穐吉洋子

ワンオペ育児の中で「こうでなきゃ」が苦しめる “理想の母親像”の呪縛

11/8(金) 12:01 配信

「お母さんになったんだから、こうしなきゃ」。子育て中の母親の中には、この“理想”にとらわれ、苦しむ人が少なくない。手作りの食事、きれいに片付いた部屋、幼いうちは子どもと一緒に……。それを当然だと思う周囲の人たちには「家族」も含まれる。専門家によると、そうした「あるべき姿」が育児を苦しいものにしている大きな要因なのに、当の母親はそれに気付いていないという。今回は「家族そろってのピクニックが憧れだった」という女性の話から始めたい。(取材:伊澤理江/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「家族みんなで……」に憧れたけど

「土日に公園に行くと、パパ、ママ、子ども。家族みんなでピクニック、憧れました」

東京都内に住む高野友美さん(仮名、30代)は、8年前をそう振り返る。子どもが生まれた直後。ごく普通に思えるそんな風景が縁遠かった。

夫は当時27歳。レストラン勤めのコックで、深夜2時近くに仕事が終わる。その後は夜の街に遊びに出かけ、毎晩のように帰宅は午前4時頃。休みの日は、疲れからずっと寝ていたという。

「『起きてどこか行こうよ』とか、『買い物行くから重いもの持って』とか言うと、しぶしぶついてきて。あなたはこの子の父親じゃないの、っていら立って」

(イメージ撮影:穐吉洋子)

里帰り出産だった。郷里は仙台市。2011年3月の東日本大震災からおよそ2カ月余り後に帰省し、陸に上がったままの漁船を目の当たりにした。大震災の衝撃が続くなか、女児を出産。赤ちゃんには黄疸(おうだん)が出て、白目まで黄色かったという。治療を受けても良くならず、市内の小児病院に転院し、週1回の通院が半年ほど続いた。

子どもと2人きりの生活が始まったのは、東京に戻ってからだ。

出産前、友美さんはウェディングケーキのパティシエとして働いていた。仕事つながりの友人たちは、飲食店勤務の「夜型」。子どもが生まれてからは、友人たちと顔を合わせることもできない。

「私は人見知りが激しいので、友達になりにくいんです。児童館に行っても、『何カ月ですか、かわいいですね。大きいですね。こんなこともできるんですか』って、上っ面の会話をしなきゃならないし……」

高野友美さん(仮名)が経営するカフェで(撮影:伊澤理江)

大人と会話をする機会がない。仕事を辞め、育児中心になって初めて、自分と関わる大人が周囲にいない孤独に陥った。タンスの引き出しを順に開けて、次から次へと洋服を全て引っ張りだしたこともある。

「あの時の私、本当に壊れていたと思う。薬局行って、スーパー行って、の毎日なんです。睡眠もろくに取れず、一人ぼっちで育児して。やることがなさすぎて、凝った離乳食を作っていました。途中で泣かれると、娘に『あなたのために作ってるんだから』って言って、泣いているのを放置して、完璧な離乳食を作ってた。たいして食べないのに……。自己満足です」

友美さんは続けた。

「自分の欲求をすべて無視した状態じゃないと、育児ってできないじゃないですか? 自分の欲求を満たすことが大事だった」

(イメージ撮影:穐吉洋子)

母になって知る「つながりのなさ」

ワンオペ育児につきまとう疲労と孤独。

東京都北区にある民間の子育て支援施設「ほっこり~の」にも、そうした母親たちが次々とやってくる。代表の内海千津子さん(48)は、母親の社会的ネットワークの狭さを感じるという。

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