ドネアは誇り高き敗者だった。最終回の終了ゴングを聞くと、顔面傷だらけのドネアは井上の頭をなでるように抱き締めた。控室に戻ると通訳を通じ「これで、井上が真のチャンピオンであることが証明された。素直におめでとうと言いたい」と勝者を祝福するコメントを残し、検査のため病院に向かった。
5階級制男も落ち目の36歳。ほとんどの関係者が井上の勝利、しかも、早い回での決着を予想した。しかし、ドネアはゴングと同時に前に出た。肉を切らせて骨を断つ作戦だった。11回にはボディでダウンを喫したが、立ち上がり、一発逆転の左のカウンターフックを狙い続けた。判定決着となったが、ドネアの頑張りで名勝負となった。「仮に負けても辞めない。90歳のおじいちゃんになって、まだできたと後悔したくないから」と戦前、言っていたドネア。負けて株を上げた。