アフリカ少年が見たニッポン・話題の漫画作者が差別について思うこと

星野ルネさんにいろいろ聞いてみた
ラリー遠田 プロフィール

まだまだ時間がかかるのでは

――最近で言うと、女子テニスの大坂なおみ選手も、日本のマスコミからはやたらと国籍とかアイデンティティのことを聞かれるじゃないですか。世間では「この人を日本人と言っていいのか」みたいな戸惑いの声もあって。そんな声がまだあるのか、と驚きませんか?

まあ、しょうがないところもありますよね。ほぼ単一民族だ、という考えを持った人が多くいるなかで、2000年近くずっと来た国だから。もし日本のサッカー代表が全員黒人と白人とラテン系だけになったら、ワールドカップで優勝したとしても心の底から「よし、日本勝った!」って言える国民はそんなに多くないと思うんですよ。

大坂選手をどう見るかっていうのは、見た目の印象もあるし、言語が基本的に英語っていうのも大きいですよね。あれで日本語ペラペラだったらまた違うんでしょうけど。そこはまだまだ時間がかかるところだと思います。

 

――差別的な体験も、漫画の中ではあまり深刻に描かれていませんが、実際には嫌な思いをしたこともあったんでしょうか?

ちっちゃい頃はすごく嫌なことがありましたね。指差されたり、こそこそ話されたり、露骨に何か言われたり。でも、ぶっちゃけた話、それも小学校に入って最初の2~3カ月だけの話なんですよ。それが過ぎるともうみんな見飽きちゃうんで、普通の生徒とあんまり扱いが変わらなくなっちゃうんですよね。

たまに何か言われることはあるけど、それは太ってるやつやおしっこ漏らしたやつをからかったりするのと同じレベルでしかない、と僕は思っています。僕だけがみんなに毎日糾弾されるわけじゃないんです。子供の頃ってもともとみんないじられるじゃないですか。自分もその中の1つの「黒人」っていうタグでいじられるっていうだけの話だと思っています。もちろん、深刻ないじめを受けている方もいるでしょうから、あくまで僕の場合、ですが。

それでも、大人になってからも、いじりがしつこくてウザいなあと思ったことはありますよ。

暗いところで写真を撮るときに「ルネだけ写ってへんやん」みたいないじりをする人がよくいるんです。そういうときには、「僕はあんまり怒らないけど、それをほかの人にやったらマジでブチキレられるよ」ってやんわり注意したりしてます。

でも、あんまり身に染みてなくて、もう1回おなじことを言ってきたりとかするから、「え、キレた方がいいの? めんどくさいなあ、あんまりキレるの好きじゃないし。あの1回で何となく伝わんないかな」って思ったりするんです。

――それってたぶん、言っている方は冗談としてなにげなく言っているだけなんだけど、星野さんにとってはもう何回も聞いているベタなやつなんですよね。

そう、まず僕に対してスベってるし、何も面白くないし。あと、昔の話ですが、バイト先の先輩が、何かの話の流れのなかで「お前は昔、奴隷だったんだから」みたいなことを言ってくるときがあって。

―-聞いているほうも恥ずかしくなるレベルですね……。

そういうときには、もうこの人にはなにを言っても通じないから、「ああ、教育って大事だな」って思うようにしています(苦笑)。

あと、「差別反対」って言っている人は結構いるけど、自分が理解していないことに関しては平気で差別しちゃう人もいますよね。例えば、人種差別とかにめっちゃ怒っている人が、キャバクラ嬢とかのことを「あんな水商売のやつら」と言ったり、平気で職業差別をしてたりする。でもそういうことってあるんですよ。

アメリカの大統領選のときにも、民主党支持者の中には「人種差別をするようなドナルド・トランプみたいなやつはダメだ」って言いながら、「トランプを支持しているのは南部の方の教育水準の低いやつらばっかりだ」とか言っていた人もいるわけじゃないですか。

もちろん今までの人生で見てきたものは違うかもしれないけど、その人たちも同じアメリカ人であって、そういう人たちの意見も尊重されるべきなのに、やっぱりそこにも差別みたいなものがあって。一切差別しない聖人君子みたいな人は、そうそういないですからね。