文系卒プログラミング未経験者は「AI人材」になれるのか?オンライン講座SIGNATE Quest体験レポート

文系学部卒、プログラミング未経験。初心者向けの技術書は挫折。縁あってAI業界で働きはじめ、「AI技術についてもっと知りたい」という思いはありつつも、何から手を付けたらいいか分からず焦っている……。

そんな筆者が、AI学習サービス「SIGNATE Quest」体験版をレポート。感じたことを率直に綴っていく。

関連記事:プログラミング初心者が画像認識まで実践。AIオンライン学習サービス「Aidemy」で学ぶ

SIGNATE Questとは?

SIGNATE Quest(シグネイトクエスト)は、AI開発者向けコンペを開催するSIGNATEが運営するAI人材育成オンライン講座。経済産業省の実証事業「AI Quest」にも採用された。

2019年11月現在、法人向けサービスのみ提供されており、サービスローンチ時、Ledge.aiでも取り上げている。

関連記事:法人向けAIオンライン講座「SIGNATE Quest」公開。NEDOから受託の課題解決型人材育成にも利用

FAQによると、SIGNATE Questは開発未経験者や「ビジネスサイド」の人材も対象にしているとのこと。多くのビジネスマンが該当するだろう。

Q. どういった職種が受講対象となりますでしょうか?
プログラミング未経験の文系出身者でも受講できるようなカリキュラムでしょうか?

これからの時代、AIリテラシーは全社員に必須の能力です。
ITエンジニアやデータ系人材のみならず、営業、経理や総務まで幅広い職種の方が対象となります。
プログラミングやPython初心者からAIモデル開発経験者まで、ご自身のレベルに合わせて受講できる教育プログラムをご用意しております。

出典:よくある質問 | SIGNATE Quest

AI関連知識を網羅するGymとを解決するQuest

SIGNATE Questは基礎トレーニングのGymと、さまざまな業界の課題解決を疑似体験できるQuestの2コースで構成されている。

筆者はまさに「AIやPythonを始めて学ばれる方」なので、今回はGymを選択。

Gymのラインナップはまるで大学の教養科目群

Gymは以下の7カテゴリ・計13講座からなり、履修順番は自由。自分の興味あるトピックから選べる構成になっている。

  • 一般知識
    • AI入門
    • Deep Learning入門
  • ビジネス
    • AIビジネス推進概論
    • AIプロジェクトテーマ選定法
    • AI運用法
    • AI ROI算定法
  • 法律/倫理
    • AI関連法律概論
  • 理論
    • AI関連理論概論
  • プログラミング
    • Python入門
    • pandas道場
    • Python環境設定
  • 分析
    • AI関連分析手法・モデリング概論
  • ツール/エンジニアリング
    • AI関連ツール・サービス概論

「Python入門」「クラスタリング分析」というように、プログラミングや分析手法の講座が充実しているオンラインスクールが多い中、プロジェクトマネジメントや関連法律にも触れており、一風変わっているなという印象を受けた。

Gymに挑戦:7〜8分の動画を見てタスクを解いていく

1講座の基本的な流れは、解説動画を見る→動画内容をもとに出題されるタスクを解く、というもの。

所要時間2〜3時間のものが多く、最長で8時間。ひとつの講座が6〜11のミッションに分解されていて、 履修順の入れ替えやタスクの回答順変更、中断も自由だ。動画を見ずにタスクだけ解くことも可能。

タスクでは設問文を見る、回答する、コーディング、書いたコードの実行がブラウザ上の一画面で実行できる。

オンラインプログラミングスクールではおなじみの機能だが、ツールを使えるようになるまでの学習コストが抑えられるのは嬉しいところだ。

AI入門

最初に始めたのは、AIに関わる基本的な知識をインプットできる「AI入門」。DeepLearning入門、AI関連法律概論にも挑戦してみたかったが、記事執筆段階ではComing Soon表記があった。ちょっと残念。

AI入門のミッションは計7つ、所要時間は2時間とのこと。

カリキュラムは以下のとおり。

  1. AIの仕組み・歴史
  2. 機械学習との関係
  3. AIの事例
  4. AIクラウドサービスについて
  5. データサイエンティストについて
  6. データについて
  7. まとめ

最初のミッション「AIの仕組み・歴史」で研究者によって異なるとしたうえで、AIの定義を「人間の知的行為をAIで模倣させたソフトウェア」と述べていた点に好感が持てた。

AIという言葉の定義は本当にさまざまで、認識のずれによってはコミュニケーションに支障が出てしまうこともある。「広い意味を持つ言葉」だと知っておくだけで、行き違いは防げるはずだ。

ほかにも特化型人工知能・汎用型人工知能の違いや、データを独自で作る場合の注意点といった、AIビジネス初心者が勘違いしがちな内容を網羅している。

「自社のデータを生かして何かAIを作りたい」という(体感値)よく聞かれる質問の答えも、この講座を学べば分かるはず。

Python入門

次に取りかかったのが、機械学習・ディープラーニングに向くプログラミング言語Pythonの入門講座。「データ分析に使うPythonの基本文法を覚える」という目的でカリキュラムが組まれており、Pythonでの四則演算からデータ構造の選択、内包表記に至るまで11のミッションをこなしていく。

カリキュラムは以下。

  1. 初めてのPython
  2. 変数とデータ型
  3. 文字列の操作
  4. データ構造
  5. リストの操作
  6. 論理演算と条件分岐
  7. 反復処理
  8. 内包表記
  9. 関数
  10. ライブラリ
  11. ファイルの入出力

この講座で印象的だったのは、ていねいな用語解説。「プログラムにおけるイコールとは、等しいでなく代入という意味ですので注意しましょう」「関数名はクラス名にできません」「変数にはint型とstr型があり……」といった基礎知識を噛み砕いて解説してくれるのはありがたい。伊達に”プログラミング初心者向け”を謳っていないぞ……。

各ミッションの説明文に「データ分析で使うであろうシチュエーション」が明記されているのもいいなと感じた。目的が分からないまま「関数△△を説明します」「この記法はよく使われますので覚えておきましょう」と言われるのはなかなか辛い。

ミッションの順番通りこなし、HelloPythonから四則演算、if文やfor文/While文などプログラミングの基本、Pythonでよく使われる関数やラムダ式の記法までひととおり学ぶことできた。

pandas道場に入門してQuestでデータ分析に挑戦してみる、はずだったのだが

Python入門を終え、いよいよ「pandas道場」に突入。これで私もデータサイエンティストに……と思った矢先、急に難解になり面食らってしまった。

ここからは概要のみ述べる。

pandas道場

pandasはPythonでのデータ分析・解析で多く用いられている、オープンソースのデータ分析ライブラリ。

Python Data Analysis Library — pandas: Python Data Analysis Library

Gymによると「pandasはデータ分析の過程において作業の大半を占める、データの前処理や探索的分析を柔軟かつ効率的に行うための高機能なデータ構造と各種ツールを提供しています。」とのこと。

講座カリキュラムはこちら。

  1. pandasの為のNumpy入門
  2. Seriesの基本
  3. DataFrameの基本
  4. データの読み込みと書き出し
  5. データのクリーニング
  6. データの結合と形状変換
  7. データのグループ化と集約
  8. データの可視化

この講座には動画がないので、「Python入門」で習った関数や記法などを活かしながら、ひたすらコードを書いてタスクをこなしていく。

この数日間何度か見た問題画面に目を向けると、見慣れない文言が並んでいた。配列の生成、型、オブジェクト……残念ながらひとつひとつ理解していくのが難しく、今回はここで手を止めることにした。「プログラムにおけるイコールは、等しいでなく代入だよ」と教えてくれたPython入門はどこに行ってしまったんだろう。

初学者向けといえど、ある程度の予備知識やついていくための覚悟は必要ということか。

モデル開発やデータサイエンスのいろはが体験できるQuest

Questも概要のみ述べる。「AI開発実践」として位置づけられているQuestは、AI予測モデルを作り、課題解決に使うという一連の流れを体験できる。

内容は「実践向け」とあるように、未経験者はGymの「Python入門」と「pandas道場」を終えてからのほうが良いだろう。開発経験者は、この2つをおさえていればQuestから取りかかって問題なさそうだと感じた。

おすすめされていたクエストは「自動車環境性能の改善」。自動車メーカーが、近年の排出ガス規制で燃費性能の改善を求められる中、「過去の自動車データから、走行前に燃費を予測できる機械学習モデルを作成する」という一連の流れを学習する。

  1. 自動車データの読み込み・確認
    • データ精査、欠損値・異常値の確認
  2. 自動車データの特徴把握
  3. 燃費予測モデルの作成
    • データの分割、モデルの学習・精度評価など
  4. 燃費予測モデルの予測精度改善

他にも食品ロスの削減、スポーツのチケット価格の最適化、健康経営のための疾患リスク予測などさまざまな業界の課題が用意されている。

課題を終えたあとも、予測精度の高い新たなモデルを構築するChallenge Missionが与えられる。

結論:AIって何?な人は「AI入門」の章だけでも学んだ方がいい

AI入門講座というと、Pythonの基本文法の説明から入り、おのずと何らかの技術を体験して終わる(たとえば、何の説明もなくいつの間にか画像認識をやっていたというような)のを危惧していたが、SIGNATE Questは「AIを使ったモデル開発やデータサイエンス手法を学び、AI人材を目指す」という目標と、目標到達までの道筋が明確になっている。

一方で「自然言語処理から始めたい」「音声認識をやってみたい」というように、データ分析以外に挑戦したい課題があるユーザーからしたらやや退屈に思うかもしれない。

動画再生機能・個人向けプランは今後に期待

個人的には、倍速再生機能があるとより使いやすいと思った。タスクの問題を解きながら動画をサッと見返したいときもあるので、等速再生しかできないのはちょっと残念。流し見をせず「じっくり見る」動画だからあえて倍速機能を付けない、という意図があるのかもしれない。

個人向けプランの提供も望まれる。法人向けプランのみ提供となると、利用ユーザーがおのずとビジネスマン以上の年齢になってくる。中高、学部生時代にこのコンテンツで学べるなら、コンピュータサイエンスや統計学といった分野に興味を持つきっかけになると思うので、この点は惜しい。個人でも手が届くようになれば、データサイエンティストなど「AI人材」の輩出に一役買えるのではなかろうか。

いずれも今後に期待というところか。

なんとなくでも理解しておくと、AIを活用するための発想が広がる

AIは「よくわからない」ものかもしれない。でも、「なんとなく」でも分かると、見える景色が違ってくる。

冷蔵庫の仕組みが分からなくても「食品などを低温で保管する道具」だと知っていれば、無闇に温かい物を入れようとはしないだろう。AI技術も同じく、概念を知っていれば「AIなら何でもできるよね!」という突飛な発想は避けられるし、「AIは人類を脅かす」といった身も蓋もない陰謀論に怯えることもないはず。

SIGNATE Questは、最低でも「なんとなく」、きちんと取り組めばそれ以上の解を返してくれる講座だ。AI技術をもっと知るために学ぶべきことは多くあるものの、到達までのひとつの道が見えた気がした。

非エンジニアがソニーのNeural Network Consoleで画像分類モデルを作ってみた

【PR】この記事はソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社のスポンサードコンテンツです。

近年、ディープラーニングのブレイクスルーにより、AIは本格的な普及期に突入している。普及に伴って、モデル構築のハードルを下げ、非エンジニアでもディープラーニングを試せるGUIツールがさまざまな企業からリリースされている。

そこで今回は、ソニーネットワークコミュニケーションズが提供しているNeural Network Consoleを使い、簡易的な画像分類モデルを作成していく。ツール内には専門的な用語がいくつか出てくるが、一つひとつの意味を大まかに理解すれば問題ない。

なお、Neural Network Consoleにはクラウド版とWindows版の二種類があり、今回はクラウド版を使う。もちろん今回のデモでコーディングは使用しない。本記事で行うサンプルで学習を回す分には料金がかかる心配はないので、ぜひ手元で試しながら記事を読み進めていただきたい。

学習データを準備するだけで簡単にモデル構築が可能

Neural Network Consoleはディープラーニングモデルの開発ハードルをなくすべく生まれたAI開発ツールである。最初から最後までプログラミング不要でディープラーニングが実装できるのが特徴だ。最適なネットワークの構築を自動化する機能もついており、ドラッグ&ドロップによる直感的な操作も可能となっている。

今回は、Neural Network Consoleに搭載されているサンプルを用いて、画像分類を行う。手書き数字の画像が「4」か「9」かを判別するモデルを作成する。

一見簡素な分類に思えるが、少し応用するだけで実際のビジネスへの活用が可能になる。下記事例のような、人が目で対象物を分類している業務がそれに当たる。

まず画像分類の学習には、下記の二種類のデータを準備する必要がある。必要なデータ数は場合によって異なるが、今回はサンプルとして用意されている、学習用データ1,500枚、評価用データ500枚を使用する。

・学習用データ
大量の「4」と「9」の画像。準備するデータセットはサイズを揃える必要がある。今回のサンプルは28×28でそろっている。

・評価用データ
学習には用いないデータ。Neural Network Consoleで作ったモデルがどれくらいの精度で分類できているのか、評価するために使用する。

ニューラルネットワークの構築も手軽。学習を実行してみる

今回はクラウド版のNeural Network Consoleでデモを行っていく。画像分類器を作るため、まずはProjectタブ内の01_logistic_regressionをクリックし、名前(今回はdemo_1)をつけて新規保存する。

Project画面。様々なチュートリアルの中から、今回は01を選択

1分ほどで保存は完了し、プロジェクトが作成される。demo_1プロジェクトを開くと、専門用語が多く見られるが、本ツールでモデルを構築するにあたって、いきなりすべての意味を理解する必要はない。

EDITタブでは、Components内にある要素(レイヤー)を組み合わせ、ニューラルネットワークを構築できる。レイヤーを組み合わせる際の動作はレゴのように単純である。今回は、サンプル用にすでに構築済みの一層のネットワーク(画像内:青と赤の層の組み合わせ)を使用する。このモデルはドラッグ&ドロップで編集可能なので、ほかの層を加えることも簡単である。

EDITタブ内の画面。すでにモデルが読み込まれている

モデルを確認できたところで、続いてデータを確認していく。DATESETタブでは、このプロジェクトで使用するデータの画像やラベルが確認できる。

DATASETタブ内の画面。画像の種類やラベルが確認可能

画面左に2種類の画像フォルダがあり、それぞれの役割は下記の通りである。

Training:学習に用いるデータ
Validation:学習済みモデルに読み込ませ、精度を評価するために用いるデータ

画像右にあるラベル(y:9)は、その手書き文字が「4」であるか「9」であるかを表している。ラベルが0であればその手書き数字が「4」であることを表し、ラベルが1であればその手書き数字が「9」であることを表している。このラベルは事前に準備する必要があるため、自前のデータを活用する際にはこのような正解ラベル付けの作業が発生する。

データとモデルは揃っているため、最後にEDITタブ内の「RUN」ボタンを押せば学習が始まる。あとは、どれくらいの精度で画像を判別できるか、結果を待つだけだ。

EDITタブ内の画面。右上のRUNを押すと学習が開始する

学習にかかる時間はプロジェクトごとに異なる。TRAININGタブで学習の進捗が確認でき、今回のモデルは3分ほどで完了した。

モデルの精度を確認するためには「RUN」をクリックし、EVALUATIONタブ内のConfusion Matrixにチェックを入れる。画像分類の精度を表すAccuracyは0.954であり、結果として今回は「4」と「9」を95.4%の精度で分類するモデルを作ることができた。

TRAININGタブ内の画面。右上のRUNを押すと、モデル評価を確認できる

EVALUATIONタブ内の画面。作成したモデルの精度を確認できる。

さらに、下記の画像の通りClassification Matrixを選択し、False-positiveの数値をクリックすると、誤って判別された画像を表示することもできる。

赤枠で囲われた箇所をクリックすると、誤って判別された画像を表示できる

誤って判別された手書き数字の画像

AI/ディープラーニング領域におけるGUIツールの価値

今回はサンプルを使用したが、画像分類モデルを作りたければ、同様の手順ですぐにモデルが構築できる。Neural Network Console内にはほかにも数十個のサンプルモデルが用意されている。ほかのサンプルを試してツールに慣れれば、自前のデータでモデルを作ることも簡単にできるはずだ。

こうしたGUIツールによりAI導入のハードルが下がれば、まずは手軽にAIを試してみる、といった動きが増え、現場レベルでのAI活用が加速する。Neural Network Consoleでは、画像分類や時系列予測、文書分類などを扱えるため、たとえば、記事カテゴリ判定や電力量の異常検知などに活用が期待できる。企業の活用シーンを想定しても、非常に実用的なツールと言える。

必要な技術ハードルは下がっている今、このようなGUIツールでAIに触れてみてはいかがだろうか。

2045年問題とは?シンギュラリティの意味・AI事例

近年のAI(人工知能)の発展により、話題になることの多い2045年問題。内容について漠然と知っているものの、正確に説明できない人も多いのではないでしょうか。

本稿では、2045年問題とはなにか、何が起こるのか?そのとき私たちはどう行動すべきかについて解説します。

AI(人工知能)とは?

Photo on max pixel

まずAI(人工知能)の定義について解説します。そもそもAIに確立した定義は存在せず、専門家により定義はまちまちであり、その解釈は人により異なります。

中島秀之
公立はこだて未来大学
武田英明
国立情報学研究所
人工的につくられた、知能を持つ実態。あるいはそれをつくろうとすることによって知能自体を研究する分野である
西田 豊明
京都大学
「知能を持つメカ」ないしは「心を持つメカ」である
溝口理一郎
北陸先端科学技術大学院
人工的につくった知的な振る舞いをするためのもの(システム)である
長尾真
京都大学
人間の頭脳活動を極限までシミュレートするシステムである。人工的に作る新しい知能の世界である
浅田稔
大阪大学
知能の定義が明確でないので、人工知能を明確に定義できない
松原 仁
公立はこだて未来大学
究極には人間と区別が付かない人工的な知能のこと。
池上 高志
東京大学
自然にわれわれがペットや人に接触するような、情動と冗談に満ちた相互作用を、物理法則に関係なく、あるいは逆らって、人工的につくり出せるシステム
山口 高平
慶應義塾大学
人の知的な振る舞いを模倣・支援・超越するための構成的システム
栗原 聡
電気通信大学
人工的につくられる知能であるが、その知能のレベルは人を超えているものを想像している
山川 宏
ドワンゴ人工知能研究所
計算機知能のうちで、人間が直接・間接に設計する場合を人工知能と呼んで良いのではないかと思う
松尾 豊
東京大学
人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術

出典:松尾 豊「人工知能は人間を超えるか」P45より

また、AIを「強いAI」と「弱いAI」、また「汎用型AI」と「特化型AI」に分類し整理する方法もあります。

 

2045年問題とは何か 

Photo by Sam Howzit on Flicker

2045年問題とは、AIなどの技術が、自ら人間より賢い知能を生み出すことが可能になるシンギュラリティが2045年に起こると予測され、それに伴うさまざまな影響、問題の総称のことです。

アメリカのレイ・カーツワイル博士が2005年に著書「The Singularity Is Near:When Humans Transcend Biology」で提唱しました。

・シンギュラリティ(技術的特異点)とは

シンギュラリティとは、日本語で技術的特異点のこと。AIなどの技術が、自ら人間より賢い知能を生み出すことが可能になる時点を指します。この説は、アメリカの数学者ヴァーナー・ヴィンジによって提唱され、レイ・カーツワイル博士も賛同しています。

レイ・カーツワイル博士が提唱する2045年問題

Photo by Pete Linforth on Pixabay

カーツワイル博士によると、人間の脳は100兆個の極端に遅いシナプスしかなく、2029年には、すでにAIの思考能力が人間の脳の演算能力をはるかに超えるだろうと予測しています。

また、2045年には10万円のコンピューターの演算能力が人間の脳の100億倍になると表現し、これらの予測を「ムーアの法則」「収穫加速の法則」を根拠に提唱しています。

ムーアの法則

ムーアの法則とは、集積回路に使われるトランジスタの数が18ヶ月ごとに2倍に増える法則です。

インテル社の創業者であるゴードン・ムーアにより論じられた指標で、もともとは大規模集積回路(トランジスタ)の生産時の長期傾向における指標を表すものでした。

一般的な公式としては

p=2n/1.5

が用いられ、nは年、Pはn年後のトランジスタ倍率を表しています。つまり、18カ月で2倍、3年で4倍、15年で1024倍の容量のメモリチップが登場することを示します。

ただし、ムーアの法則は物理的な限界を迎えつつあるという意見も存在しています。

NVIDIAのCEO、Jensen Huang氏は、「ムーアの法則はかつて、5年ごとに10倍、10年ごとに100倍だったが、いまでは毎年数%だ。10年単位でおそらくせいぜい2倍だろう。ムーアの法則は終わったのだ」と語っています。

引用文献:「ムーアの法則は終わった」:NVIDIAのCEOがCES 2019でも明言

収束加速の法則

収束加速の法則とは、技術進歩において、その性能が直線的ではなく、指数関数的に向上する法則です。

つまり、新しい技術が発明され、複数のそれらの技術が次の段階の発明に利用されることにより、次世代の技術革新までの間隔が短くなることです。

ムーアの法則では物理的な限界値を迎える半導体の進化も、収穫加速の法則では三次元分子回路などの新たなテクノロジーの出現により、さらなる発展が予測されています。

ヒューゴ・デ・ガリスの予測

Photo by Cody Ellingham on Wikipedia Commons

また、遺伝的アルゴリズムの研究で知られるオーストラリアの研究者ヒューゴ・デ・ガリスは、シンギュラリティは21世紀の後半に訪れると予測しています。

ヒューゴ博士は著書「The Artilect War」(2005)で、近年のAIの急激な進歩から計算すると、21世紀後半にはAIの処理能力は、人間の10の24乗倍(1兆×1兆)になると主張しています。

なぜ2045年問題が注目されているのか

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近年、2045年問題が注目を浴びるようになった理由の1つとしては、2014年にイギリスで行われた、コンピューターに知性があるかないかを判定するチューリングテストの結果があります。

この実験では、ウクライナ製のAIが「Eugene(ユージーン)」という名前の13歳の少年として振る舞いました。その結果、30%の観察者が「人間かAIか判断できない」という評価をし、大きな話題となりました。

「チューリングテストの合格が、コンピュータに知性があるかを判断するわけではない」という議論も存在します。しかし、それらを踏まえても、チューリングテストをパスした事実は大きく、AIの急進的な発展が注目されています。

現段階で活用されているAI事例

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現在、強いAI、汎用型AIとよばれるAIはいまだ実現されていません。しかし、弱いAI、特化型AIなどのAIは、「画像認識」「音声認識」「自然言語処理」「予測」の分野で、多くのビジネスに導入されています。

これらの技術は、2012年に登場したディープラーニングがブレイクスルーとなり実現しました。

・ディープラーニングとは

ディープラーニングとは、データから自動で特徴を抽出し分類や予測を行う技術であり、機械学習の一種です。

従来の機械学習では、人間が特徴を定義しそれをもとに学習精度を上げていたため、認識率が低くAI研究が否定的なイメージを抱かれる「冬の時代」がつづいていました。

しかし、2012年のディープラーニング(深層学習)の登場で、学習データから自動で特徴を抽出し精度を上げていくことが可能になり、AI研究のブレイクスルーとなりました。

ディープラーニングの登場により、さまざまなビジネスにAIが用いられるようになりました。

画像認識

画像や動画から文字や顔などの対象物を認識し、検出する技術で、ディープラーニングの適用領域としてもっとも注目を集めています。

Google Lens

Googleが提供するGoogleレンズ画像認識サービスです。レンズを当てると自動的に被写体を認識し、詳細な情報を表示します。ディスプレイに表示されたテキストをデータ化したり、被写体をカメラで解析しその名前や関連情報を検出するなど、応用次第でさまざまな活用が可能です。

ベーカリースキャン

株式会社ブレインがレジに画像認識を導入した事例です。あらかじめ、販売しているパンの画像を登録しておくことで、AIが購入したアイテムを識別し合計金額を表示できます。ベーカリースキャンの導入により、人件費の削減、新人研修期間の短縮、レジの入力時間の短縮を実現しています。

音声認識

コンピュータにより音声を認識し、テキスト化する技術です。ディープラーニングやスマートフォンの普及により、場所を選ばず適用できる技術に進化しています。

豚の呼吸器系疾病の聞き分け

産総研発のベンチャー企業Hmgommは、熊本県立菊池農業高等学校と教頭で豚の呼吸器系疾病の聞き分けが可能なAIの開発実験を開始しています。豚の鳴き声から、呼吸器系の疾病を早期に発見することで、迅速な処置を行うことが可能になり被害を最小限にとどめる期待がされています。

議事録書き起こしAI 「ProVoXT(プロボクスト)」

株式会社アドバンスト・メディアのAI音声認識を活用したクラウド型議事録作成支援サービスです。数時間の録音データが十数分でテキストデータ化でき、茨城県庁にも導入されています。

自然言語処理

人間が会話などに利用している言葉を処理する技術です。現在も発展途上であり、さまざまなアルゴリズムが研究されています。

チャットボット 「Replika」

「Replika」は、アメリカ発で現在世界中に50万人以上の愛用者がいる、ある人のレプリカが作れるチャットボットです。ユーザーの口調や癖を真似、趣味や好みを意識した回答や質問を行い、使用頻度が高いほど精度も高くなります。

『実ビジネス』への自然言語処理の利活用 「Asales」

「Asales」は、「社内の自然言語データ」を解析するサービスです。
営業が残した商談メモなどの顧客接点データを解析し、誰の営業では売れて、誰の営業では売れなかったかを可視化、スコアリングします。これにより、優秀な営業マンのセールストークなど、ノウハウを横展開することができます。また、顧客接点データを解析することで、リードの潜在ニーズを抽出でき、成約率を高めたり、同じようなニーズのある別業界の潜在顧客が把握できます。

予測

AIが大量のデータセットを用い、将来の結果を予測するサービスがさまざまなビジネスに導入されています。

広告クリエイティブの効果を予測

電通はネット広告のCTRなどを配信前に予測するAIツール
「MONALISA」を、サイバーエージェントが同様の効果予測ツール「AI feed designer」を導入しています。
広告の効果測定が予測し効果が高くないものを弾くことで、本当に効果が見込めそうなものだけを選定するだけでよく、広告運用担当者の大幅な工数削減が期待されています。

タクシーの到着時間を予測

「JapanTaxi」アプリのタクシーを呼ぶ配車機能では、AIを用いたタクシーの到着時間を予測するサービスを導入しています。ユーザーは、予測されたタクシーの配車到着時間から、キャンセルするかどうかを判断できることにより、配車依頼数を維持したまま、配車キャンセル率だけを下げることに成功しています。

2045年にシンギュラリティは来るのか?

Photo by Cristian Dina on Pixwls

本記事では、シンギュラリティが来ることを前提として解説してきましたが、シェリー・カプランなどの専門家によってはシンギュラリティは来ないとする説もあります。

それだけ議論の余地のあるトピックであり、未来がどうなるかは定かではありませんが、事実としてAIの進化は著しいです。とくに、ビジネス領域でのAI活用は日々進んでおり、AIが徐々に社会に浸透してることは疑いようがありません。

2045年にシンギュラリティが来るのかは定かではありませんが、今後AIの発展により社会が大きく変化する可能性があります。最新技術により変わり続ける時代を生き抜くために、私たち自身も変わっていく必要があるのではないでしょうか。
関連記事:

教師の「仕事多すぎ問題」を解決するには、AIだからできることを探せ

教育・人材育成分野に特化した国内外の先進事例、多様な教育イノベーションの体感を目的としたEdvation x Summit 2019が2019年11月5日、紀尾井町カンファレンスで催された。

本稿ではパネルディスカッション「AIは教育に何をもたらすのか?AIテクノロジーのいまとこれから」(11月5日開催)のセッション内容をレポートする。

今回のセッションでは、教育×AIに関する各トピックについて4名の登壇者が意見を交わし合った。登壇者は以下のとおり。

パネリスト
床鍋佳枝氏
株式会社 Cogent Labs
手書き文字AIデータ化サービス「Tegaki」を提供

原田英典氏
UIPath 株式会社 Head of Product Marketing
業務自動化サービス「UIPath」を提供

福原正大氏
Institution for a Global Society(igs)CEO/Founder
生徒個人の資質を分析・可視化する「Ai GROW」、人事向けAI適性検査ツール「GROW360」を提供


モデレーター
宮澤瑞希氏
アイード株式会社 代表取締役CEO
多次元音声評価AI「CHIVOX」を提供

セッションはAIを使った教育課題の解決、AI時代に必要な教育とは何か、の2部構成。1部では現役教師の声から教育現場の課題を取り上げ、議論のテーマとして選ばれたのは「英語教育改革最前線」「仕事多すぎ問題」の2つだ。

英語教育の課題は、AI活用のためのデータ集めと業務自動化

1つ目のテーマ「英語教育改革最前線」では、「大学受験以来英語に触れていない教員が、小学校での英語必修化に対応できるのか」という教師の声が紹介された。

写真左から、床鍋氏、原田氏、福原氏、宮澤氏

英語や国語といった教科では、AI技術のひとつ「自然言語処理」を用いる。ライティング文例の提案やスピーキングの補助など、現在のAIができることは少なくないものの、AIを使うためのデータ集めが難しい、と語るのは福原氏だ。

――福原氏
「自然言語処理を使うには、「子供が英語学習でつまづきがちなミス」を把握している膨大な辞書(コーパス)が必要です。以前私がこの領域に参入したときは、こうしたミスがデータ化されていなかったため、どんなに性能の良いAIを乗せようとしても機能しなかったのです。

国が事業として、民間企業と協力しあってコーパス作りを進められるといい」

議論では教育現場へのAI導入のボトルネックにも触れ、

  • ツールの操作が難しい(もしくは、利用ハードルの高さを感じる)
  • 属人的な部分が多く業務の言語化ができていない

という2つの問題が挙げられた。

後者について原田氏は「学校の先生ではなく専門家が自動化を進めるのが良い」として、三井住友銀行のロボット人事課を例に挙げた。

ロボット人事課は、「マニュアル化された作業を自動化する」業務自動化の専門家集団が、社員への業務に関するヒアリング結果から、自動化するためのロボットを制作し配信するという。

関連記事:IT企業の150人が競う、三井住友銀のRPA大作戦

学校でも同様な仕組みが作れたら、AIやボットによる業務自動化が進むが、そのためには学校側が技術にキャッチアップしていく必要がありそう、とのことだ。

――原田氏
「日々の英語教育は「できる人がやればいい」という問題に陥りがちです。「英語教育ができない」という先生に対して、いかにAIがサポートできるのか、という側面から解決策を考えていく必要があると思っています」

人間よりAIが得意なことは「書き順のテスト」「ネットいじめの発見」など

もう1つのテーマは「仕事多すぎ問題」と題し、授業準備や家庭向けの資料作成などの事務業務で児童生徒と接する時間が少ない、という教師の声が紹介された。

――福原氏
「教育現場では、(教育の)足し算はできるけど、引き算はできないという問題をよく見かけました。生徒のために良いと思ってさまざまなカリキュラムやツールを用意するものの、結果として業務量が増えて忙しくなってしまう。

導入した施策が、本当に生徒の能力を伸ばす効果があるのかを測定しビッグデータ化して、教育の洗い出しをする必要があると思います」

逆に「人間よりAIが得意な領域もある」として、登壇者からは「画像認識技術を使って、書き上がった文字から書き順を指導する」(原田氏)「先生の目から隠れがちなLINEいじめなどは、ネットワーク情報からいじめの発生場所を探せる」(福原氏)などの意見も上がった。

――床鍋氏
「弊社の文章分析サービス「Kaidoku」では、文章がネガティブか、ポジティブなものかを判断できます。書きこまれた内容のほか、回数なども加味し、生徒個人の心の動きを知ることもできるでしょう」

AI時代に必要な教育は、徹底した個別最適化

「AI時代に求められる教育とは」の議論では「人と違う、ということを徹底的に肯定し、個性を認めるという方向になると思います」(福原氏)という意見があがった。

――原田氏
「従来の社会では繋がれなかった人たちと繋がり、日常生活では得られがたい成功経験ができるのがAI社会の良い点だと思います。

個人の嗜好や個性を見出し、各人に合ったコミュニティを紹介するなど、個人の嗜好、強さを生かした教育や学習ができる未来に期待したいです」

テクノロジーを活用した新たな教育の仕組みに期待

AI導入はまさにこれから、という教育業界。聴講者のモチベーションも高く、登壇者もまだまだ話足りない、という風に感じられた。当セッションのモデレーターを務めた宮澤氏に、今回のディスカッションに対するコメントをいただいたので最後に掲載したい。

 平日かつお昼の時間にも限らず満席となり、本テーマに関する社会の関心度の高さを伺えた。「大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期」についても話題になったが、地域/経済格差問題の解決策としてITの活用には大きな期待が持てる。また、グローバル化に対応する人材育成という観点で、英語の「書く」「話す」といった能力の向上は重要であるため、民間試験対策の枠に囚われない、真にグローバル人材の育成に資する教育の仕組みに期待したい。
 ところで数十年後にはAIやロボット(以下、テクノロジー)によって職業の半分以上が代替されるという予測があるが、一方で失われる職業以上にそれらによって創出される職業もあると考えられ、どんなテクノロジーを何にどう活用していくのかを思考する能力が、個人の労働条件/環境を左右する未来が訪れると考えられている。
 その中でセッションでは、テクノロジーによるアプリケーションの社会実装が進む未来に必要な教育として、「主体的に問題を発見し解決していく能力」の重要性が挙げられた。これらのモチベーションの構成要素にある「知的好奇心」や「興味関心」といった「教養」の涵養というのは、我が国では元来より重要視されてきた教育であり、AI時代を見据え登場する「新たな教育」と共に引き続き重要ではなかろうか。

日本データサイエンス研究所、第三者割当増資を実施。累計4.8億円に到達──週間AI業界資金調達ニュース

Ledge.aiでは、AI業界の資金調達ニュースを毎週金曜日にお届けする。11月4日〜11月8日のニュースは以下の通り。

先週の記事はこちらから。

日本データサイエンス研究所、第三者割当増資を実施。累計4.8億円に到達

調達額
約4,000万


調達先
Deep30投資事業有限責任組合
日本データサイエンス研究所は、日本産業のアップグレードを目指しているという東大発のAI企業である。

  • 物流最適化
  • 需要予測
  • 教育

など、幅広い分野で

  • アルゴリズムモジュールの開発
  • ライセンス提供事業
  • ITシステムの開発と運用事業
  • データサイエンスに関する顧問・コンサルティング事業

を行っている。

今回の増資について、代表取締役社長の加藤エルテス聡志氏は以下のように述べている。

「JDSCにとって今回の増資は単なる資本拡充にとどまらない、より大きな意味を持ちます。JDSCは大学の知を社会に還元することで、産業の生産性を高める活動を行っています。これを契機に、東京大学の各研究室との連携や共同研究をより加速してまいりたいと思います。また、人材交流という観点でも、現在、東京大学の各研究室から大学院生をインターン生として受け入れることや、社員の大学院入学(修士・博士取得)を推進しているため、より一層の人材交流を図りたいと思います」

また、今年7月にも

  • 学校法人駿河台学園
  • 株式会社トーハン

などを引受先とする第三者割当増資により、約1.4億円の資金調達を行っており、今回の資金調達で累計4.8億円となった。

ロボアドバイザー「WealthNavi」を提供するウェルスナビ、約41億円の資金調達を実施

調達額
約41億円
(2015年4月の創業からの資金調達額は総額約148億円)


調達先
SFV・GB投資事業有限責任組合
東京大学協創プラットフォーム開発
ジャパン・コインベスト
DBJキャピタル
オプトベンチャーズ
千葉道場ファンド
SMBCベンチャーキャピタル
りそなキャピタル
価値共創ベンチャー2号有限責任事業組合
みずほキャピタル
WealthNaviは、従業員の約半数がエンジニア・デザイナーなどのクリエイターという「ものづくりする金融機関」であることを特徴とし、誰でも利用しやすいサービスづくりを心がけているという。

WealthNavi」はノーベル賞受賞者が提唱した理論に基づいた「長期・積立・分散」の資産運用を全自動で行うサービスで、高度な知識や手間なしに国際分散投資を行うことができる。2016年7月の正式リリースから約3年3カ月で申込件数24万口座、預かり資産1,800億円を達成している。

関連記事:2億件以上のデータから顧客心理を分析――ウェルスナビがAIによる資産アドバイス機能をリリース

【ロボアドバイザー「WealthNavi」の主な特長】

  1. すべておまかせの資産運用
  2. ノーベル賞受賞者が提唱した理論などに基づいた世界の富裕層や機関投資家が利用する資産運用アルゴリズムや、最先端の機能で、高度な知識や手間なしに、自動で国際分散投資を行う。

  3. 中長期的に安定的に資産を形成していきたい働く世代へのサービス
  4. ロボアドバイザーが最適ポートフォリオを作成、心理的な壁に邪魔されることなく適切な資産配分の維持や、為替などのリスクの分散を図る積立投資の継続など合理的な投資行動を実現。

  5. 高い機能で効果的・効率的な資産運用をサポート
  6. 中核となる技術について特許を取得している「リバランス機能付き自動積立」や「自動税金最適化(DeTAX)」機能が、お客様の効率的・効果的な資産運用をサポート。

  7. 明瞭な手数料、資産運用アルゴリズムもホワイトペーパーで公開
  8. 手数料は預かり資産の評価額に対し1%(現金部分を除く、年率、消費税別※)のみ。また、資産運用アルゴリズムをホワイトぺーパーで公開しており、ホームページ上で閲覧可能。

マクニカとALBERT資本提携へ AIで地方の製造業を効率化

▲写真左から、株式会社マクニカ:イノベーション事業戦略本部長 佐藤 篤志、代表取締役社長 原 一将、株式会社ALBERT:代表取締役社長兼 CEO 松本 壮志、執行役員CDO 安達 章浩

今月6日、マクニカとALBERT(アルベルト)が資本業務提携すると発表した。製造業向けにAI/IoTを活用したスマートファクトリー化の促進が狙いだ。なお、両社は2017年に業務提携をしているが、今回は資本提携となる。

地方の工場ではAIの導入はまだ進んでいない

今回の主な提携内容は、

  • 「MindSphere」をベースとした、マクニカの製造業向けプラットフォーム上でのアプリケーション共同開発
  • 製造業顧客の個別AIプロジェクトにおけるコンサルティング、データ分析、アルゴリズム開発、システム実装などのサービス提供
  • AIに関する市場の啓もう活動

これら3種となっている。

資本提携でのターゲットは、全国各所にある“地方の工場”だ。「AIで業務を効率化したい」ということ自体は頻繁に挙がるものの、都市部以外の企業(=地方の工場など)にはAIの話が降りてきていない実情がある。さらに、AIを導入しようとしたところで、データを集める作業が必要になりタイムリーに導入できないという課題があった。なんでも、AIを実用化するまで2,3年必要とするケースもあるそうだ。

両社の強みを掛け合わせる資本提携に

▲両社提携により目指す「スマートファクトリー」。工場がかかえる課題に対し、トータルでサポートする。

地方にある工場がもつ課題を解決するために、マクニカとアルベルトが提携したのである。マクニカは、製造業向けに200件以上のAI/IoT活用における実績をもっている。一方でアルベルトは、AI活用コンサルティングやデータ分析ノウハウ、さらにはAI人材の育成が強みだ。

この両社が提携し、製造業に特化した「AIを活用した業務効率化支援」のための共同提案や共同サービス提供をすることで、多くの企業が抱える問題の解決に向かう。将来的には、国際的な競争力を高めるきっかけになりたい、とも明かされた。

ディープラーニング=万能ではない。データの関係性から特徴をつかむ「スパースモデリング」という技術

ディープラーニングの普及が進んでいる。しかし、ディープラーニングはその特性上、膨大な量のデータと、データを処理できるGPUなどの高価な計算機が必要だ。そして多くの企業は、その2つを用意するところでつまずいている。

今回紹介するスパースモデリングは、少量のデータから特徴を抽出し、学習と推論を行える技術だ。スパースモデリングについて、京都のAI企業ハカルスのデータサイエンティストである増井隆治氏に話を聞いた。

増井隆治氏
中学生の頃からプログラミングに興味を持ち、鈴鹿高専で情報学の基礎を学び、その後京都大学に編入し、より高度な数学を学ぶ。大学の実験で仲良くなった大関先生の紹介でハカルスでアルバイトを始める。3年間のアルバイトの後、ハカルス初の新卒として入社。データサイエンティストの仕事に邁進している。

スパースモデリングはものごとの「スパース性」に注目する

スパースモデリングとは何なのか。それを理解するには、まず「スパース性」という概念を理解する必要がある。

そもそもスパースとは、「すかすか」という意味だ。スパースモデリングは、あらゆるものごとに含まれる本質的な情報はごくわずか=すかすかであるという仮定(スパース性)に基づき、入力から出力に対して「どこが本当に必要な情報なのか」を見極め、抽出する。

では、どのように本質を見極めるのか。その答えとなるのが、「データ間の関係性を特定する」という特徴だ。出力を行うとき、スパースモデリングでは入力となるデータそのものに注目するのではなく、入力と出力の関係性を洗い出す。データ同士の関係性に注目することで、入力データ自体の多寡や質は関係なくなり、結果的に必要なデータは少量で済む。

――増井
「スパースモデリングは、一見複雑そうな現象を『シンプルに説明できる』という仮定に基づいて分析する技術です。たとえば猫と犬を判別する際にデータが少なかったとしても、目や耳など、どの部分が特徴として効いてくるのかを分析できます」

ディープラーニングの弱点とスパースモデリングの強み

スパースモデリングは、どのようなケースにおいて有効なのだろうか。それはディープラーニングと比較するとわかりやすい、と増井氏は言う。

――増井
「昨今ディープラーニングの普及が進んでいますが、ディープラーニングは完璧ではなく、いくつか問題点もあるんです」

増井氏が教えてくれた問題点は以下の3つだ。

ひとつは、データが大量に必要なこと。ディープラーニングでは、データの関係性でなくデータのみから学習を行うため、データがあればあるほど良い出力が期待できる。

つまり、データの量ができることの複雑さに比例する。そのため、データが足りない場合は期待していた出力が得られなかったり、分析の精度が下がったりする。また、計算過程をシンプルにすればするほど、できることの複雑さは下がり、単純な推論しかできなくなっていく。

そんなとき、スパースモデリングが有用となってくる。データ同士の「関係性」に注目するスパースモデリングでは、大量のデータは必要ない(もちろん、あるに越したことはない)。

スパースモデリングを表すもっとも重要な数式。第一項は「説明できる」、第二項は「シンプルに」という意味で、この数式を使ってデータに潜む本質を抽出する。

2つ目はマシンリソースの問題だ。ディープラーニングを扱うには、GPUなど大量の計算を回せるマシンが必要となる。前述の通り、スパースモデリングは大量のデータを必要としないため、FPGAなどのチップでも学習と推論を回せる。そのため、ディープラーニングと比較して消費電力が安上がりな面があるという。

また、ディープラーニングでは膨大なデータに対してアノテーション(正解データをラベル付けする作業)が必要となるが、これもスパースモデリングでは少量のデータに対するアノテーションで済む。したがって、データ準備にかかる時間、工数を削減できる。

――増井
「とあるプロジェクトで、GPUを4枚使い、ディープラーニングで学習に100分かかっていたAIモデルがありました。これと同等の精度を、スパースモデリングを用いて、CPUのみで、学習時間20分で達成しています。CPUのみなので消費電力も80%ほど削減できました。

もちろん一般的に必ず良くなるという話ではありませんが、注目すべき数字です」

最後に、説明可能性の点。ディープラーニングは大量のデータから特徴を抽出するという特性上、計算の過程が非常に複雑だ。そのため、解釈可能な形での説明が難しく、ディープラーニングの計算過程はブラックボックスとも言われている。

対してスパースモデリングでは、「スパース性」を利用することで、できるだけ特徴を単純に解釈する。「入力と出力の関係をなるべくシンプルに説明するので説明可能な点が強み」だと増井氏は語る。

――増井
「結局、ディープラーニングでは判断に対する『なぜ?』が導けません。OKかNGの2択だけなんです。スパースモデリングのような説明可能なAIであれば、なぜ異常が出たのかがわかり、原因を導けます」

医療、製造、宇宙──スパースモデリングのユースケース

具体的にスパースモデリングが向いている領域は製造業や医療分野だという。

たとえば、医療分野ではMRIでの撮影にスパースモデリングが使われている。MRIでの撮影には、磁石を用いて体内の情報を収集し、そこから体内の断面図を生成する。しかし、鮮明な画像を生成するには、長い時間をかけて撮影する必要があり、患者に負担がかかる。

かといって短時間で撮影すれば画像は荒くなる。そこで、画像のスパース性に注目し、体内の画像で本当に重要な部分を抽出することで、より短時間で鮮明な画像を再現できる。

MRI 出典:パブリックドメインQ

ビジネスに近いところでは、製造業の外観検査でスパースモデリングが活躍している。外観検査でディープラーニングを用いるには、良品、不良品を判定するために大量の異常データが必要だが、そもそも用意するのが難しい場合もある。

そこでスパースモデリングを使うことで、データの少なさをカバーでき、かつ軽量なのでチップなどエッジにも組み込むことができる。これらの技術はハカルスの外観検査サービス「SPECTRO」にも使われているという。

ほかにも、変わったところでは今年4月に話題になったブラックホールの撮影にも、スパースモデリングは使われている。

エッジAIとも親和性が高い。ディープラーニングでは計算量が必要な特性上、自前で計算機を用意しない場合はクラウドで学習を行うが、工場などでは情報流出のリスクから、そもそもクラウドに接続できないケースが多い。

スパースモデリングは軽量のため、エッジにモデルを置ける。チップなどにも組み込めるため、工場現場などでも使いやすいという。

ディープラーニングのためにデータ収集にリソースをつぎ込むのは本末転倒

ここまでスパースモデリングについて聞くといいことづくめだが、「データ量がそろっている状況では、スパースモデリングの精度はディープラーニングに負ける」と増井氏は語る。

――増井
「データ量がある状況では、スパースモデリングはディープラーニングに精度でかないません。ただ、現実世界でデータと計算機が揃っている理想的な状況は珍しい」

第4次AIブームと言われているものの、ディープラーニングに必要なデータをどう収集し、蓄積するかは、企業がAIプロジェクトを行う際のボトルネックになっている。外部パートナーと協力しようとしても、機密上、自社のデータを外部パートナーに委託できない企業も多い。

つまり、リソースが足りないからAIを活用し、本来の業務を効率化したいのにも関わらず、データ収集に業務を割かなければいけない現状は、本末転倒ともいえる。そのような場合は、ディープラーニングではなくスパースモデリングの活用も選択肢のひとつだ。当たり前だが、自社の課題に適合する技術を使えばいい。

――増井
「ディープラーニングはまさに今、さまざまな企業が取り組んでいるので知見を活かしやすい一方、スパースモデリングはまだまだ普及がこれから、というのもディスアドバンテージでしょう。そこはこれから我々のような会社が広めていきたいと思っています。

現在、AIブームの恩恵を享受できていないような業界が、より本質部分に工数を割けるようにするために、スパースモデリングも活用し課題解決をしていきたいと思っています」

経営・監査の進化を阻害する根本要因とは?PwC主催『AI・データ分析によるリスク管理・内部監査実務』セミナーレポート

2019年9月27日、PwCあらた有限責任監査法人が主催するセミナーイベント『AI・データ分析によるリスク管理・内部監査実務』が東京 大手町で開催。

「AI、データを活用する上で発生する様々な可能性やリスク、先進的テクノロジーを活用したガバナンス・リスク管理、コンプライアンス(GRC)ならびに内部監査について考察する」と銘打たれた本イベントに、レッジCMOである中村もゲストスピーカーとして招待・登壇させていただきました。

以下は当該イベントのサマリーレポートとなります。

最新事例の紹介、および各種導入・開発プロジェクトを止める根本リスク要素について

株式会社レッジ CMO 中村健太
セッション:日本企業におけるAIユースケースのご紹介

ゲストスピーカーとして招待・登壇させていただいたレッジCMOの中村は、主に国内事例を中心にデータ活用やAI導入に関する体制・構造的リスクについて解説。

主に『自社に閉じた体制』『失敗を許容できない評価構造』『高すぎる基準とリスク回避スタンス』が実際の導入フェーズにおいて発生させてしまうさまざまなリスクを解説し、回避策についても提唱させていただきました。

――中村
「従来のシステム開発と『データ活用』や『AI活用』といったプロジェクトを混同しないほうがいい。インプットからアウトプットを確定できない(させない)構造となるため、そもそもが失敗を織り込まなければ前に進めることができなくなる。

もちろんその進め方は自社だけで進めるにはリスクが大きい。よりオープンで柔軟な、開いた考え方をマネジメントレイヤーが持たないかぎり事業にも社会にもAI・データ活用は浸透しない」

アシュアランス提供者としてのAI・データ活用の是非、そして生まれる新たな課題の整理とは

PwCあらた有限責任監査法人 マネージャー 武田智行氏
セッション:内部監査業務におけるデータアナリティクスやAI利活用のポイント

続いて登壇されたPwCあらた有限責任監査法人のマネージャー、武田氏が語られたのは、主に「回避できない近い未来に業界として考えるべきポイント」に関してでした。

監査ワークフロー(≒人間の知的作業)を『作業』『認識』『判断』と定義し、それぞれの領域に対するAI・データ活用の可能性について解説。それぞれの領域を内部監査業務に当てはめ、いかに情報を単純化し、拡張し、実業の支援に使うか? といった観点でセッションを実施。

弁護士資格を持つ法務の専門家としての立ち位置から、主に社会的なリスクとの向き合い方に関するお話を展開いただきました。

――武田
「AIの内部監査業務での利用については、“技術的な可能性”とともに、“アシュアランス(保証)の提供という観点からAIを用いることの是非を検討”する必要がある。

後者を検討するに際しては、AIが提供する情報の射程を理解し、どこまで依拠してよいかを慎重に検討・判断することが求められる。今後、AI利用に対する社会的コンセンサスの形成とともに、内部監査業務におけるAI利用の範囲は拡大されると予想され、それに伴って内部監査人の役割や、求められる資格は変化していくと考えられる」

非構造化データの爆発的増加に伴うデータ解析・活用への期待。業界が抱える現状と課題について

PwCビジネスアシュアランス合同会社 シニアマネージャー 熊田 淸志氏(上)、マネージャー霜坂 秀一氏(下)
セッション:PwCのデータアナリティクスサービス・AIソリューションについて

ラストに登壇されたPwCビジネスアシュアランス合同会社 シニアマネージャーの熊田氏、マネージャーの霜坂氏が語られた内容は、全3部構成(内容的には前後半)となり、前半はPwCの進めるAI・データ活用を進める上でのガバナンスに関する考え方、および具体的な推進方法について解説。後半では現在に至るまでのテクノロジーの盛衰と今後の展開について紹介されていました。

すでにPwC内部で行われたいくつかの実証実験結果について解説し、そこで活用されたデータ、要素技術、推定される価値などについても開示。大規模サンプル数をとったCEOメッセージ調査など興味深い調査結果などについて報告いただきました。

――霜坂
「まだまだ “AIが人間の代替になる” という段階には至らないと思うが、すでにデータは氾濫し、そこに対する『経営観点での示唆が得られるのではないか』という業界の期待は伸び続けている。

しかし、一方で、利活用に向けてのリテラシー向上には課題が残っているのではないだろうか。多くの人が考えているよりもはるかに小さな労力と時間でさまざまなことが可能になってきていると自覚し、活用を進めていかなければならない」

総括:多くの企業が抱える課題と『あるべき論』との乖離

いわゆる内部監査に関連する業界の方(社外取締役などを複数やられている方など)が多く参加されていた本イベント。全体の認識としては以下のような課題を共有し、考える場となっていました。

  • 業界全体としての意欲は高いものの、利活用に向けてのリテラシー向上が課題
  • そのため逆に Tech系ソリューションやデータ活用のレバレッジが効きやすい
  • 結果重要なのはガバナンスであり、マネジメントレイヤーへのナーチャリングが遅れていると認識する必要がある

多くの業界、特に国内において古くから存在するマーケットにおいて確かに存在するリスクに対し、何をどう考え、どう実行していけばレバレッジを効かせるチャンスに変えることができるか。

そんな示唆に富んだセミナーイベントでした。同様の課題感を共有していることが分かったため、また近いうちにイベントやプロジェクトを一緒に進められるよう、我々も準備していきたいと思います。

「病気を治す」から「幸せになる」医療へ。人間を超え始めた医療AIの現在地

医療分野でのAI技術の活用は、1970年代ころの第二次人工知能ブームの時代から模索されていた。エキスパートシステムと呼ばれ、感染症診断・治療支援のMycinなどが知られる。

しかしシステムに耐えうる開発環境と実行環境がないといったハード面での問題や、誤診時の責任といった倫理・法律に関わる問題などのさまざまな要因により、実用化には至らなかった。

「冬の時代」を超え第三次人工知能ブームを経た現在、医療分野ではどのようにAIが使われるようになっているのか。AIが実装されるにあたって、新たな社会課題が生まれてくるのだろうか。

こうした問いに向き合うセミナー、第3回ABEJAコロキアム「すすむ医療のAI化、社会システムをどう再定義する?」が、10月25日(金)に開催された。

「ABEJAコロキアム」はメディア・報道関係者向けのセミナーとして2019年4月にスタート。“社会とテクノロジーの交差点にあるテーマを取り上げ、討論する場”として、登壇者による講演と、参加者とのディスカッションという2部構成になっている。

本稿では、「テクノロジーと医療の未来」というテーマで登壇したアイリス株式会社 CEO 沖山翔氏の講演内容を中心にレポートする。

医療×AIの現在〜画像認識による効率性改善から、診断・検出精度向上へ

沖山氏は、救急医として従事したのち、2017年にAI医療機器の研究開発を行うアイリスを創業。当セミナーでも、「医療とAI」「医療のこれから」について語った。

2019年現在、医療分野に大きな変化をもたらしているのは画像認識技術だ。沖山氏は「医療AIは診断・検出の分野で多く活用されている」と述べ、アメリカでの実用化事例を紹介した。

医師の診断時間を80%削減

現在、医療AIは放射線科の領域でもっとも導入が進んでおり、すでに黎明期を過ぎようとしているという。CT、MRI画像から病状を診断するものが中心で、レントゲン画像から骨折を感知するAI、エコーから臓器の状態を点数化するAIなどが該当する。

脳のスライスCT画像から脳出血を検出するAIの認識精度はAUC(認識精度を表す指標)0.948。人間がじっくり画像を見て判別するレベルに相当し、この検出AIによって医師の診断時間を80%削減できるという。

アイリスCEO・沖山翔氏講演資料p.17より引用

古いMRI機器の撮影画像を画質変換するというAIも存在する。MRIは高価な医療機器のため、利用サイクルが長く10年以上前の機器を使う医療施設も少なくないとのこと。長く使われている機器には鮮明な画像が撮影できないものもある。こうした画質が悪い撮影画像をAIが変換し、変換後の画像を人間が見、診断に役立てる(医用画像処理と呼ばれる)という事例もあるという。

アイリスCEO・沖山翔氏講演資料p.15より引用

医療機器のAIは「人を超える」フェーズに差し掛かっている

今でこそ医療現場に入りこみ、効率化に貢献しつつあるAIだが、かつては反対勢力の声が大きかった。「医療では、世界に300人程度しかいないような希少疾患もある。AIはビッグデータの集積なので、出現頻度が低い疾患のデータを得られなければ検出できない」というものだ。

しかし、現在では少ない量のデータで学習できるメソッドが開発されており、少ない数の画像から特徴量を見出すことができる。たとえばマイクロソフトによる「レンブラントの新作」風AIに学習させた画像は、わずか350枚ほどだという。

アイリスCEO・沖山翔氏講演資料p.7より引用

ほかにもゼロショットラーニングを利用し「これまで見た画像とはちがう特徴量を持つ」といった判断をさせ、希少疾患を検出することも理論上可能であり、数千枚もの画像が必要だった時代はもはや数年前の話という。

ゼロショットラーニング
訓練データのない(1度も学習したこともない)カテゴリの画像を、補助情報を頼りに分類するディープラーニングの手法

では今後、医療分野でのAI活用はいかに進化を遂げるのだろうか?

――沖山氏
「医療AIは効率化を進めるフェーズから、人を超える精度、成功率を実現するフェーズに差しかかっているといえます」

アイリスCEO・沖山翔氏講演資料p.19より引用

フェーズ3の「過去になかった診断方法を実現するAI」の例として沖山氏が挙げたのが、スマートフォンでの双極性障害検出だ。端末を見る頻度や、ECでの利用額などから患者がうつ(もしくは躁)状態かを推測・判断するといった、今まで使っていなかったデータをもとに診断を下すという。

「病気を治す」だけが患者を幸せにする手段ではない

こうしたテクノロジーの発展や時代の流れにより、沖山氏は「医療の対象が病気から人に変わってきた」と述べる。

尊厳死、という言葉が生まれる前は「命は尊いものだから、1分1秒でも長く生きることが大切。だから病気を治すべきだ」という価値観が浸透し、人工呼吸器や胃ろうといった延命治療技術が発達した。

しかし、患者が医療に求めているのは病気の根治だけでないという。

――沖山氏
「医師が大学で学ぶのは、サイエンスベースの学問としての医学です。しかし患者が求めているのは生活の質を高める“医療ケア”。心臓の冠動脈の詰まりを解消してほしいのではなく、痛みをとってほしい、死ぬかもしれないという不安を解消してほしいといったこと。

だから心の不安を解消できるだけでも、医学的価値があるのではないか。人を癒すものはすべて“医療”と呼んで良いのではないでしょうか」

アイリスCEO・沖山翔氏講演資料p.36より引用

沖山氏の言うように医療者の意識は変化しつつあるものの、技術サイドの研究者は「病気を治す」に意識が向きやすく、病気の発見や治療にフォーカスしたAIが多く開発されがちだという。

そうしたAIに対する「生き方をサポートする、幸せにするAI」の事例として、マイクロソフトによる「Project Emma」を紹介。

Project Emmaで開発されたのは、若年性パーキンソン病の患者向けのウェアラブルAIデバイス。リストバンド型のウェアラブル端末が手の震えのタイミングを学習し、手の震えの逆方向にバイブレーションを起こすことで、手の震えをキャンセルするという仕組み。あわせて機械学習で手の震えが止まる振動の強さも学んでいくという。

――沖山氏
「このデバイスは医学的な視点から見たら、まったく病気の治療をしておらず、対症療法にしかすぎないものです。でも彼女の人生にもたらした価値は計り知れません。

治すだけが医療でななく、根治を目指すのがAIの目的ではない。私たちは深く狭い医療の課題に向き合って、ひとつひとつの疾患に対していかに価値を出せるかを考え模索している最中です」

いまだ横たわる、AIによる誤診などの倫理課題

AI技術によって医療現場に変化が起きつつあるものの、医療分野のAI導入が抱えている課題は少なくない。

「学習データへのアノテーション(ラベリング)作業を医師自身が行わねばならず、リソースを割くのが難しい」(ABEJA Use Case 事業部 木下正文氏)といった問題から、個人の生き方に関わる倫理的な問題までいくつも立ちふさがっているように見える。

とくに後者は講演後の討論でも論じられており、AIが誤診したときの責任の所在や「過去にAIが病気になると予測したのに、(経済的などやむを得ない事情等から)適切な対処をしていなかった患者自身が責められる」といった世界になってしまうのか、という意見も出た。実際に、万人にとっての最適解は出せないだろう。

AIができることは「ある1つの目的(方向性)に対する解を出す」であるがゆえに、医療者あるいは患者の誰にとっても絶対的な正解が出せるとは限らない。自分がいかに生きるかを考え、方向性を示すのは、まぎれもなく自分自身である。

AI導入によって価値観が「揺さぶられる」事例は、医療分野に関わらず存在するだろう。今後も追っていきたい。

「風が吹けば〇〇が儲かる」を探せ。パナソニックが本気で取り組むスマートタウン改善アイデアソン

企業によるAI活用が進んでいる。プレスリリース配信サービスのPR TIMESでは、AI関連のプレスリリース本数は2014年から2018年にかけて32倍に増加した。

関連記事:変わらないまま生き抜けるか? 大局と現場から読み解く、AI時代の適者生存

AIをビジネスに活用する際は、AIで既存の業務を効率化するものと、AIをベースとしたまったく新しい事業を創り出すものがある。しかし、後者は大企業であればあるほど難しい。既存の自社のビジネスと競合せず、かつ自社のビジネスに貢献するであろうアイデアはそう簡単には思いつくものではない。

そんな中、企業のAI活用やデジタルトランスフォーメーションを推進するSTANDARDとパナソニックとが、AIを活用した事業・サービスの開発力を持った学生たちと協力し、パナソニックが構築するスマートタウンに関するアイデア創出プロジェクトを⾏った。

それに伴い、パナソニックが立ち上げた郊外型のスマートタウンで、学生も交えて実地調査が行われた。その実地調査の様子と、アイデアソンの様子を取材した。

「企業×学生」プロジェクト発足の経緯

パナソニックは創業者である松下幸之助の思想から事業を通じて地域活性化に貢献することを掲げており、その考え方のもと、自社の工場跡地でスマートタウンを開発した。今回のアイデアソンのために視察が行われたFujisawa SST(サスティナブルスマートタウン/藤沢市)、Tsunashima SST(同/横浜市)だ。

取材日に現地(Fujisawa SST)に赴くと、かなり大規模な住宅地が整然と並んでいるのが印象的だった。(写真提供:Panasonic)

今回のプロジェクトにおいて、パナソニックの課題感は「スマートタウンの中で取得したデータを十分に活かせていない」ことだった。パナソニックのビジネスソリューション本部 副本部長の岡山秀次氏はこう語る。

――岡山
「Fujisawa SSTでは、住民が入居する段階で許可を取り、各戸の電気使用量などのデータを取得し、その結果を住民の方にフィードバックすることで省エネ等につなげていただいています。

それらを、さらに役立つ住民サービスに活かしたいのですが、僕らでは『どうやって新しいビジネスに繋げるのか?』と考え方にキャップがかかってしまい、なかなか自由なアイデアが出ない。そこで優秀な学生の方々に、我々では思いつかないような革新的なアイデアを出してほしいと思ったんです」

SSTの高齢者住宅では、住民の睡眠管理データなども取得可能だ。実際に睡眠データを取得することで、高齢者の日中の転倒率に睡眠が関わっていることが発見できたという。

――岡山
「今後、たとえば、このデータを活用して介護施設で高齢者の睡眠管理にも注力し、施設の介護スタッフの離職率との関連性も分析してみたい。⾼齢者の睡眠が介護スタッフの離職率と相関があるとは誰も思わない。介護スタッフは高齢者が転倒しないようケアするにのに精神的負担があったかもしれない。こうした負担を解消できれば大きなインパクトになる。こんなふうに、『風が吹けば桶屋が儲かる』を見つけることを学生には期待しています」

そもそも、住民の生活データを取得するのは企業にとってかなりハードルが高い。個人情報を取得するためには、住民の同意のほか、自治体による制限があるケースもあるだろう。

しかし、SSTではすべての住民に入居の際の契約時に各種データを取得する契約を結び、了解を得た上で住民サービスに役立てている。「新しい取り組みやデータ活用に対する受容性の高い」住民とともに取り組むことで、便利な生活への改善を継続的に行うことができる。

「Fujisawa SST」現地視察の様子

実地調査は8月に行われた。Tsunashima SST、柏の葉スマートシティ、Fujisawa SSTの合計3回のうち、Ledge.aiが取材に入ったのはFujisawa SSTの回だ。学生たちはSSTに集合し、まずはこのスマートタウンがどのような施設なのかオリエンテーションを受けたのち、住宅地を視察した。

Fujisawa SSTは郊外型のスマートタウンだ。住宅地を少し歩くだけでも、さまざまな住民サービスが提供されている。

たとえば、こちらの電気自動車は、車のメンテナンス費用やガソリン代が一部自治会費でまかなわれ、利用する住民は乗った分だけ割安な費用を負担する、住民の「シェア自動車」だ。使用頻度や走行距離、誰が乗ったかなどのデータがすべて記録されている。

また、こちらの家庭菜園も同じくデータを取得している。定点観測によって天候や野菜の成長率などのデータを取得していたものの、これまでは十分に活用できていない状態だったという。

ほかにも、信号がない幅の狭い道路を、ショートカットしてしまう人が発生して危険、といったリスクも発見された。

実際の住宅地を見学することで、学生たちもどこを改善できるのか、どのようなイノベーションが起こせるのかアイデアを模索していた。

データネイティブ時代がサービス設計に携わる価値

STANDARDは、包括的に企業のAI推進をサポートする企業だ。企業のAIプロジェクトを担う人材に対してのオンライン研修や、AIエンジニアコミュニティ「HAIT Lab」のAI技術者による企業のPoCや開発プロジェクトの実行支援を行っている。

今回のプロジェクトも、STANDARD企業のAI・データ活用プロジェクトの推進事業の一環だ。パナソニックとSTANDARDがコラボレーションし、HAIT Labに所属する学生エンジニアを選抜。それらの人材に対して機械学習、ディープラーニングやプロジェクトの進め方などの研修を行い、実地調査を行う。そこで発見した課題や得たインスピレーションをもとに、パナソニックのビジネスにつながるようなアイデアを提案するのがプロジェクトのゴールとなる。

企業側のメリットだけでなく、学生がこのようなプロジェクトに関わるメリットはなんだろう。STANDARD COOの安田光希氏はこう語る。

――安田
「AIエンジニアやデータサイエンティストなどのインターンの場合、ほとんどが雑務やデータの前処理、プロジェクトが動き出す前のリサーチといった業務を振られがちです。サービスの上流から携われることは多くありません。こういったプロジェクトは、そもそものアイデア創出の部分から携われるので、学生からも有意義という声が多いです」

また、そもそものサービス設計として「データネイティブ世代」が携わったほうがいいものができるとも語る。

――安田
「今後は、データを渡すメリットとそれによる対価を理解している人が、サービス全体を設計することが重要です。データを企業に渡すことによるプライバシーの課題はもちろんありますが、そのぶんだけPDCAを早く回せますし、開発が早く進む。

それによってさらに便利なサービスを享受することが可能になります。だからこそ『データネイティブ世代』である今の学生たちを巻き込んでいきたいと思っています」

イノベーティブなアイデアをどう生み出すか

企業と学生がコラボレーションし、人材育成と企業の事業創造を同時並行で行うこのプロジェクト。企業は自社では思いつかないアイデアを得ることができ、学生は普段触ることができないデータを存分に活用して、事業づくりに携われる。

一方、企業にとって今後死活問題となる、「イノベーションをどう起こすか」という課題。求めているアイデアを生み出せるのは、学生や若手社会人などの「データネイティブ世代」かもしれない。テクノロジーを起点とした市場動向が激化する中、自社だけで人材リソースや開発スピードが足りない場合には、今回のように外部の力を借りることも必要だろう。

今回のようなプロジェクトが、今後のAIビジネス活用におけるアイディエーションの一般的な手法となることに期待したい。