穐吉洋子
母親が直面する孤立子育て……全てを抱え込んで破綻、「妻の孤独」の泥沼
11/7(木) 11:52 配信
子育てに専念する「母親」の中には、深い孤独に陥る人が少なくない。家族も含め、大人との会話がほとんどない人もいる。そんな母親たちの声には、誰が耳を傾けるのだろうか。声が誰にも届かないとしたら?──。育児のストレスでメンタルを病む母親たち。その要因が「家事・育児への夫の不参加」ではなく、「妻の孤独」という調査もある。現場を歩いた。(取材:伊澤理江/Yahoo!ニュース 特集編集部)
あの日、緊張が切れた
橋本由紀子さん(仮名、30代)の自宅マンションは、東京の23区内にある。壁や家具などの調度品は、白で統一。いつ訪れても掃除は行き届いていた。子どものおもちゃも、いつも決まった場所にしまってあり、絵本も乱れなく本棚に並んでいる。
その部屋で由紀子さんは夫に泣きながら、「起き上がれない、力が入らない」と訴えたという。2015年の春。前日から一睡もできないまま、朝を迎えた日のことだ。
(イメージ撮影:穐吉洋子)
生後10カ月の息子を抱けない。授乳もできない。食事を作る気力もない。精神科の病院に行ったが、家族の誰と一緒だったのかの記憶もあいまいだ。その前後のことは「よく覚えていない」と言う。振り返ると、心身が正常ではなかった。
医師には「産後うつ」と診断された。
結婚後、会社員の夫は中国に赴任することになった。由紀子さんも仕事を辞め、中国へ。そこで妊娠し、出産前に一人で一時帰国した。産後は、慣れない育児に追われていく。同時に中国へ戻る準備も進め、荷物も全て現地に送った。
その直後、事態は変わる。
「辞令が出て、夫の帰国が急に決まったんです。気を張って(中国に戻る)準備をしていたのに、はしごを外された。赤ちゃんを海外に連れて行く緊張感がブツッと切れました。ずっとネットで、予防接種をどうするの、ミルク用の水はどうしたらいいの、って調べていて、ピリピリしていたんです。その頃から気持ちのバランスが崩れたんだと思います」
(イメージ撮影:穐吉洋子)
日本で家族3人の生活が始まった。そして、思いもしなかった「現実」に由紀子さんは直面する。営業職の夫がなかなか帰宅しないのだ。接待や社内の飲み会で、深夜の2時、3時まで帰ってこない。
「(育児は)任せた、という感じで。子どもの夜泣きがすごくて、私は寝られない。お皿のカチャッという小さな音でも起きちゃうんです。やっと寝かしつけても、夫が帰宅した時のドアの音、ドタドタという足音で起きてしまう。酔っ払って、『ただいまー』と大きな声……。殺意すら感じて。『お金さえ入れてくれれば帰ってこなくていい』と言ったこともある」
仕事という別世界を生きる夫。由紀子さんの声は、最も身近な人にもなかなか届かなかった。
SOSをうまく発信できない
夫は朝7時過ぎに出掛けた。帰宅時は、たいがい酔っ払い。その日にあったことや子どものことを聞いてほしいのに、聞いてくれない。誰か大人と話したいとの思いが募ると、疲れていても無理して子どもを連れて外出し、友人と会った。そうした予定がない日は朝から真夜中・未明まで子どもと2人きりだ。
(イメージ撮影:穐吉洋子)
由紀子さんによると、息子は怖がりで、とにかく母親を求めたという。
体から離すとすぐに泣く。4時間おんぶしてやっと寝たと思い、布団に置くと、また泣きだす。夫や由紀子さんの母では泣きやまず、2人とも手を貸さなくなった。
掃除、洗濯、炊事は、子どもが泣くたびに中断される。やがて、由紀子さんには赤ちゃんの泣き声を耳にすることが恐怖に変わった。
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