『誰が科学を殺すのか 科学技術立国「崩壊」の衝撃』(毎日新聞出版) 著者:毎日新聞「幻の科学技術立国」取材班
吉野彰氏のノーベル化学賞受賞という「良いニュース」の一方、名だたる科学者はこぞって「もう日本はノーベル賞を獲れない」と危機感を募らせています。
「経済最優先」の陰で着実に進行する「科学研究の破壊」は、一体誰が、なぜ実行しているのでしょうか? STAP細胞「捏造」事件など数々のスクープを放つ、毎日新聞科学環境部による書籍『誰が科学を殺すのか』の抜粋をお届けします。
◆「選択と集中」はここから始まった! 小泉・竹中改革の何が問題だったのか?
◇「寝耳に水」の交付金削減
「私は賛成です。国立大学でも民営化できるところは民営化する、地方に譲るべきものは譲る、こういう視点が大事だ」
〇一年五月の参院本会議。民主党議員に「思い切って国立大民営化を目指すべきでは?」と問われた小泉純一郎首相の答弁に、議場は騒然となった。この答弁は、官僚が用意したペーパーにはない踏み込んだ内容だった。小泉氏は、この直前に行われた自民党総裁選の公約で、大学への競争原理導入を掲げていた。
「これは大変なことになる」
小泉氏の答弁を聞いた遠山敦子文科相は危機感を抱いたという。国立大が民営化されて、国費が投じられなくなれば、立ち行かなくなる大学が出るだろう。首相答弁から一カ月もたたないうちに、遠山氏は「遠山プラン」と呼ばれる国立大の構造改革の方針をまとめた。民営化の流れを食い止めるため、先手を打って国立大改革を進めようという腹づもりだった。