あの失敗した「海洋清掃マシン」が新たな舞台で復活。東南アジアの河川でプラスティックごみを回収へ
海に漂う大量のプラスティックごみを回収すべく、全長600mの海洋清掃マシンを太平洋へと送り出したNPO団体「オーシャン・クリーンアップ」。その巨大マシンが壊れてしまったあと、新たな舞台に選んだのは東南アジアの河川だった。ごみを発生源で効率よく回収しようという試みは、今度こそ成功するのか。
TEXT BY MATT SIMON
TRANSLATION BY MADOKA SUGIYAMA
WIRED(US)
いまから1年ほど前の昨年9月、オーシャン・クリーンアップという団体が、海洋プラスティックごみの除去を目指して前例のない装置で前例のない活動を開始した。その装置とは、全長600mのU字型のプラスティック製チューブである。このチューブにぶら下げた網に東太平洋に集積したプラスティックが自然に入る仕掛けで、集められたごみは回収船がやって来てすくい上げ、陸地に運ぶ手はずになっていた。
ところが開始から数カ月後、この海洋清掃マシンはプラスティックごみを集めないばかりか、ふたつに割れてしまった。チューブの修理と機能向上のため、オーシャン・クリーンアップはこの装置をハワイまで曳航しなければならなくなった。
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それから数カ月後の今年10月初旬、オーシャン・クリーンアップは機能の向上した装置がついにプラスティックごみを集めたと発表した。しかしある研究者がTwitterで、この装置は海洋生物も収集していると指摘した。前例のない活動は、なかなか順風満帆とはいかないようだ。
“失敗”を経た新たな解決策
科学者たちは、オーシャン・クリーンアップの装置の設計上の選択について、装置が設置される数年前から警鐘を鳴らし始めていた。海洋生物を傷つける可能性、巨大なプラスティックからマイクロプラスティックが剥がれ落ちる事実、波の荒い海に浮かぶ全長600mのチューブの脆弱性が問題だと警告していた。どの問題も最初から明らかに悩みの種だった。
そして装置の設置後、オーシャン・クリーンアップは科学者たちが間違った解決策と考える方法に数千万ドルを費やしてきた。科学者たちによると、プラスティックごみの回収に最適な場所は、ごみが海にちょうど流れ込むところよりも前、つまり河口の少し上流である。
この意見に、オーシャン・クリーンアップは耳を傾けていたらしい。同団体は10月26日、アップルが開催するようなイヴェントをロッテルダムで開催し、太陽光発電で動く「The Interceptor(インターセプター)」というごみ回収船の詳細を明らかにしたのである。
インターセプターには河川に浮かべる長いフェンスが付いている。河口の少し上流でこのフェンスを広げ、集められたごみは船尾の開口部に流し込まれたあと、ベルトコンヴェヤーで船内の大型容器に運ばれる。
すでに2隻のインターセプターが、インドネシアとマレーシアで航行している。もう1隻はヴェトナムのメコン川での航行を準備中で、4隻目はドミニカ共和国で航行する予定だ。
ヒントになった先行事例
確かにインターセプターは素晴らしいアイデアだが、河川を航行するごみ回収船というアイデアはすでに実行に移されている。数年前からボルティモアで河川のプラスティックを集めるごみ回収船が航行しているのは、周知の事実だ。
その船とは、大きな目玉が飛び出た「ミスター・トラッシュ・ホイール(Mr. Trash Wheel)」である。このごみ回収船はボルティモア港で年間200トンものごみをすくい上げており、「プロフェッサー・トラッシュ・ホイール」という仲間もいる(ミスター・トラッシュ・ホイールのInstagramアカウントをフォローしていないと、見逃しているかもしれない)。
「科学者は長らく、河口の上流におけるごみ回収船の運航こそが、海洋プラスティックごみ問題の正しい解決法だと主張し続けてきました」と、アダム・リンドキストは語る。リンドキストは、非営利組織ウォーターフロント・パートナーシップ・オブ・ボルティモアで、ボルティモア港の汚染削減と環境再生を目指す活動を行うヘルシー・ハーバー・イニシアチヴの責任者だ。「オーシャン・クリーンアップが河川でのごみ回収船という方法をまねたのは、この方法への最大の賛辞だといえます」
ミスター・トラッシュ・ホイールはボルティモアの河川向けに開発されているが、オーシャン・クリーンアップはインターセプターを大量生産できるように設計した。そのうえインターセプターはかなりハイテクである。ボルティモアのごみ回収船は水車、すなわち川の流れで回転する外輪によってベルトコンヴェヤーを動かし、バックアップとして太陽光発電を用いる。一方、インターセプターは太陽光発電のみで動く。
世界中の河川へも輸送可能
オーシャン・クリーンアップの創設者兼最高経営責任者(CEO)のボイヤン・スラットは10月26日、プラスティックごみに見立てた多数のラバーダックを水面に流してデモンストレーションを実施している。このようにプラスティックごみは、インターセプターのベルトに乗って河川から船内に上がっていく。それから“シャトル”のように往復する箱に集められる。
集められたプラスティックごみは、その箱から下部にある6つの大型のごみ容器に落とされる。この容器が満杯になると、インターセプターのシステムがその地域のスタッフにメールを送信する。メールを受信したスタッフがタグボートでやって来て、容器を川岸まで運ぶ。インターセプターは1日に約50,000kgのプラスティックごみを回収可能で、20年もつ。
オーシャン・クリーンアップによると、インターセプターには世界中の河川に輸送しやすい利点もある。もちろんすべての河川を調べたわけではないが、とりわけ大量にプラスティックごみを排出している河川の特定によって、オーシャン・クリーンアップはこの問題に大きな進展をもたらすことができる。
「地球上のプラスティックごみの80パーセントは、1,000あまりの河川から排出されています」と、オーシャン・クリーンアップの主任研究員ローラン・ルブルトンは言う。「海へのプラスティックごみの排出を大幅に減らしたいのであれば、こうした河川でごみの回収に取り組まなければなりません」
問題解決には「上流」での対策が効果的
河川から大量のプラスティックが排出されていることはわかっていても、そのプラスティックが最終的に流れつく場所を特定するのは困難を極める。オーシャン・クリーンアップの推定によると、同団体が巨大なチューブで清掃しようとしたはるか沖合の還流には、海洋プラスティックのほんの小さなかけらが漂っている。
海岸から流出したプラスティックの0.06パーセントは還流をくぐり抜けるものとみられる。それ以外のプラスティックは絶え間なく循環する海流にとらえられて海岸へ押し戻されたのち、沖へ流されるようだ。
海洋プラスティック問題に取り組むNPO「The 5 Gyres Institute」を率いる科学者で、この問題を研究しているマーカス・エリクセンは、「海岸で毎週のように清掃活動を実施するほうが、(海洋で)ごみの回収事業を6~7年間かけて実施するよりも、ずっと多くのごみを集められるはずです」と語る。「何らかの問題を解決するには、一般的には原因の上流か下流で対策を講じることになります。しかし、下流側に行けば行くほど、問題解決に必要なコストが膨らみ続けるのです」