ネトウヨに勝つ仕組みが必要
――次の衆院選はいつになるか分かりませんが、これからの課題だと思っていることをそれぞれの立場からお聞かせください。選挙の時の公約や啓発だけで若者の投票行動が変わるわけがない、だから主権者教育にじっくり時間をかけていこうと俺らは10年間言い続け、若者と選挙、政治の問題に関わってきました。その結果の落選だったので、今回の結果に関しては悔しいです。
もうひとつは自分の支持している候補者や政党を支持しない人に対して「何も考えてないんだろう」と否定する風潮。俺だって、立憲民主党に入れて欲しかったし、原田謙介と書いてほしかったけど、自民党と書く人だって、石井正弘(岡山選挙区で当選した自民党候補)と書く人だって、N国と書く人だって、それは尊重する対象です。でもそういう空気感がないなと感じることも政治の中に入ってみて感じた。「周り全部敵!」「敵とは議論しません、対話しても無駄」って排除する空気が嫌です。そんな民主的ではない対立構造自体を政治の力で、変えていかなきゃいけない。
たかまつ:私が感じる課題は「ネトウヨに勝つ」ということです。もう何をやってもネトウヨが強すぎる。せっかくAbemaTVとかが、視聴者の声を吸い上げようと今までの地上波と違う仕組みを作ろうとしても、結局ネトウヨに媚びるみたいな番組作りになってきちゃう。そうじゃないと数字も取れないし、そうしないと数字が取れないっていうのは一番情けないけど、それは多分どんなにうまい作り手でも、割と陥っちゃう罠だと思うので。
だからそこを何とか、ネトウヨに負けない情報発信の仕方をしたい。ネトウヨが言論空間を占めているっていう現状や、電凸とかも酷いじゃないですか。あぁいうことに勝つための何か、あぁいう人はダサいよねという雰囲気、空気をいかに作っていくか。
原田:いや、それを作ってないのが政治だと思う。政治家同士がまっとうに議論しないじゃん。
そして一番は若い人の投票率をどれだけ上げられるか。これからはシルバー民主主義がどこの国でも起こるでしょう。若い人は選挙に行かないし、政治に関心がないから、お年寄りの政治家は今のお年寄りだけを相手にする政策だけでいいと思っている。
そういう逃げ切りの政治をさせないために若者が選挙に行く。行って発言権を強める。すると40代ぐらいの中堅の政治家が「若い人のことも考えていかないと、自分たちは安心して政治家人生を終えられないんじゃない?」と危機感を感じて、若者の味方になる。こういう流れを作ることが大事じゃないかな。投票に行かないと影響力がなくなる現実を、若者はみんな自分のこととして考えていかないと。
どの党も18歳選挙権が導入されたから、奨学金の話でもしてみようかなってマニフェストに書き入れているけど、見比べてみると、どの党のマニフェストもそっくり。
若い人が選挙に行くようになって、無視できない存在になれば、政治家だって50年後の日本の未来について街頭演説で喋らざるを得なくなるはずです。未来を語るようになると、マニフェストにもかなり違いが出てくると思います。
例えば「私たちはAIを使って頑張ります」だとか、「この国はこういう風にして作っていきます」っていう将来の方向性がきちんと示されると、どの政党に票を入れると、どんな未来が描けるのか想像しやすくなります。今は選挙に関心のない若い世代でも、自分たちの将来のことなら興味が持てるはず。今は共産党くらいしか特色がはっきりしていない。
本当は政党、政治家の主張はみんな違うはずです。ちゃんと特色を出してくれたら、自民党に入れたらこういう世界観になってね、共産党はこういう考えなんだよって、若い世代のみんなに説明できるのに。
原田:その世代間格差論も、本来は政治家が解決しなきゃいけない問題なんだよね。政治家が年配の方を説得しなきゃいけない。日本の経済力をもってすれば、まだ説得できるフェーズですよ。
たかまつ:小泉進次郎さんみたいな人が?
原田:あの方は年配の方を説得してない。今の高齢者は、個人差はあるけど、頑張った結果がお給料に反映されて貯金もできた比較的裕福な世代。今の働き盛りの就職氷河期の世代が高齢者になったらどうしようもないから。あと20年くらいでそうなりますよね。だから自分で資産形成とかやらなきゃいけない。
ここから20年は政治家が全体的に余裕のある世代をいかに説得して回るかってことをやらないと。年金が少なくて不安なのも分かります。でもこのままだとあなたのお子さんの世代がもっと大変になるんですってことを、政治家がどれだけ説得していくかっていうチャレンジを誰もやってない。だから俺は思い切って選挙ポスターに大きく『教育子育て最優先』って書いてみた。
たかまつ:うーん、教育政策を必死で訴えている人は、みんな落選してる…。
原田:これには陣営の中からも賛否があった。『確かな年金』と書いた方がいいって。でも街で話をしている時に、教育子育て最優先に対して世代を超えて直接の賛否、反応があったんです。そんなチャレンジを政治がやるようになっていかないと。政治の中に入ったら、世代間の対立を煽りたくはないなというのが俺の考えかな。少なくとも若者政党というのは作らない方がいいってこと。そこじゃないよねって思う。
たかまつ:じゃ、誰が若者のための政治をやってくれるんですか!?
原田:そこに対して「俺が」と言えないのが申し訳ない。選挙ポスターに教育子育て最優先って書いた人は、たぶん他にいない。それで高齢者からめっちゃ嫌われるわけでもないようだから、俺はそういうチャレンジを政治の世界でやってみたいと思っているんです。
メディアの世界でたかまつさんにお願いしたいのは、若者に直接関わる政治的なテーマをテレビで追っていく、っていうのはできるよね。例えば入試問題について、こういう賛否がありますというのを5分の映像にまとめて、高校の授業で見せたあとに、ワークシートを作って、それをもとに生徒がテーマについて議論してっていうの、やりません?
たかまつ:やりますよ!絶対やった方がいい!笑下村塾でやります!!
原田:頼んだよ!
※編集部注
初稿からタイトル変更いたしました(田野)
「ネトウヨに勝つ仕組みが必要」若者の投票率はなぜ上がらないのか【原田謙介×たかまつなな対談】
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「居酒屋で政治の話をしたいとすら思っていない」若者の投票率はなぜ上がらないのか【原田謙介×たかまつなな対談】
プロフィール
1986年岡山県津山市生まれ。愛媛県愛光高校、東京大学法学部卒業。大学3年時に、20代の投票率向上を目指し「学生団体ivote」を設立。2012年11月NPO法人YouthCreateを設立し、「若者と政治をつなぐ」をコンセプトに活動。全国の多数の中高での出前授業の実践や、教員向け研修会・模擬授業などを行う。2019年7月岡山選挙区から参議院選挙に立候補、約25万票を集めるも落選。
・Twitter @haraken0814
たかまつなな
1993年神奈川県横浜市生まれ。慶應義塾大学大学院政策メディア研究科、東京大学大学院情報学環教育部修了。フェリス女学院出身のお嬢様芸人としてデビューし、日本テレビ「ワラチャン!」優勝。お笑いジャーナリストとして、現場に取材に行き、お笑いを通じて社会問題を発信している。18歳選挙導入を機に、株式会社笑下村塾を設立し、政治を面白く伝えるため、全国の学校へ出張授業「笑える!政治教育ショー」を届ける。著書:『政治の絵本』。
・笑下村塾ホームページ
・Twitter @nanatakamatsu