NEWS / HEADLINE - 2019.11.8

「自国を批判的に表現できるのは、成熟と余裕のある証拠」。「JAPAN UNLIMITED」の公認撤回に対し参加アーティストがコメント

オーストリア・ウィーンで開催中の展覧会「JAPAN UNLIMITED」の公認を、11月5日までに、在オーストリア日本大使館が取り消した。本展に参加するアーティストのひとりであり、ウィーンを拠点に制作活動を続ける丹羽良徳が、本件についてコメントを寄せた。

丹羽良徳 日本共産党にカール・マルクスを掲げるように提案する 2013 Installation view at frei_raum Q21 exhibition space MuseumsQuartier Wien, 2019 Photo by Pablo Chiereghin Courtesy of Q21 / MQ and Marcello Farabegoli Projects  (c)Yoshinori NIWA

 出展作品の政治的な内容が、在オーストリア日本大使館により問題視され、日本とオーストリアの国交150年の記念事業としての公認を取り消された「JAPAN UNLIMITED」。この展覧会に参加するウィーン拠点のアーティスト・丹羽良徳が、この件に関して美術手帖にコメントを寄せた。

 丹羽は本展に《日本共産党にカール・マルクスを掲げるように提案する》(2013)や、《私的空間からアドルフ・ヒトラーを引き摺り出す》(2018)を出展している。

 政治制度や歴史を問い直す作品をつくり続ける丹羽。展覧会の公認撤回という事態については、次のようにコメントしている。

 在オーストリア日本大使館による「日本オーストリア友好150周年事業」の撤回は、大使館からすれば国内批判をかわすための緊急措置としか思ってないだろう。展覧会に金銭的支援もないから撤回も簡単だろうし、コメントもなかったようだ。

 ただ大使館職員も展覧会イベントに参加していたので、内容は充分知っていたはずだ。自民党政治家から圧力を受けたからと言って一度認定したものを易々とオープニングの5週間後に撤回する保身的な態度は、オーストリアの企画側には困惑とネガティブな印象を与えた。しかしそれは同時に、展覧会企画の核心となる「日本の危うい政治的状況を映し出す『予定通りの過剰な反応』を引き出すことに成功した」と受け取られているのが本音のようだ。

 同じ施設のほかの展覧会と比べても来場者が多く、評価も高いと聞く。自国を批判的に表現できるのは、成熟と余裕のある証拠で、日本社会がもう一歩オープンで豊かな社会構築に踏み出せるよう、日本の中央政府が何を言おうとも、我々は日本のために働いているわけではないのだから、もっと自由に、もっと批判的に、世界各地の表現者たちと協働していきたい。

EDITOR'S PICK

前へ
次へ
NEWS / HEADLINE - 2019.11.8

なぜ不交付撤回を求める署名は文化庁へ提出されなかったのか。ReFreedom_Aichiと参加者が会見

ReFreedom_Aichiは、11月8日に予定していた「あいちトリエンナーレ2019」への補助金不交付撤回を求める署名の提出を、急遽取りやめた。今回の決定について、ReFreedom_Aichiに参加するアーティストらが会見。また、提出に参加した有識者も会見を行った。

 

記者会見をするReFreedom_Aichiのアーティスト。左から高山明、藤井光、小泉明郎、加藤翼、白川昌生、大橋藍

 「あいちトリエンナーレ2019」への補助金不交付撤回を求める署名の提出が急遽取りやめられた。ReFreedom_Aichiは会見を開き、参加アーティストの小泉明郎と藤井光らが代表して報告を行った。

 小泉明郎によれば、ReFreedom_Aichiは、以前より宮田亮平文化庁長官への直接的な署名提出を文化庁に通達しており、そのための会議室の用意も打診していたという。

 だが、文化庁からは担当部署の受付で受け取るとしか返答がなく、会議室を用意することは、提出日の前日遅くにようやく連絡があった。実際に用意されたのは通路のような小部屋であり、また宮田長官は忙しく時間が取れないと通達された。こうした文化庁の態度は、10万人を超える署名を渡すにはあまりに誠意を欠いていると判斷、提出の見送りを決めた。

 藤井光は、提出時に、文化庁の担当者から新たに語られたことを発表。「これまで、審議官が不交付を決定したとされていたが、決定以前に文化庁のなかでミーティングをしていたことが明らかになった」と強調した。また、文化庁は、不交付の議論の進捗について宮田長官に報告していたとも回答しており、知っていたという点で宮田長官にも責任があると指摘。「どのような議論において挨拶の中止や不交付を決定したのか、プロセスを知ることがない限り、反対を署名した方々の理解を得られない」と見解を述べた。

 ReFreedon_Aichiは、不交付決定の実際のプロセスを知り、検討するために、今後も宮田長官との会合の場を設定するよう文化庁に呼びかけていくという。 

 なおこの日はReFreedon_Aichiのアーティスト以外にも、署名提出に賛同する識者8名が登壇した。

鳥取大学教授の野田邦弘

 文化庁の補助金採択の審査委員を務めており、補助金不交付を機に辞任した鳥取大学教授の野田邦弘は以下のように述べた。「自民党の憲法改正草案には『公益』という言葉が多用されている。国の方針が文化庁の事業全体に波及しており、単一の事象としてではなく、これまでに起こってきたことと一体で考えることが重要だ」。

 美術批評家連盟の林道郎は「文化庁の中には志のある人もおり、聞く所によれば今回の決定は寝耳に水だったという。文化庁の人にも内側から頑張ってもらえるよう、うまくコミュニケーションをしていければ」と、文化庁側との連携の可能性も示唆した。

 また、今回の参加者のメーリングリストがつくられることも発表され、次のアクションに向けて各団体が連携していくことが確認された。