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このところ、海洋プラスチックごみが海の生物などに与える影響に注目が集まっている。このため、使い捨てプラスチックの代表格とされるレジ袋が全面的に有料化されることになったという。しかし、この因果関係、何かおかしくない?と違和感を持った。
海洋プラスチックごみは、海岸で、または、海中に漂っているうちに摩耗して、マイクロプラスチックになる可能性がある。そのため、海に流出するのを極力防ぐことが重要である。そのため、プラ製レジ袋をもらわず、ペットボトルの飲み物を買わないという行動は一定の意義があると思う。しかし、海洋プラスチック問題解決のため使い捨てプラスチックの使用量を減らす、まずはレジ袋削減から取り組むと言われると、ちょっと待てよ、という気がしたのだ。
ここでは日本は海洋プラスチックごみをどのくらい排出しているのか、そして日本のプラスチックごみはどのように処理されているかをまとめ、プラスチックリサイクルについて意見を述べる。
海洋プラスチックごみを日本はどのくらい排出している?
「プラスチックの多くは、使用後、きちんと処理されず、環境中に流出してしまうことも少なくありません」という説明をよく目にするが、これは日本においても当てはまるのかを検証してみよう。
現段階でもっとも包括的に推定しているJambeckらの論文 [1] によれば、日本が海洋に排出しているプラスチックは、一年で4万トンとされている(2010年、中位推計。環境省の資料 [2] では「2~6万トン」と記されている)。一方で、日本で一年間に発生するプラスチックごみ(以下、廃プラ)は、2010年で945万トン、容器包装関係に限っても450万トンほどである [3]。
ちなみに4万トンという数字は「廃プラの2%が街中で散乱する」という仮定のもとに求められたもので、この仮定は、全米での実績値にもとづいているものの、世界中の国で一律としている。日本では「街中に散乱し」「やがて海に流れ出てしまう」ごみが全体の2%もあるとは考えにくく、もっと小さい値の方が個人的にはしっくりくる。Jambeckらも、埋め立てごみが適正に処理されている“高所得国”では、この2%という数字次第で結果が大きく変わることを指摘している。なお彼らは、「世界的には“不適切な廃棄物管理”による排出量のほうが大きい」とし、この量は、日本ではゼロである [1]。
4万トンと450万トンという数字を見比べると、日本の廃プラは大きく見積もっても1パーセントしか海洋に流出しない、ということになる。つまり日本では、現時点のシステムがきちんと回っている限り、廃プラが海洋にそのまま出ることはきわめて考えにくく、レジ袋の有料化くらいでは大勢に変化はないことが容易に想像できる。
日本からの排出量が少ない理由
海洋への排出が低く抑えられている理由として、日本ではごみの回収が比較的うまくいっており、ごみの焼却率が高いため、出されたごみが放置されているのが稀であることが挙げられよう。ごみを焼却し、体積を減らして埋め立てることは、埋め立て地の確保が難しい日本にとって重要な技術課題だった [4]。そのため焼却技術の向上、焼却施設の充実が進み、「廃棄物処理の主流は焼却」となった歴史がある。一方、世界では、埋め立てのほうが焼却よりも主流である [4]。
じつは、海洋プラスチックごみ問題の旗振り役の一つである国連環境計画も、日本で対策が必要だとは言っていない。「レジ袋の配布が禁止されてないにもかかわらず、大変効果的な廃棄物管理システムと市民の高い意識のおかげで、環境中にプラスチックが出ないように管理されている、と日本は説明している」と中立的な説明をしている [5]。このことを、日本はなぜもっとアピールしないのか不思議である。
日本はどうすればよいか
このような考察から、海洋プラスチックごみを減らす対策は別にある、と考えるのが自然である。上述のJambeckらは、海岸線を持つ途上国において、集められたごみが適切に処理されず、海洋に移動しているのが主な発生理由であるとし、廃プラの80%以上が“不適切な廃棄物管理”される国・地域は41あるとしている(推定対象:192の国・地域)[1]。これらからの海洋への移動を減らすとともに、海へのごみ捨てを取り締まることが、もっとも現実的である。
じつは、日本も廃プラをリサイクルの原資として途上国に輸出している。輸出先は主として中国だったが、中国政府が2017年7月に輸入規制方針を明らかにしたため [2]、現在はマレーシア、台湾、タイ、ベトナム、などへの輸出が増えている [6]。それらの国も輸入規制を強化しているため、輸出量は減る傾向となっている。とはいえ、日本の廃プラが海洋に移動する可能性でもっとも大きいのは、それらの国で適正に管理されない場合である。今後、日本のごみ焼却の技術、ごみのかさを減らす技術、埋め立て地を適切に管理する技術などを、それらの国に移転することも有効と考えられるのではないか。
日本の廃プラは半数以上が燃やされているが
次に、日本の廃プラの行方を見てみよう。2017年の日本において、775万トンの廃プラはリサイクルされる。残りはリサイクルされず、直接燃やされるものが76万トン、埋め立てられるものが52万トンである。
廃プラのリサイクル方法は大きく分けて3つある。ふたたびプラスチックになる「マテリアルリサイクル」、化学工業で使う原料や素材に変える「ケミカルリサイクル」、プラスチックを圧縮して高カロリーの固形燃料として焼却し、熱回収して発電機を回すのに使う「サーマルリサイクル」である。それぞれ211万トン、40万トン、524万トン(2017年)[3] で、「サーマルリサイクル」が6割ともっとも多い。
環境省が5月に発表した「プラスチック資源循環戦略」[7] は、この3つのリサイクル方法を最適に組み合わせるとしている。一方で、「サーマルリサイクルはリサイクルではない」「廃プラを燃やしてしまうことは、化石燃料を一度しか使わないことになり問題だ」という意見もしばしば目にする。しかし、それほど単純な話ではない。現時点でもっとも合理的な選択の結果、「サーマルリサイクル」に落ち着いているのだ。プラスチックの再利用による資源の節約だけではなく、そのために使うエネルギーや二酸化炭素の排出まで考えることが重要であり、それぞれのリサイクル方式の特徴を知ることがカギとなる。【次ページにつづく】