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【国際】

<消えぬ分断 ベルリンの壁崩壊30年> (中)東西格差 「心の壁」今も

ドイツ東部ブランデンブルク州コトブス郊外の褐炭採掘場跡地。遠くに火力発電所が見える

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 何もない平原の遠くに、水蒸気を上げる火力発電所が見えた。ドイツ東部ブランデンブルク州コトブス。褐炭の露天掘り跡地を見下ろす展望台にいた元教師のロジンさん(88)は嘆いた。

 「仕事がなくなって若者はどんどん西側に出て行った。東西ドイツ統一直後は希望があったが、徐々にしぼんでいったよ」

 一九九〇年の統一後、旧東独では国営企業が民営化され、生産性の低い企業は淘汰(とうた)された。コトブスでも洋服工場などがつぶれ、若者たちが仕事を求めて町を出て行った。州内ではベルリン近郊のポツダムに次ぐ都市だが人口は約十万人、統一前のピーク時から約三万人減った。

 コトブスを含むポーランドとの国境に近いラウジッツ地方は褐炭の一大産地で、かつて旧東独のエネルギー供給を支えた。しかし、石油や天然ガスなどエネルギーの多様化が進み、最盛期に十七カ所あった採掘場は現在四カ所にまで減少。展望台から見えた跡地も二〇一五年に閉鎖された。

 メルケル政権は今年、三八年までの「脱石炭」を決め、基幹産業の先行きは暗い。脱石炭を答申した諮問委員会は石炭産地に対し、二十年間で総額四百億ユーロ(約五兆円)の財政支援策を政府に求めたが、産業転換や雇用創出などの具体策はこれからだ。

 露天掘り跡地は今春から貯水が始まり、二〇年半ばには国内最大の人工湖ができる。タクシー運転手のフランク・シュミットさん(50)はヨットハーバーなどが整備される計画に疑問を投げかける。「人工的な湖に魅力を感じる人がいるだろうか。町の活性化につながるとは思えない」

 旧東独地域で四カ所の発電所を運営するラウジッツ・エネルギー社は約八千人の従業員が働く。脱石炭を見据え、再生可能エネルギーや蓄電池事業のほか、ごみ焼却など火力発電所の技術を活用した多角化を進める。それでも「現状の雇用は維持できない」(広報担当者)という。

 統一後、東西の経済格差は縮まってはいるものの依然解消されていない。旧東独の方が失業率が高く、平均賃金も約五百ユーロ(約六万円)低い。政府の報告書では、旧東独市民の57%が「二級市民」と感じ、統一が成功したと感じているのは38%にとどまる。ベルリンの壁が崩壊しても「心の壁」は残っている。

 旧東独で育ったメルケル首相は統一から二十九年を迎えた十月三日、式典演説で報告書の数字に言及し、「統一が旧東独の多くの人々に肯定的に受け止められていない理由を私たちは理解する必要がある」と融和を訴えた。

 「統一後、町のインフラは整備された。でも給料は安く、生活レベルは低いと感じる。雇用に不安があるのが一番の問題だ」。コトブスに住むウルズラ・カーメッツさん(67)は発電所に協力する電気設備会社で統一前から働いてきた。「褐炭産業がなくなれば、地域経済は完全に死んでしまう」

 (コトブスで、近藤晶、写真も)

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