・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
「シズ様、バラハ様。遠路遙々お越し頂き光栄に御座います。わたくし、
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「いえ!こちらこそご丁寧にありがとうございます!わたくし、ローブル聖王国よりアインズ様の命で参りました、ネイア・バラハです。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします。」
「…………シズ・デルタ。ネイアの先輩。」
今回ネイアは、アインズ様より
「それでは、何も無い集落では御座いますが、
クルシュに誘われるまま家屋を出ると、鎧に身を包んだ
「ようこそお越しくださいました。本日集落のご案内を賜りました、クルシュ・シャシャの夫、ザリュース・シャシャと申します。シズ様、バラハ様。何分泥臭い亜人の集落に御座いますが、ご不快な点が御座いましたら何なりと仰って下さい。」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」
「…………よろしく。」
こうしてネイアの聖地巡礼、新たな一日が始まった。
●
「アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下、御身の前に失礼致します。」
リザードマンの集落にある簡素な玉座に座ったアインズへ、洗煉された動作で跪くリザードマン。その姿を見て、アインズはコキュートスの躾がしっかりとしていることに改めて感心する。一般メイドからは〝下等生物の謁見にアインズ様御自ら赴くなどとんでもない!〟と反対されたが、コキュートスにも話があったので、以前アウラが建てた小屋へ来ている。
「リザードマン。アインズ様は謁見をお許しになられました。」
メイドの声に一拍置いて、リザードマンがゆっくりと顔を上げる。誰だこいつ?と思うリザードマンならまだしも、正直顔の知っている者には面倒な儀式でしかない。自分でさえそう思うのだから、相手は尚更だろう。……なんてアインズは考えるが、〝これが王の立ち振る舞い〟と言われればそうするしかない。横のメイドが名乗りを許し、やっと本題に入る。
「魔導王陛下。わたくし、ザリュース・シャシャに御座います。」
〝知っとるわ!〟という心のツッコミを胸にしまい、アインズは鷹揚に頷く。過剰な形容句を少しずつ減らす試みはしているが、未だ謁見の儀は面倒が多い。
「うむ。貴君が改めて謁見というのも珍しい。どうしたのかな?」
「はい。まず魔導王陛下へお仕えする身でありながら、愛する家族との時間をわたくし如きに賜って下さった御慈悲に、改めて深いお礼を申し上げます。」
「なに、育休は男性も取れるようにしないとな。子どもは元気であるか?」
「は、現在わたしや妻、兄者と共に泳ぎを勉強しております。」
「ほほう、早いな。子どもが元気に育つのはいいことだ。……さて、話が逸れてしまったな。今日はどうしたのかね?」
「はい、以前魔導王陛下が仰った部族を離れるリザードマンについての構想ですが、魔導王陛下の統治されているエ・ランテルなどを見てまわりたいという者が少なからず出てきております。今まで閉鎖的な暮らしをしてきた我々からすれば、画期的な意識改革であり、是非ご報告すべきかと。」
素晴らしい!とアインズは内心破顔する。組織の根幹を変える事がどれほど難しい事かは、営業マンだったアインズにとって骨身に染みている。カルネ村の例もある。いずれリザードマンの集落に人間や亜人が訪れ手を取り合う光景も夢では無いかもしれない。
「そうか、それは喜ばしい事だ。我が首都エ・ランテルで良ければ、何時でも歓迎するぞ。道中に不安があるならばこちらで護衛と馬車も用意しよう。」
「陛下の御慈悲へ重ねて感謝申し上げます。」
「では旅を希望する者の人数を把握し、コキュートスへ伝えてくれ。……今日は鎧姿ではないのだな。窮屈であったか?」
ドワーフの鍛冶職人に打たせたアダマンタイトの鎧とオリハルコンの盾姿ではない。リザードマンの礼装など解らないが、
「いえ、比類無き国宝とも言える強固な鎧と盾をご下賜頂き、家族を持つ1人のオスとしてこれに勝る喜びは御座いません。」
「ならば良かった。……ではコキュートスと話をしたい。呼んできてくれるか?」
「畏まりました。御前、失礼致します。」
「アインズ様、ワザワザゴ足労頂キ感謝申シ上ゲマス。」
「気にするなコキュートス。お前は恐怖によらない統治を実現し、リザードマン達の意識改善という立派な功績を立てたのだ、誇っても良い。」
「全テハ、アインズ様ノ御威光ニ御座イマス。」
「わたしが足を運んだ理由だが……。改めて褒美を渡そうと思ってな。以前は有耶無耶になってしまったが、しっかりと功績を形有るもので還元したい。望むモノを言うと良い。」
〝コキュートスにだけ褒美らしい褒美を渡していない問題〟はあのドワーフの国を求める旅から解決しておらず、ゼンベルが不遜な態度を取ったためと、コキュートス自身が固辞したため結局褒美はズレズレになってしまった。丁度良い報告もあったことだし、機としては絶好だろう。
「……デシタラ、アインズ様。是非願イタイ儀ガ御座イマス。」
「ほう、言ってみろ。」
やや緊張した様子のコキュートスを見るに、中々の無理難題を言ってくるかもしれないとアインズは、内心身構える。
「アインズ様ガ御自ラ造リ上ゲタ駒。【扇動者】ヲ、リザードマンノ集落ヘ呼ンデ頂ク事ハ叶イマスデショウカ?」
「……ん?」
コキュートスが何を言っているのかサッパリ解らない。俺が造り上げた?扇動者?何のことだ?コキュートスはアインズの疑問符と沈黙を怒りと思ったらしく、深々と頭を下げた。
「いや、コキュートス。わたしは怒ってなどいないぞ。そうか、アレをか……。」
「ハイ、アインズ様ノ深淵ナル御計画ニ支障ヲ来ス、無礼ナ願イデアッタ事ヲ御赦シ下サイ。」
「ふむぅ、アレかぁ。リザードマン達はアレを受け入れるだろうか?」
「アレデアレバ、未ダアインズ様ニ恐怖ヲ抱ク、不埒ナ者ヲ改心セシメルカト愚申致シマス。」
アレってどれだ----! という心の悲鳴を誰かが拾ってくれるはずもなく、無いはずの自律神経が乱れて内心が冷や汗で濡れる。
「……ッ!失礼致シマシタ!アインズ様ガ御手デ造リ上ゲシ希有ナル駒ヲワタクシ如キガ〝アレ〟呼バワリナド!」
アインズは思わぬ助けにほっとする。ここは静かにコキュートスの意見を待とう。
「伝道師、ネイア・バラハヲ、是非リザードマンノ集落ヘ。」
「……ん!?」
まさかの願いに、アインズは益々混乱の渦中へ突き落とされる事になった。
「という事でシズ。今回ネイア・バラハと共に、リザードマンの集落へ向かって欲しい。特に向こうで何をして欲しい訳でも無いが、まぁ何だ……。やがてローブル聖王国は亜人も仲間とするのだ、今の内に慣れておいて損は無いだろう。」
「…………畏まりました。」
●
「こちらが当集落で養殖している魚たちです。以前我々は食糧問題から戦争まで起こした愚かな歴史がありますが、魔導王陛下の叡智も賜り、二度と愚かな争いは起こらないでしょう。」
「うわー!」
池に十字を飾った幾つもの巨大な生け簀が並ぶ。水温や水質を管理するマジック・アイテムまで付与されており、海洋国家であり、魚の養殖技術には他国よりも長けているローブル聖王国でもこれほど立派な養殖場は見たことが無い。まして管理しているのが
ザリュースというリザードマンによって、魔導国の庇護下となる以前の話は聞いた。食糧難によって部族が消滅するような戦争が巻き起こった事、皮肉にも戦争で多くの者が死に絶え食糧難は解決された事、それ以降5部族が睨み合っていたが、アインズ様の兵が襲い全ての部族が団結したこと。
(恐らくアインズ様は同じ種族でありながら睨み合う
ネイアはアインズ様の深淵なお考えに恍惚とした表情を浮かべ、崇拝を顕わにする。集落の聖堂には立派なアインズ様像が建っているのだが、ネイアからすれば……。
「バラハ様、どうかされましたか?」
「いえ、この像はリザードマンの皆様が造られたのですか?」
「こちらは魔導国から下賜頂いた品となります。」
「そうですか……。失礼致しました。」
その言葉を聞いて、ネイアは解っていないと首を振る。祀られるアインズ様像は頬骨の部分が若干スリムになっており、彫刻の造形美としてはいいのかもしれないが、神であるアインズ様のご威光に対しこんな小細工をするのは不敬だとネイアは思う。誰が造った像かは知らないが、その無知を一晩中語ってやりたいくらいだ。
ちょんちょん、とネイアの肩が叩かれ、振り返るとシズ先輩が気持ちは解ると言いたげにゆっくり頷いた。そしてどちらともなく、ネイアとシズは固い握手を結んだ。
「…………あの小屋。」
「ああ、あちらではロロロ……。
「おわぁ!これが
「ええ、ロロロという名なのですが、拾った時から……」
「家族に捨てられ、ザリュース様に命を拾われたのですか。なるほど、それがあなたの〝正義〟なのですね。」
「……!? バラハ様は
「あ、いえ!!そんな能力はわたしに御座いません。彼の〝心の傷〟が訴えかけてきたのです。……ええ、アインズ様は偉大にして至高なる御方です。あなた様の家族であり友人……〝正義〟を救って下さったのも、〝正義〟の繁栄を約束されたのもアインズ様なのです。つまり、アインズ様の無上の愛を信じ忠誠を誓う事こそ、与えられ生を受けた役目なのです。」
ロロロに対し説法を説きだしたネイアに、ザリュースもシズも目を丸くする。ロロロも感服するように、小屋から出て、ネイアの話を平伏しながら聞いている。紡ぐのは言葉であるが、言葉ではなく、心を交わしているかのようだ。
「…………ネイアがどんどん凄いことになっている。」
まさか魔獣にまでアインズ様の素晴らしさを伝えられるとは思ってもおらず、シズさえも思わずその光景に釘付けとなった。そしてザリュースも、ネイアを通じてロロロの心境を聞いた。ロロロがそこまで自分を愛し想ってくれているなど想像しておらず、ネイアの言葉に、1人と1匹は偉大なる魔導王陛下への忠誠を強めていった。
燃え上がる櫓を思わせる大きな焚き火を囲み、酒と新鮮な魚が並んだ大宴会が開かれていた。
「魔導王陛下の御慈悲溢れる統治を、この世界で最初に受けられたという羨望すべき皆様!アインズ様の寵愛の下に団結し、繁栄を約束された羨望すべき皆様!わたくしネイア・バラハはアインズ様の新たなる神話を耳にすることが出来、幸せに御座います! アインズ様は同じ種族でありながら、敵対し合う皆様をお嘆きになりました!そして団結し、そのお力をアインズ様へ捧げる事の叶う皆様にわたくしは強い羨望を覚えます!アインズ様の寵愛を受け、奉仕を続ける限り、子々孫々に至るまで、子ども達が餓死に怯える事は二度と無いでしょう!繁栄は約束されました! 偉大なる魔導王陛下に!そして皆様の益々の繁栄に!乾杯!」
〝乾杯!!〟と濁り酒の入った木の杯が乱舞し、リザードマンの目は陶酔に染まっていた。よそ者と怪訝に思っていたリザードマンも、ネイアの演説に胸を打たれ、人間であり他国の者である事などすっかり失念してしまうほどだった。
乾杯の音頭を任されたネイアは、シズ先輩のもとへ戻る。魚は火で炙られ、塩を掛けただけの簡素なものだが、素材が逸品なためか、立派な料理となっていた。
「…………流石後輩。アインズ様もコキュートス様も喜ばれる。」
「ありがとうございます!シズ先輩!」
グッ!と拳を握りしめて、ネイアはシズ先輩からの賛美を嬉しく受け取る。コキュートス様というのが誰か解らないが、多分博士やペロロンチーノ様と同じく、何者かは答えてくれないだろう。
「シズ先輩、わたしは何時かアインズ様に本当の意味でお仕えすることが出来るでしょうか?」
「…………努力次第。わたしは応援している。」
「力も弱いですし、頭も良くありません。自分が不甲斐ないです。」
「…………大丈夫。ネイアには味がある。わたしにも。いや他の誰にも真似出来ないことがネイアには出来る。」
「本当ですかぁ?う~ん……。」
「…………先輩を信用する。ネイアは凄い。」
「……ありがとうございます。シズ先輩。」
「…………ん。また。ネイアと何処かに行けたらいい。」
「そうですね。わたしもシズ先輩ともっと色々な場所に行きたいです。」
「…………悪くない。」
シズ先輩は少し照れたように、ネイアから視線を逸らした。ネイアもその様子を見て、少しだけ照れるのだった。
●
「友よ、最近は随分と上機嫌じゃないか。」
「フム。アインズ様カラ褒美を賜ッタ。彼ノ扇動者ヲリザードマンノ集落ヘ赴カセテ頂ケタガ、素晴ラシイ効果ダ!」
コキュートスは一気に酒を煽り、凍える様な息を荒く噴き出した。
「ほう……。ネイア・バラハをリザードマンの集落へ。」
「アインズ様ノゴ威光ニ無知蒙昧ナ輩ガ、正常ナ精神ニナリ、実ニ統治ヲ行イヤスクナッタモノダ。」
「〝扇動者〟という駒は亜人にも有効か……。ふむ、友よ。有益な情報に感謝するよ。」
「ナニ、ワタシハ今回何モシテイナイ。アインズ様ガ偉大デアル事ヲ改メテ知ッタダケダ。」
「その気持ちは良く解る。自らが酷く劣った存在である事も、そこから湧き上がる激情もね。」
「ウム、正シク。」
2人は阿吽の呼吸でグラスを重ね、軽快な音が鳴り響いた。