風評懸念し呼び換え 豚コレラ→CSF 農水省
2019年11月09日
農水省が「豚コレラ」を英語表記の略称で「CSF」と呼び始めた。コレラとは別の病気で、国際的にも「コレラ」と呼んでいないため、豚肉への風評被害を懸念した与党から見直すべきだと指摘されていた。
CSFは「classical swine fever(古典的な豚の熱病)」の略称。8日の同省の防疫対策本部でも、江藤拓農相が「CSF」の呼称を使った。
豚コレラは豚コレラウイルスによる病気で、コレラ菌によるコレラとは別の病気。にもかかわらず豚コレラと呼ぶのは米国での呼称「hog cholera(豚コレラ)」を採用したため。
自民党内では「イメージが悪い」「脅威に感じる」といった意見が続出。過去に「狂牛病」を牛海綿状脳症(BSE)に改称したことを踏まえ、見直しを求める声が出ていた。
ただ、同省は呼称を変更することを発表していない。今後の資料などで初出時に「CSF(豚コレラ)」、2回目以降は「CSF」とする方針だが「『コレラ』の表記が残り効果が薄い」(自民党農林議員)。一方「『CSF』では農家の危機感が薄れる」(同党農林幹部)との指摘もある。
「豚コレラ」の名称は家畜伝染病予防法に明記されている。同党は現在、同法改正に向けた議論を進めており、同法上の名称変更の必要性についても判断する方針だ。
CSFは「classical swine fever(古典的な豚の熱病)」の略称。8日の同省の防疫対策本部でも、江藤拓農相が「CSF」の呼称を使った。
豚コレラは豚コレラウイルスによる病気で、コレラ菌によるコレラとは別の病気。にもかかわらず豚コレラと呼ぶのは米国での呼称「hog cholera(豚コレラ)」を採用したため。
自民党内では「イメージが悪い」「脅威に感じる」といった意見が続出。過去に「狂牛病」を牛海綿状脳症(BSE)に改称したことを踏まえ、見直しを求める声が出ていた。
ただ、同省は呼称を変更することを発表していない。今後の資料などで初出時に「CSF(豚コレラ)」、2回目以降は「CSF」とする方針だが「『コレラ』の表記が残り効果が薄い」(自民党農林議員)。一方「『CSF』では農家の危機感が薄れる」(同党農林幹部)との指摘もある。
「豚コレラ」の名称は家畜伝染病予防法に明記されている。同党は現在、同法改正に向けた議論を進めており、同法上の名称変更の必要性についても判断する方針だ。
おすすめ記事
交通寸断、被害多発… ボランティア足りぬ 冬本格化 募る不安 宮城・丸森町
台風19号の洪水被害で町の中心部一帯が浸水した宮城県丸森町で、ボランティア不足が深刻化している。鉄道の運休で交通が不便なことに加え、被害が複数県にまたがり広範囲のためボランティアが分散し、地域住民からの依頼に応えられていない。寒さの本格化で「ボランティアの足が遠のくのではないか」と現場は不安を募らせている。同町災害ボランティアセンターは今月から、最寄り駅から臨時のバスを走らせるなど環境を整備し、ボランティアの参加を呼び掛けている。(高内杏奈)
流入した泥水が渇き、砂ぼこりになって吹き荒れる。目が開けられず、車は一日で茶色に染まる。
現在も断水している同センターは、住民の依頼を受け付ける他、ホームページで全国からボランティアを募り、現場に派遣している。同センターは10月19日から受け付け、これまでに482件(5日時点)の依頼があった。しかし応えられたのは3割程度にとどまる。
ボランティアの主な仕事は住宅の家具の運び出しと泥かきで、1案件で3日~1週間かかる。毎日15件ほど依頼が増え続け、追い付かない。同センターの谷津俊幸代表は「なかなか集まらず、作業が進まない」と頭を抱える。
参加増へバス手配
参加者が集まらない理由の一つに、谷津代表は交通の便の悪さを挙げる。仙台市から同町への移動で不可欠な鉄道・阿武隈急行は、ホームの流失などで運転を見合わせている。
JRが連絡する槻木駅から丸森駅までは臨時バスが走るが、本数に限りがある。さらに丸森駅から同センターまでは3キロ以上と、徒歩40分はかかる。
同センターは1日から丸森駅からマイクロバスを運行し、送迎している。谷津代表は「道路整備とともに、山間部の依頼が今後増える見通し。できるだけ来てもらえる環境を整え、早期復旧を目指したい」と語る。
「避難所でも新たな問題が出てきた」と話すのは、同町で水稲50ヘクタールを手掛け、避難所生活を送る大内喜博さん(36)。自宅が浸水し、10月13日から避難している。「寒さが本格化してきた。特に朝が冷え込み、手が冷たくなる」と訴える。
同町近くの蔵王山では5日、初雪が観測された。同町の7日朝の気温は3・1度と冷え込み、避難者の体力を奪った。大内さんが生活する避難所には約20人がいる。エアコン、ストーブがあるが、隙間風が容赦なく入り込む。毛布を4枚重ねにしても体温が奪われるという。「防寒着や布団の上に掛けるものがほしい」と要望する。
全国の避難者(8日時点)は2802人で、宮城県は449人。同町は193人で43%を占める。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月09日
完熟きんかんドライフルーツ 宮崎県高千穂町
宮崎県高千穂町の女性加工グループ「合同会社あまてらすの娘たち」が販売するキンカンのドライフルーツ。地域の特産品「完熟キンカンたまたま」を使用している。
1~3月に出荷されるキンカンを手作業で一つ一つ丁寧に種取りや乾燥をして作っている。収穫時のキンカンは糖度が16~18あり、ドライフルーツにした物は、ほどよい甘さと香りが口いっぱいに広がる。賞味期限は1年で保存も効く。
同町特産品売り場や同社が経営している山の学校レストラン菜膳で購入でき、全国発送も可能。1袋(40グラム)432円。問い合わせは合同会社あまてらすの娘たち、(電)0982(83)0808。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月06日
和牛生産の拡大 子牛相場の安定が重要
和牛子牛相場が、夏から弱含みで推移している。高値子牛によるコスト増で肥育農家の採算割れが昨年から出始めていることが主な理由とみられる。和牛生産は繁殖、肥育の共存共栄で成り立つ。双方が意欲を持てる子牛相場の安定で、生産の維持・拡大を図ることが重要だ。
和牛子牛の相場は、半年前から弱含みで推移しており、10月は2年ぶりに73万円台に落ち込んだ。高値相場となったこの4年間では2度目の低水準となる。2年前の年末に高値で仕入れた子牛がこの夏から出荷期を迎え、肥育農家の採算がやや悪化したため、せり値を抑えていることが背景にある。
3年前に前代未聞の85万円に高騰した時に仕入れた子牛が、肥育牛として出荷期を迎えた昨年夏にも同じ動きが生じた。
過去10年間の和牛子牛の動きを見ると、年間38万頭あった子牛の取引頭数は、2010年の口蹄(こうてい)疫で34万頭に減少。さらに11年の東日本大震災も加わり、16年には31万頭にまで激減した。
ところがその間、枝肉相場は景気回復もあり、16年には過去最高の枝肉相場を記録した。こうして40万円前後だった子牛相場も急上昇し、16年末には85万円を記録した。
和牛の生産は、繁殖農家と肥育農家の両方がいて成り立つ。もと牛代を除く肥育農家のコストは、飼料代などに労賃を加え1頭40万円ほど。16年当時、55万円で仕入れたもと牛を肥育し、135万円で出荷した。これで肥育農家は40万円ほどのもうけとなった。こうして肥育農家の好景気は17年半ばまで続いたが、その後、収益の悪化で子牛価格を抑え、現在まで70万円台で推移してきた。
一方、繁殖農家数は、高齢化で減少に歯止めがかからないが、子牛の取引頭数は19年にわずかながら回復し、31万頭となった。大規模肥育農家が増えているためとみられる。
北海道にあるホクレン十勝地区家畜市場では、取引が年々増え、18年度は1万9800頭となった。小規模な繁殖農家は減っているが、それを上回る大規模経営の出荷増によるものだ。毎月400頭の子牛を出荷する大規模法人もあり、大産地の九州をはじめ全国各地に出荷される。
国産牛は、環太平洋連携協定(TPP)などの自由化で輸入牛肉との競争が確実に厳しくなる。そうした中、和牛はこの4年間安定した相場が続いている。この枝肉相場の安定で、弱含みが続く和牛子牛相場も大きな下落はないとみられている。 和牛はインバウンド(訪日外国人)需要が堅調で、海外での人気も高く、農林水産物の輸出をけん引している。ようやく減少から回復に転じた和牛生産をどう維持・拡大するのか。繁殖農家、肥育農家が共に意欲が持てるように子牛相場を安定させることが、生産振興の大前提となる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月05日
立冬。宴会シーズンを前に、ホテルの担当がつぶやく
立冬。宴会シーズンを前に、ホテルの担当がつぶやく。「食べ残しが多くなるシーズンなんですよ。特に新年会がひどい。胸が痛みますよね」▼日本で1年間に捨てられる食べ物、実に643万トン。先進国最低の食料自給率にして、食品ロス大国。この不名誉な称号を返上しようと、飲食業界でも取り組みが進む。食品残さを肥料として生かすエコフィードもその一例▼さいたま市の「パレスホテル大宮」は、およそ20年前から、野菜くずを有機肥料にして、市内の野菜農家に安く提供する。今は8戸の農家がその肥料で育てたトマトやホウレンソウなどをホテルに卸す。地域の中で食と農がぐるりとつながっている▼ホテル地下の高速発酵処理装置を見せてもらった。一日最大450キロの野菜くずを24時間で1次発酵させる。「資源を無駄なく循環させることで地産地消にも貢献できます」と担当者。施設見学付きのランチ企画もあり、ホテル産肥料は食育も担う。大阪市は「食べ残しあかんでOSAKA」運動を推進する。小盛りメニューなどで食べ残しゼロを目指す店を登録し、7企業90店舗に広がった▼食品ロスをおにぎりに換算すると、国民が毎日1・5個を捨てている計算になる。あなたが捨てた食べ物で、誰かの命を救えたかもしれない。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月08日
甲賀のみそ汁 滋賀・JAこうか
滋賀県のJAこうかが販売するフリーズドライのみそ汁。具にはJAのブランド野菜「忍葱(しのぶねぎ)」を使った。12月から翌年3月に出荷する太くて甘い白ネギで、年間を通じて楽しんでもらえるようにした。
みそはJA味噌(みそ)加工グループが手掛け、学校給食にも提供されるものを使用。地元産の大豆、米を使い、30年来変わらない方法で造る。懐かしくほっとする味で、寒くなるこれからの季節にぴったりだ。
1食分が120円(税別)、4食箱入りセット(進物用箱代込み)が500円(同)。JA花野果市「水口店」などで販売する。問い合わせは同店、(電)0748(62)0711。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月04日
農政の新着記事
日米協定や災害復旧 新たに経済対策 政府
政府は8日、新たな経済対策の策定と2019年度の補正予算案の編成の検討に入った。台風19号など相次ぐ自然災害の復旧、復興や日米貿易協定を受けて支援策などを打ち出す見通し。農業関係は、農林水産業の成長産業化や輸出力強化などを想定する。経済対策は、補正予算と20年度当初予算を組み合わせて対応する。
安倍晋三首相は同日の閣議で、関係閣僚に経済対策の策定と補正予算の検討を指示。経済対策の策定は16年8月以来、約3年ぶりとなる。19年度の予備費を含め、補正予算と20年度予算を合わせた「15カ月予算」で対応する方針。規模は数兆円になる見通し。
政府は日米貿易協定の発効に向けて、国内対策の指針となるTPP等関連政策大綱を改定することを決定。「生産基盤強化」と輸出拡大を見据えた「新市場開拓の推進」を念頭に検討を進めている。補正予算の編成などと合わせて、国内対策の取りまとめを加速させる見通しだ。
台風被害の復旧、復興対策は、予備費を活用した追加支援策に加えて、補正予算で切れ目のない支援を目指す。
西村康稔経済再生担当相は「経済の下ぶれリスクを確実に乗り越え、経済成長の実現につなげる。補正予算は、できるだけ早期に取りまとめたい」との考えを示した。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月09日
風評懸念し呼び換え 豚コレラ→CSF 農水省
農水省が「豚コレラ」を英語表記の略称で「CSF」と呼び始めた。コレラとは別の病気で、国際的にも「コレラ」と呼んでいないため、豚肉への風評被害を懸念した与党から見直すべきだと指摘されていた。
CSFは「classical swine fever(古典的な豚の熱病)」の略称。8日の同省の防疫対策本部でも、江藤拓農相が「CSF」の呼称を使った。
豚コレラは豚コレラウイルスによる病気で、コレラ菌によるコレラとは別の病気。にもかかわらず豚コレラと呼ぶのは米国での呼称「hog cholera(豚コレラ)」を採用したため。
自民党内では「イメージが悪い」「脅威に感じる」といった意見が続出。過去に「狂牛病」を牛海綿状脳症(BSE)に改称したことを踏まえ、見直しを求める声が出ていた。
ただ、同省は呼称を変更することを発表していない。今後の資料などで初出時に「CSF(豚コレラ)」、2回目以降は「CSF」とする方針だが「『コレラ』の表記が残り効果が薄い」(自民党農林議員)。一方「『CSF』では農家の危機感が薄れる」(同党農林幹部)との指摘もある。
「豚コレラ」の名称は家畜伝染病予防法に明記されている。同党は現在、同法改正に向けた議論を進めており、同法上の名称変更の必要性についても判断する方針だ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月09日
基本計画 中小農家含め発展へ 中山間地支援も重視 全中が提案
JA全中は7日、国の新たな食料・農業・農村基本計画へのJAグループの提案を決めた。家族農業や中小規模農家を含めた多様な農業経営が維持・発展する将来像を示すよう提起。農業就業者の減少や高齢化が顕著な中山間地域に対し、就農や特徴ある農産物生産の定着への支援が必要だとした。生産基盤となる農地や農業就業者の減少に歯止めをかけるため、高い目標を設けるよう求める。
2015年に策定した現行計画は、農業を成長産業にする「産業政策」と多面的機能の維持・発展を促す「地域政策」を車の両輪と位置付ける。「不測の事態」に備えた総合的な食料安全保障の確立を目指し、25年度の食料自給率目標はカロリーベースで45%、生産額ベースで73%とした。
提案では、平時から食料安全保障の確立を目指し、国産の生産・消費を共に拡大すべきだと指摘。……
2019年11月08日
果樹最大10アール150万円 米浸水に7万円 台風19号禍追加支援
政府は7日、台風19号の被災者への追加支援策を発表した。果樹農家への支援では、省力樹形(新矮化=わいか=栽培)に植え替える経費などに加え、大規模改植を余儀なくされる場合の上乗せ支援も用意。助成単価は10アール当たり最大150万円となる。倉庫に保管していた米が浸水し出荷不能になった農家の、営農再開を後押しするため同7万円を助成する。
同日の政府非常災害対策本部で、安倍晋三首相は「農林漁業者の方々の一日も早い営農再開のため、総合的な対策を実施する」と強調。農業関係を含む追加支援策の早期実施に向けた第1弾として、1300億円超の予備費使用を8日に閣議決定する考えを示した。
江藤拓農相は、農水省緊急自然災害対策本部で「(営農再開への支援は)時間との戦いと言っても過言ではない。農業者の方が次期作に向けて歩き出すのを全力でサポートする」と強調した。
保管米が浸水し出荷できなくなった農家の営農再開のため土づくりや土壌診断などの経費として、10アール7万円を助成。災害に備え収入保険や保管米も補償できる建物共済の特約などへの加入が要件だ。大規模な浸水被害を受けた稲作地域には、土づくりに10アール1万円を助成。圃場(ほじょう)整備の作業委託などの費用の5割を助成する。
果樹農家の植え替え支援策は、慣行栽培は10アール17万円だが、リンゴの新矮化栽培による省力樹形への改植は同53万円に助成単価を引き上げる。幼木管理を支援する同22万円の対策を合わせると補助額は同75万円となる。
さらに、経営面積の過半を植え替える大規模改植への上乗せ支援として、①果実が実るまでの期間を短縮する大苗育成に10アール20万円②代替農地での営農に同52万円③省力技術の研修に同3万円──を用意した。リンゴを大規模に改植して新矮化栽培を導入し、全ての上乗せ対象に取り組む場合、合計で同150万円を支援を受けられる。
改植を免れた園地でも、木が泥まみれになるなど被害が出ていることを受け、樹体洗浄や樹勢回復のために10アール7万4000円を助成。病害のまん延防止対策として同2万円を支援する。
農業用機械や畜舎の再建、修繕、再取得に農水省の「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」被災農業者支援型を発動。国の補助率は19号被害に限り通常の3割から5割に上げる。さらに地方自治体が上乗せする。
被災を機に作物を転換したり、規模拡大したりする場合に必要な農機のリース導入も支援。同省の「持続的生産強化対策事業」の産地緊急支援対策を活用し、本体価格の5割を国が支援する。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月08日
豚コレラ経口ワクチン 包囲網 立て直し急務 中部ぐるり8県10万個散布
豚コレラの拡大防止に向け、国が野生イノシシ対策の柱に掲げる経口ワクチンベルトの構築が進んでいる。日本農業新聞の調べでは、11月中旬までに約10万個の経口ワクチンが8県85市町村で散布される見通しだ。ただ、豚コレラは既にベルトの外側にも広がっており、「対策の根幹を揺るがす事態」との指摘もある。豚コレラの封じ込めに向けて、対策の立て直しが急務となっている。
感染拡大 関東も対策
農水省が野生イノシシ対策として、経口ワクチンベルトの構築を打ち出したのは9月上旬。豚コレラ防疫対策本部で、豚コレラの終息に向けた対応方針として示した。それ以降、“包囲網”の構築に向け、各県が散布に乗り出している。
本紙は7日までに、各県の担当者から取り組み状況を聞き取った。ベルト対策が打ち出される以前に散布された経口ワクチンであっても、ワクチンベルトとして機能しているものは含めた。
その結果、中部地方を取り囲むように、8県85市町村で計9万7346個の経口ワクチンが散布されつつあることが分かった。進捗(しんちょく)状況を見ると、長野を除く7県で散布が完了。長野県は「現状、7割程度の散布を終了し、11月15日までに全て終える」(家畜防疫対策室)としており、全般的に経口ワクチンベルトの構築が進む。
ただ、豚コレラは既にベルトの外側に広がりつつある。9月には、埼玉県の養豚場で飼養豚の感染を確認。野生イノシシも含め、関東で初めて豚コレラが確認された。10月には群馬、山梨両県で立て続けに感染イノシシを確認。静岡県でもベルトの外側で感染イノシシが見つかった。現状では、豚コレラの拡大に歯止めがかかっていない。
事態を受け、同省はベルト対策を抜本的に見直すことを決めた。具体的にはベルトの位置を「野生イノシシの感染が確認された地点」に応じて見直す。感染イノシシが新たに見つかった群馬や埼玉、山梨県に加え、隣接する神奈川県も含め散布を検討。現行の東ベルトをさらに東側に設定し直すものとみられる。
見直しでは、散布作業の効率化も検討する。現在、経口ワクチンは地元猟友会の関係者や県職員らが手作業で地中に埋めて設置している。ただ設置スピードに限界があり、人が立ち入れない山奥などでは散布すらできないという課題があった。
そこで防衛省など関係省庁と連携し、自衛隊のヘリコプターや飛行機などを利用した経口ワクチンの空中散布を検討する。大量のワクチンを広範囲に散布することで、感染イノシシの拡大を一気に封じ込めたい考え。
江藤拓農相は「野生イノシシで清浄化しない限り、飼養豚への感染リスクは今後も減らない」と危機感を示す。発生地域での封じ込めという前提が揺らぐ中、ベルト対策の立て直しが急務となっている。
<ことば> 経口ワクチンベルト
豚コレラの発生地域一帯を取り囲むように、野生イノシシ向け経口ワクチンを帯状に散布する対策。野生イノシシがベルトの外側の未発生地域に豚コレラウイルスを拡散するのを防ぐ。これまでは愛知、長野、静岡、富山、石川の5県を「東ベルト」、三重、福井、滋賀の3県を「西ベルト」に設定。東西から発生地域を挟み込み、豚コレラの封じ込めを図っている。
北海道大学大学院 迫田義博教授インタビュー 「人での拡散」も防止策を
北海道大学大学院獣医学研究院の迫田義博教授に、経口ワクチンベルト対策の今後のポイントについて聞いた。
経口ワクチンベルトの構築が着々と進み、各県の取り組み状況は一定に評価できる。だが、豚コレラは既にベルトの外側に広がり、ベルト対策の根幹を揺るがす事態に陥っている。
ベルトの外側にあった埼玉県や群馬県は、それまで感染イノシシが確認されていなかった。そのため養豚関係者といった「人の動き」で豚コレラが広がった可能性が考えられる。これは非常に大きな問題だ。
そもそもベルト対策は一定のエリアに豚コレラを封じ込め、感染拡大を止めるのが狙いだ。人による拡散があちこちで発生すれば、ベルト対策は意味をなさなくなる。今後、経口ワクチンベルトの範囲を見直すにしても、今回の二の舞となってはならない。
国は飼養豚へのワクチン接種に踏み切ったが、接種しても豚コレラに感染する豚は必ず出てくる。結局、野生イノシシで豚コレラを終息させなければ、生産者は常に豚コレラの侵入リスクを抱えながら養豚を営むことになる。
野生イノシシの豚コレラ対策は長期戦。今後、ベルト対策がうまくいっても終息まで10年程度かかる可能性もある。ベルト対策と併せて衛生管理を徹底するなど、人による拡散を防ぐ対策が重要だ。(聞き手・北坂公紀)
さこだ・よしひろ 1970年、埼玉県生まれ。94年に北海道大学獣医学部を卒業。2014年から同大学大学院獣医学研究院教授。専門はウイルス学。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月08日
病院あるから住める 顔なじみの医療必要 包括ケアどうなる 再編に現場困惑 鳥取県日南町
厚生労働省が、全国の公立病院などのうち、再編や統合を議論すべきだとする424の病院の一覧を実名で公表した問題が、地域医療を守ってきた農山村の病院や住民に波紋を広げている。誰もが、住み慣れた地域で安心して暮らせるのか。山間部の病院や住民は再編リストに疑問を感じ、「地域医療が農山村の命綱であることを知ってほしい」と声を上げる。
患者見守り地域連携
岡山県との県境に接し山に囲まれた鳥取県日南町。その中心部にある日南病院は、再編や統合を促された病院の一つだ。
インフルエンザの予防接種を終えた農家の田辺三枝子さん(81)は、手押し車に助けられ病院前のバス停に向かった。待ち時間も他の患者との交流の時間。「膝が悪くてもつえを突きながら生きがいの農業ができる。病院があるから古里に住み続けられるのよ」
田辺さんは週2回、デマンドバスやタクシーで片道30分かけて病院に通う。5年前に運転免許証を返納。同病院から車で20分程度の隣町に総合病院はあるが、田辺さんの集落からは1時間以上かかる上、電車とバスを乗り継がなければ通えない。駅の階段が上れない田辺さんにとって、病院の存続は死活問題だ。再編リストで名指しされたことに「なくなればみんな困る」と話す。
高齢化率5割、人口4500の日南町の医療機関は、歯科以外は同病院しかない。山間部の町には田辺さんのように高齢者が大勢いる。面積340平方キロと広い町にある複数の集落は、中心部まで車で30分以上かかる。過疎が進んでも高齢者が生活を続けられるよう、町は各集落との交通網も含め、関係者一体で住民を支える地域医療を築いてきた。
「病気を治すだけではなく、暮らしを守る。それが地域医療の根底にある」。同病院の佐藤徹院長は1962年の開設以来、病院が築いてきた地域医療を誇りに思う。
中でも毎週1回開く在宅支援会議は、地域ぐるみで患者を支える基盤になっている。病院の常勤医師6人と看護師やヘルパー、薬剤師、保健師ら医療、福祉、介護に関わる人が全て参加。退院した患者や介護支援対象になった高齢者ら、あらゆる住民の体調変化や暮らしぶりを関係者が報告し合っている。
さらに通院ができない人のために、訪問診療・訪問看護など、院長や名誉院長も自ら各集落に往診に出向く。
そんな地域に根を下ろしてきた同病院が再編リストに入ったことに、同病院の中曽森政事業管理者は「唐突な公表。病院の地域づくりへの役割が考慮されていない」と嘆く。厚労省が推進してきた住まい、医療、生活支援が一体の「地域包括ケアシステム」への配慮もないなど疑問点がいくつもある。佐藤院長は「地域医療の現場の努力と苦労を知ってほしい」と訴える。
再編リストには、地域の要といえる条件不利地の病院名が多く挙がった。万が一、不採算で病院が撤退すれば、地域が立ち行かなくなってしまう。
JA長野厚生連佐久総合病院の小海分院も対象となった。同病院の井澤敏院長は「病院がなくなることは、人が住むことが難しくなることを意味する。医療は地域の生活に不可欠な社会資本だ」と指摘する。
離島にある鹿児島県南種子町の公立種子島病院の羽生裕幸事務長は「島の医療を切り捨てないでほしいと国には(説明会で)伝えた。努力は継続するが、医師確保にも大きな影響が出てしまう」と訴える。
<メモ> 病院の実名公表
全国の公立病院や赤十字、厚生連など公的病院1455のうち、厚労省が再編や統合を議論すべきだとする424病院を9月に実名で公表。2017年6月の診療実績に基づき、がんや脳卒中など9項目の診療実績が低いこと、類似の診療実績を持つ病院が車で20分以内の場所にあることなどを基準とした。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月07日
稲作土づくりに助成 農機補助拡充も 台風19号対策
政府は6日、台風19号で大規模な浸水被害を受けた地域での稲作農家の営農継続に向けて、土づくりなどの取り組みに10アール1万円を助成する方針を固めた。7日にまとめる包括的な追加支援策に盛り込む。農機や畜舎の復旧にかかる費用の国の補助率は、最大3割から同5割に引き上げる。浸水した果樹の樹勢回復や、病害のまん延防止の取り組みへの支援も拡充する。
19号に伴う大規模な水害で、各地の水田では土壌の浸食や表土の流出などの被害が発生。……
2019年11月07日
保管米浸水に助成 台風19号追加対策 果樹改植も拡充
政府が検討中の台風19号による農業被害への追加支援策の内容が分かった。収穫後に保管していた米が浸水した農家には、営農再開の支援策として10アール当たり7万円程度を助成する。リンゴなど果樹の大規模な改植が必要な農家には、早期の成園化や成園化までの経営継続の支援として同75万円を助成する。他の分野の支援策と合わせ、7日にも発表する。……
2019年11月06日
関係人口増目標に 地域政策巡り議論 次期基本計画自民政策委
食料・農業・農村基本計画の見直しへ、自民党は5日、農業基本政策検討委員会(小野寺五典委員長)の会合を開き、「地域政策」の方向性を議論した。集落の維持や人材の確保に向けて、外部人材への支援充実などを求める意見が相次いだ。同委員会顧問を務める宮腰光寛前沖縄北方相は、さまざまな形で地域と関わる「関係人口」の目標値を設定し、国を挙げて支援する必要があるとの認識を示した。
宮腰氏は「関係人口をどう増やしていくかが、これからの農山漁村にとって大事だ」と強調。新たな基本計画では「KPI(重要業績評価指標)の一つに関係人口を入れて、しっかり後押ししていく。組織的に推進していく形が必要ではないか」と強調した。
政府資料によると、2050年には全国の半分以上の地域で人口が半減すると推測されている。特に農村の高齢化率は都市部に比べて高く「機能の維持が困難な集落が今後増加する恐れがある」(農水省農村振興局)。
農水省は、基本計画の見直しに向けて、小規模農家や農家ではない住民、移住者なども含めた「多様な人々」の重要性に着目。その人々が「農村で暮らしていくための所得と雇用機会を確保できる環境づくりが必要」との方向性を示している。
会合では、担い手確保や集落の維持へ、明確な目標設定と具体策を求める意見が相次いだ。
野村哲郎農林部会長は「単発の政策ではなく、全国で集落を維持するにはどんな金が必要か、どう人を育てればいいか」との観点を提起。「一律の対応ではいけないが、散らばっている施策をまとめて実証事業的にできないか検討してほしい」と訴え、体系的な農村政策の構築を求めた。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月06日
南米4カ国(メルコスール)とEPA 政府が検討 牛・鶏肉で懸念
政府が、ブラジルなど南米4カ国でつくる南米南部共同市場(メルコスール)との経済連携協定(EPA)交渉を検討していることが4日、分かった。自動車などの輸出拡大が狙いとみられるが、4カ国は世界有数の牛肉、鶏肉などの生産・輸出国。環太平洋連携協定(TPP)をはじめ大型通商協定の締結、発効が相次ぐ中、メルコスールとのEPAで関税が撤廃・削減されれば、一層の輸入増が懸念される。
メルコスールには、他にアルゼンチンとウルグアイ、パラグアイが加盟。欧州連合(EU)のように、域内では関税を原則撤廃し、域外には共通の関税を課す。
関係者によると、安倍晋三首相は16、17日にチリで予定していたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議への出席に合わせブラジル訪問を調整。同国のボルソナロ大統領と会談し、EPA交渉の可能性について協議する方向で検討していたという。だが、チリが反政府デモの影響でAPEC開催を断念し、日程は不透明だ。
日本はTPPや日欧EPAで、鶏肉の関税(8・5%か11・9%)を撤廃。牛肉の関税(38・5%)は9%まで削減する。メルコスールとEPA交渉を始めれば、こうした水準までの関税削減や輸入解禁を求められ、日本市場での競争力が高まりかねない。
自民党農林幹部は「日米貿易協定に合意したばかり。大型協定の交渉がこんなに続いては、国内農家の理解を得られない」と警戒する。6月には、メルコスールとEUの自由貿易協定(FTA)が基本合意に達したが、安価な農産物の流入への懸念などから合意に20年かかった。
4カ国のうち、ブラジルは日本の鶏肉の輸入量の7割を占める。牛肉の輸出量は186万トン(2017年)でオーストラリアや米国などを上回り世界一。ウルグアイは44万トン、パラグアイは38万トン、アルゼンチンは29万トンと有数の輸出国だ。ブラジルは世界最大の砂糖の輸出国でもある。
ただ、日本は4カ国産の牛肉について、防疫上の理由から、ブラジルとアルゼンチンの一部地域を除き輸入を禁止。ウルグアイからの輸入は条件付きだ。19年の輸入量は9月まででウルグアイ、アルゼンチン両国からの計717トン。輸入量全体の0・2%にとどまる。
メルコスールとのEPAは、日本経団連とブラジルの経済団体が共同で各国政府に締結を求める報告書を18年に作成。日本政府はEPAを契機に、成長市場だが日本との貿易量がまだ小さいブラジルを中心に、自動車などの輸出拡大を目指しているとみられる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2019年11月05日