D2C発コスメ「グロッシアー」 店で買い物、会話も売り
奔流eビジネス (通販コンサルタント 村山らむね氏)

コラム(ビジネス)
ネット・IT
2019/11/8付

NIKKEI MJ

久々に米ニューヨークに来ている。娘との旅行で最新のD2C(消費者直販)発ショップの視察も兼ねたところ、娘を通して20代女性が何に熱狂するのかが手にとるようにわかり思わぬ収穫だった。

ピンクのつなぎを着たスタッフがフレンドリーに対応

ピンクのつなぎを着たスタッフがフレンドリーに対応

SOHOを歩いていると、「ネットでしか買えなかったのに年末まで店を出している」「これもネット発のポップアップ。ここでしか買えないリップがある」と娘はまさにD2C世代。ネットで情報を仕入れリアルで商品を見ることに心底感動している。

何より盛り上がったのは、大人気コスメブランド「Glossier(グロッシアー)」の店。ヴォーグ編集者だったエミリー・ワイス氏が2014年に立ち上げた。

訪れた日曜日の午後は入場を制限していた。ピンクのつなぎを着たスタッフがどのくらい並ぶかをにこやかに説明し、香水のテスティングもできるので不快感はまったくない。30分ほどしてピンクに統一された店内に入ると、10~20代が目立つ。グループで来ていてまさに熱狂していた。

熱狂の理由は3つあるようだ。まず安くて品質がいい。リップで18ドル、人気のアイブロウマスカラは16ドル。私もアイペンシルを購入、非常に書きやすくて実用的だ。

グロッシアーの店舗では安くて実用的なコスメに若い女性が盛り上がる

グロッシアーの店舗では安くて実用的なコスメに若い女性が盛り上がる

次に多様性だ。スタッフは様々な人種の男女で、コンシーラーも12種類と多くの肌の色に対応する。実は米企業のすべてがこの方向を向いているわけではない。二極化がじわりと進んでいる。

そして、コミュニケーションはまさに友達感覚。「どちらが似合うと思う?」と質問すると、「あなたにはこっちが正解かもしれないけど、私はこっちが合うと思う」と自分の考えを伝えてくる。使い方や原料などの説明や選択のアドバイスをしてくれる。

客がスタッフを見る目は憧れといえる。スタッフと会話するのが魅力で、本当に楽しそうな波動が伝わってくる。決済手段はクレジットカードだけで、スタッフが決済用タブレットを持つので買うときには必ず話す。2年来のファンである娘によると「スタッフと会話しないと買えないところがミソ」だそうだ。

むらやま・らむね 慶大法卒。東芝、ネットマーケティングベンチャーを経てマーケティング支援のスタイルビズ(さいたま市)を設立、代表に。

むらやま・らむね 慶大法卒。東芝、ネットマーケティングベンチャーを経てマーケティング支援のスタイルビズ(さいたま市)を設立、代表に。

注文はバックヤードに伝わり、薬局のようにしばらく待つ。そして名前を呼ばれ、笑顔のスタッフから渡される。妙にアナログなのだ。かなり大声で名前を呼ばれドキドキした。常設店舗はロスとニューヨークの2つだけ。デジタル発だからこそ、スタッフのスマイルという接点を大切にしているのが見て取れた。

D2CやOMO(オンラインとオフラインの融合)に詳しいニューヨーク在住のフリーライター、公文紫都さんは言う。「デジタル由来の企業に限らず、ニューヨークの人気ショップのスタッフはみな誇りを持って楽しく働いている。その楽しさや熱量が人をひきつけており、店を構える意味も集約されている」

ネットで何でもすぐに買える時代だからこその店舗の魅力。それがよくわかるグロッシアー体験だった。

[日経MJ2019年11月8日付]

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