前回の記事では、生命の樹に関連してアダムとアダパ、そしてエジプトの生命の樹についてもふれたが、
今日はまたメソポタミア文明に戻ろう。
場所はエリドゥだ。
人類最初に王権がおりた都市「天から王権が下されたとき、王権はエリドゥにあった。」これは人類最古と言われるシュメール王名表の冒頭に書かれている文句で、人類史上最も重要な証言であるかもしれない。
紀元前3000年頃 エリドゥ(Eridu)の位置
シュメールの神話によると、エリドゥは神エンキが建設したとされている。エンキ神は別名エア神として知られ、世界の創造主にして「地の王」であり、また淡水、深淵、知識などを司る。エンキが偉大な神であることには変わりはないが、その一方で女と酒(ビール)には弱い愛すべき神でもある。
シュメール文明で最初に王権を与えられた都市エリドゥの中心に・・・
生命の樹があった。。。
それはキスカヌの生命の樹で、バビロニア語で kischkanu、シュメール語では GIŠ.CHAR、そしてアッカド語では Hulupp(フルップ/ハルブ)と呼ばれていた。以前のブログでも書いた『イナンナとフルップ(ハルブ)の樹』にはアッカド語の名前で伝承されているということだ。
『イナンナとフルップ(ハルブ)の樹』は、リリスについて言及されている最も古い資料で、ギルガメッシュにも違うバージョンとして取り上げられている。この物語では、神であるにもかかわらず失業中であったイナンナ女神が、生命の樹を自分の庭(ウルクにあるエデンの園)に持ち帰り、そこから権力の象徴をつくることによって世界を支配しようとたくらんだ物語である。
イナンナとフルップの樹については以下を参照 ↓
イナンナと生命の樹(フルップの樹/世界樹)の物語は、「生命の樹」が王権と何らかの関係をもっていることを示唆している。「イナンナとエンキ」という神話によれば、イナンナが酔っ払ったエンキから、文明生活の恵み「メー」を奪ったとが、王権がエリドゥからイナンナを都市の守護神と仰ぐウルクに移行したことあらわしているとされている。
それは、こんな話だ。(以下ウィキペディアより抜粋)
ウルクのエアンナ寺院の若い女神イナンナにまつわる神話「エンキとイナンナ」によれば、あるとき、年老いたエリドゥの神エンキが訪れ、饗宴のもてなしを受けた。その宴においてエンキは、イナンナにビールをすすめて誘惑しようとしたが、彼女は純潔を守った。 文明の恵みであるメ(メー)(アッカド語:バルスー)というのは、文明の設計図とも虎の巻ともいうもので、神々の基本的な社会的慣行や宗教的習慣だけでなく、性交から売春などに至るまで、日英ウィキペディアには64のメ(実際は100以上)がリストアップされている。それらは、人間と神の関係の基礎の部分を規定するものであった。
ふむ。
とは言っても、宝冠のようにかぶったり、衣装のようにまとったり、王座のように坐ったりすることが出来、イナンナが”メ”をウルクに持ち帰った時は、天の舟にのせてもって帰ったなど・・・それが何らかの形をもちうるものであるということは分かっているが、実態はまだ解明されていない。古代エジプトのカーに似たようなものだろうか。。。
さて、下の図は紀元前2150年頃のウル第三王朝の頃のもので、ニップルで発見された円筒印章の図で、ナツメヤシの芽と思われる植物に水を注いでいる王に対して、王権を与えているイナンナをみることができる。彼らの横にはそれぞれ角のついた冠をかぶっている2人の神が見守っている。(実物の写真をネットで探したが見当たらず裏付けは取れなかったので、参考にしたサイトと信じたい)
イナンナが持っているのは王権の象徴だ
シュメール神話の一つにはイナンナが彼女の兄弟である太陽神ウトゥ(アッカド神話のシャマシュ)を伴って天から地上に降臨し、様々なハーブや木の食べ物によって“知識を獲得した”という記述があるそうだ。彼女が食べた木のうちの一つはレバノン杉であると言われている。
さて、ニップルで発見された粘土板によると、イナンナのシュメール語の別名は“nin-edin(the lady of edin)”と“Inanna-edin (Inanna of edin)であったそうだ。彼女の夫である羊飼いドゥムジはシュメール語の別名で”mulu-edin“、つまり『エデンの主』であるそうだ。
イナンナとエデンを結ぶものとしては以下のような記述がある。
「女神はエディンの宝冠シュグラをかぶり、・・・」(『イナンナ女神とエンキ神』)
「農夫のエンンキドゥがやってくると、エディンのなかにいた牧夫ドゥムジが威勢よく喧嘩を吹っかけた」(『ドゥムジ神とエンキムドゥ神』)
何だか旧約聖書の「カインとアベル」や「エデンの園」などの話が、エヴァ役であるイナンナとアダム役であるドゥムジをキャストとして話が展開されているようなのだが・・・。
そして、「エデンの女性」であるイナンナはシダーナッツ(?)を食べたことにより、性交に関する知識を得て、彼女の新しい夫である「エデンの主」に対して夫婦としての務めを果たした。
まぁ、イナンナがエンキよりメを盗むことによって性交の知識を得たという話とシダーナッツを食べたことによって性交に関する知識を得た・・・というのは創造神話にさまざまなバージョンがあるように、「生命の樹」を介して伝承される一つの形なのだろう。
それにしても、知識の実を食べたエヴァは原罪を犯したとされたが、それに比べてイナンナの扱いはどうだろうか・・・。
ここには
なぜ 人間は死ぬのか ?
あるいは
なぜ 人間は子孫を残すのか ?
シュメール神話は、これらの問いかけに答えを出そうとする古代哲学の結晶なのかもしれない。
ところで
これまで見てきたように、「生命の樹」とイナンナ女神が「王権」と密接に関連していることを忘れてはならない。
メソポタミア神話において、神は人間の生活の基礎である衣食住が隅々までいきわたっているかを監視させるために王をつくった。ナツメヤシの苗に水をやっている王という図像は、おそらく神が王に対して、彼がイギギなどの小さな神々の代わりに灌漑や用水路を整備し、都市の庭園にある植物に水を滞りなく供給するための役目をおっているということを思い出させるためのものであろう。
ちなみにイギギは、メソポタミア神話においては、上級の神々(アヌンナキ)に支配された、下級の神々を表す用語でもある。シュメール語では「見る者」の意。伝説によると、あるときイギギが、シャパトゥ(ヘブライ語ではサバト:安息日)にストライキを起こし、世界を維持する作業を続けることを拒んだとき、エンキは人間を作って作業をさせ、神々が働かなくともよいようにしたといわれている。 では、王がその監視役として地位を子孫に受け継いでいくには、どうすればいいのか?
それは
『ヒエロス・ガモス(聖婚)』 だ
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すごい
2011/6/1(水) 午前 6:01