児相、全情報提供に地域差 警察に“筒抜け”通報減懸念
1歳児にエアガンを連射したとして、両親が逮捕された福岡県田川市の事件で、一家の子どもたちに関する情報は田川児童相談所から福岡県警に提供されていなかった。厚生労働省は児相と警察の情報共有を強化するよう求めているが、全情報を共有しているのは全国で10府県市のみ。捜査機関に“筒抜け”になることで通報の減少につながる恐れもあり、慎重論が根強い。要支援家庭への見守り態勢にも自治体間で温度差があり、虐待の悲劇を防ぐ取り組みは道半ばだ。
情報共有態勢の強化は、東京都目黒区で両親から虐待を受けた女児=当時(5)=が死亡した事件を受け、2018年7月に厚労省が通知した。今年2月に行った同省の調査によると、警察と全情報を共有しているのは、児相を設置する全国69自治体のうち10府県市にとどまる。
九州で唯一、全情報を共有している大分県の場合、11年に同県別府市の男児=当時(4)=が母親の暴力によって虐待死した事件がきっかけとなり、12年度から導入した。県こども・家庭支援課は「警察とのダブルチェックで虐待の見落としを防げる上に、子どもの迅速な安全確認につながっている」と意義を強調する。
これに対し、福岡県は「保護者が逮捕を恐れて子育ての相談をしなくなり、孤立する危険性がある」として全件共有には慎重だ。親族が身内をかばって通報しなくなったり、性的被害に遭った子ども自身が相談をためらったりする恐れもあるという。
今年1月から福岡県は、従来の事件性がある重大な事案だけでなく、注意を要する案件まで対象を広げて情報共有するようにした。今回の田川市の事件で、三男の常慶唯雅ちゃんがエアガンで撃たれた18年11月時点は運用が始まっていなかったが、「今の基準でも情報共有されていなかった可能性がある」(県児童家庭課)という。
一方、今回逮捕された母親の藍容疑者は若くして出産を繰り返しており、市や児相などの関係機関でつくる「田川市要保護児童対策地域協議会」が支援対象に認定し、約60回にわたり一家と接触していた。
協議会は子どもの虐待防止のため、07年の児童福祉法改正で市町村による設置が努力義務とされた。厚労省によると、17年度末の設置率は99・7%に上るが、専門職の配置や役割分担が十分に行われていないといった課題もある。
児相と警察の情報共有のあり方について、認定NPO法人「児童虐待防止協会」の津崎哲郎理事長は「全情報を共有するならば、警察側が捜査のための情報と見守りのための情報を仕分けして管理する対応が不可欠だ」と指摘。協議会については「専門職が不足して適格な評価ができず、事件となって虐待が表面化するケースが全国的に多い。抜本的な見直しが必要だ」と話している。 (御厨尚陽、本田彩子)