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【国際】

<消えぬ分断 ベルリンの壁崩壊30年> (下)排外主義 社会に亀裂

10月27日、テューリンゲン州議会選での躍進を喜ぶAfDの筆頭候補ヘッケ氏(左)。反ユダヤ主義的な発言が危険視されてきた=ロイター・共同

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 反難民・移民を主張する右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の選挙集会で、始まる一時間以上前から最前列に陣取る高齢の夫婦がいた。

 「まじめに払ってきた税金が難民のために使われている。気が付いたら私たちは行列の一番後ろにいた」。ハインツ・ダーリックさん(67)は不満をあらわにした。

 中東などから難民・移民が欧州に押し寄せた二〇一五年、メルケル首相は人道問題として受け入れを決断。一五年だけでドイツに約八十九万人が入国した。難民には宿泊施設や食事が提供され、難民認定されれば社会保障も受けられる。

 東部ブランデンブルク州パイツで行われた集会には人口四千人余りの町に約千人が集まった。AfDのガウラント共同代表が演説でメルケル政権を批判すると、ひときわ大きな拍手が湧き起こった。

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 「紛争が収まったら難民は母国に帰るべきだ」とダーリックさんの妻アネッテさん(57)。夫妻は以前、メルケル氏が所属する中道右派「キリスト教民主同盟(CDU)」の支持者だった。今は年金暮らしだが、自家用飛行機を所有し、生活に困っているわけではない。

 一六年末にベルリンで難民として入国した男によるテロが起き、難民を巡る世論は割れている。国政の連立与党は昨年、二つの州議会選で大敗。メルケル氏は党首退任に追い込まれ、二一年までの首相任期を全うした後、政界を引退すると表明した。

 AfDは今年九月と十月の旧東独地域の州議会選でも躍進。三州とも得票率20%以上と前回選挙から倍増させ、第二党になった。

 旧東独地域では、移民の背景を持つ人が6・8%と旧西独の26・5%に比べ圧倒的に少ないが、AfD支持が高い。パイツに住む大工のベアント・メシャウケさん(58)は「難民が自分たちの近くにいるかどうかは問題ではない」と受け入れに強く反対する。

 ライプチヒ大学で右翼過激主義と民主主義を専門とするアレクサンダー・イェンデル研究員は「私たちの調査では、テューリンゲン州でAfDに投票した85%が反イスラムだった。東西の経済格差が要因ではなく、基本的に外国人嫌悪がある」と指摘する。

 ドイツでは六月、CDU所属の地方政治家が、右翼過激派と関係する男に撃たれて死亡。十月には東部ハレで、右翼思想の男がシナゴーグ(ユダヤ教会堂)を襲撃し、通行人ら二人を射殺する事件が起きた。テューリンゲン州議会選ではCDU候補に殺害予告の脅迫メールが届いている。

 ベルリン自由大学政治学研究所のカーステン・コーシュミーダー研究員は「近年のAfDの伸長や党幹部らのメディアでの発言が、右翼の過激化を助長している面は否めない」と懸念する。排外主義の高まりでドイツ社会に生じた亀裂によって不穏な空気が広がりつつある。 (パイツで、近藤晶)

<ドイツのための選択肢(AfD)> 2013年に結党した新興右派政党。反難民・反EUを掲げるポピュリズム(大衆迎合主義)政党の一つ。17年9月の連邦議会選で初めて国政に議席を獲得、第3党となった。16連邦州すべての州議会で議席を持つ。

 

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