのです。 このように、実用域のトルク特性を改善する意味では、フロントパイプに対してリア
マフラーを細めにするというのもひとつの有効な選択となります。
ちなみに、レースエンジンなどの排気パイプではテール部分を出口にかけて従いラッパ状に拡げること
がありますが、これは出口を緩やかなテーパーにすると排気ポートからパイプ端面までの距離を無段階
に可変させたのと同じ効果が出ることを狙ったもので、トルクバンドを広げる効果があるためです。
これはディフューザーと呼ばれ、上記メインパイプとはまったく別の理屈によるものです。
●パワーチェックグラフの落とし穴
よくマフラーメーカーのカタログや広告のシャシダイでのパワーチェックデータで「低回転から高回転
まで全域でトルクアップをしています」というような表記がありますが、これには落とし穴があります。
と言うのも、たいていこうしたパワーチェックのデータは「アクセル全開での加速時」のものでしかない
からです。
たしかにアクセル全開でスタートから最高速まで一気に加速するときはほぼグラフ通りかもしれません。
しかし、実際に街乗りで運転するときはむしろ全開加速となる状況のほうが少ないのが普通です。
たとえば信号での発進のとき、あるいは走行中の速度調整の加速のときなどはアクセル1/4とか1/2
とかそのへんを使うことが多いはずです。
重要なのはこの「少ないアクセル開度のときのトルク」で、ここで書いた「落とし穴」というのは
アクセル全開時のトルクは上がっていてもハーフアクセル等、スロットル開度が小さいときのトルクが
落ちてしまうマフラーが多いということなのです。
「パワーチェックグラフではトルクアップしているはずなのに、実際に運転してみるとトルクが痩せた
ように感じてしまう」のはこのためです。 アクセル全開でならたしかにトルクは出るが、アクセルを
ちょっと開けたとき(低アクセル開度時)にトルクが出ないというわけです。
これはとくに径の太いマフラーにありがちな傾向で、シャシダイのグラフではたしかに低回転から高回転
まで全域でトルクアップしているのですが、実際に走ってみるととくに「低いアクセル開度」でのトルク
が痩せてしまっていて、結果として多くアクセルを踏まないとトルクが出ずに走ってくれないエンジンに
なってしまうことが多いです。
いくらアクセル全開時のトルクが高くても実用でもっとも使うアクセル開度でトルクが落ちてしまって
は意味がありませんし、言い方を変えるとこのことは同じトルクを出すためにはよりアクセルを踏まな
ければならないということになりますので、燃費も悪化してしまうわけです。
レースのように常に全開か全閉かのようなアクセルワークをする運転状況であればそれでもいいかも
しれませんが、街乗りのようにハーフアクセルかそれ以下のアクセル開度を多用する運転状況では
シャーシダイナモでのグラフというのはじつはあまりアテにならないのです。
ですので、パワーチェックのグラフは限られた条件下での参考にしかならないことをよく理解したうえ
で見なければなりません。
このことから、私としてはダイノパックを持っているマフラーメーカーにはぜひ全開時のグラフだけで
なく、ハーフアクセル時や1/4アクセル時のデータなども併せて載せていただいたほうがより良心的
でユーザーも選ぶ際の参考にしやすいのではないかと思っています。
(もちろん、こうしたシャーシダイナモと実際の走行時では負荷条件が異なりますので、それですべて
が解るというわけではなく、あくまでもひとつの参考にしかなりませんので念のため)
●まとめ
いろいろ書きましたがジムニーをはじめ軽自動車のエンジンの場合、中低速からのオールラウンドな
バランスを重視する場合のマフラー選択の目安としては、ノーマル~ブーストアップ程度であれば
38.1φ~42.7φ、ボルトオンタービン交換で41.3φ~45φ、RHF4やTD04以上のタービン仕様で
やっと50φオーバーあたりになるかと思います。
もちろん、マフラー選びの際に重視するポイントは人によって用途や目的、音やデザインなど千差万別
で、たとえばブーストアップ程度であっても高回転重視であれば50φもアリだと思いますし、逆に
低アクセル開度でのトルク重視であればあえてノーマルマフラーを使うというのもアリだと思います。
ですので、このページで書いた「最適径」はあくまでも街乗りを主体にした全体のバランスを考えての
ものと捉えてください。
※なお、通常パイプ径は外径で表されますので実際はパイプ内径の断面積とは異なりますが、そこまで厳密
にこだわってもあまり意味がないのでこのページ内では割愛しました。
<関連ページ> →(番外編)最適なマフラー径について その2