「ファクト」「エビデンス」至上主義者の末路

「昨年の正解」が「来年の正解」とは限らない

「エビデンス」「ファクト」どちらも重要ではありますが……(写真:Fast&Slow/PIXTA)
「そう結論づけるエビデンスは?」「ファクトベースで考えようよ」――。最近、ビジネスではこのような言動がよく見受けられます。エビデンス(証拠・根拠)やファクト(事実)を基に事象を捉えたり意思決定をすることは確かに重要です。しかし無条件にこれらを重視しすぎると、足をすくわれることもあります。
ダークサイドオブMBAコンセプト』を上梓した、日本最大級のビジネススクール、グロービス経営大学院で教鞭を執る嶋田毅氏に、これらに潜む落とし穴&罠を解説してもらいます。

ノーベル賞でも重視された「エビデンス」

ビジネスに限らず、ファクトやエビデンスをベースに意思決定や制度設計を行うことが最近強調されるようになっています。

『ダークサイドオブMBAコンセプト』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

先日発表された2019年のノーベル経済学賞もまさにその点が評価されました。

受賞者であるアビジット・バナジー、エステール・デュフロ、マイケル・クレマーの3氏は、最貧国の貧困撲滅という、個人的な立ち位置や思想信条などから「べき論」が横行しやすい分野において、具体的なエビデンスに基づいて貧困撲滅に効果的な手段を見いだす方法論を開発しました。

彼らが用いたのはRCT(Randomized Controlled Trial:ランダム化比較試験)と呼ばれる手法で、元々医薬品開発などで用いられてきたものです。

RCTでは、「それ以外の条件はほぼ同じである、比較対象できるサンプル群」を作り、ある要素だけ変えてどのような差異が生じるかを観察し、それをエビデンスとします。

例えばAという群には避妊具を無償配布し、Bという群にはなにもしなかったとします。

その結果、A群とB群で10代女性の妊娠率やHIV感染率に大きな差がなかったとしたら、「避妊具を無償配布することは10代女性の妊娠抑制やHIV防止にはあまり効果がない」ということがわかるのです。まさに医薬品の効果を検証するプラシーボ(偽薬)実験に似ています。

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  • にしべa6605f19310f
    日本の官庁や企業の問題点の一つに、事実やデータの軽視です。

    日本軍の行動を分析した「失敗の本質」や「組織の不条理」を読めば、そのことは容易に知れます。
    現在の日本の組織でも、全く変わっていないことも分かります。

    そうした中で、エビデンスを軽視する記事は頂けない。


    「ファクト」「エビデンス」至上主義者の末路とは言うものの、筆者の捉え方がおかしい。


    > 自分が望むファクトやエビデンスが集まらないからといって意思決定や行動を遅らせることは、変化の速い時代にはむしろ痛手となると考えておくほうがいいでしょう。


    これって、そもそも情報を利用する側の認識がおかしい。
    自分が望む情報を待っている時点で、情報を恣意的に利用している。


    × 「ファクト」「エビデンス」至上主義者
    ◯情報の恣意的利用者

    もう少し、整理して書かれては如何でしょうか?
    up35
    down2
    2019/11/8 06:13
  • 働きたいけど働きたく26dd4a0e37b9
    ファクトとエビデンスは因果関係がわかっていて初めて安全に使えるものだ。
    だから薬でも、体の中で薬がどう働くのかメカニズムを調べるのだ。

    私から言えば、メカニズムがわからないようなエビデンスは未熟な科学であり、頼るものではなく研究するものだ。
    メカニズムを解き明かす研究は直感が必要である。

    だから直感に頼ろうという事には賛成できる。
    かといって、エビデンスは必要ないということでは決してない。
    up0
    down2
    2019/11/8 12:03
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