京都新聞社が京都市への情報公開請求で入手した吉本興業との委託契約書。所属タレントがSNSで発信する内容が盛り込まれている

京都新聞社が京都市への情報公開請求で入手した吉本興業との委託契約書。所属タレントがSNSで発信する内容が盛り込まれている

「ミキ」が発信していたツイートの一部。「#京都市盛り上げ隊」などの記述がある

「ミキ」が発信していたツイートの一部。「#京都市盛り上げ隊」などの記述がある

 京都市が吉本興業所属の市出身の漫才コンビ「ミキ」による施策PRのツイッターに100万円を支払う契約を結んでいた問題で、口コミを装った広告「ステルスマーケティング(ステマ)」ではないかとの議論がわき起こった。京都市や吉本興業側は「ステマではない」との立場だが、識者からは広報の手法を疑問視する声が相次いだ。ツイッターなどSNSで影響力のある人物「インフルエンサー」を活用する宣伝が広がる中、識者は業界団体が作ったガイドラインの活用や、発信する側の倫理向上を呼び掛けている。

 問題となったミキのツイートは2018年10月、「京都最高ー♪みんなで京都を盛り上げましょう!!」などの内容で投稿された。市の説明では、タレントの発信力を生かした取り組みとして吉本側から提案があったという。文面は事前に市の担当者が確認していた。
 ツイートに「#京都市盛り上げ隊」「#京都市ふるさと納税」などのハッシュタグ(検索目印)はあったが、市が広告主とする記載はなかった。このためネットなどでは「ステマでは」との意見が相次ぎ、京都市には苦情の電話が相次いだ。
 口コミマーケティングに詳しいブロガーの徳力基彦さん(46)は「最大の問題は金銭が発生しているのにそれを開示しないことで、ミキの郷土愛と感じた情報の受け手が『だまされた』と思ってしまうこと」と指摘。「明らかな宣伝なので市が広告主だと明記すべき。『違法ではないから良い』という考えは法的には間違いではないかもしれないが不適切」と話す。
 市市長公室の担当者は京都新聞社の取材に「市の発信だと分かってもらえると思っていたが、市民から『分からない』というご批判を多くいただいた。課題としてしっかりと受け止め、今後の広報に生かしていきたい」と話す。
 吉本は10月30日に見解を発表した。「京都市との連携を示すタグ表示と活動の周知により、今回のツイートが市のためのプロモーション業務であるということは世間一般にご理解いただけるものと考えている」とし、ステマには当たらないと主張する。
 ステマは、やらせ業者の投稿でグルメ口コミサイトの順位が操作されたケースや、オークションサイトを巡ってタレントが謝礼を受け取って虚偽の内容でサイトを宣伝する記事をブログに掲載していたことで注目された。発覚すれば世間の批判が集まり「炎上」のリスクはあるものの、広告業界の関係者によると、依然としてステマが疑われるSNSの投稿は後を絶たないという。徳力さんは「内部告発でも無い限り、証明はできない」と根深さを語る。
 米国では「欺まん的行為」としてステマは法で規制されているが、日本では法整備はされていない。明確な基準はなく、グレーゾーンの領域が広いのが現状だ。
 業界内では健全化に向けた動きがある。大手広告代理店などが09年に民間団体「WOMマーケティング協議会」を立ち上げ、「正しく情報を知る権利」の保護を目的にステマ対策のガイドラインを策定。ネットで公開して啓発活動を行っている。ポイントは、金銭や物品、サービスなどが広告主から情報発信者に提供された場合、その関係性を明示することを義務としたことだ。具体的にはハッシュタグに「PR」「プロモーション」などを付けることを求めている。だが、あくまで民間団体のガイドラインのため、会員以外は守る義務はない。
 同協議会の細川一成理事は「ステマは消費者をだますだけではなく、企業や自治体のブランドを傷つけてインフルエンサーも信用を失う。ガイドラインを参考にして、より明確な関係性の表記をしてほしい」と訴えている。

 【京都市の吉本興業タレントSNS発信問題】京都市は吉本興業と2018年度、「京都国際映画祭」などのPRで、所属する有名タレントのSNS発信1回につき50万円を支払う業務委託契約を締結。これに基づき、市出身の漫才コンビ「ミキ」の2人がツイッターで市政に関わる内容をそれぞれ2回つぶやいた。市は17年度にも、市の定める「伝統産業の日」に関連し、ミキら複数のタレントのSNS発信に対し、一括で50万円を吉本興業へ支払う契約を結んでいた。