11月11日といえば
2019年 11月11日 (月) 22:37
おいしいお菓子の日ですね。突発ssです。
学校から帰ってソファでチョコプレッツェルを食べていたら、隣に座った真昼がそわそわとしだした。
千歳に押し付けられたので特に疑いもせず受け取って食べていたのだが、この様子だと何かあるらしい。ただ、特にその何かが思い当たらない。
「どうかしたか?」
「え、いえ、その……め、珍しいですね、周くんがチョコ系のお菓子食べているのは」
「まあしょっぱい系の方が好きだからなあ。今日は千歳から押し付けられたから。真昼も食べるか?」
真昼と一緒に食べるといい、といった旨の言葉もついでにもらったので、 恐らく真昼の方から何かしかけてくるかもしれない。真昼は『何か』に心当たりがあるようなので、それを待つのも一興だろう。
開けた袋を真昼に差し出すと、真昼はうっと小さく呻いた後、二の腕に額を押し付けてくる。
「……それはお誘いという事なのですか?」
「いや、千歳や真昼の態度から何かあるのは分かるが、何を考えてるのまでかは分からない。すまん」
「今日は何の日かご存知でない、と」
「うん」
「……何でそのお菓子が渡されたと思いますか」
「これを使って何かしらのイベントをしろというメッセージが込められてるんじゃないのか」
「そこまで分かるなら何故考えが行き着かないのか……」
困ったように眉を下げた真昼は、また呻いて額をぐりぐりと押し付けてくる。
周としてはそんな事を言われても、という気分なので、どうしていいのか分からずとりあえず真昼の頭を撫でておいた。
「……撫でればいい訳ではありません」
「どうしろと」
「ど、どうして欲しいとかではないですけど……その、……ちょっとだけ、期待したというか……」
「期待?」
「……そのチョコプレッツェルを食べているのですから、その、……い、言わせないで欲しいのですけど……」
恥ずかしいのか震えている真昼に、周はどうしたものか悩んで、とりあえずチョコプレッツェルをくわえた。
ポリ、とかじると、真昼が顔を上げる。
側でぐるぐると回るようにさまようカラメル色の瞳に困惑していたら、真昼は意を決したようにこちらの顔を見た後、周がくわえているチョコプレッツェルの持ち手にかじりついた。
ぱちり、と瞬きをしたのも束の間、ぽきぽきと折るように齧った真昼が、顔を近付けてくる。
そういう事かよ、と納得した時には、頬を赤らめさせた真昼の唇が自分の唇と重なっていた。
小さく「んっ」と喉を鳴らした真昼ではあるが、唇を離そうとはしない。珍しい積極性を見せている真昼に、周も羞恥を感じながら優しく唇を重ねた。
しばらくして唇が離れるが、真昼の瞳はすっかりと恥じらいに潤んでいる。自分から仕掛けた事なのに恥ずかしがっているので、周はつい笑ってしまった。
「こ、こういう事なんですからね。こういう日なんです」
「うん、よく分かった」
「わ、笑わないでください」
「笑ってるというか、微笑ましく思っているというか」
「微笑ましいという漢字からして笑ってますっ」
恥じらいも隠さないまま不服げに見てくる真昼に、周はまた笑って優しく真昼の髪を撫でる。
「……正直言っていい?」
「はい」
「……こういうお菓子は普通に食べたいので、あんまりこういったゲームは好まないかな」
素直に告げれば、真昼は分かりやすく眉を下げてしょげたように「はい」と笑う。
この言い方だと誤解させてしまうので、周は寂しげに瞳を伏せる真昼の背に手を回し、耳元に唇を近付けた。
「……キスはキスでしたいから、これ食べるまでお預けな」
チョコを含んだ口でキスなんてしてしまえば、甘ったるくて仕方ない事になってしまう。ただでさえ、真昼は蜜を焦がしたような甘さとほろ苦さを持っているのだ。チョコの甘味なんて、必要がない。
優しく囁いてみせれば、ぽふんと湯気をたてそうな勢いで顔を真っ赤にした真昼がこくこくと頷く。
その反応に満足した周は、真昼を抱っこして膝の上に乗せる。
慌てる真昼を愛でながら、周はチョコプレッツェルを一袋食べきるまで真昼と食べさせ合うのであった。