pixiv will revise its privacy policy on May 16, 2018. The contents become clearer and correspond to the new European privacy protection law.

Details

Welcome to pixiv

"【全文公開】聖なるもの【文学フリマ東京】", is tagged with「COMITIA」「COMITIA130」and others.

第29回文学フリマ東京およびCOMITIA130(委託)にて頒布予定の新刊になり...

八束

【全文公開】聖なるもの【文学フリマ東京】

八束

11/8/2019 20:20
第29回文学フリマ東京およびCOMITIA130(委託)にて頒布予定の新刊になります。
期間限定(11月17日まで)で全文を公開します。

画:フィビ鳥様 user/104637

※本作は暴力・残虐表現および非合意の性交渉を匂わせる表現があります。(R指定がかかるほどではありません)閲覧は自己責任でお願いいたします。

《あらすじ》
神に見棄てられた地、エグジアブヘル。
幸福な花嫁になるはずだった娘・ナサカは、四十歳上の暴力的な男に嫁ぐことになる。
初夜の翌朝、ナサカは何者かに誘拐される。連れて行かれたのは、失われた神聖王権の復古を目指す戦士集団。彼らの妻となることを拒否した彼女は、あらゆる暴力を与えられた。

四肢を失い、砂漠に捨てられたナサカの前に現れたのは、ひとりのアルビノの女。
神聖王権の正統な継承者である女は告げる。

私の手足となるのであれば、お前の命を救おう、と━━。

全身義肢の女戦士と、女戦士が仕えた、史上もっとも多くの血の雨を浴びた聖女王。
東アフリカ風の架空世界を舞台に繰り広げられる、女による女のためのファンタジイ。

《仕様と頒布情報》
文庫サイズ、248頁、フルカラーカバー・箔押、¥900
文学フリマ東京【ケ49】(おざぶとん)、COMITIA130【O-08b】(おこめのかし)※委託
通販も後日実施予定。

文学フリマカタログ:https://c.bunfree.net/p/tokyo29/16680

第一部


 木陰の下から病葉(わくらば)を眺めていた。黒く炭化した梢にわずか一枚だけ残り、黄色く透ける葉脈を太陽光がくしけずる。それは時折気まぐれに吹く熱風になぶられては頼りなさげに揺れた。極端に海抜の低いその灼熱の地に生物の気配はなく、無音だけが広がっていた。
 地面に敷かれた砂礫はナサカの血を吸い込まなかった。背中の下にわだかまる血は四方へと広がりつづけ、いつか巨大な湖にさえなるかもしれないという途方もない夢想を抱かせた。しかしいまや彼女の命とは、不可逆的に落ちゆく砂時計のそれと同然だった。四肢をもぎとられ、砂漠の片隅に放り捨てられた女が、それでもかろうじて意識を保ち、息をしているのは、彼女が母親の産道を十五回くぐり、十五回の死を経験し、それでもなおまた母親の胎内に宿り、この世に生まれ落ちてきたという、飽くなき生命への執着のために過ぎなかった。
 旱天のもと、空は抜けるように青く、宙には無音の砂埃が舞う。陽の光は徐々に耐えられないほどにまぶしく感じられ、ついに目を閉じようとしたナサカの顔に、ふと影が差した。夜が訪れたわけでも、空が曇ったわけでもなかった。忽然と現れ、金糸の傘を差し出した娘がいたからだ。
「お前を助けてやりましょうか」
 傘の持ち主は白子の娘だった。見上げた先の葉脈だけが残された病葉に重なって、紫がかった赤色の眸が青い空を背に見えた。彼女の視線は(きよ)らかな光を帯び、これまで誰にも言葉を妨げられたことがないというふうに、ひどく落ち着いた口調で喋ってみせた。
「それともここで死ぬことを望みますか」
 砂礫の上に広がる血を裸足で踏みしめ、傘の下で喘ぐ自分を凝視する娘に対し、ナサカは言葉の代わりに黙ってまばたきをした。
 白い娘はうなずいた。
「それならば、お前は私の手足となりなさい。私の名はフォロガング。メロエ族の――聖女王(カンダケ)となるもの」
 微笑さえ浮かばないその表情(かお)にナサカは一瞬おそれを抱いた。
Send Feedback