法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

宮古島米軍寄航とボランティアをめぐるナイーブ

善良そうなボランティアというだけで単純に信用できるわけでないことは、社会常識として知っておくべきだろう。宗教がボランティア活動を利用して布教することは珍しくない。カルト宗教が立場を偽装して布教するような危険は身近にある。
SHINZENが来た! - 法華狼の日記
ただし、宗教にボランティア意識を生む価値があると考えることもできる。特に人権を抑圧していない宗教が、自らの立場を明かしてボランティア活動することは、相応の賞賛に値すると思う。


さて、先日に米軍の掃海艦が沖縄県宮古島市へ寄港し、艦長らが上陸して海岸清掃の「ボランティア」*1を行い、それに対して反対派住民が抗議を行なったという報道があった。
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-167915-storytopic-1.html


 21日から宮古島市平良港に寄港している米海軍佐世保基地所属の掃海艦ディフェンダー(1312トン、乗組員80人)は、23日も引き続き同港第1埠頭(ふとう)に接岸している。アンドリア・スラウ艦長ら乗組員は、市民団体の抗議の中、午前8時すぎから同市平良のパイナガマビーチを清掃。夜には同市上野の航空自衛隊宮古島分屯基地で開催された観月会に出席した。掃海艦は24日正午ごろ出港予定。
 ビーチ清掃時には反対派住民らが「NO BASE」などと書かれたプラカードを手に抗議。乗組員らは市民に目を合わさず、反応はなかった。スラウ艦長は「言論の自由があり、皆さんはそれを行使している」と話した。
 航空自衛隊宮古島分屯基地の観月会にはスラウ艦長、レイモンド・グリーン在沖米総領事らが参加。地元住民や自衛官らと酒を酌み交わした。
 「下地島空港の軍事利用に反対する宮古郡民の会」など複数の市民団体は23日、宮古島市の繁華街で買い物客らに抗議集会への参加を呼び掛けるチラシを配り、平良港第1埠頭ゲート前で抗議集会を開いた。24日の出港時も抗議行動をする。寄港を伝える新聞を見て初めて集会に参加した古謝幸宏さん(16)=宮古高1年=は「軍艦を生で見ると怖い。宮古に米軍が来たら、事件・事故が起こると思う。来ないでほしい」と話した。

この記事に書かれていない前提を注釈しておくと、掃海艦ディフェンダーは県や市の自粛要請にもかかわらず平良港への寄港を強行した。翌日の24日には宮古島市議会が米軍艦船と軍用機の来島に反対し、自粛を求める決議を全会一致で可決している*2
あたかもスラウ艦長の発言だけを読むと抗議が少数意見であるかのように感じるかもしれないが、実際の構図は異なる。現地の自粛要請を無視して上陸し、海岸清掃という一種のパフォーマンスを行い、目前の抗議にも無視し続けたわけだ。
たとえるなら、ストーカーが家にやってきて、出て行ってくれとたのんでも聞き入れず、勝手に部屋を掃除されてしまったようなものだ。この場合、掃除したからといってストーカーへ抗議するべきではないといえるだろうか。


むろん、どれほど反対が盛り上がろうと、自由な社会である限りは異なる考えを表明する人も出てくるだろう。自由意志で歓談した地元住民がいたこと自体に特別な疑問はない。
また、スラウ艦長達が自身の判断で抗議を聞き入れて「ボランティア」を自らの意思でやめることは難しかったのかもしれない。逆に行動が制限される軍人なりに誠意や善意を示そうとしたパフォーマンスなのかもしれない。
しかし、上記のような事情をくんでも、下記のようなコメント群は強く批判せざるをえない。
はてなブックマーク - 抗議に反応なく 米兵、浜清掃や観月会 平良港寄港 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース
艦長らの行動もまた一種のパフォーマンスであることを指摘しているのはid:odasige氏やid:usi4444氏くらいしか見当たらないナイーブさに驚かされる。

You-me 軍事, 社会, ネタ 自分の活動が社会からどう見られるかってのに想像力が働かない人は左にも右にもいますよ、と 2010/09/28

Ilovenoel 沖縄, 社会, ブコメが味わい深い, 後ろ弾, バカウヨホイホイ 間違った抗議の見本のようなもの。id:You-me氏のブコメに尽きる。/「敵失」に吹き上がるネトウヨ連中のブコメが香ばしい。 2010/09/28

なるほどid:Ilovenoel氏がいうように「敵失」ではあるだろう。しかし抗議活動の誤りではない。抗議活動の文脈をわざわざ説明しなかった琉球新報記事の説明不足といえる。結果としてid:ROYGB氏やid:zions氏が別の記事で情報提示する必要があった。
id:hagakuress氏やid:the_sun_also_rises氏のように反対は「自称『市民』だけ」「一部」という認識や、id:timetrain氏やid:teracy_junk氏のように「中華の手先」という認識まで見られる。
id:iouri氏やid:tyokorata氏、id:moderatan氏らは「写真」に映った抗議者の姿に嫌悪感をいだいたようだ。しかし実際には、わざわざ抗議者の眼前へスラウ艦長らが近づいていったという、正反対の構図で読み解くべき写真である。ここでid:zaikabou氏の「産経の記事だったら、悪意のある写真だ!という反応が集まった」という指摘は重要だろう。琉球新報は、自身が報道することによる文脈の伝達を過信していたのかもしれない。
id:hoshiyo氏、id:a2de氏、id:ynn_chapu氏、id:jagging氏、id:bn2islander氏らはスラウ艦長の態度を「大人」と評している。実際には現地の要請を無視していても、あたかも自身が極一部の意見表明を許しているかのようにふるまえば、どちらが強行したのかを偽装することができるわけだ。たしかに大人の政治ではあるのだろう。それに騙されるならば子供だが。


最後に、どうしても見逃せない2つの主張を批判しておく。

id:ryankigz 琉球新報, usa 言ってもしょうがない(どうこうする権限のない)相手に執拗に嫌がらせのように主張する、ってどっかでみたなあ。最近だと京都とか徳島とかで。 2010/09/27

id:hatredlef アメリカ, 沖縄, これはゲスい なー、これが正当なレジスタンス(笑)なら、桜井の豚の仲間たちはとてつもない「ふとーたいほ」(笑)になるんだが、ええの?<はてサさま 2010/09/28

これまで批判してきたコメントには、まだ記事が説明不足だった面があると擁護する余地もある。しかし、現地の人間が米軍の艦長へ接近してプラカードをかかげることと、暴力行為までいたるような在特会の運動を、どうすれば同じように見ることができるというのか。
暴力行為、名誉毀損にあたる発言、私有物を勝手に撤去するような行動が、この説明不足ですらある記事からhatredlef氏は読み取れるとでもいうのか。それとも、まさかとは思うが、スラウ艦長らの海岸清掃を指して「正当なレジスタンス」と仮定したとでも釈明するのだろうか。しかし、それでも桜井誠氏らの逮捕と同一視することはできない。
また、全体主義国家との関係が問題視された学校で学ぶ選挙権すらない子供と、民主主義国家の志願制による軍隊で艦長という立場にある大人が、同じように「権限のない」存在とryankigz氏は思うのだろうか。それとも、スラウ艦長らの海岸清掃は上層部から命令され、望まずに行なっている「ボランティア」という根拠でも持っているのか。それでも子供と同様に抗議を受けないですむ立場とは考えられないが。


気にいらない社会運動をおとしめるため在特会批判を利用する。自身の善良ぶりを装うために比較対象としての在特会を求める。そのように利用するためにする批判では、在特会的な悪へあらがう力はなく、それどころか批判し続けるために維持を願う動機とすらなるだろう。

むろんこのように悪を比較対象として利用する卑劣さは在特会の話題に限った問題ではなく、普遍的な問題としても考えるべきだろう。

*1:はてなブックマークにおけるteracy_junk氏の認識から引用する。

*2:http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-167943-storytopic-1.html

Add Stardwnrvrpoppen38dimitrygorodokdimitrygorodokdimitrygorodokdimitrygorodokIlovenoelIlovenoelGl17Gl17GerardNakanishiB
  • id:hagakuress


    しっかり拝読たワケではないのですが、取り急ぎです。ブコメが舌足らずだったようで、『このような態度での反対』を加筆しました。私は、このような合理性が無いように見え、しかも不躾な態度で抗議しているように見える『抗議者』に、宮古の市民が同意するとはとても考えられません。

    同意があったとしても、年金や雇用への不安も無く、昼休みも、ゆとりあるプライベートタイムも政治活動に投入出来、その活動も非常に活発な労組系左派の方々じゃないでしょうか?

    『しかし実際には、わざわざ抗議者の眼前へスラウ艦長らが近づいていったという、正反対の構図で読み解くべき写真である。』

    そうでしょうか? 入港という軍の決定について、現実的にはそれに反対する地元市民と議論出来ない立場にいる艦長。この艦長や乗組員にビーチクリーンの最中にもプラカードで抗議をする目的はなんだろう? 広く報道される事を期待しての行為なのか? 結果として、取材記者が入れた写真のキャプションはこうなった。

    『ビーチ清掃で市民からの抗議に反応せず作業するアンドリア・スラウ艦長』
    ここから『スラウ艦長らが近づいていった』という洞察には、辿り着きにくい気がします。

  • ゆーり (id:iouri)

    恣意的な写真であることについては大きく同意します。ブコメにも最初からそう書いてますし。

    >わざわざ抗議者の眼前へスラウ艦長らが近づいていった
    難しいかもしれませんが、この部分客観的(当事者による主張以外の)なソースはありますでしょうか?

  • id:hokke-ookami

    今回はIDコールを広くしたこともあり、反論しているはてなブックマークコメントにも返答しておきます。

    id:teracy_junkさんへ
    >はてサ IDコールされたが、コメント書いても無視されるだろうからブコメで。なんというか、まあ…あくまで自分達は無謬の存在であるといいたいなら主張するのは自由。ただし見た人間がどう解釈しようがそれも自由 2010/10/07

    私はコメントを無視することは、滅多にないと自負しています。コメント欄を削除したのも、明らかな宣伝スパムコメントを数回と、誤って返信相手の書き込みを消してしまった時だけです。安心してコメントしてください。
    その上で指摘しておきますと、teracy_junkさんは当該コメント全体で「基地外でボランティアに勤しむ兵士の目の前で侮辱するキチガイ、という図。いい加減中共の手先共はくたばれ」と記述しています。解釈は自由でも、抗議が中共の手先によるものではない(もし手先なら全島が中共の支配下というマンガみたいなことに)という事実は受け入れる必要があるでしょう。
    さらに民主的な手続きをとった抗議者に対して「キチガイ」と呼ぶにいたっては、言論や表現の自由からも逸脱する罵倒ではありませんか。あなたは主観的な解釈で根拠もなく他者を「キチガイ」と呼ぶことを自由と考える人間なのですか。

    id:moderatanさんへ
    >だがストーカーの例は不適切。彼らは不法侵入ではない。

    はい、あくまでストーカーは比喩表現であり、現実とイコールではありません。抗議者の心象を説明したものです。注釈するべきだったかもしれません。
    ただし、米海軍と宮古島の権力は非対称です。どれほど悪辣なことでも法で制限できないという宮古市側の事情もくむべきだと思います。そしてこれは宮古島に米軍の負担を押しつけている日本政府や私をふくむヤマトンチュ社会にも責任がある話です。
    ちなみに、家父長が家族の反対を押し切ってカルト宗教を家に呼び、そのカルト宗教信者が嫌がる家族の部屋に入って抗議する眼前で掃除していった、などという比喩も考えていました。しかし煩雑である上、これはこれで誤解をまねきかねないのでやめました。

    >自らの無謬性を過信する「市民」とそれを利用するメディアには首肯できない。

    記事が説明不足という面はあるかもしれませんが、無謬性の過信がどこに見受けられるのでしょうか。この抗議者らが抗議方法への批判を受け付けなかったという報道は見当たりませんでした。
    「過信」というなら、海岸清掃というパフォーマンスが現地住人に好意的に受け入れられるべきと考える側にこそあるのではないでしょうか。

    hagakuressさんへ
    >私は、このような合理性が無いように見え、しかも不躾な態度で抗議しているように見える『抗議者』に、宮古の市民が同意するとはとても考えられません。

    少なくとも抗議者も宮古の市民だと思いますよ。「反対派住民」と記事にありますから。自分で時間を作ることができる自営業もいるでしょうし(農業漁業関係者は少なくないようです)、労組関係者であることは市民であることと両立します。

    >この艦長や乗組員にビーチクリーンの最中にもプラカードで抗議をする目的はなんだろう?

    実力で排除という選択をとらなかった以上、プラカードを見せるしか選択肢がないと思います。スラウ艦長に選択肢がないと考えるだけでなく、抗議者にも選択肢がないのだということも考える必要があると思います。
    たとえば写真に映った相対する姿を、権力を持たない人々が政治の無策によって前線に立つ羽目になった鏡像である、という文脈で見てみればどうでしょうか。

    >ここから『スラウ艦長らが近づいていった』という洞察には、辿り着きにくい気がします。

    はい、「琉球新報記事の説明不足といえる」と私もエントリで書いています。注意しておきますと、宮古島寄港という米海軍の行動全体を含意して「近づいていった」と表現しました。

    iouriさんへ
    hagakuressさんへの返答と重なりますが、宮古島寄港という米海軍の行動全体を含意して「近づいていった」と表現しました。現地にいた住民に対し、寄港しなければ島に米海軍は存在しませんでした(当港への寄港は初だったそうです。http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-167821-storytopic-1.html)。スラウ艦長らも能動的に動かなければ、その海岸に存在すらしなかったはずです。
    むろん、スラウ艦長本人の内面はうかがえません。しかし、抗議を引き受けるべき責任者で他に適切な例は他にいないでしょう。

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