身長差18センチのバッテリーが躍動した。今回の侍で最も高い高橋礼(188センチ)が、最も低い甲斐(170センチ)の構えるミット目がけてライジングボールを投げ込む。わずか1安打。プエルトリコ打線に、6イニングで14ものゴロの山を築かせた。
「アンダースローは他の国を見ても少ないし、日本代表でも一人だけ。僕のボールを見た後に、速球派を見ると違うはず。だから1イニングでも長く投げたかった」
誰よりも背の高い男が、なぜ誰よりも低いところから投げる?いつから?多くは高校や大学での挫折が契機となって上手投げから転向するが、高橋礼は素質を見いだされた。「下から投げたときの方が回転がいい」。守備練習での送球を見た中学時代のコーチの言葉が、彼の人生を変えた。
1年目は未勝利なのに、2年目の今季は12勝。覚醒のポイントは「怖がるな!」だった。今季の高橋礼は右打者の被打率が2割1分7厘なのは納得としても、下手投げにとって天敵であるはずの左打者も2割2分5厘と封じ込めている。
「左打者もインハイに向かってくるボールが一番怖い。左打者に外角球を踏み込ませないように意識してから、結果として右も左も同じように抑えられるようになったんです」
地面スレスレから打者に近く、高く投げることで植え付ける恐怖心。投球間隔(無走者時)10.0秒でパ・リーグのスピードアップ賞に選ばれたテンポ。メキシコリーグ本塁打王(42本)の3番・オルティスを含む4人の左打者(両打ち2人)を寄せ付けなかった。
渡辺俊介、牧田和久。過去の侍は必ずアンダースローが躍動した。2013年の第3回WBC。語り草となっている台湾戦での牧田のダイビングキャッチを、すでにサブマリンだった高橋礼は鮮明に覚えている。あれから6年。侍の伝統はしっかり継承された。