Nintendo Switchの純正ACアダプタはUSB PDの規格に準拠していないので、注意しましょう。
簡単にまとめると
この記事の要点は以下の通りです。
- Nintendo Switchの純正ACアダプタはUSB PDの規格に沿っていない
- 機器を破損させるような可能性は低いが、Switch専用設計みたいなものなので、互換性が低い
- なので、Switch以外を充電するためにわざわざ買ったりするのはオススメしない
はじめに
ネットの海を泳いでいると、「Nintendo Switchの純正ACアダプタでMacBookを充電できた!」的な記事をチラホラ見かけます。
確かにNintendo SwitchのACアダプタでMacBookを充電できるのはありがたいことではありますが、その一方で、どうにも「USB PDに対応している」という部分だけが独り歩きをしているようにも感じます。
このまま放って置くと「Swtichの純正ACアダプタはUSB PDに対応していてMacBookも充電可能な素晴らしい製品である」と勘違いする人も出てきそうなので、注意喚起も兼ねてちょっと掘り下げてみます。
純正ACアダプタの仕様について
メディアロジックがGoogle+上で公開しているSwitchの純正ACアダプタの解析結果によると、
- ACアダプタの外装には「5.0V/1.5A」「15.0V/2.6A」の2系統の出力が記載されている
- USB PDの信号を解析したところ、外装の印刷と同じ「5.0V/1.5A」「15.0V/2.6A」を通知していた
とのことです。
以上より、SwitchのACアダプタはUSB PDに対応しており、5.0V/1.5Aと15.0V/2.6Aの2系統の出力をすることができる、ということになります。
USB PDの規格に照らし合わせてみる
Power Rules
USB PDは、互換性を確保するために「Power Rules」という名称で「最低限対応していなければならない出力」が定められています。
最大出力/電圧 | 5V | 9V | 15V | 20V |
---|---|---|---|---|
0~15W | 最大3A | 必須ではない | 必須ではない | 必須ではない |
15~27W | 最大3A | |||
27~45W | 最大3A | |||
45~60W | 最大3A | |||
60~100W | 最大5A |
表とグラフではやや分かりにくいので、具体例を出してみます。
例えば最大出力が20Wの電源の場合、少なくとも
- 5.0V/3.0A (15W)
- 9.0V/2.22A (20W)
の出力に対応していなければなりません。
もう1つ例を出してみましょう。例えば最大出力が87Wの電源の場合では、
- 5.0V/3.0A (15W)
- 9.0V/3.0A (27W)
- 15.0V/3.0A (45W)
- 20.0V/4.35A (87W)
の出力に最低でも対応していなければなりません。
このように、USB PD電源はその出力が大きくなればなるほど、対応しなければならない電圧の数も多くなります。「1つの電圧だけ対応していれば良いんじゃないの?」と思うかもしれませんが、互換性を確保するために、低い電圧にも対応することが定められています。
Switchの純正ACアダプタは……
USB PDのPower Rulesを説明したので、話をSwitchの純正ACアダプタに戻します。
上に書いたように、Switchの純正ACアダプタは5.0V/1.5Aと15.0V/2.6Aの2系統の出力に対応しています。つまり、最大出力39WのUSB PD電源ということです。
これを先程のUSB PD Power Rulesのグラフに当てはめると、以下のようになります。
このPower Rulesのグラフの通り、39WのUSB PD電源は5V/3A、9V/3A、15V/2.6Aの3系統を出力できなければなりません。
しかしながら実際の純正ACアダプタは5V/1.5Aと15V/2.6Aしか出力できません。つまり、USB PDの規格に準拠していないということになります。
何が問題なのか
Nintendo Switchの純正ACアダプタがUSB PDの規格に準拠していないことが分かったところで、その問題点について簡単に説明します。
恐らく1番心配なのは「接続した機器が故障するの?」的なことだと思いますが、この点については心配しなくて大丈夫です。というのも、USB PDは、受電側の機器から「Xボルト欲しいです」と電源側にリクエストがあった場合にのみ、9Vや15V、20Vといった電圧が印加されるようになっているからです。受電側からのリクエストがなければ電圧は5Vのままなので、SwitchのACアダプタがPower Rulesに沿っていないからといって、それが故障に繋がるようなことはないでしょう。
では何が問題なのかというと、「互換性」です。
USB PDの5V・9V・15V・20Vという複数の電圧は、受電側の機器が自身に最適な電圧を選択できるように用意されています。例えば、スマートフォンでは20Vよりも5Vや9Vの方が適していますし、逆にノートPCでは5Vよりも15Vや20Vといった高い電圧のほうが効率が良いわけです。
ところが、Switchの純正ACアダプタは5Vでは1.5Aまでしか出力できませんし、必要なはずの9Vも丸々欠けています。出力できる電圧のバリエーションが少ないということは、それだけ受電側の機器の選択肢が少ないということになります。
そのためSwtichの純正ACアダプタは、規格に沿っている製品と比較して、互換性の低い設計と言えます。MacBookシリーズのように運よく充電できれば良いですが、5Vや9Vの出力が不足している・欠けているので、スマートフォン等の小型機器の充電には向いていません。
所感
「Switch専用ACアダプタとして売られている製品であり、USB PD対応とは一言も謳われていないのだから、規格に準拠しないことを指摘するのはお門違い」という意見もありますが、私はそうは思いません。独自の端子を採用するという選択肢があったにも関わらず、敢えてUSB Type-Cを採用したのですから、規格に準拠して設計するべきだったと思います。
規格というものは、皆がそれを守るからこそ規格として機能するのであって、それぞれが好き勝手に自分の都合の良いように利用するのであれば、規格としての意味がありません。
まぁ何にせよ、「規格に適合している」という誤った理解をして、Switch以外を充電するためにわざわざ購入するような人が出てこないことを願うばかりです。