ここ数年、スポーツ自転車の展示会「サイクルモードインターナショナル」で盛り上がっているのが「e-Bike」(本格的なスポーツタイプの電動アシスト自転車)だ。2019年11月2~4日に開催された「サイクルモードインターナショナル2019」でもその傾向は変わらず、普通のロードバイクやマウンテンバイクの展示数を上回るほどの勢いだった。そんなe-Bikeの最新動向を会場で見つけた注目モデルとともに紹介する。
変速機などのコンポーネントやe-Bike用のアシストユニットを生産している部品メーカー「シマノ」のブースには、シマノ製ユニットを搭載したさまざまなメーカーのe-Bikeが数多く展示されていた。ヤマハやパナソニックのようにアシストユニットだけでなく自転車本体も自社で生産するメーカーもあるが、自社のアシストユニットを多くの自転車メーカーに提供しているシマノはe-Bike業界の雄であるといえる。そんなシマノが、2019年7月に「STEPS(ステップス)」というアシストユニット(同社では「電動アシストコンポーネント」と呼ぶ)の新シリーズ「E6180」と「E5080」を発表。「STEPS」には、すでにトップグレードの「E8080」シリーズがリリースされており、軽量かつパワフルで本格的なマウンテンバイクタイプなどに採用されている。いっぽう、追加されたシリーズはもう少し手ごろなグレード。「E6180」は街乗りから坂道の多い通勤通学までオールラウンドに対応するタイプで、「E5080」は「E8080」の基本性能を継承しながら、シンプルな内部構造を採用し高いコストパフォーマンスを実現したタイプとなっている。
アシストユニット「STEPS」に新たに加わった「E6180」シリーズ(右)と「E5080」シリーズ(左)
こちらは既存の「E8080」ユニット
アシストユニットの選択肢が増えたことで、シマノ製ユニットを搭載したe-Bikeのラインアップはさらに充実した。トップグレードの「E8080」が採用されることの多いマウンテンバイクタイプは、近年、前後にサスペンションを装備するフルサスモデルが増加傾向。ホイール径の選択肢も増え、めずらしい前後異径モデルも登場している。
「E8080」を搭載するMERIDAブランドの「eONE.SIXTY 9000」は、カーボンフレームを採用したフルサスe-MTB。価格は85万円(税別)で、2020年1月発売予定となっている
前後とも160mmのトラベル量を持つサスペンションを採用。路面からのショックを吸収するだけでなく、タイヤを路面に押し付ける働きもするので、e-Bikeのパワーを有効活用できる
ホイールは前29インチ、後27.5インチというめずらしい前後異径サイズ。これもe-Bikeの駆動力を生かすための選択だ。コンポーネントはシマノ製「デオーレXT」で、後12段変速となる
MIYATAブランドの「RIDGE-RUNNER 8080」も、その名のとおり「E8080」ユニットを搭載したフルサスモデル。価格は41万8000円(税別)
「RIDGE-RUNNER 8080」の価格が低めに抑えられたのは、フレームがアルミ製であることとコンポーネントがマウンテンバイク向けエントリーグレードの「デオーレ」とされていることによる。変速は後10段
先に紹介したMERIDAブランドの「eONE.SIXTY 9000」と同じ「E8080」ユニットだが、バッテリーはインフレームタイプではない
「E8080」を搭載したハードテイルモデル、MERIDA「eBIG.NINE 400」も展示されていた。コンポーネントは同じく「デオーレ」の10速。価格は39万9000円(税別)だ
ここからは、新シリーズ「E6180」と「E5080」を搭載した注目モデルを紹介する。「E6180」搭載e-Bikeは、長距離を走るツーリングモデルを中心としたラインアップとなっており、「E5080」のほうは街乗り向けの購入しやすいモデルが多い印象だ。
「E6180」ユニットを搭載するDAVOS「E-601」。自転車旅をイメージさせるバッグも装着されているように、長距離ツーリングを視野に入れたモデルだ。価格は48万6000円(税別)
細身のクロモリ(鉄)フレームと組み合わせるとユニットが大きく見える。バッテリーもかなり目立つ処理だ
コンポーネントは、ロードバイク用の上から2つ目のグレードとなる「アルテグラ」を装備。後12段変速となる
DAVOS「E-601」同様にドロップハンドルを採用するMIYATA「ROADREX 6180」。「E6180」ユニットを採用し、価格は29万9000円(税別)となる
未舗装路も走れるかなり太めのタイヤを装備した、グラベルロードという位置付け。コンポーネントは「ティアグラ」の10速
ドロップハンドルだが、握る位置が高くなるようにユニークな形状となっている
気軽にツーリングに出かけられそうな作りのFUJI「FARPOINT」は、「E5080」を採用。価格は27万9000円(税別)で、2020年春頃発売予定だ
バッテリーがフレームとリアタイヤの間に装着されているのはユニーク。これは、ホイールベースが長い安定志向の車体だからこそできる方法だろう
19万9000円(税別)という価格が魅力的なクロスバイクタイプのMIYATA「CRUISE 5080」も、「E5080」を搭載。コンポーネントは「ALTUS」の9速だ
シマノと同じく、アシストユニットを自転車メーカーに供給している「ボッシュ」は、今年から日本にも導入されたスポーツタイプのアシストユニット「パフォーマンスラインCX」を搭載したモデルに力を入れている。以前から日本国内で展開されていた「アクティブラインプラス」は、クロスバイクからマウンテンバイクまで幅広く対応するアシストユニットだったが、「パフォーマンスラインCX」はe-MTB向けにトルクを高められている。
左は、海外で導入されていた旧タイプの「パフォーマンスラインCX」ユニット。2019年より日本に導入された新タイプ(右)は48%の小型化と25%の軽量化を実現したという
こちらは、「パフォーマンスラインCX」が導入されるより前から日本国内に展開されていた「アクティブラインプラス」ユニット
「パフォーマンスラインCX」ユニットは、すべりやすい路面で駆動力を調整し、後輪のスリップを防ぐ「eMTBモード」と呼ばれるトラクションコントロール機能を備えているのも特徴。展示されていたモデルはフルサスからハードテイルまで幅広く揃えられていたが、採用されているパーツなども本気度の高いものが多く、実際に山に持っていって走破性を試したくなるほどの完成度だった。また、コンパクトなユニットとフレームと一体化されたバッテリーのおかげで、一見、普通のマウンテンバイクにも見えるようなデザインとなっているのも好印象だ。
もっとも目立っていたのは、フルサスモデルTREK「Rail 9.7」。カーボンフレームとカーボンホイールを装備し、フルサスのe-MTBとしては軽量な21.5kgとなっている。価格は79万円(税別)で、2020年2月発売予定
サスペンションはフロント160mm、リア150mmのトラベル量。29インチで太めのタイヤを装備し、どのような道でも走破できそうな迫力を感じさせる
コンポーネントは、SRAM製のマウンテンバイク用12速「NX Eagle」。リアのギアを大きくすることで、フロントの変速を搭載しない仕様としている
アルミ製フレームのTREK「Powerfly 5」は、フロントのみに120mmトラベルのサスペンションフォークを装備したハードテイルモデル。車重は22.2kgとなっている。価格は46万円(税別)で、2020年2月発売予定
corratec(コラテック)ブランドの「E-POWER X VERT CX-P」はハードテイルではあるものの、27.5×2.8インチというタイヤを履いているのでe-MTBのパワーをしっかりと路面に伝えられそう。2020年春頃発売予定で価格は未発表だが、シマノ製「デオーレ」コンポーネントを採用しているので、買いやすい価格が期待できる
すでに導入されている「アクティブラインプラス」ユニットを搭載したモデルにもユニークなものがたくさん。人気の高いTREKのクロスバイクタイプには、背が低めの人でも乗りやすいフレームが低いモデルが追加された。また、荷物を積んで出かけるコンセプトのカーゴタイプモデルもあり、e-Bikeならではの世界を広げてくれそうだ。
TREK「Verve+ 2 Losstep」はその名のとおり、フレーム上辺がないミキストタイプとして乗り降りをしやすくしたモデルだが、フレームの剛性は高そうな作り。26万9000円(税別)で、2019年11月発売予定
TREKの人気e-Bike「Verve+」の後継モデルである「Verve+ 2」も展示されていた。価格は26万9000円で、2019年11月発売予定
Tern「HSD P9」(28万9000円/税別)は、頑丈なフレームにキャリアを装備し、荷物を積めるようにしたカーゴバイク。前後に油圧のディスクブレーキを備えているので、荷物を積んでも制動力に不安はなさそうだ。前のラックやリアのバッグなどはオプション
リアまわりのフレームが延長されたカーゴバイクならではの形状を利用し、車体中心に近いところにバッテリーがマウントされているのもユニーク
小径タイヤにリアキャリアとフロントサスペンションを装備した構造がおもしろいミニベロタイプのRIESE&MULLER「Tinker」。発売時期は未定だが、価格は46万円(税別)を予定しているとのこと
アシストユニットの供給メーカーとして、シマノ、ボッシュに続く第3の勢力となりそうなのが中国生まれの「Bafang(バーファン)」。日本国内ではあまり馴染みのないメーカーだが、海外ではすでに一大勢力となっており、イタリア「Benelli(ベネリ)」のe-MTBにもバーファン製アシストユニットが採用されている。今回のサイクルモードには、センタータイプの「M800」と「M500」、ハブモーター(インホイール)タイプの「H400」というアシストユニットとその搭載モデルが中心に展示されていた。このように、センタータイプとハブモータータイプの両方がラインアップされているのもバーファンの強みだ。
最上位グレードのアシストユニット「M800」。クランクと一体となったセンターユニットタイプで、ロードバイクをはじめとするスポーツタイプに採用される
「M800」ユニットを搭載する「デローザ」ブランドのコンセプトモデル。発売は未定とのことだが、電動アシスト機能が付いているようには見えないシルエットはグッとくる人も多いはず
センターに配置されるアシストユニットは前後方向にもかなりコンパクトな搭載方法を採用し、フレームと一体となったデザインとなっている
バッテリーもフレームと一体化
こちらも「M800」を搭載したクロスバイクタイプのコンセプトモデル。スペックは不明だが、直線基調のシルエットがかっこいい
エントリーグレードとなるアシストユニット「M500」も「M800」同様にセンタータイプとなる
詳細は不明だが、ユニットまわりのコンパクトさが光る「M500」ユニットを搭載したe-MTBのコンセプトモデル
コンセプトモデルばかりというのもアレなので、「あさひサイクル」が発売しているevol「C700」(19万8000円/税別)も載せておく。「C700」に搭載されているアシストユニットもセンタータイプだが、「M500」よりグレードが下の「M400」となる
「M800」や「M500」とは異なり、「H400」ユニットはホイール軸(ハブ)の部分に組み込むタイプとなる
「H400」を組み込んだ米国メーカー「XDS」の「SURGE」は、日本の規格に近いアシスト特性を持つとされるが、残念ながら日本国内への導入は未定だ
ハブモータータイプも発売済みのFUJI「MOTIVATOR」を紹介しておこう。グレードは異なる「H600」ユニットを採用したモデルで、価格は22万9000円(税別)
バーファンブースの隣に出展していた「e-Drip」ブースにも、バーファン製アシストユニットを搭載したモデルが数多く展示されていた。その中で個人的に気になったのは、センタータイプの「M400」ユニットを備えたロードバイクタイプ「RD7008E」と、ハブモータータイプの「H400」ユニットを装備した小径マウンテンバイクタイプ「MT206E」だ。e-Dripの担当者によると、コントローラーの緻密なセッティングできることからバーファン製アシストユニットを採用したとのこと。速度などを感知するセンサーからコントローラーに送られる信号の頻度が高いため、細かい凹凸を乗り越えた際などにモーターが最適なアシストを発揮するようにセッティングをすることが可能なのだという。
ロードバイクタイプ「RD7008E」。価格は19万8000円(税別)となる見込みで、2020年春頃発売予定となっている
小径の20インチタイヤに前後サスペンションを装備した「MT206E」も2020年春頃の発売を目指している。価格は14万8000円(税別)の予定とのこと
小径のタイヤでどこまでの走破性があるのかはわからないが、サスペンションのリンク機構の作りなどはグッとくるものがある