ディープラーニング=万能ではない。データの関係性から特徴をつかむ「スパースモデリング」という技術

ディープラーニングの普及が進んでいる。しかし、ディープラーニングはその特性上、膨大な量のデータと、データを処理できるGPUなどの高価な計算機が必要だ。そして多くの企業は、その2つを用意するところでつまずいている。

今回紹介するスパースモデリングは、少量のデータから特徴を抽出し、学習と推論を行える技術だ。スパースモデリングについて、京都のAI企業ハカルスのデータサイエンティストである増井隆治氏に話を聞いた。

増井隆治氏
中学生の頃からプログラミングに興味を持ち、鈴鹿高専で情報学の基礎を学び、その後京都大学に編入し、より高度な数学を学ぶ。大学の実験で仲良くなった大関先生の紹介でハカルスでアルバイトを始める。3年間のアルバイトの後、ハカルス初の新卒として入社。データサイエンティストの仕事に邁進している。

スパースモデリングはものごとの「スパース性」に注目する

スパースモデリングとは何なのか。それを理解するには、まず「スパース性」という概念を理解する必要がある。

そもそもスパースとは、「すかすか」という意味だ。スパースモデリングは、あらゆるものごとに含まれる本質的な情報はごくわずか=すかすかであるという仮定(スパース性)に基づき、入力から出力に対して「どこが本当に必要な情報なのか」を見極め、抽出する。

では、どのように本質を見極めるのか。その答えとなるのが、「データ間の関係性を特定する」という特徴だ。出力を行うとき、スパースモデリングでは入力となるデータそのものに注目するのではなく、入力と出力の関係性を洗い出す。データ同士の関係性に注目することで、入力データ自体の多寡や質は関係なくなり、結果的に必要なデータは少量で済む。

――増井
「スパースモデリングは、一見複雑そうな現象を『シンプルに説明できる』という仮定に基づいて分析する技術です。たとえば猫と犬を判別する際にデータが少なかったとしても、目や耳など、どの部分が特徴として効いてくるのかを分析できます」

ディープラーニングの弱点とスパースモデリングの強み

スパースモデリングは、どのようなケースにおいて有効なのだろうか。それはディープラーニングと比較するとわかりやすい、と増井氏は言う。

――増井
「昨今ディープラーニングの普及が進んでいますが、ディープラーニングは完璧ではなく、いくつか問題点もあるんです」

増井氏が教えてくれた問題点は以下の3つだ。

ひとつは、データが大量に必要なこと。ディープラーニングでは、データの関係性でなくデータのみから学習を行うため、データがあればあるほど良い出力が期待できる。

つまり、データの量ができることの複雑さに比例する。そのため、データが足りない場合は期待していた出力が得られなかったり、分析の精度が下がったりする。また、計算過程をシンプルにすればするほど、できることの複雑さは下がり、単純な推論しかできなくなっていく。

そんなとき、スパースモデリングが有用となってくる。データ同士の「関係性」に注目するスパースモデリングでは、大量のデータは必要ない(もちろん、あるに越したことはない)。

スパースモデリングを表すもっとも重要な数式。第一項は「説明できる」、第二項は「シンプルに」という意味で、この数式を使ってデータに潜む本質を抽出する。

2つ目はマシンリソースの問題だ。ディープラーニングを扱うには、GPUなど大量の計算を回せるマシンが必要となる。前述の通り、スパースモデリングは大量のデータを必要としないため、FPGAなどのチップでも学習と推論を回せる。そのため、ディープラーニングと比較して消費電力が安上がりな面があるという。

また、ディープラーニングでは膨大なデータに対してアノテーション(正解データをラベル付けする作業)が必要となるが、これもスパースモデリングでは少量のデータに対するアノテーションで済む。したがって、データ準備にかかる時間、工数を削減できる。

――増井
「とあるプロジェクトで、GPUを4枚使い、ディープラーニングで学習に100分かかっていたAIモデルがありました。これと同等の精度を、スパースモデリングを用いて、CPUのみで、学習時間20分で達成しています。CPUのみなので消費電力も80%ほど削減できました。

もちろん一般的に必ず良くなるという話ではありませんが、注目すべき数字です」

最後に、説明可能性の点。ディープラーニングは大量のデータから特徴を抽出するという特性上、計算の過程が非常に複雑だ。そのため、解釈可能な形での説明が難しく、ディープラーニングの計算過程はブラックボックスとも言われている。

対してスパースモデリングでは、「スパース性」を利用することで、できるだけ特徴を単純に解釈する。「入力と出力の関係をなるべくシンプルに説明するので説明可能な点が強み」だと増井氏は語る。

――増井
「結局、ディープラーニングでは判断に対する『なぜ?』が導けません。OKかNGの2択だけなんです。スパースモデリングのような説明可能なAIであれば、なぜ異常が出たのかがわかり、原因を導けます」

医療、製造、宇宙──スパースモデリングのユースケース

具体的にスパースモデリングが向いている領域は製造業や医療分野だという。

たとえば、医療分野ではMRIでの撮影にスパースモデリングが使われている。MRIでの撮影には、磁石を用いて体内の情報を収集し、そこから体内の断面図を生成する。しかし、鮮明な画像を生成するには、長い時間をかけて撮影する必要があり、患者に負担がかかる。

かといって短時間で撮影すれば画像は荒くなる。そこで、画像のスパース性に注目し、体内の画像で本当に重要な部分を抽出することで、より短時間で鮮明な画像を再現できる。

MRI 出典:パブリックドメインQ

ビジネスに近いところでは、製造業の外観検査でスパースモデリングが活躍している。外観検査でディープラーニングを用いるには、良品、不良品を判定するために大量の異常データが必要だが、そもそも用意するのが難しい場合もある。

そこでスパースモデリングを使うことで、データの少なさをカバーでき、かつ軽量なのでチップなどエッジにも組み込むことができる。これらの技術はハカルスの外観検査サービス「SPECTRO」にも使われているという。

ほかにも、変わったところでは今年4月に話題になったブラックホールの撮影にも、スパースモデリングは使われている。

エッジAIとも親和性が高い。ディープラーニングでは計算量が必要な特性上、自前で計算機を用意しない場合はクラウドで学習を行うが、工場などでは情報流出のリスクから、そもそもクラウドに接続できないケースが多い。

スパースモデリングは軽量のため、エッジにモデルを置ける。チップなどにも組み込めるため、工場現場などでも使いやすいという。

ディープラーニングのためにデータ収集にリソースをつぎ込むのは本末転倒

ここまでスパースモデリングについて聞くといいことづくめだが、「データ量がそろっている状況では、スパースモデリングの精度はディープラーニングに負ける」と増井氏は語る。

――増井
「データ量がある状況では、スパースモデリングはディープラーニングに精度でかないません。ただ、現実世界でデータと計算機が揃っている理想的な状況は珍しい」

第4次AIブームと言われているものの、ディープラーニングに必要なデータをどう収集し、蓄積するかは、企業がAIプロジェクトを行う際のボトルネックになっている。外部パートナーと協力しようとしても、機密上、自社のデータを外部パートナーに委託できない企業も多い。

つまり、リソースが足りないからAIを活用し、本来の業務を効率化したいのにも関わらず、データ収集に業務を割かなければいけない現状は、本末転倒ともいえる。そのような場合は、ディープラーニングではなくスパースモデリングの活用も選択肢のひとつだ。当たり前だが、自社の課題に適合する技術を使えばいい。

――増井
「ディープラーニングはまさに今、さまざまな企業が取り組んでいるので知見を活かしやすい一方、スパースモデリングはまだまだ普及がこれから、というのもディスアドバンテージでしょう。そこはこれから我々のような会社が広めていきたいと思っています。

現在、AIブームの恩恵を享受できていないような業界が、より本質部分に工数を割けるようにするために、スパースモデリングも活用し課題解決をしていきたいと思っています」

経営・監査の進化を阻害する根本要因とは?PwC主催『AI・データ分析によるリスク管理・内部監査実務』セミナーレポート

2019年9月27日、PwCあらた有限責任監査法人が主催するセミナーイベント『AI・データ分析によるリスク管理・内部監査実務』が東京 大手町で開催。

「AI、データを活用する上で発生する様々な可能性やリスク、先進的テクノロジーを活用したガバナンス・リスク管理、コンプライアンス(GRC)ならびに内部監査について考察する」と銘打たれた本イベントに、レッジCMOである中村もゲストスピーカーとして招待・登壇させていただきました。

以下は当該イベントのサマリーレポートとなります。

最新事例の紹介、および各種導入・開発プロジェクトを止める根本リスク要素について

株式会社レッジ CMO 中村健太
セッション:日本企業におけるAIユースケースのご紹介

ゲストスピーカーとして招待・登壇させていただいたレッジCMOの中村は、主に国内事例を中心にデータ活用やAI導入に関する体制・構造的リスクについて解説。

主に『自社に閉じた体制』『失敗を許容できない評価構造』『高すぎる基準とリスク回避スタンス』が実際の導入フェーズにおいて発生させてしまうさまざまなリスクを解説し、回避策についても提唱させていただきました。

――中村
「従来のシステム開発と『データ活用』や『AI活用』といったプロジェクトを混同しないほうがいい。インプットからアウトプットを確定できない(させない)構造となるため、そもそもが失敗を織り込まなければ前に進めることができなくなる。

もちろんその進め方は自社だけで進めるにはリスクが大きい。よりオープンで柔軟な、開いた考え方をマネジメントレイヤーが持たないかぎり事業にも社会にもAI・データ活用は浸透しない」

アシュアランス提供者としてのAI・データ活用の是非、そして生まれる新たな課題の整理とは

PwCあらた有限責任監査法人 マネージャー 武田智行氏
セッション:内部監査業務におけるデータアナリティクスやAI利活用のポイント

続いて登壇されたPwCあらた有限責任監査法人のマネージャー、武田氏が語られたのは、主に「回避できない近い未来に業界として考えるべきポイント」に関してでした。

監査ワークフロー(≒人間の知的作業)を『作業』『認識』『判断』と定義し、それぞれの領域に対するAI・データ活用の可能性について解説。それぞれの領域を内部監査業務に当てはめ、いかに情報を単純化し、拡張し、実業の支援に使うか? といった観点でセッションを実施。

弁護士資格を持つ法務の専門家としての立ち位置から、主に社会的なリスクとの向き合い方に関するお話を展開いただきました。

――武田
「AIの内部監査業務での利用については、“技術的な可能性”とともに、“アシュアランス(保証)の提供という観点からAIを用いることの是非を検討”する必要がある。

後者を検討するに際しては、AIが提供する情報の射程を理解し、どこまで依拠してよいかを慎重に検討・判断することが求められる。今後、AI利用に対する社会的コンセンサスの形成とともに、内部監査業務におけるAI利用の範囲は拡大されると予想され、それに伴って内部監査人の役割や、求められる資格は変化していくと考えられる」

非構造化データの爆発的増加に伴うデータ解析・活用への期待。業界が抱える現状と課題について

PwCビジネスアシュアランス合同会社 シニアマネージャー 熊田 淸志氏(上)、マネージャー霜坂 秀一氏(下)
セッション:PwCのデータアナリティクスサービス・AIソリューションについて

ラストに登壇されたPwCビジネスアシュアランス合同会社 シニアマネージャーの熊田氏、マネージャーの霜坂氏が語られた内容は、全3部構成(内容的には前後半)となり、前半はPwCの進めるAI・データ活用を進める上でのガバナンスに関する考え方、および具体的な推進方法について解説。後半では現在に至るまでのテクノロジーの盛衰と今後の展開について紹介されていました。

すでにPwC内部で行われたいくつかの実証実験結果について解説し、そこで活用されたデータ、要素技術、推定される価値などについても開示。大規模サンプル数をとったCEOメッセージ調査など興味深い調査結果などについて報告いただきました。

――霜坂
「まだまだ “AIが人間の代替になる” という段階には至らないと思うが、すでにデータは氾濫し、そこに対する『経営観点での示唆が得られるのではないか』という業界の期待は伸び続けている。

しかし、一方で、利活用に向けてのリテラシー向上には課題が残っているのではないだろうか。多くの人が考えているよりもはるかに小さな労力と時間でさまざまなことが可能になってきていると自覚し、活用を進めていかなければならない」

総括:多くの企業が抱える課題と『あるべき論』との乖離

いわゆる内部監査に関連する業界の方(社外取締役などを複数やられている方など)が多く参加されていた本イベント。全体の認識としては以下のような課題を共有し、考える場となっていました。

  • 業界全体としての意欲は高いものの、利活用に向けてのリテラシー向上が課題
  • そのため逆に Tech系ソリューションやデータ活用のレバレッジが効きやすい
  • 結果重要なのはガバナンスであり、マネジメントレイヤーへのナーチャリングが遅れていると認識する必要がある

多くの業界、特に国内において古くから存在するマーケットにおいて確かに存在するリスクに対し、何をどう考え、どう実行していけばレバレッジを効かせるチャンスに変えることができるか。

そんな示唆に富んだセミナーイベントでした。同様の課題感を共有していることが分かったため、また近いうちにイベントやプロジェクトを一緒に進められるよう、我々も準備していきたいと思います。

「病気を治す」から「幸せになる」医療へ。人間を超え始めた医療AIの現在地

医療分野でのAI技術の活用は、1970年代ころの第二次人工知能ブームの時代から模索されていた。エキスパートシステムと呼ばれ、感染症診断・治療支援のMycinなどが知られる。

しかしシステムに耐えうる開発環境と実行環境がないといったハード面での問題や、誤診時の責任といった倫理・法律に関わる問題などのさまざまな要因により、実用化には至らなかった。

「冬の時代」を超え第三次人工知能ブームを経た現在、医療分野ではどのようにAIが使われるようになっているのか。AIが実装されるにあたって、新たな社会課題が生まれてくるのだろうか。

こうした問いに向き合うセミナー、第3回ABEJAコロキアム「すすむ医療のAI化、社会システムをどう再定義する?」が、10月25日(金)に開催された。

「ABEJAコロキアム」はメディア・報道関係者向けのセミナーとして2019年1月にスタート。“社会とテクノロジーの交差点にあるテーマを取り上げ、討論する場”として、登壇者による講演と、参加者とのディスカッションという2部構成になっている。

本稿では、「テクノロジーと医療の未来」というテーマで登壇したアイリス株式会社 CEO 沖山翔氏の講演内容を中心にレポートする。

医療×AIの現在〜画像認識による効率性改善から、診断・検出精度向上へ

沖山氏は、救急医として従事したのち、2017年にAI医療機器の研究開発を行うアイリスを創業。当セミナーでも、「医療とAI」「医療のこれから」について語った。

2019年現在、医療分野に大きな変化をもたらしているのは画像認識技術だ。沖山氏は「医療AIは診断・検出の分野で多く活用されている」と述べ、アメリカでの実用化事例を紹介した。

医師の診断時間を80%削減

現在、医療AIは放射線科の領域でもっとも導入が進んでおり、すでに黎明期を過ぎようとしているという。CT、MRI画像から病状を診断するものが中心で、レントゲン画像から骨折を感知するAI、エコーから臓器の状態を点数化するAIなどが該当する。

脳のスライスCT画像から脳出血を検出するAIの認識精度はAUC(認識精度を表す指標)0.948。人間がじっくり画像を見て判別するレベルに相当し、この検出AIによって医師の診断時間を80%削減できるという。

アイリスCEO・沖山翔氏講演資料p.17より引用

古いMRI機器の撮影画像を画質変換するというAIも存在する。MRIは高価な医療機器のため、利用サイクルが長く10年以上前の機器を使う医療施設も少なくないとのこと。長く使われている機器には鮮明な画像が撮影できないものもある。こうした画質が悪い撮影画像をAIが変換し、変換後の画像を人間が見、診断に役立てる(医用画像処理と呼ばれる)という事例もあるという。

アイリスCEO・沖山翔氏講演資料p.15より引用

医療機器のAIは「人を超える」フェーズに差し掛かっている

今でこそ医療現場に入りこみ、効率化に貢献しつつあるAIだが、かつては反対勢力の声が大きかった。「医療では、世界に300人程度しかいないような希少疾患もある。AIはビッグデータの集積なので、出現頻度が低い疾患のデータを得られなければ検出できない」というものだ。

しかし、現在では少ない量のデータで学習できるメソッドが開発されており、少ない数の画像から特徴量を見出すことができる。たとえばマイクロソフトによる「レンブラントの新作」風AIに学習させた画像は、わずか350枚ほどだという。

アイリスCEO・沖山翔氏講演資料p.7より引用

ほかにもゼロショットラーニングを利用し「これまで見た画像とはちがう特徴量を持つ」といった判断をさせ、希少疾患を検出することも理論上可能であり、数千枚もの画像が必要だった時代はもはや数年前の話という。

ゼロショットラーニング
訓練データのない(1度も学習したこともない)カテゴリの画像を、補助情報を頼りに分類するディープラーニングの手法

では今後、医療分野でのAI活用はいかに進化を遂げるのだろうか?

――沖山氏
「医療AIは効率化を進めるフェーズから、人を超える精度、成功率を実現するフェーズに差しかかっているといえます」

アイリスCEO・沖山翔氏講演資料p.19より引用

フェーズ3の「過去になかった診断方法を実現するAI」の例として沖山氏が挙げたのが、スマートフォンでの双極性障害検出だ。端末を見る頻度や、ECでの利用額などから患者がうつ(もしくは躁)状態かを推測・判断するといった、今まで使っていなかったデータをもとに診断を下すという。

「病気を治す」だけが患者を幸せにする手段ではない

こうしたテクノロジーの発展や時代の流れにより、沖山氏は「医療の対象が病気から人に変わってきた」と述べる。

尊厳死、という言葉が生まれる前は「命は尊いものだから、1分1秒でも長く生きることが大切。だから病気を治すべきだ」という価値観が浸透し、人工呼吸器や胃ろうといった延命治療技術が発達した。

しかし、患者が医療に求めているのは病気の根治だけでないという。

――沖山氏
「医師が大学で学ぶのは、サイエンスベースの学問としての医学です。しかし患者が求めているのは生活の質を高める“医療ケア”。心臓の冠動脈の詰まりを解消してほしいのではなく、痛みをとってほしい、死ぬかもしれないという不安を解消してほしいといったこと。

だから心の不安を解消できるだけでも、医学的価値があるのではないか。人を癒すものはすべて“医療”と呼んで良いのではないでしょうか」

アイリスCEO・沖山翔氏講演資料p.36より引用

沖山氏の言うように医療者の意識は変化しつつあるものの、技術サイドの研究者は「病気を治す」に意識が向きやすく、病気の発見や治療にフォーカスしたAIが多く開発されがちだという。

そうしたAIに対する「生き方をサポートする、幸せにするAI」の事例として、マイクロソフトによる「Project Emma」を紹介。

Project Emmaで開発されたのは、若年性パーキンソン病の患者向けのウェアラブルAIデバイス。リストバンド型のウェアラブル端末が手の震えのタイミングを学習し、手の震えの逆方向にバイブレーションを起こすことで、手の震えをキャンセルするという仕組み。あわせて機械学習で手の震えが止まる振動の強さも学んでいくという。

――沖山氏
「このデバイスは医学的な視点から見たら、まったく病気の治療をしておらず、対症療法にしかすぎないものです。でも彼女の人生にもたらした価値は計り知れません。

治すだけが医療でななく、根治を目指すのがAIの目的ではない。私たちは深く狭い医療の課題に向き合って、ひとつひとつの疾患に対していかに価値を出せるかを考え模索している最中です」

いまだ横たわる、AIによる誤診などの倫理課題

AI技術によって医療現場に変化が起きつつあるものの、医療分野のAI導入が抱えている課題は少なくない。

「学習データへのアノテーション(ラベリング)作業を医師自身が行わねばならず、リソースを割くのが難しい」(ABEJA Use Case 事業部 木下正文氏)といった問題から、個人の生き方に関わる倫理的な問題までいくつも立ちふさがっているように見える。

とくに後者は講演後の討論でも論じられており、AIが誤診したときの責任の所在や「過去にAIが病気になると予測したのに、(経済的などやむを得ない事情等から)適切な対処をしていなかった患者自身が責められる」といった世界になってしまうのか、という意見も出た。実際に、万人にとっての最適解は出せないだろう。

AIができることは「ある1つの目的(方向性)に対する解を出す」であるがゆえに、医療者あるいは患者の誰にとっても絶対的な正解が出せるとは限らない。自分がいかに生きるかを考え、方向性を示すのは、まぎれもなく自分自身である。

AI導入によって価値観が「揺さぶられる」事例は、医療分野に関わらず存在するだろう。今後も追っていきたい。

「風が吹けば〇〇が儲かる」を探せ。パナソニックが本気で取り組むスマートタウン改善アイデアソン

企業によるAI活用が進んでいる。プレスリリース配信サービスのPR TIMESでは、AI関連のプレスリリース本数は2014年から2018年にかけて32倍に増加した。

関連記事:変わらないまま生き抜けるか? 大局と現場から読み解く、AI時代の適者生存

AIをビジネスに活用する際は、AIで既存の業務を効率化するものと、AIをベースとしたまったく新しい事業を創り出すものがある。しかし、後者は大企業であればあるほど難しい。既存の自社のビジネスと競合せず、かつ自社のビジネスに貢献するであろうアイデアはそう簡単には思いつくものではない。

そんな中、企業のAI活用やデジタルトランスフォーメーションを推進するSTANDARDとパナソニックとが、AIを活用した事業・サービスの開発力を持った学生たちと協力し、パナソニックが構築するスマートタウンに関するアイデア創出プロジェクトを⾏った。

それに伴い、パナソニックが立ち上げた郊外型のスマートタウンで、学生も交えて実地調査が行われた。その実地調査の様子と、アイデアソンの様子を取材した。

「企業×学生」プロジェクト発足の経緯

パナソニックは創業者である松下幸之助の思想から事業を通じて地域活性化に貢献することを掲げており、その考え方のもと、自社の工場跡地でスマートタウンを開発した。今回のアイデアソンのために視察が行われたFujisawa SST(サスティナブルスマートタウン/藤沢市)、Tsunashima SST(同/横浜市)だ。

取材日に現地(Fujisawa SST)に赴くと、かなり大規模な住宅地が整然と並んでいるのが印象的だった。(写真提供:Panasonic)

今回のプロジェクトにおいて、パナソニックの課題感は「スマートタウンの中で取得したデータを十分に活かせていない」ことだった。パナソニックのビジネスソリューション本部 副本部長の岡山秀次氏はこう語る。

――岡山
「Fujisawa SSTでは、住民が入居する段階で許可を取り、各戸の電気使用量などのデータを取得し、その結果を住民の方にフィードバックすることで省エネ等につなげていただいています。

それらを、さらに役立つ住民サービスに活かしたいのですが、僕らでは『どうやって新しいビジネスに繋げるのか?』と考え方にキャップがかかってしまい、なかなか自由なアイデアが出ない。そこで優秀な学生の方々に、我々では思いつかないような革新的なアイデアを出してほしいと思ったんです」

SSTの高齢者住宅では、住民の睡眠管理データなども取得可能だ。実際に睡眠データを取得することで、高齢者の日中の転倒率に睡眠が関わっていることが発見できたという。

――岡山
「今後、たとえば、このデータを活用して介護施設で高齢者の睡眠管理にも注力し、施設の介護スタッフの離職率との関連性も分析してみたい。⾼齢者の睡眠が介護スタッフの離職率と相関があるとは誰も思わない。介護スタッフは高齢者が転倒しないようケアするにのに精神的負担があったかもしれない。こうした負担を解消できれば大きなインパクトになる。こんなふうに、『風が吹けば桶屋が儲かる』を見つけることを学生には期待しています」

そもそも、住民の生活データを取得するのは企業にとってかなりハードルが高い。個人情報を取得するためには、住民の同意のほか、自治体による制限があるケースもあるだろう。

しかし、SSTではすべての住民に入居の際の契約時に各種データを取得する契約を結び、了解を得た上で住民サービスに役立てている。「新しい取り組みやデータ活用に対する受容性の高い」住民とともに取り組むことで、便利な生活への改善を継続的に行うことができる。

「Fujisawa SST」現地視察の様子

実地調査は8月に行われた。Tsunashima SST、柏の葉スマートシティ、Fujisawa SSTの合計3回のうち、Ledge.aiが取材に入ったのはFujisawa SSTの回だ。学生たちはSSTに集合し、まずはこのスマートタウンがどのような施設なのかオリエンテーションを受けたのち、住宅地を視察した。

Fujisawa SSTは郊外型のスマートタウンだ。住宅地を少し歩くだけでも、さまざまな住民サービスが提供されている。

たとえば、こちらの電気自動車は、車のメンテナンス費用やガソリン代が一部自治会費でまかなわれ、利用する住民は乗った分だけ割安な費用を負担する、住民の「シェア自動車」だ。使用頻度や走行距離、誰が乗ったかなどのデータがすべて記録されている。

また、こちらの家庭菜園も同じくデータを取得している。定点観測によって天候や野菜の成長率などのデータを取得していたものの、これまでは十分に活用できていない状態だったという。

ほかにも、信号がない幅の狭い道路を、ショートカットしてしまう人が発生して危険、といったリスクも発見された。

実際の住宅地を見学することで、学生たちもどこを改善できるのか、どのようなイノベーションが起こせるのかアイデアを模索していた。

データネイティブ時代がサービス設計に携わる価値

STANDARDは、包括的に企業のAI推進をサポートする企業だ。企業のAIプロジェクトを担う人材に対してのオンライン研修や、AIエンジニアコミュニティ「HAIT Lab」のAI技術者による企業のPoCや開発プロジェクトの実行支援を行っている。

今回のプロジェクトも、STANDARD企業のAI・データ活用プロジェクトの推進事業の一環だ。パナソニックとSTANDARDがコラボレーションし、HAIT Labに所属する学生エンジニアを選抜。それらの人材に対して機械学習、ディープラーニングやプロジェクトの進め方などの研修を行い、実地調査を行う。そこで発見した課題や得たインスピレーションをもとに、パナソニックのビジネスにつながるようなアイデアを提案するのがプロジェクトのゴールとなる。

企業側のメリットだけでなく、学生がこのようなプロジェクトに関わるメリットはなんだろう。STANDARD COOの安田光希氏はこう語る。

――安田
「AIエンジニアやデータサイエンティストなどのインターンの場合、ほとんどが雑務やデータの前処理、プロジェクトが動き出す前のリサーチといった業務を振られがちです。サービスの上流から携われることは多くありません。こういったプロジェクトは、そもそものアイデア創出の部分から携われるので、学生からも有意義という声が多いです」

また、そもそものサービス設計として「データネイティブ世代」が携わったほうがいいものができるとも語る。

――安田
「今後は、データを渡すメリットとそれによる対価を理解している人が、サービス全体を設計することが重要です。データを企業に渡すことによるプライバシーの課題はもちろんありますが、そのぶんだけPDCAを早く回せますし、開発が早く進む。

それによってさらに便利なサービスを享受することが可能になります。だからこそ『データネイティブ世代』である今の学生たちを巻き込んでいきたいと思っています」

イノベーティブなアイデアをどう生み出すか

企業と学生がコラボレーションし、人材育成と企業の事業創造を同時並行で行うこのプロジェクト。企業は自社では思いつかないアイデアを得ることができ、学生は普段触ることができないデータを存分に活用して、事業づくりに携われる。

一方、企業にとって今後死活問題となる、「イノベーションをどう起こすか」という課題。求めているアイデアを生み出せるのは、学生や若手社会人などの「データネイティブ世代」かもしれない。テクノロジーを起点とした市場動向が激化する中、自社だけで人材リソースや開発スピードが足りない場合には、今回のように外部の力を借りることも必要だろう。

今回のようなプロジェクトが、今後のAIビジネス活用におけるアイディエーションの一般的な手法となることに期待したい。

AI調理ロボットのTechMagic、シードラウンドでJAFCOから資金調達──週間AI業界資金調達ニュース

Ledge.aiでは、AI業界の資金調達ニュースを毎週金曜日にお届けする。10月28日〜11月1日のニュースは以下の通り。

先週の記事はこちらから。

AI調理ロボットのTechMagic、シードラウンドで、JAFCOから資金調達を実施

調達額
非公開


調達先
ジャフコ
TechMagicは、「ロボットによる持続可能な食インフラを創る」ことをミッションとして、2018年2月に設立。外食産業が直面している未曽有の人手不足を解決するため、ロボットの企画、設計、製造、販売を行っている。調理ロボット事業、業務自動化AIロボット事業により、外食産業にとって最大のコスト費目である人件費に対し、ソリューションを提供する。

【ソリューションの特徴】

  • 業務軽減でなく、スタッフ一人単位で省人化可能
  • 既存の店舗 / 工場オペレーションと親和性の高い、コンパクト且つ高効率なロボット
  • ロボットの企画、設計、製造、販売を行い、幅広い調理方法・プロセスに対応

今回の資金調達により、以下の2点を中心に強化するという。

  • 調理・業務ロボットのコア技術の開発
  • 開発環境の充実

コア技術開発と開発環境を充実させ、最先端技術を利活用した調理ロボットと業務自動化ソリューションによる外食産業の革新と社会課題の解決を目指していくという。

営業支援ツールSensesのマツリカ、総額約5億円の資金調達実施

調達額
3.7億円


調達先
DNX Ventures
NTTドコモ・ベンチャーズ
SMBCベンチャーキャピタル
いよぎんキャピタル
(9月13日契約完了時点)
マツリカは、AI搭載のクラウド営業支援ツール「Senses」を開発・提供している。2016年のサービスリリース以来、営業現場のユーザーに向き合い、SFA/CRM運用の課題解決にこだわることで、営業業務の属人化解消と組織の働き方改革を実現してきた。2019年10月現在、利用企業社数は約1,300社を突破している。

【クラウド営業支援ツールSenses】
カード形式で感覚的に案件管理ができるSFA。蓄積された情報からAIが営業の成功・失敗事例を解析して、いつ・誰に・何を・どのように行うかをアシストする。データ入力負荷の低さや、フェーズ別に個人の強み・弱み分析ができる特徴を用いて、情報蓄積の文化醸成やデータを活用した人材育成など、営業チーム変革へのアプローチが可能だ。


今回の資金調達により、「Senses」のAI機能開発を加速させ、機械学習・深層学習による営業行動予測や売上予測など、モジュールの強化を行う予定だ。また、地方展開を強化するため、NTTドコモ、いよぎんキャピタルとパートナーシップ協議を進め、さらなる事業の拡大に邁進していくという。

AIでカスタマーサポートを革新するカラクリ、シリーズAで総額約5億円の資金調達を実施

調達額
約5億円(累計約6.6億円)


調達先
ALL STAR SAAS FUND PTE. LTD.
ジャフコ
BEENEXT2 PTE. LTD.
カラクリは「今までにないカラクリで世の中を豊かに」をミッションに、AIテクノロジーを活用した事業開発やソリューションの提供を行っている。

正答率95%保証(※)のAIチャットボット「KARAKURI chatbot」やFAQページを自動生成&最適化するAI「KARAKURI SmartFAQ」などのサービスを提供し、CS業務の人手不足解消やLTV向上などに寄与している。

※KARAKURIに搭載済のQ&Aを未知の質問でテストし、その回答正解数/テスト質問数で算出。業界や業種、FAQの数の多さや複雑度によって、保証正答率が変更となる場合がある。

今回調達した資金は、「AIチャットボットのKARAKURI」から、カスタマーサポート(CS)業務のデジタル革新 を起こす「CS Automation & Optimization のKARAKURI」への進化を実現するために、組織体制及び開発の強化に充当する予定。

国産ファイル管理・共有SaaSのファイルフォース 第三社割当増資により、約5億円の資金調達を実施

調達額
約5億円


調達先
シーティーエス
NTTインベストメント・パートナーズファンド3号投資事業有限責任組合(NTTドコモ・ベンチャーズ設立)
OCP1号投資事業有限責任組合(岡三キャピタルパートナーズが設立)
ファイルフォースは、企業におけるあらゆるデータの保管、管理、共有などができるセキュアで高機能なクラウドファイルストレージ「Fileforce」をSaaSとして提供している。組織構造に沿った高度なアクセス権限管理、データ・証跡管理、デスクトップからのシームレスなアクセスなど、豊富な機能を低コストで実現し、生産性向上と働き方改革の推進を強力に支援してきた。

今回の資金調達により、

  • 企業向けクラウドストレージサービスとしての進化
  • データレイクサービスとしての特定業界への展開
  • 文書管理などの特定業務により細かく寄り添うサービスの展開

を行うことで「Fileforce」が活用される事業分野・業務分野をさらに広げていくという。

腸内フローラ検査「Mykinso」のサイキンソー、総額1.9億円の資金調達を実施

調達額
約1.9億円


調達先
大阪大学ベンチャーキャピタルなど
(2019年中に本ラウンドを完了予定)

サイキンソーは、人体の腸内細菌叢(そう)をDNA解析によって評価することで、健康状態や生活習慣レベルを検査し、セルフケアに貢献するサービスを開発・提供している。


また、次世代シーケンサ(※DNA配列を高速かつ大量に読み取る装置)を用いることにより、腸内環境の状態を明らかにする「Mykinso(マイキンソー)」というサービスを提供しており、利用者は腸内細菌の変化に基づき、生活習慣病や消化器疾患との関係性を調べることができるという。

専門家による最新の腸内フローラ情報サイト:マイキンソーラボ

今回の資金調達により、蓄積した腸内細菌叢のデータとサイキンソー独自のAI解析技術の分析を組み合わせた「未病検知サービス」の研究・開発を進める計画だ。未病とは、病気には至っていないものの発病する可能性が高い状態のことで、利用者の腸内細菌叢を分析することで、さまざまな未病を事前に検知して改善を促すサービスを目指して開発を進めていくという。

電通の底力が作り出した、オフィスにAIがある日常

デジタル施策がビジネスの成長を牽引する中心的存在となった近年、コンサルティングファームと総合広告代理店の境界が薄れつつある。

ITを得意とするコンサルティングファームを中心に、広告代理店を買収しデジタルマーケティング領域への進出を加速させる流れがある一方、広告代理店はコンサルティング部門を立ち上げ、データドリブンなマーケティングを提供する基盤を整えている。

しかし、AI活用、導入という文脈で、ITコンサルティングファームではなく広告代理店をに声をかけるイメージが湧かない人も多いだろう。

そんなイメージとは裏腹に、株式会社電通ではAI関連の相談が増加し続けているという。社内では、AI導入支援分野に名乗りをあげるかのように、「AIでオフィス全体をラッピング」する社内イベントを2週間にわたって開催した。

これはいったいどのような取り組みなのか、どのような目的を持って行われているのか。全貌を、電通でAI活用を推進する横断組織「AI MIRAI」統括の児玉 拓也氏に取材した。

AIでオフィスをラッピング

「AIでオフィス全体をラッピングする」という言葉の通り、電通本社の入口脇には巨大なポスターが飾られ、そのすぐ下にはオリジナルの肩書きを生成してくれるという名刺作成機が置かれていた。

このイベントでは、各業務に関連するAIを電通の社員が企画・制作し、オフィス全体に導入している。

クリエイティブ領域に強みを持つ広告代理店だけあり、

  • ブレインストーミングをスポーツにするAI会議室
  • オフィス内の社員の表情により全社のムードを測定し、それによりリアルタイムに価格が変わるパン屋

など、AIをより身近に感じられるシステムが数多く導入されていた。

ほかにも、実際に行われたプロジェクトの概要や、今後、クライアントへの提案材料になりそうな開発中のAIなどの展示も目立っていた。単に展示をするだけでなく、AIに興味を持った社員向けの機械学習ハンズオン研修も同時に実施されていたという。

──児玉
「今回の全社プロジェクトは、電通社員がAIをより身近に感じられるだけでなく、AIに触れながら使用されている技術を学べる設計にしています。

AIが今後の鍵となっていくことは明らかなので、社員全員がある程度のAIリテラシーを持ち、クライアントへの提案や自分たちの業務の変革にAIという選択肢を加えられたらと考えています

AIとクリエイティブで作られた数々のプロダクト

本プロジェクトでは、展示物もあわせて合計10種類以上のAIがオフィス内に試験的に導入された。そのなかでも特に興味深かったプロダクトをいくつか紹介していく。

ブレスポ

「ブレインストーミングをスポーツに」というコピーで一際目を引いたのがAI会議改革ソリューション「ブレスポ」だ。

ブレスポは、音声認識・自然言語処理を用いて会議中に出たアイデアをマッピングするAIだ。発言したアイデアがほかの参加者からポジティブに評価されるたび、アイデアの表示のサイズが拡大され、最終的に一番大きな評価を受けた参加者がブレインストーミングの勝者になる仕組みが組み込まれている。

ブレスポを行う会議室はゲーム感の強い装飾が施されていたため、会議自体の雰囲気が活発になるように感じられた。

AI名刺メーカー AIが名刺を提案してくれる「2枚目の名刺メーカー」

2枚目の名刺メーカー」は入力した内容とユーザーの表情をもとに名刺を自動で作成するシステムだ。自然言語処理技術(同社が開発したAIコピーライターAICOのアルゴリズム)と画像認識技術を用い、ユーザーが入力した内容とユーザーの表情を分析しユーザーの人物像を肩書きやデザイン、色合いで表現した名刺を作成する。社員だけでなく来客者も自由に触れ、オリジナルの名刺を印刷することができた。

このシステムを利用することで、ユーザーは、現時点での顔認識による表情分析の精度などを直感的に理解できるのではないだろうか。

AIと人間のジャズセッション「NEURAL JAZZ」

本プロジェクトのなかでもっとも目を引いたのがAIジャズセッションだ。

人の演奏をインプットとして受け取り、音の長さや速度、強弱などを解析し、演奏に合わせた音色をアウトプットし、人間とのジャムセッションを繰り広げている。エントランスで行われたこのセッションに多くの人が足を止め、AIの演奏に聞き入っていた。

社員全員にAIとの接点を

社内の至るところに今までにないようなアイデアを具現化したAIが導入された本プロジェクト。加えて、電通グループ各社から30名を超える有志が集まり企画・開発・実装をおこない、開催に至ったと児玉氏は語る。

──児玉
「私たちは広義な意味でのマーケティングを支援していきたいと考えています。AIも本来はデジタルマーケティングのツールと同じように、多くの人の選択肢に入っていけるはずです。

ですが、このプロジェクトが行われるまで、多くの電通社員がAIに対して漠然とした苦手意識や距離感を持っていることで、AIは提案の選択肢から外れていたように感じます。

本プロジェクトをきっかけに、社員にとってAIがもっと身近になり、AI要素技術を取り入れた提案や協業が生まれればと思います」

広告代理店が手がけるAIの未来

電通らしさを体現した創造性に溢れたAIの活用が多く見受けられた本プロジェクト。導入、展示された多くのAIが今までにない体験を生み出していた。

広告代理店のイメージが強いあまり、AI導入などの相談とはなじみが薄いように思える電通だが、広告で培った底力は電通のAIにも好影響を与えていた。

社会に浸透しつつあるAIが、加速的に日常に浸透するとき、そこには電通の存在があるのかもしれない。

機械学習で電力運用を最適化──AI蓄電池は再生可能エネルギーを普及させる装置になるか

スマートフォン、PC、テレビや電車など、私たちの生活に身近な製品のほとんどは「電力」なくして成立しない。

しかし発電に使用されている石油や石炭といった資源には限りがある。加えて地球温暖化対策のため、二酸化炭素を大量に排出する発電方法はできる限り減らす必要がある。こうした状況下の電力事業は、再生可能エネルギーを効率的に活用する持続可能な社会の実現を目指し、今まさに変革の最中だ。

そしてその変革の一翼を担う可能性をもつのがAI。

本稿では「自然エネルギーの最大普及」をミッションとして掲げる株式会社Looopの執行役員 堤 教晃氏に、家庭用蓄電池にAIを搭載した経緯や、電力×AIの可能性について伺った。

再生可能エネルギーの普及になぜ蓄電池が必要か

――LooopのAI搭載蓄電池について伺う前に、蓄電池の役割を教えてください

――堤
「蓄電池は電気を貯めるための装置です。

太陽光発電だけ設置していても、発電している日中の時間帯しか電力を供給できず、必要以上に発電したときの電力をあとで使えるように貯めることもできません。

蓄電池を設置すれば、日中に余った電力を貯めておき、天候の悪い日や夜間に活用することや、電気代の安い時間帯に充電し、高い時間帯には放電して電気を使うことで、電気代を下げることも可能です」

――どうして再生可能エネルギーの普及に、電力を貯める蓄電池が必要なのでしょう。

――堤
「再生可能エネルギーをより有効に活用するためです。天候などにより発電が不安定になるため、安定的に使うために必要です。とはいえ、再生可能エネルギーの普及目的で太陽光パネルを導入する人もいますが、やはり何らかの利益がないと導入を促進していくのは難しい。

導入促進のため、日本では2009年から再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)を開始し、再生可能エネルギーで発電した電力を一定期間電力会社に固定価格で販売できるようにしています。

しかし、一般家庭では10年で買取期間が終了するため、制度開始から10年の今年に買取期間が終了する家庭が出てきます。

期間が終了すると売電価格が大幅に下がってしまいますが、蓄電池を使って余分な太陽光発電の電気を貯める、また“高いときに売り、安いときに買う”という効率的な電力活用をすることで、太陽光発電設備の費用対効果を高めることができます。

優れた蓄電池があれば、FIT制度対象期間終了後のことも踏まえ、安心して再生可能エネルギーを導入できるでしょう」

蓄電池の役割は、電気の効率的な活用だけに留まらない。

昨年には地震の影響により北海道全域が停電し、最近では台風により日本各地で停電が起きている。家に蓄電池があれば、最低限必要な電力を確保し、生活を維持できるだろう。地震大国であるうえ、台風の威力が増している近年、防災の意味でも蓄電池に対する注目は高まっている。

AIの活用で、蓄電池のコスト削減と各家庭に合わせた運用が可能に

――なぜ蓄電池にAIを搭載しようと考えたのですか。

――堤
「AIを搭載した理由は2つ。蓄電池そのもののコストダウンと、充放電を各家庭に合わせて最適化するためです。

まず、蓄電池は高額です。当社の蓄電池は90万円程度ですが、他社製品(AIを活用せず充放電を手動で切り替えるタイプ)は150~270万円にのぼります。貯められる電池の容量が少なくても、効率的に運用できパフォーマンスに劣らない蓄電池をつくるためにAIを利用しました。電池容量を少なくすることでコストダウンをはかりました。

また電力の消費パターンは各家庭により異なり、気温や天候のほか、家族構成などが関係します。多くの要因が複雑に絡んでいるため、顧客にとって経済的な利益がもっとも出る運用方法を人手で見つけるのは困難でした。そこでAIを搭載して最適化することにしました」

堤氏がこう語るように、Looopの蓄電池は機械学習により各家庭ごとに最適な充放電を行っている。

仕組みはこうだ。はじめに基本の運用パターンをいくつか用意し、顧客情報を加味して機械学習によりパターンを修正していく。実際の利用状況に合わせ調整を続け、2、3週間から1ヶ月程度で家庭にあった最適な運用ができるという。

各家庭のパターンが完成した後も、生活の変化に合わせて随時調整が入る。気象予報による微調整のほか、海外旅行など、長期間不在のときは電力を使っていないことを学習してパターンが変化する。帰宅したとき自動的に元の運用パターンに戻るとのことだ。

――ディープラーニングではなく機械学習を用いているのはなぜでしょう。

――堤
導入コストと利用者の心理を考えた結果、ディープラーニングは向かないという結論になったからです。

現状ではディープラーニング導入にかかる計算コストや開発コストが費用対効果に見合いません。

またディープラーニングはブラックボックスであり、人間に理解できないタイミングで充電や放電を行っていても、その根拠を説明することができません。顧客に納得していただけなければ、搭載しても使ってもらえません。

ただディープラーニングの手法も多様化しているため、様子を見て使えるものがあれば導入を検討したいと考えています」

――AI搭載による効果を教えてください。

――堤
「予測精度については体感ですが、発売当初にたくさんあった、“なぜここで充電しているのか、放電しているのか”といった問い合わせが、最近は少なくなっています。

最適な運用ができることから、節電の効果もあります。実際にAI搭載蓄電池は、AIがない場合と比較し、年1万円~3万円節約できます

約90万円の設備投資を回収できないように感じる。だが太陽光発電では、太陽光パネルで発電した電力(直流)を家庭で使える電力(交流)に変換するパワーコンディショナーという機器が太陽光パネルよりも先に寿命を迎えるため、途中で交換する必要がある。

パワーコンディショナーは工事代を含めると30万円近くするため、あらかじめパワーコンディショナーと蓄電池がセットになっているAI蓄電池を導入した方が、費用対効果は高くなるという。

電力の効率運用だけに留まらない、電力×AIの可能性

――AI蓄電池の今後について教えてください。

――堤
「充放電の運用の精度をさらに向上させていきたいと考えています。

また今は家庭用蓄電池のみにAIを搭載していますが、今後は産業用蓄電池への応用も検討しています。

産業用だとSDGsの達成のため、コストも重視しつつCO2排出をできるだけ減らしたいなど、家庭用とは異なる要望も出てくるでしょう。今後はコストの最小化だけでなく、コストとCO2削減の最適解も探していきたいです」

電力事業へのAI活用は進んでおり、すでに変電設備の異常診断や架空送電線の点検はAIによる効率化が開始している。

再生可能エネルギーの導入が増加し、需要と供給のバランスを保つことが難しくなった今、AIを活用した高精度な需要予測技術も開発されている。省エネを促進するため、AIを活用して家庭ごとの消費電力の内訳を明らかにするサービスもある。

電力は生活に密着しているため、電力データとAIをかけあわせることで、見守りやセキュリティの新たなサービスの構築も可能になるだろう。

持続可能な社会のための次世代電力システムにおけるAIの活躍や、電力×AIの領域で生まれる新たなサービスから、目を離せない。

AWSの機械学習サービスとプログラミング学習サービス「Aidemy」のAmazon Forecast活用事例

AWSは10月29日、「Amazon PersonalizeとAmazon Forecastを含むAWSの機械学習サービスに関する説明会」をメディア向けに開催した。

当日は、Amazon.comでのレコメンドと同様の技術が使われているパーソナライズ構築サービス「Amazon Personalize」と、予測モデルを簡単に作ることができる「Amazon Forecast」の概要が説明され、株式会社アイデミーのAmazon Forecastを活用した事例が発表された。

20年間機械学習へ継続的に投資しているAWS

AWSからは技術統括本部 レディネス&テックソリューション本部 本部長/プリンシパルソリューションアーキテクトの瀧澤与一氏が登壇し、AWSの機械学習サービスの概要を説明した。

――瀧澤
「AWSは、過去20年間、機械学習への継続的な投資を続けています。そして

  • データ取得
  • データ前処理
  • モデル開発
  • モデル学習
  • モデル評価
  • 本番環境へのデプロイ
  • 監視、評価、データ収集

のサイクルを負担なく高速で回したいというお客様のニーズに答えてきました。AWSの機械学習関連のサービススタックは、3つに大別できます」

分類としては以下の通り。

  • AIサービス
    機械学習の深いスキルなしに機械学習をアプリケーションに組み込める

  • MLサービス
    機械学習のモデルを高速に開発・学習・デプロイできる

  • MLフレームワーク&インフラストラクチャ
    高性能なインフラを自由に選ぶことができる

なかでもAIサービスについては画像・動画認識、音声処理、テキスト処理、チャットボット、時系列データ予測、レコメンドなど10種類を提供し、機械学習が必要になる分野をカバーしている。S3(AWSのストレージサービス)などにデータを置いているユーザーなどは、これらのサービスを使うことでほかのAWSサービスとの連携なども容易になるという。

AIサービスの中でも、今回紹介されたのがAmazon PersonalizeAmazon Forecastだ。

Amazon.comのレコメンド技術を使ったAmazon Personalize

Amazon.com/co.jpにログインすると、すぐにAmazonから推薦された商品が紹介されるだろう。このレコメンド技術をサービス化したのがAmazon Personalizeだ。アルゴリズムを整備して、一般ユーザーにも使ってもらうために開発された。

各エンドユーザーに合わせたレコメンドが可能で、機械学習のスキル、経験が少なくとも数日でレコメンドが導入できるという。

利用手順は以下のとおり。

  1. 行動履歴、ユーザー、アイテム属性などのデータをS3にCSV保存
  2. Amazon personalize(中には10種をまとめてやっている)
  3. カスタマイズされたレコメンドのAPIを使用し、結果を返す

Auto MLサービスのため、Amazon Personalize側でデータの精査や特徴の認識、アルゴリズム選択や学習など一通りの作業を行ってくれる。ハイパーパラメータの調整なども不要だ。

そのため、ユーザーは誰がいつ、どのアイテムを閲覧したかのCSVデータさえ用意できればパーソナライズを利用できる。またAPI連携さえできれば結果が返ってくるため、既存のシステムにレコメンドを組み込める。

選べるアルゴリズムは以下のとおり、多様だ。

    あるユーザーにおすすめのアイテムを推薦

  • HRNN:ユーザー・アイテムの関連データのみを使用
  • HRNN-metadata:すべてのデータを使用
  • HRNN-coldstart:すべてのデータを使用+頻繁に追加されるアイテムを反映したい場合
  • Popularity-Court:評価要レシピ。ユーザーによらすアイテムを人気順で返す

    渡したアイテムリストをユーザーごとに並び替え

  • Personalized- Ranking

    あるアイテムに類似したアイテムを推定

  • SIMS

時系列データを用いて予測モデルを作れるAmazon Forecast

続いて説明されたのはAmazon Forecast。時系列データを用いて予測モデルを作れるサービスだ。

――瀧澤
「そもそもForecastingとは、時系列に基づいて変化していくデータを扱うことを指します。たとえば在庫予測であれば、週末に減って月曜に増えたり、イベントによって減ったりとある特徴点に基づいて変化していく。

ほかにも人員配置、財務予測やキャパシティ管理など、周期性・季節性によって変動するものは、統計的な予測が必要が可能でした」

だが、価格変動性が高かったり、国や地域ごとの需要に変化が激しかったり、購買頻度の低い製品の予測は、統計的な予測だけでは困難だ。Amazonでは2007年にはじめて「Sparse Quantile Random Forest(SQRF)」という機械学習モデルをデプロイし、改善を重ねた。しかし、関連商品の需要履歴を用いての精度向上が頭打ちになったという。

そこで2015年にディープラーニングを導入。すると、正確度において15倍の向上を見せた。従来の機械学習モデルと比較して圧倒的な性能差に加え、高い可用性や低コストぶりを見せた。現在はディープラーニングがAmazonの巨大なビジネススケールを可能にしていると言っても過言ではないという。

その経験から生まれたサービスが、Amazon.comと同じ技術を使用したAmazon Forecastだ。完全なマネージドサービスであり、ユーザーは自分のデータでモデルを学習させ、GUIで簡単に予測ができる。

「Amazon Forecast」を活用してオンライン学習サービスの演習回数を予測

オンラインでAIプログラミング学習サービスを提供するアイデミーは、Amazon Forecastを使ってプログラミング学習の演習回数を予測した。

関連記事:プログラミング初心者が画像認識まで実践。AIオンライン学習サービス「Aidemy」で学ぶ

アイデミーの執行役員 AI統括の竹原大智氏は、「効率的なサーバー運用のために演習回数予測が必要だった」と語る。

――竹原
「プログラミング学習サービスの『Aidemy』では、演習画面でコードを入力、提出すると、RUNサーバーで実行され、コンソールに実行結果が返されます。そのため、ユーザーの演習回数が多いと、RUNサーバーへの負荷が大きくなる。

一方、夜間などユーザー数が減る時間帯は大きなリソースを準備する必要はないので、需要に応じて動的にリソースを変更できればコストが最適化できます。サービスを安定・効率的に運営するために、予測が必要でした」

Amazon Forecastでは3つの予測結果が出せる。

  • P90:ワーストケース
  • P50:中央値
  • P10:ベストケース

P10、P50、P90の数値は、それぞれベストケース、中央値、ワーストケースに合致する。つまりP50が実際の需要量に近いが、アイデミーでは、予測を大きく上回る演習回数になるとサービスが正常動作しなくなる可能性があるので、余裕を持ってP90を採用したという。

エンジニア、データサイエンティストでなくとも使えると謳っているとおり、使い方は簡単だったとのこと。アイデミーで用意したのがCSVファイルのみで、それを入力することでGUIのコンソールで予測結果を可視化できたという。

――竹原
「データセットを入れてください、予測モデルに入れてくださいなどの簡単な指示で使えました。GUIだけだと不便な場合はJupyter Notebookなどにも吐き出すことができたので、楽に使えましたね」

今回は簡単に一定の精度で予測ができたこともあり、今後は講座の売上など、演習回数以外の予測にも活用していきたいという。

また、竹原氏が挙げていた一番の特徴はやはり「安さ」だ。「請求書が来ないな、と思っていたが、来ていたのに気付かなかったくらい安かった」(竹原氏)と、体感で予想の9割程度安くなっていたという。

パーソナライズや予測など、機械学習の恩恵は着々と民主化されている。

テクノロジーの時代に、好奇心の火を灯す。ABEJAが「人をみるメディア」をつくった理由

日々進化するテクノロジー。生み出した人間の方がその進化の早さに追いつけていないのでは、と感じる場面にしばしば遭遇する。

テクノロジーの進化は、情報の領域でも著しい。マスメディアだけでなく個人も組織も情報を発信できるようになった。

そんな中、AI企業のABEJAがオウンドメディア「Torus(トーラス)」を立ち上げた。コンセプトは「テクノロジー化する時代に、あえて人をみる」。

なぜ「人をみる」という、テック企業らしからぬメディアを立ち上げたのか。テクノロジー化する時代に「あえて人をみる」意義とは何か。Torus編集チームの3人に話を聞いた。

自分たちの世界観を世の中に広めたい

Torusが「テクノロジー化する時代に、あえて人をみる」というコンセプトは、ABEJAが掲げる行動精神「テクノプレナーシップ」を受けたものだという。

――上野
「ABEJAは2018年に会社のリブランディングを実施しました。その中で『テクノプレナーシップ』を新たに行動精神に据えました。

この言葉は、テクノロジーを使ってビジネスにイノベーションをもたらすという意味がもともとありました。それにABEJA独自の解釈を加え、リベラルアーツとテクノロジーの領域を循環しながら、ABEJA自身や社会のあるべき姿を絶えず問い続けていくという意味にしました。

テクノプレナーシップは、ABEJAのタグラインでもある『ゆたかな世界を、実装する』という世界観を実現するためにあります。ただ、この世界観を例示なしに説明しようとすると漠然としていて伝わりにくい。このイメージをコンテンツに落としこんでABEJAの考えや世界観を広く伝える役割がTorusにはあります」

上野真由美氏 ABEJAのBrand Communication Design Team のデザイナー。受託制作会社から、自社のBtoC新規事業立ち上げなど、その時々でいろんな事を経験。2015年に株式会社メルカリにJoinしCtoCサービスを経験。主にUS版 メルカリの開発に従事。2019年 ABEJAにJoin。Annotation Toolをはじめとしたプロダクト改善のデザインをメインで担当しつつ、ABEJAのデザイン全般もみている。

2019年に入り、有名なオウンドメディアが相次ぎ閉鎖するなど「オウンドメディア冬の時代」と呼ばれるようになった。そんななか、PV至上主義や集客目的のメディアとは一線を画すものをつくりかった、と錦光山氏は言う。

――錦光山
「オウンドメディアの目的や存在意義はそれぞれ違います。自社製品や人材の宣伝といった目的からPVやコンバージョンなど目に見えやすい成果まで、それぞれに理由はあるのでしょうし、いろいろあっていい。でもそれはTorusのやることではないよね、と当初から一致してました。なぜなら世界観を伝えるのが目的だから」

錦光山雅子氏 ABEJA広報。1998年朝日新聞に入社、公的手当まとめ支給、公立中学制服価格の調査で2016年貧困ジャーナリズム大賞を受賞。関心領域は調査報道、公衆衛生、ジェンダー。2019年からAIベンチャー「ABEJA」にジョイン、Torusの企画・取材・編集を担当するほか、外部媒体なども活用した会社やメンバーの言語化実践中。

――錦光山
「私の考えですが、オウンドメディアはお金ばかりかかってリターンはあるの? と問われた瞬間に存在意義を失うと思っています。早く『効果』のリターンに応えようとすると、コンテンツから『手前味噌』のにおいが漂い始める。

読者は賢いです。『なんだ、このメディアは宣伝目的か』と瞬間で見抜いて離れていきます。その結果、読者はもともとABEJAに関心があった層だけになってしまう。だから手前味噌の匂いには、コンテンツの切り口から表現まで非常に気を付けています。

だからといって、PVがほとんどなくても構わないわけではないのです。以前、Torusの打ち合わせで、世界観が分かる『熱い数百人』に届けばいいという意見もあったのですが、『熱い数百人』に刺さるためには『不特定多数のチラ見読者』に届けるという前提が不可欠だと考えています」

――錦光山
「立ち上げ時は、いかにこの会社の名前と世界観を世の中に認知してもらうか、を命題に据えました。ABEJAを知らない、圧倒的多数の人たちに振り向いてもらうためには、本業に近いテックやビジネス領域からいったん離れ、別の普遍的なテーマを用意しなければならないだろう、しかしそれは何だろう、と言語化に少し時間がかかりました。

そこから一歩踏み出せたのは、弊社のAIエンジニアが『AIをやっていると、人間らしさってなんだろうという問いに行き着く』と話すのを聞いたからです。ABEJAのイメージから一見遠いようにみえる『人』や『社会事象』から入るのはどうだろう。これらをAIの会社が発信しているという逆張りが、かえって強みにもなる、と」

しかし、決してプレッシャーがないわけではない。

――錦光山
「メディア企業だったら言わずもがなの、たとえば企画・編集する際の常套手段や切り口、常識が通じないところからのスタートです。成果も時間がかかります。短期ベースで成果を求められる事業会社でその意義や効果をどうやって理解してもらうのか。社内の理解や認知もこれからですし、そこはいまも試行錯誤を続けている最中です」

「好奇心が枯れていない人」を追う

Torusは、どんな方針でコンテンツを発信しているのだろうか。

――上野
Torusが伝えているのは、自らの好奇心を追求している人。好奇心が行動の原動力になっている人です。世の中がなんと言おうと、お金にならなくとも、自らの好奇心に従ってそれを突き詰めている人。そんな人たちが多いと思っています」

Torusのトップ画像。写真は現代美術家・長谷川愛さん

たとえば、こちらの記事にある佐藤オリィ氏。今夏の参院選で重度身体障害を持つ当事者が当選したタイミングに掲載した。不登校を経験し、人はつながっていないと生きる意欲を失うという課題感から「OriHime(オリヒメ)」という、離れていても他者とコミュニケーションできるロボットを開発したオリィ氏の人となりを描いた。

ABEJAのメンバーにも、好奇心の火を灯し続ける人がいる。こちらの記事に登場する安宅雄一さんは、カスタマーサクセスとセールスを担当しながら、日本折紙学会の会員でもある。多種多様な折り方や、壮大な歴史を解説する姿を通じて、安宅さんの折り紙への愛も感じ取れる内容だ。

Torusに登場する人たちのように、自らの好奇心に従って行動するのは、しがらみがあるなかでは難しいかもしれない。しかし、それでも折れず、前に進む人を取り上げ続けている。

川崎絵美氏 フリーランスの編集者。2006年に出版社インプレスに入社後、営業・編集・記者などを経験。2015年からハフポスト日本版の広告企画チームにて編集職に従事。2019年に独立し、Torusをはじめメディアの立ち上げや企画・編集に携わっている。

――川崎
「ABEJAのエンジニアたちもただ開発が好き、にとどまらず、自分が興味のある課題にテクノロジーをどう使っていけばいいかという意識を持っている人が多いと感じています。

同じ価値観を持つ人は社外にも共通していて、まさに課題意識や好奇心ベースで動いている人たちに、私たちの価値観を代弁してもらいたいという意識で取材、執筆しています。社外の人でも、きっとABEJAのメンバーと話が合うだろうな、と感じる人も多いです」

――上野
「ABEJAでは、『当たり前(既成概念)』への問いかけのようなコメントがSlackであがることも珍しくありません。社会的価値があると思ったものはみんなとシェアしていこうという文化もある。だからこそ、Torusでは社内だけでなく社外の人も取り上げています。

採用面接や入社説明会などでABEJAのテクノプレナーシップを説明する際、Torusのコンテンツも示すようになりました。それまでは概念だけ伝えていたのですが、コンテンツで具体的イメージを示せるようになりました。理解が深まる装置にもなっていると思います」

――錦光山
「コンテンツを作る際は『既成概念(当たり前)への問い』『テクノロジーという補助線』を隠し味として仕込むように心掛けています。すでに知られている社会事象や人でも、テクノロジーという補助線を引いてみると、それまでとは違う風景・姿が見えてきますし、常識を問う行為自体が、テクノプレナーシップを体現していると思っているからです。

実際、オリィさんの記事では障害者の政治参加の風景と取り巻く空気、それを可能にしたテクノロジーの進化を伝えています。また安宅さんの記事では、『手遊び』というイメージが固定している折り紙にテクノロジーという補助線を引くと、全く別の世界が見える上に、人間らしさとはなにか、という視点にも触れることができました」

Torusは「分散型メディア(自社メディア以外の媒体やプラットフォームにコンテンツを転載する方式)」という立ち位置を取っている。すでにNewsweekやBusiness Insider Japanをはじめとしたいくつかのメディアに転載されるようになった。

――川崎
「『オウンドメディア冬の時代』と言われているからこそ、新しいかたちのメディアとしてチャレンジしたいという思いがあります。取材して記事を出して終わりではなく、『どう届けるか』が編集者に大きく求められている。

ネットニュースへの転載を積極的に進めてきたのはそのためです。訴求力も高まると同時に、コンテンツや発信目的の基準がもっとも厳しいニュース系媒体が転載を判断したことで『手前味噌でないオウンドメディア』という信頼を積み上げていける。私たちにとっても、企画編集するうえで常にそれを意識する物差しになるし、その基準を続けていれば、以前ABEJAと交わることのなかった人たちもTorusという媒体に信頼を抱き、ひいてはABEJAという会社への信頼に転換していくと思っています」

テクノロジーの時代だからこそ「意味」を考えること

メディアには数字を求める側面と、メディアが伝えるべきことを伝えるという2つの側面がある。そして、マスメディア、オウンドメディアを問わず、現状は前者に偏りがちだ。

企業として数字を上げお金を稼ぐことは、生き残るために必要という厳然たる事実があるからだ。メディアが企業というかたちを取るからこそ、時として経済合理性ほかの何よりも正当化されてしまう。しかし、今後テクノロジーが進化すればするほど、PVあたりいくらの数字を求めることでは差別化できなくなってくる。

Torusのように数字をあえて求めずに、自分たちがやる意味を問い続けるのはたしかに簡単ではない。けれども、どんなに取り繕っても、「お金を稼ぐ」ことをメディアのゴールとして設定している限り、お金の匂いは読者に見透かされる。メディアが持つ価値観、思想、哲学、カルチャーが経済合理性から自由になり、「自然」に反映されてはじめて、伝えたいことは読者に正しく伝わるのだと思う。

だからこそ、お金以外の自分たちがやる「理由」がはっきりしている会社は、テクノロジーによる差別化が難しくなっても、生き残り続けるのだろう。いちライター・編集者として、そんなことを考えた取材だった。

オプティマインド、トヨタなどから総額約10億1,300万円のシリーズA資金調達──週間AI業界資金調達ニュース

Ledge.aiでは、AI業界の資金調達ニュースを毎週金曜日にお届けする。10月21日〜10月25日のニュースは以下の通り。

先週の記事はこちらから。

オプティマインド、トヨタなどから総額約10億1,300万円のシリーズA資金調達

調達額
約10億1,300万円


調達先
トヨタ自動車
MTG Ventures
KDDI設立のKDDI Open Innovation Fund 3号
他1社を引き受け先とする第三者割当増資
オプティマインドは2018年9月、ラストワンマイルの配送ルートを短時間で計算するクラウドサービス「Loogia(ルージア)」をローンチ。以来、ラストワンマイルの配送事業者が直面する深刻なドライバー不足や労働環境の改善、および配送業務の効率化を促進し、ルート最適化AIを活用した配送業務の持続可能性の実現に取り組んできた。

今回の資金調達では、下記の本ラウンドの引受先と個別に取引強化を進める。

  • トヨタ自動車
    同社が構築するモビリティサービス向けのさまざまな機能の提供を目指したオープンプラットフォーム、MSPF(モビリティサービス・プラットフォーム)に、オプティマインドのルート最適化で培った知見で貢献し、両社が描くモビリティ社会を実現するため共同開発を実施する。

  • MTG Ventures
    経営や事業推進に関する知見、人的ネットワークを用いた支援により、オプティマインドの企業価値向上と経営体制の強化を図る。

  • KDDI
    IoT/AIを活用した「需要予測×ルート最適化」による配送ソリューションの共同開発を進める。

また、プロダクト開発体制の強化、人材の獲得・育成、マーケティング施策の拡充により顧客の成功体験の実現、および事業の成長スピードの加速を目指す。さらに、これまでに培ったルート最適化の知見を活用し、MaaS領域への参画を進めていくという。

グローバルインサイドセールス事業のアップセルテクノロジィーズ、総額6億円の資金調達

調達額
6億円


調達先
ペガサス・テック・ベンチャーズ
エボラブルアジア

アップセルテクノロジィーズは、アウトバウンド業務におけるリーディングカンパニーとして4,000社以上もの取引実績を積み上げている。15年のアウトバウンド専門コールセンターの実績により蓄積されたノウハウや、膨大なデータを活用するとともに、独自のAIによる顧客データの分析を通して、以下のAIソリューションを提供している。

  • コールセンターにおけるシミュレーション生成や運用実績のデータベース化、運用のオートメーション化を実現する「RYO-DATA
  • AIによる顧客データ分析と高スキルのオペレーターによるアウトバウンドを実現する「RYO-CALL
  • AIチャットと有人チャットを融合した「RYO-TALK

今回の資金調達により、米国、アジアにおける事業拡大、独自に開発を行っているAIシステムの機能強化、マーケティングの強化を図り「世界を代表する次世代型グローバルインサイドセールスカンパニー」を目指していくという。

ネイリストに直接予約「ネイリー」、サイバーエージェントなどから総額1.5億円の資金調達

調達額
1.5億円


調達先
サイバーエージェントなど
ネイリーはC2C PTE.LTD.とともに、CtoCサービスの「ネイリー」を共同開発している。ネイリーはネイリストとユーザーをつなぐSNS型予約アプリで、ユーザーはネイリストの投稿した作品画像から好みのネイリストを選び、施術の予約から決済までをスマートフォン上で完結できる、ネイルに特化したCtoCマッチングサービス。

今回の資金調達は、C2Cプラットフォーム自体を提供するC2C PTE.LTD.、中古精密機器のマーケットプレイス「EKUIPP」を展開する、Anybleに続き、3社目の資金調達だ。働き方改革やビジネスモデルの転換が叫ばれる今、C2Cプラットフォームを活用したサービスは業界のジャンルを問わず注目を集めており、今後その他のサービスでも資金調達を含め動きが加速すると考えられる。

今後、C2C PTE.LTD.は、

  • マッチングプラットフォームの開発体制増強
  • AIを用いたマッチングアルゴリズムの開発・スピードアップ
  • 各サービス間の顧客送客やポイント連携

などを通じて「C2C経済圏の確立」に向けてサービスの開発を進めて行く予定としている。

自動広告運用サービス「AdSIST」を提供するCOREKARA、総額1.8億円の資金調達

調達額
1.8億円


調達先
みずほキャピタルを中心とした第三者割当増資
みずほ銀行からの融資
日本国内における自社ネットショップの約95%は、売上が月商100万円を下回っている。その要因として、以下の大きく3つが挙げられる。

  • 集客できない
  • 運営ノウハウがない
  • リソースがない(人材・資金)

COREKARAは上記の悩みを抱える顧客に対して、簡単に広告運用ができるAIを活用したチャットボット型、自動広告運用サービス「AdSIST」を提供し、その解決を図る。AdSISTは誰でもFacebookやInstagramに広告が出せるSaaS型サービス。創業から7年以上自社ECコンサルティングに特化して得た経験を活用し構築した。

以下3つの特長を有している。

  • はじめての人でもチャットボット支援で最適運用
    AdSISTからの質問に回答するだけで、配信戦略と配信戦術の設定が完了

  • 頭脳は、EC専門コンサルティング会社の知見+AI
    自社ECサイト1,000社のサポート実績から導き出した知見をもとに、AIが売上UPにつながる最適な広告戦略を組み立て

  • 1日500円から、ワンコインで運用可能
    SaaS型により低コストを実現。これまでコストの観点から広告を見送っていた人でも広告運用が可能

今回の資金調達により、AdSISTの開発・マーケティング、人材採用を強化し、自社EC市場全体の底上げを図るという。

「AIによる動画要約研究」に激震。今までの自動動画要約技術はランダム抽出と大差なかった?

画像認識におけるトップカンファレンス「CVPR 2019」で、AIでの自動動画要約の常識を根本的に覆す論文が発表された。最先端の動画要約手法が、ランダムで作成された動画要約と同等レベルでの要約しか作成できていないことを示したものだ。

本稿では、7月13日に開催された「CCSE 2019」でのサイバーエージェントAI Labの大谷まゆ氏による講演「ディープラーニング時代の性能評価」の講演内容、および同氏のCVPR 2019に採択された論文「Rethinking The Evaluation of Video Summaries」の内容をまとめた。

合わせて、動画要約技術で用いられてきた手法の簡単な説明と、「ランダム抽出での要約結果がAIと同等の結果を示した」とはどういうことか、解説する。

近年の動画要約手法とそのデータセット

そもそも動画要約とは、もとの映像のなかで根幹をなす内容を捉えつつ、映像の長さを短くすることを示す。

以前Ledge.aiの記事でも取り上げた、任意の動画から漫画のコマ割りを生成するAI「Comixify」の動画から重要なフレームを抽出する箇所で使用されている。

関連記事:動画から漫画を自動で生成する「Comixify」を使ってみた

この動画要約を自動で行うためさまざまな研究がなされてきたが、基本的には以下の3段階で構成されている。

  1. 重要度の推定
  2. シーンの分割
  3. 重要度を考慮したシーンの選択による要約の作成

まず1では、動画に対して重要度の計算を行う。ここでの重要度とは、3のシーンの選択の際に使用される値。重要度が高いほどそのフレームが動画のなかで要約に組み込まれやすくなることを示している。

今回の場合では、約2秒おきのペースで重要度を出力しているが、フレームごとに算出する場合もあれば、任意のタイミングで出力する場合もある。

2においては、KTS(Kernel Temporal Segmentation)と呼ばれる手法がよく用いられる。映像が大きく切り替わった場面を検出し、区切り目とする手法だ。映像に絵的な変化が少ない場合には、シーンは長くなる傾向にある。

そして3では、30秒など決められた時間で、重要度の総和が最大になるように複数のシーンを選び取り要約を作成する。

データセットとその評価指標

近年、動画要約で用いられるデータセットはSumMeとTVSumの2つが多い。どちらもYouTubeの動画を使用したものである。

  • SumMe
    動画数:25本
    アノテーション方法:ひとつの動画あたり15〜18人が実際に要約を作成

  • TVSum
    動画数:50本
    アノテーション方法:ひとつの動画あたり2秒ほどの期間ごとに重要度を付与

自動要約がどの程度もっともらしいか判断する際は、これらのデータセット内の動画要約とどれだけマッチしているかをF値によって評価する。

ランダム抽出された要約がAIと大差ないとはどういうことか

ここからは論文の主張である、「ランダム抽出された要約がAIと大差ない」という部分について詳しく述べていきたい。

そもそも論文の一番の主張は、上述したシーンの選択の際に使用される重要度がまったく役に立っていないという点だ。近年では重要度の推定に教師なしでの強化学習や、RNNベースの教師あり学習など、いわゆるディープラーニングの手法が用いられており、なかでも現在主流の動画要約手法は上述した3段階の手順を踏んでいる。

論文では、ランダムに作成した動画要約と、AIによって作成した動画要約を比較したうえで「大差ない」という事実を示している。

ランダムに作成した動画要約とは、具体的には以下のアクションを行っている。

  • 重要度のランダム化
    「1.重要度の推定」において、0~1の範囲のランダムな値を用いる

  • シーン分割のランダム化
    「2.シーンの分割」において、動画をランダムに区切る

下の図は、SumMeデータセットにおいて、AIによって作成された動画要約と、ランダム化により作成された動画要約を評価したもの。縦軸はF値を表し、この値が大きいほど良い評価指標としている。

この図では、それぞれの要素で以下を表している。

重要度についての比較

  • Random(薄い水色):重要度に0~1の範囲のランダムな値を使用
  • dppLSTM(紫色):重要度をdppLSTMを用いて計算

シーンの分割に置ける比較

  • Uniform:シーンの分割を2秒に一度行う
  • One-peak:ポアソン分布を使用
  • Two-peak:2つのポアソン分布の混合分布を使用
  • KTS:映像の移り変わりを判断
  • Randomized-KTS:KTSによって判断されたシーンをランダムに並び替える

たとえば一番左のUniformにある薄い水色のバーは、重要度の計算をランダムに、シーンの分割は映像に関わらず2秒に1回行う処理をしていることを示す。

重要度をランダム化した場合である水色のバーと、重要度をdppLSTMを用いて計算した場合である紫のバーを見比べてほしい。重要度をランダム化した場合でもそうでない場合と同等あるいは、それ以上の性能が出てしまっていることがわかる。

このような事態に陥った理由は動画要約での一般的な解法である3. 重要度を考慮した解法に問題があったと考えられる。はじめに説明したように、3では30秒など決められた時間内で、重要度の総和が最大になるように複数のシーンを選び取り要約を作成するが、この段階において2.の段階で長いセグメントになってしまった場合に、選択されにくくなるからである。

たとえば、あるセグメントAが選択されるためには、長さの合計がA未満で重要度の和がA以上のセグメントBおよびCがない場合のみである。長いセグメントが選ばれにくい傾向になってしまっていたのだ。

提案された新たな評価指標

論文では、新たな評価指標として以下の2種類を使用したものが提案されている。従来の評価指標では、要約結果について評価していたが、今回提案された評価指標では、重要度に対して評価を行なう。

  • スピアーマンの相関係数
  • ケンドールの相関係数

この2つについて具体的な例を出しながら説明していきたい。

まず、14秒の動画にこの手法を用いて、以下の表のように教師データ、予測結果の重要度が与えられたとする。

スピアーマンの相関係数は、以下の式で表される。

x_iは教師データでの重要度の順位を表し、y_iは予測された重要度の順位を表す。2つの値に差がある場合、(x_i – y_i)^2の項の値が大きくなってしまうため、区間ごとに教師データと予測結果で順位のズレが小さい方が相関が大きくなるといえる。

ケンドールの相関係数は、以下の式で表される。

nは要素数を表し、KとLは以下のように求められる。

このようにして、r_kを計算し、順位相関係数を求めることができる。Kの値が大きいほど相関係数が高くなり、Lの値が大きいほど相関係数は小さくなる関係性があることが式からわかるだろう。

上述の2つの評価指標では、ランダムに重要度を作成した場合は相関係数が0になることが保証でき、重要度の順位を用いることで、これまでの評価指標よりも詳細な比較が可能になっている。

評価指標に対して根本的な理解を

今回の論文で扱っている動画要約のように、抽象度が高いタスクでは評価指標が正しく機能しているかについてしっかりと議論する必要がある。評価指標はその分野タスクの方向性に大きく左右するため、正しく定義されていないとまったく無意味なことが行われてしまう可能性がある。

また、評価指標を正しく解釈できていないと、ビジネス上で数値に騙されてしまったり、実運用で思ったような結果が出なかったりという状況が起こりうる。

すべての人がAIの仕組みについて理解した方が良いとまでは言わないが、評価指標の意味内容と、その評価指標が目的に沿っているかは深く理解する必要があるだろう。

人間の約830倍高速化を実現。Microsoft「Text Analytics API」でde:code 2019のアンケートを分析してみた

顧客満足度向上を目指して、アンケートを設けている企業は多いだろう。デジタル化が進み、入力や集計が簡単になったため、昔よりアンケートに回答する機会は増えている。

しかし、せっかくエクセルやスプレッドシートでデジタルでアンケートを簡単に収集しても、その後、テキストから満足度の計測や、何を改善すべきかなどを洗い出し、解決するのは人間である。大量のアンケートの集計に莫大な時間を取られるのは想像に難くない。

そこで今回は、マイクロソフト社に協力いただき、同社主催イベント「de:code 2019」で実際にアンケート分析をおこなった。AIを用いてアンケート分析業務の効率化が可能か、AIの精度は実用に耐えうるのかを検証した。

de:code 2019とは
de:code 2019とは、マイクロソフト社主催の、開発者をはじめとするITにエンジニアに向けたテクニカルカンファレンスである。テクノロジーの最新情報や今後の傾向について180を超えるセッションを公開している。

「フィードバック把握の高速化」と「セールスの質向上」を目指す

今回のゴールは、「フィードバック把握の高速化」と「セールスの質向上」の2つだ。ひとつ目の「フードバック把握の高速化」では、今まで手作業だったアンケートデータ分析をAIで自動的に分析することで作業の効率向上を目指す。

2つ目の「セールスの質向上」では、AIによってテキストのセンチメント分析とキーフレーズ抽出を行い、イベント内の何が響いたのか要因を分析してから、ホットリードに対して電話やメールでアプローチすることを目指す。たとえば、あるイベント参加者が「IoT」に興味があるということが判明すれば、今後、その顧客に「IoT」関連の商品やサービスを中心にアプローチを行うことで「セールスの質向上」を目指す。

Text Analytics APIでアンケート回答者が何に満足/不満を感じたか判断

アンケート分析のフローについて説明する。今回のアンケート分析でもっとも重要な技術は、マイクロソフト社が提供している「Microsoft Azure Text Analytics API(以下Text Analytics API)」である。

Text Analytics APIには、

  • センチメント分析(ポジティブ or ネガティブの判定)
  • キーフレーズ抽出(文章のなかの重要な単語を抽出する)
  • 言語検出(何語か判断する)
  • エンティティリンキング(文章内の単語と現実にある概念とを紐付ける)

などの機能があり、これまでの技術では困難だった、人間が書いた文章を理解できるAIを利用している。今回は、Text Analytics APIの「センチメント分析」「キーフレーズ抽出」の2機能を利用した。

全体の流れは上図の通りである。なお、Text Analytics APIは日本語非対応であったり、日本語での精度が低いなどの日本語との相性が悪いため、日本語をTranslator Text APIで英訳してからText Analytics APIを使用している。

上図のように、センチメント分析とキーフレーズ抽出の両面からアンケート分析をおこなうことで、アンケート参加者が何に対して満足/不満を感じるのかを判断することができる。

「セールスの質向上」は、もう一歩か

AIによるアンケート分析が、「フィードバック把握の高速化」と「セールスの質向上」に有効かを検証した。

イベント全体についての質問に対するキーフレーズ抽出結果

受領したアンケートデータのなかで一番フリーテキスト入力の多かった、イベント全体に関するキーフレーズ抽出結果が以下だ。

たとえば「次回の de:code に期待する内容がありましたら、ぜひお聞かせください」のような質問だ。結果は以下のワードクラウドの通り。

イベント全体についての質問に対するキーフレーズ抽出結果

ワードクラウドを見ると、

  • 「ホール(hall)」や「会場(venue)」など”場所”に対するフィードバック
  • 「時間(time)」や「混雑(congestion)」など“環境”に対するフィードバックが多い
  • 質問内容の影響で改善点が多い→・質問内容が「次回の de:code に期待する内容がありましたら、ぜひお聞かせください」であり、質問自体が改善点に寄っていたため、改善点が多い傾向がある

などの傾向が読み取れる。なお、実際にアンケートを確認してみると、満席で入ることができなかったという回答や、セッション間の移動ができずに、見たいセッションが見られなかったという回答が多く、キーワード抽出はアンケートの内容と合致しているといえるだろう。

今回のケースではキーフレーズ抽出の結果から次回イベントに向けて、時間や場所など運営方法を直していけばよいことがわかり、フィードバック把握の高速化は見込めた。しかし、セールスの質向上につながるインサイトは得られなかった。

各セッションから読み取った全体のキーフレーズ抽出

イベント全体に関する質問項目とは別に、各セッションごとにもアンケート分析をおこなった。各セッションから取り出したキーフレーズを全セッション分まとめることで、各セッションのアンケートデータをもとに全体の傾向を見ることができる。なお、質問内容は「良い点」と「改善点」だ。

まず、「良い点」に関しての結果は以下のワードクラウドの通り。

各セッションから読み取った「良い点」

キーフレーズ抽出によって、とくに「Xamarin」「slideshare」というキーワードが注目されてことがわかる。また、イベント全体よりもセッション固有のキーフレーズが多く、セッションの様子をよく表せているといえるだろう。参加者が「Xamarin」「slideshare」へとくに関心があることを把握したうえでセールスを実施できるため、フィードバック把握の高速化だけでなく、セールスの質向上に対するインサイトが見込める結果となった。

続いては、改善点に関してである。結果は以下のとおりだ。

各セッションから読み取った「改善点」

イベント全体に対する感想と似た傾向で、「time」「session」など運営方法に関するワードが抽出された。時間管理不足や入場制限で見たいセッションが見られなかったことに対する不満が見受けられる。運営の不満に対する意見は得られたが、顧客が何に興味があるか判断できるキーワードは抽出できていないため、フィードバック把握の高速化は見込めるが、セールスの質向上につながるインサイトは得られなかった。

センチメント分析結果

センチメント分析は、各セッションで算出したセンチメントスコアをセッションごとに平均してスコアを出し、最終的に全セッション分の平均値を算出した。

センチメント分析結果のスコアの分布は以下のとおりである。(セッションごとに平均スコアを求める過程で、回答数が少ないセッションデータを除外)

横軸が各セッションの感情の平均スコアで、縦軸がスコアの頻度だ。セッションの満足度の分布が可視化でき、どのセッションが満足度が高い/低いかがわかる。フィードバック把握の高速化が見込めるが、キーワードなどの詳細な情報がわからず、センチメント分析だけではセールスの質向上に関してはインサイトが得られないことがわかる。

より感情をつかむアプローチでセールスの質向上を目指す

これまでのアンケート分析の結果より、フィードバック把握の高速化については、センチメント分析でもキーワード抽出の両方で達成できてきていた。

しかし、セールスの質向上についてはセンチメント分析だけでは不十分で、何に対して興味を持ってもらえているのかを探らないといけないため、キーワード抽出からしか考察を得られていない。そこで、フィードバック把握の高速化を満たしつつ、センチメント分析とキーワード抽出の両方を兼ね備えたアンケート分析が必要だと考え、以下の新しいフローを提案し、実際に検証してみた。

これまでの手法では、センチメント分析とキーフレーズ抽出を別々におこなっていたが、新たに提案した手法では、まず各セッションごとのセンチメント分析結果の平均値を「良い点」は降順、「改善点」は昇順でそれぞれソートし、TOP1のキーフレーズ抽出結果からワードクラウドを作成した。

こうすることで、参加者の感情が動いたセッションを高速で見つけ出すことができ、さらにそのセッションでキーワードを抽出することで、顧客が何に興味があるのかをより詳細に把握することができる。

高速にキーワードを取り出せる

「良い点」に関しての結果は以下のワードクラウドの通りである。

提案手法「良い点」

ワードクラウドから「IoT」と「Hub」に関するセッションが好評で、反応がとくにポジティブだったことがわかる。これまでの手法では注目されていなかったキーフレーズが抽出でき、この手法が有用であることがわかる。

また、1セッションに注目することで、これまでの手法より詳細に、誰が何に興味があるかも把握できる。

続いては改善点に関して。結果は以下のとおりだ。

提案手法「改善点」

これまでの手法と同様に時間など運営方法に対しての不満が多かったこともわかるが、提案手法の特徴が表れているのは、「presentation」や「question」の部分である。

これまでの手法の改善点では、全体で評価していたため、どこが悪いか漠然としていた。しかし、新しい手法では不満が多かったセッションのプレゼンテーションや質問対応が悪いなど不満点を詳細に把握できる。新しい手法によって、参加者の感情が動いたセッションを高速で見つけ出すことができ、さらに顧客ごとによりきめ細やかに興味があることを把握することが可能になったと言える。

アンケート分析作業は人間の約830倍高速に

実際に人間と機械がアンケート分析をするのにかかる時間はどの程度違うのか、定量的に求めた。

人力による重要セッションの選択→キーワード抽出

  • 「1セッションあたりの所要時間※英訳不要のため日本語を想定
    Sentiment Analysis: 12min = 24 x 30s

  • (1セッション平均回答数) x (回答1つあたり15s、良い/改善点2個)
    Key Phrase Extract: 8min = 24 x 20s

  • (1セッション平均回答数) x (回答1つあたり10s、良い/改善点2個)
    Normalize + Word Cloud:8.8 min = 47 x 10s + 5 min

  • (キーワード抽出後平均単語数) x (単語1つ変換作業時間) + (単語集約)

全体合計: 90時間 = 188件 x 28.8分


AIによる重要セッションの選択→キーワード抽出
1セッションあたりの所要時間

  • Translate: 1.5 min
  • Sentiment Analysis: 15 s
  • Key Phrase Extract:20 s
  • Normalize + Word Cloud: 10 s

全体合計:6.5 min = 188件 x 2分

今回のケースのように、全188セッションあるような大規模なイベントでは、アンケート分析をシステム化すると人間の約830倍の高速化が見込めることがわかった。

ポジティブな意見に対しては実用化も近い?

人間の言葉を理解する作業を機械に任せるため、読者が一番疑っているのはその精度だろう。センチメント分析のセンチメントスコアが実際のアンケート回答者の満足度と合致しているかの評価は、以下のようになった。

結果としてセンチメント分析では「良い点」の正解率は7割あるが、「改善点」の方では5割となった。

評価方法は、Text Analytics API の出力するスコアの値を、0.5以上をポジティブ、0.5未満をネガティブ(0.5ちょうどはニュートラル)とみなした。今回、すでに設問「良かった点をご記入ください」「改善が必要な点をご記入ください」によってポジティブ/ネガティブを振り分け済みのため、

  • 「良かった点をご記入ください」の場合は 0.5以上 の割合
  • 「改善が必要な点をご記入ください」の場合は 0.5以下 の割合

を、正解率として計測した。

感情値は量的な評価がしづらい部分もあるが、「良い点」という質問に7割の正解率が出たのは良いことだと考えている。回答者の感情値を正確に測ることは人間でさえもなかなか難しいにも関わらず7割の精度を叩き出したのは、アンケートの分析結果から考察を産むのに有用なのではないかと考える。

一方、「改善点」に関しては正解率が低く、文字数が多いものを高スコアにしてしまう傾向もあるため、実用的な精度とは言えない。

自然言語の理解は発展途上だが、AIの可能性は見えた

今回のAIによるアンケート分析の検証では、十分な「フィードバック把握の高速化」と「セールスの質向上」が達成できたのではないか。

精度に関しては、残念ながら「改善点」については実用レベルではないことがわかったが、「良い点」に関しては十分な精度であり、実用レベルといえるだろう。一方、自然言語の理解が必要な場面でのAI利用はまだ発展途上である。しかし、今回のアンケート分析の結果で、AIの可能性を感じていただけたのではないだろうか。

AIの利用はアンケート分析のように導入例がない場合でも、思わぬところで役に立つかもしれない。今回利用した「Microsoft Azure Text Analytics API」は無料枠もあり、気軽に利用できるので是非試してみてはいかがだろうか。

日々の業務を効率化するサービスが一挙集結。「AI・業務自動化展」が10/23~25にかけて開催中

10月23日から25日にかけて、幕張メッセで「AI・業務自動化展」(Japan IT Week内)が開催中だ。

AIやRPA、チャットボットなどの業務自動化ソリューションが一堂に会し、経営者や総務、人事、マーケティング、開発の責任者などが多数来場、商談を行う展示会だ。

初日にブースを見て回り、気になったサービスを3つ紹介する。

勤怠データから離職率を推定する「HuRAid」

企業の人材育成や採用活動などをサポートする、HR Tech系のサービスが増えている。Saasの普及により、企業は初期投資を抑えることができ、中小企業でもHR Techサービスの導入が進んできた。

「AIで離職率を防止」を掲げる勤怠分析ツール「HuRAid」では、自社で使用している勤怠管理システムからCSVで勤怠データを吐き出し同ツールにアップロードすることで、従業員の離職リスクを予測できる。

ここでいう勤怠データとは、たとえば誰がいつ遅刻したか、どの程度の頻度で休みを取ったかなどのデータのこと。直近の勤怠データを取り込み、モデルで推論することで、1人ひとりの将来的な離職リスクを算出する。離職リスクを把握することで、従業員へのケアが可能になる。

予測結果画面。HuRAid webサイトより

「モンスター部下」などの問題も顕在化しており、上司が部下のマネジメントに苦労する昨今、マネジメントを少しでも容易にするサービスと言えるかもしれない。

AIが自動でシフトを作成する「Shiftmation」

コールセンターや小売の店舗などシフト勤務の業態では、従業員のシフト作成は重労働だ。責任者や店長は、従業員からシフト希望を聞き、できるだけ希望に沿ったシフトを作成しなければならない。手入力ではミスも発生するだろう。

シフト作成の業務を自動化するのが、アクシバースが提供するクラウドサービス「Shiftmation」だ。

Shiftmation webサイトより

従業員がスマートフォンなどで希望シフトを入力し、AIが自動で振り分ける。最終的な微調整は必要だが、人手で作成した場合と比べて精度(ここでは人手でシフト作成した場合との合致率)は9割程度。Shiftmationを使うことで修正が必要な割合は1割程度だという。

料金体系は従業員1名につき600円/月で、初期費用は無料。個人事業主でも手が出しやすい範囲に収まる。

――ブース担当者
「シフト作成は、多い場合で10日から2週間ほどかかるケースもあります。少しでもシフト作成者の負担を減らし、より本質的な業務に向き合ってもらえたらと思います」

AIに必須なアノテーションを自動化する「Annotation One」

今回会場を回ってみて、とくにチャットボット、AI-OCR、RPA系のブースが多いのが目立った。上記はすでにビジネス現場での活用が進みコモディティ化しており、各社はUI・UXや料金体系など、技術以外の部分で勝負するレッドオーシャン化が進んでいる。

関連記事:ボット、RPA、AI技術が集結。AI・人工知能EXPOレポート【1日目】

上記自体は今年春に行われたAI・人工知能EXPOとあまり変化はないが、今回新たに目立ち始めたのが「アノテーション(AIの教師データを作成する作業。ラベル付け)」代行サービスだ。

具体的な統計を取ったわけではないので筆者の主観になるが、AI・人工知能EXPOでアノテーションを推している企業は1,2社しか見なかったが、今回は4社以上がブースでアノテーションサービスをアピールしていた気がする。

グローバルウォーカーズが提供する「Annotation One」もそのひとつだ。AIを用いたシステム開発に必要な、

  • データ取得
  • アノテーション
  • 学習
  • デプロイ
  • インテグレーション

などを包括的にサポートする。特にアノテーションにはある種の職人技に加えてマンパワーが要求されるが、グローバルウォーカーズではそれらに精通した100人程度のスタッフを抱える。

特筆すべきは、3DCGによるデータ作成にも対応していることだ。通常、データはデバイスを通して取得されるが、発生確率が低い状況のデータが必要になるケースもある。たとえば、工場内で製品の異常検知などを行う際の「異常データ」がそれにあたる。

しかし、工場内ではそもそも異常が発生しないように工程の随所に気を使っているため、異常データは手に入りにくく、モデルを学習させるための教師データが足りない、というような事態が発生する。

そうした異常データを3DCGで作成するのは選択肢のひとつだ。発生しにくい異常を再現できるほか、一度3DCGデータを作成してしまえば、ほかのさまざまな異常を再現できる。また、3DCGはそれ自体がラベルとなるメタデータ(名称や場所など)を含むため、アノテーションは必要ない(逆に言えば3DCG作成=アノテーションになる、ともいえる)。

――山下氏(グローバルウォーカーズ マネージャー)
「Annotation Oneでは、撮影やCG作成といったデータの取得作業からアノテーション、モデルを作成した後の継続的な再学習のマネジメントまで対応しています。AI開発に必要な面倒くさい作業をワンストップでサービス提供できることがグローバルウォーカーズの強みです」

AI・業務自動化展は25日まで開催中

AI・業務自動化展にはレッジも出展している。ブースにて行っているCMO中村によるレッジのコンサルティング事例セミナーにはたくさんの来場者に集まっていただき、好評を博していた。

明日24日には、Ledge.ai編集長の飯野も「国内No.1 AIメディアの編集長がこっそり教えるAIプロジェクト成功の秘訣」というテーマで登壇予定だ。

AI・業務自動化展は25日までの開催だ。AI導入、業務自動化を検討していれば、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

「AIを使っている」と意識しないレベルに。日本HPが語るエッジAIの必要性

  • Collaborator:

クラウドを介さず、データの生成地点(エッジ)側に置いた端末で解析・推論処理を完結させる「エッジAI」技術。

AI業界ではもっともホットなトピックのひとつですが、「実際にどんなシーンで活用できるのか」「どんな形で導入できるのか」という具体論が見えづらいのも現実です。

そんな状況を一気に打破するべく画期的なソリューションをパートナー企業と打ち出しているのが、企業向けワークステーションで圧倒的なシェアを誇る日本HP。

同社とパートナー企業の展開するエッジAIソリューションとはどのような仕組みなのか、導入によって業務面でどんなメリットを得られるのか──。日本HP クライアントソリューション本部 ソリューションビジネス部 ビジネスディベロップメントマネージャーの新井信勝氏に聞きました。

エッジAI、何がメリット?

エッジという言葉はどこか耳慣れませんが、言い換えるならば「(ネットワークを介さず)ローカル環境で処理を行う」ということ。

これまで高度なAI処理はネットワーク上のサーバー環境で行われることがほとんどでしたが、これをエッジに移行することで具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?

――新井
「これまで映像や画像などの大容量データをネットワーク上で処理していたことで発生していた負荷やレイテンシーの問題を、エッジAIで解決できます。また、止まってはいけないリアルタイム処理などもネットワークの問題によって中断したりせずに処理することができます。

負荷の高いデータ処理はエッジで完結させ、ネットワークへは解析済みのデータのみを上げる仕組みにすることで、負荷を大幅に軽減できるのです」

通信データ量に応じて課金されるクラウド環境において、ネットワークのトラフィック軽減は大きなメリットです。

その一方で、トラフィックをあまり気にしなくてよいオンプレミス環境や、比較的軽量なデータを分析するケースもあるでしょう。

エッジAIに、トラフィック削減以外のメリットはあるのでしょうか?

――新井
「個人情報や機密情報など『ネットワークへ上げたくない』データをローカルで処理しリスクを減らせるというメリットがあります」

たしかに個人情報などのセンシティブなデータは、対策を講じていたとしても「ネットワーク上を流れる」というだけでリスクがあるとも言えます。

エッジで処理を完結させることによって「不必要な機密データをネットワークに流さない」構成を実現し、一種のリスクヘッジを図れる、と新井氏は語ります。

エッジAI、どんな現場で役に立つ?

前章ではエッジAIの具体的なメリットが明らかとなりましたが、次に気になるのが「エッジAIが具体的にどんな現場で力を発揮するのか?」という疑問。

技術的に優れた面が多いことは理解しつつも、AI導入を検討する側としては端的に「エッジAIが日々の業務をどう改善するのか?」を知りたいところです。

エッジAI、どんな現場で役に立つのでしょうか?

――新井
「エッジAIが力を発揮するのは、高精細な映像や画像などのリアルタイム解析が求められる場面です。

具体的には、工場での不良品検出や交通情報の解析といった『コンピュータービジョン』と呼ばれる分野や、流通・小売業界における店舗内のセキュリティ監視、マーケティング解析、医療画像解析による診断支援などの分野での活用が見込まれています」

処理をローカル環境で完結させるというエッジAIの特長を考えると、医療現場でリアルタイム処理を行い、「センシティブな患者データをネットワークリスクから守れる」という点でも大きなメリットがありそうです。

エッジAIの具体的な特長や活用法がわかったところで、やはり気になるのはコスト。新たにエッジAIの仕組みを導入することで負担が増える可能性はないのでしょうか?

――新井
「エッジAIならばローカルなハードのなかで処理を完結できるので、何時間稼働させても導入費以外のコストがかかりません。導入時にコストがわかりやすくプロジェクトをスタートしやすいということもあります。

クラウドでは、データ量や時間によって課金が増えていき、トータルコストがいくらかかるのかかわかりにくく、実際には、エッジAIで処理を行ったほうがトータルで割安になるケースもあります」

「クラウドで大規模な処理を行っており、スペック・時間課金に悩まされていた」という環境においては、エッジAIが大きなコストパフォーマンスを発揮すると言えそうです。

エッジAI、セキュリティは大丈夫?

ネットワークを介さず処理が完結できるメリットがある、というエッジAIですが、セキュリティリスクはネットワークにのみ存在するとは限りません。

エッジ=ローカル環境で処理を行うということは、同時に物理的・人的なセキュリティ問題も気にする必要があります。

クラウド環境ではマネージメントされるセキュリティパッチの導入も、ローカル稼働を前提とするエッジAIでは遅れやすいのではないか?という疑問も浮かびますが、このあたりを担保する手立てはあるのでしょうか。

――新井
「HPのPCは、ワークステーションを含めてサイバー攻撃に備えた数多くの仕組みを搭載しています。

たとえば、HP Endpoint Securiy Controllerという専用プロセッサーと暗号化ソフトウェアが搭載されています。BIOSが改ざんされていないかなどをチェックし、もし攻撃され破壊されていた場合はHP Sure Startという機能で自動修復を行います。

そのほか、ディープラーニングAIで未知のマルウェアを検出しブロックするHP Sure Senseなどの機能を搭載し、万が一攻撃されても、素早い復旧を可能にする『サイバーレジリエンス』を重視したハードウェアを提供しています」

産業におけるサイバー攻撃リスクは、データの流失や“踏み台”化に限った話ではありません。既存データを消去・破壊することで産業活動を停止させるタイプの攻撃も顕在化しています。

これに対して新井氏が示したのは「ハードウェアレベルでセキュリティ対策を行う」というスタンス。防御だけでなく、最悪の事態を想定して「すばやい業務の復旧」という点にも重きをおくことで、全体的なリスクヘッジになるという考えであることがわかります。

「AIは日用品になる」

新井氏が所属する日本HPでは、AIビジネスを行うビジネスパ―トナーとの協調を積極的に進めているそうです。AI開発を行う開発会社やビジネスパートナーの紹介や、検証機の貸し出しなどの検証のサポート、協調ビジネスや協調マーケティングを行い、AIの開発や導入の敷居を下げるための活動を行っているとのこと。

日常生活のあらゆる場面にAIが活用され、それを”ウリ”とするサービスも多く見かけます。しかし、いざ現場にAIを導入しようとなると「何から始めればよいのか?」と立ち止まってしまうケースがまだまだ多いようにも思います。

新井氏は、多くのAIプロジェクトが「PoC(概念実証)」、すなわち見積もり段階で止まっている現状を歯がゆく感じているといいます。

――新井
「幅広くAIが復旧していくには、『AIを使っている』と意識しなくてもよいレベルまでのコモディティ(日用品)化されたソリューションが不可欠だと思います。

HPのパートナー企業は、HPのハードウエアを活用し、コストパフォーマンスに優れ導入しやすいAIやデータサイエンスソリューションを開発、発表しています。今後、エッジAIを活用したソリューションによって、難しいAIを使っていることを意識せずにAIの恩恵をうけられるようになります」

いまやライフラインとして定着したインターネットもかつては敷居の高い存在だったように、AIもまた日々の生活へ本格的に溶け込んでいく過渡期にあるのかもしれません。

日々の業務とAIのリアルな接点のひとつとして、エッジAIはこれからさらに注目を集めていきそうです。

>>エッジAI・データサイエンスに最適なHPワークステーション

組込みディープラーニングのLeapMind、シリーズCラウンドで約35億円の資金調達─週間AI業界資金調達ニュース

Ledge.aiでは、AI業界の資金調達ニュースを毎週金曜日にお届けする。10月14日〜10月18日のニュースは以下の通り。

先週の記事はこちらから。

ディープラーニングのLeapMind、シリーズCラウンドで約35億円の資金調達

調達額
35億円(累計調達額 約49.9億円)


調達先
あいおいニッセイ同和損害保険
SBIインベストメント
トヨタ自動車
三井物産
LeapMindでは、ディープラーニングを電力や通信状況に制約のある環境で実用化するために、ソフトウェアとハードウェアの両面から研究開発を行ってきた。LeapMindが保有する「極小量子化ディープラーニング技術」を用いることで、消費電力などさまざまな制約があるエッジ端末上でもディープラーニングを動作させることが可能となる。

関連記事:IoTの次に来る『DoT』 ── LeapMindが描く、人が機能拡張される世界

今回調達した資金は、FPGAやASIC上でディープラーニングを実現するソフトウェアスタックである「Blueoil」のさらなる開発や、Blueoilがさらに活用されるための極小量子化ディープラーニング専用の回路を設計、低消費電力とかつてない性能を実現するための独自IPの開発に充てる。また、採用やマーケティング費用にも充当する予定だという。

LeapMindはシリーズAで約3億4千万円、シリーズBで約11.5億円の資金を調達しており、累計調達額は約49.9億円となった。

CBcloud シリーズBエクステンションラウンドの資金調達を完了

調達額
約7億4000万円


調達先
JR東日本スタートアップ
BORベンチャーファンド1号投資事業有限責任組合
沖縄タイムス社
CBcloudは、2013年の設立以来、フリーランスドライバーと荷主を即時につなぐ配送マッチングプラットフォーム「PickGo」やAIやブロックチェーンを活用した動態管理システム「ichimana」の提供している。ラストワンマイルを担うフリーランスドライバーが直面する労働条件の改善と荷主の利便性の追求、およびITソリューションの提供による運送業界の効率化を促進し、社会インフラとしての運送網の強化に取り組んできた。

モノのMaaS(Mobility as a Service)とは、CBcloudが将来的に提供を目指す構想。運送業界におけるMaaSの提供を見据え、陸空海の各輸送手段を組み合わせ、荷主と最適な輸送手段を、ITを活用しシームレスかつ瞬時につなぐプラットフォームの構築を目指している。

CBcloud モノのMaaS構想イメージ

今回調達した資金は人材の獲得費用に充て、組織体制の強化を図る。また、既存サービスのマーケティング施策および新サービスの開発費用にも充当し、長期的な成長にむけ強固な経営基盤の構築を目指すという。

海外スタートアップに特化した情報プラットフォームを提供するZuva、約8,000万円の資金調達を実施

調達額
約8000万円


調達先
ウエルインベストメント(早稲田大学提携VC)
Zuvaは海外スタートアップに特化した情報プラットフォームを提供している。

これまで、Webサイト、ニュース、特許情報などパブリックな情報及び、プライベートAPIなど、多様なソースから取得した情報をもとに、インタンジブルアセットと呼ばれる企業の強さの源泉となる「目に見えない資産」に重点をおき、今までに海外スタートアップ約70万社の世界最大規模のデータベースを構築してきた。

今回の資金調達により、

  • Webサービスである「※ZUVA for Business」の新規機能開発
  • データソースの拡充
  • 海外ローカルネットワークの拡大
  • 人財の採用およびマーケティングへの投資

を実施し、次回資金調達シリーズAに向けて、サービスの充実、事業の拡大を目指すという。

※データベースから、独自AI(早稲田大学創造理工学部鬼頭研究室が開発)を通して、ユニークな技術・サービスを持つスタートアップを抽出、アナリストチームによる業界レポートを提供するWebサービス

2億件以上のデータから顧客心理を分析――ウェルスナビがAIによる資産アドバイス機能をリリース

雇用の流動化による終身雇用の終焉や、少子高齢化に伴う年金水準の低下が連日ニュースで叫ばれている。金融庁・金融審議会が2019年6月3日に公表した「高齢社会における資産形成・管理」をきっかけに、「老後2000万円問題」が大きく取り上げられたのも、記憶に新しい。

お金へのこうした不安を解消すべく、個人向け資産運用ロボアドバイザーを提供する事業者のひとつがウェルスナビ株式会社だ。同社が提供するアプリ「WealthNavi(ウェルスナビ)」は、入金・発注・再投資などといった資産運用のわずらわしいフローを自動化している。預かり資産1700億円、口座数23万口座を突破したという同社の事業戦略説明会が2019年10月16日に開催され、経営層が今後のビジョン「資産運用3.0」について語った。

個人にとって最適化された資産運用プランの提案をめざす「資産運用3.0」ビジョン、老後資産の形成をサポートする「ライフプラン機能」のリリースと共に語られたのが「AIによる資産アドバイス機能の実装」だ。本稿でも同セッションの内容を中心にお届けする。

AIによる資産アドバイス機能をリリース

今回ウェルスナビが発表した資産アドバイス機能が目指すのは「ユーザーに寄り添うAIの実現」

登壇者の同社執行役員 AI資産運用ラボ所長の牛山史朗氏によると、アプリを通じて得た2億件以上のトラックレコードをもとに年齢や年収、求める生活水準など利用者の属性のほか、アクセスログや相場の影響、どんな資産運用をしたいかといった志向も加味しアドバイスを行っていくという。

――牛山
「AIによる資産運用サービスは数多く存在するが、その多くが”相場の先行きを予測し、短期売買を繰り返すことで利益を狙う”もの。

お客さま一人ひとりに合った商品を提案するネットショッピングや、習熟度に合わせてコンテンツを出し分ける学習アプリのように、当社でもお客様に寄り添う手段としてAIを活用していきたいと考えました」

アドバイスのパターンは無限大

ユーザーの情報だけでなく、「アドバイス」そのものにもいくつもの要素が絡み合う。内容や語り手の説得力をはじめ、アドバイスのタイミング・語り口、呼びかけ方、頻度…といった複数の要素をかけあわせることで、ユーザー数と同等もしくはそれ以上のアドバイスを提供できるようになると見込んでいる。心に響くアドバイスができるよう、今後も効果検証を続けていくという。

――牛山
「機械学習といえども、お客様の心理を理解し洞察することが必要になってきます。当社では相場が変動していくなかで、お客様がとられた行動とその心理を真摯に見ていった結果、今回の機能のリリースに繋がっていったと考えています。他社が同じようなことを考えてAIを作ったとしても、違った結果が出てくるのではと思います」

同機能のリリースに先立ち、2017年から東京大学の松尾豊研究室と共同研究を進めており、当発表会でも松尾教授からのコメントが発表された。

――松尾
「金融の世界において、データを使ってユーザーの感情をうまく汲み取り提案していく事例は数少なく、おもしろい取り組みです。

AIを活用して分析し、人が気づけなかったことを見つけ出すことで、資産運用の提案にも成長の余地があると思っています。サービスの成長によって多くのユーザーが集まることで、データがリッチになり、新たな発見も増えるのではないでしょうか」

AIの得意分野で「顧客に寄り添う」を実現する

なぜ同社が「お客様に寄り添った、長期・積立・分散投資」にこだわるのか。それは代表取締役CEO・柴山和久氏の個人体験にさかのぼる。

――柴山
「アメリカ人妻の両親と自分の両親は、同じような年齢・学歴・サラリーマン夫婦であるにも関わらず、10倍の金融格差がありました。それは個人に合った資産運用サービスを受けられていたから。もし私の両親も若い頃から同じような資産運用を始めていたなら、今の何倍も豊かになっていたでしょう。

日本でも多くの人が、海外の富裕層が受けられる個人金融サービスを受けられるようにしたいと考えています」

10倍もの差を生み出したのは、30年間に渡る計画的な資産運用だった。実際に「長期・積立・分散投資」は投資の基本として語られることが多く、金融庁が2016年9月に発表した金融レポートでも、短期的な売買など投機目的での資産運用ではない「長期・積立・分散」の有効性が記されている。

リターンの安定した投資を行うには、投資対象のグローバルな分散、投資時期の分散、長期的な保有の3つを組み合わせて活用することが有効である。過去の実績データに照らしても、20 年間にわたり、国内・先進国・新興国の株式・債券にそれぞれ6分の1ずつ長期・積立・分散投資を行っていた場合には、定期預金だけで積立を行った場合や、国内外の株式・債券だけに積立・分散投資を行った場合と比べて、パフォーマンスに大きな違いが見受けられる。

出典:平成27事務年度 金融レポート(金融庁) p.52

同社でも「利用者ひとりひとりに向けた最適サービスの出し分けはAIの得意分野」(牛山氏)というように、資産運用にテクノロジーの力をかけあわせ、ユーザが無理なく長期投資を続けられる仕組みづくりを進めている。

さまざまな金融の悩みをAIが解決できる未来へ

現在同社が考える課題のひとつが利用ユーザが長期投資を続けていくことだ。

今回発表されたAIによる資産アドバイス機能が、この課題を解くカギになるかもしれない。「AIが投資運用の中身だけ注目する時代から、運用時のコミュニケーションを加えたサービスになることが欠かせない」(牛山氏)というように、AIを用いることで、顧客のタイプや心理状況に応じた細やかなサポートを提供する。

今後は2020年春にかけて効果検証を進め、金融に対するさまざまな悩みをAIが解決できるよう、機能を改良していく。現在は「働く世代」をサービスの中心に据えているが、さまざまな世代のユーザにとってもAIの利活用は、重要な役割を果たすという。

テクノロジーを使って誰でも同等の金融サービスを受けられるように――。今回の資産アドバイスサービスは、金融分野における新しいAI活用法を世に示す試金石になるだろう。

AI人材不足の根本理由は「教える側の不足」だ──経産省が主導する“次の学び方”の試金石

政府の統合イノベーション推進会議は2019年6月「AI戦略 2019」を策定し、具体目標として教育改革に力を入れる方針を示した。

その中で、新たな形の産業政策として掲げられたのが「AI Quest」だ。AIの社会実装を担うことができる人材不足の解消と、人材育成を通したAIの社会実装の実現を目指す。

関連記事:経産省が進める“課題解決型”の人材育成「AI Quest(エーアイ・クエスト)」、その全貌

10月11日、そのAI Questのキックオフイベントが行われた。同イベントで語られたことを抜粋してお伝えする。

生徒による教えあい、実践、自治を実現しているフランス「42」

最初にAI Questを構想したのは、フランスの通信グループであるIlliadのCSOである、Xavier Niel氏が設立したテックアカデミー「42」を見てからだったと、最初に登壇した経済産業省 商務情報政策局長の西山圭太氏は語る。

42とは
学位要件がない、18〜30歳を対象としたフランスのプログラミングスクール。年間約1,000名を受け入れ、倍率は80倍以上。入学試験でプログラミングによる課題解決を行い、成績上位者が入学できる。

――西山
「42にはユニークな点が3つあります。ひとつは型にはまらないこと。42はそもそもが実践に近い、学位的な位置づけのない学校として始まりました。当初大学として申請したにもかかわらず。拒否されたそうです(笑)

ふたつめは学ぶ内容が実践的なことです。いわゆるPBL(Problem Based Learning)で、課題を解くことが学習につながる。最後に先生生徒の関係がない、生徒同士での自治を実現していること。学んでいる環境を自分たちでつくっているんです」

AI Questもすでに動き出しており、参加者同士の熱気のある交流も始まっているそうだ。

教える側の不足という構造的問題を解決する

次に経産省 商務情報政策局 情報経済課 課長補佐の小泉誠氏が登壇し、AI Questの事業の概要を説明した。

AI Questも42同様、“実践的な学び”をテーマのひとつとしている。実際の事例とデータを教材に使い、「疑似経験学習」を行うことで、AI社会実装の力を参加者につけてもらう。

すでに、

  • 小売
  • アパレル
  • モビリティ
  • 金融
  • 介護
  • 物流

といった業界の企業から事例とデータの提供を受けており、教材に使用される予定だという。

日本においてAIの普及が進まない理由として、AI人材の不足が叫ばれて久しい。AI人材育成プログラムは増加しているものの、現状は裾野が広いオンライン教育か、ハイレベルな対面での少人数講義の二択に偏りがちだ。

その根本原因として、構造的な「教える側の不足」が挙げられると小泉氏は指摘する。

――小泉
「構造的な問題として、AI教育自体が体系化できるほど成熟しておらず、変化のスピードも速い。そのため最前線でAIを推進している起業家や“イケてるエンジニア”などを招聘しようとしても、経済合理性の観点で難しく、結果として講師側の不足が起きています

一度に大量のAI人材を育成しようにも、講師を長時間拘束するプログラムは組みにくく、必然的に小規模で実施せざるを得ない。その結果、プログラムを終えられる人材自体も希少化し、人材不足はなかなか解消されない。

そこに42のやり方はハマった。講義型ではなく生徒同士で教えあい学びあうことで、教務係10名ほどで年間1,000人を育成している42の手法を取り入れることで、「拡大生産性」のあるAI人材育成が実現できると考えた。

――小泉
「AIの社会実装は、まだ42でもやりきれてないことです。AIの社会実装に必要なのは、ビジネスサイドとエンジニアサイドがお互いの知恵を翻訳し合い、話ができるようにすることだと思っています。

AI Questによって、たとえばこの技術を使うとこのビジネスインパクトがあるとエンジニアサイドは試算でき、ビジネスサイドはAIがどれくらい課題に対して有効なのかを試算できる状況を目指します」

2019年10月から2020年2月にかけて、教育手法の全体設計から事業の準備、実施、効果検証までを民間3社(Zero to One、ボストンコンサルティンググループ、SIGNATE)と経産省共同で行う。実証結果はすべてオープンにし、失敗を共有していくという。

未来の学び方の試金石になるか

小泉氏の講演にもある通り、AIを学ぶ方法自体はオンライン、オフラインともに多様になってきた。しかし、AIについて全体像から個別の手法まで学ぶうえでは、依然としてどのような教育手法が最適解なのかはまだ誰にもつかめていない。

実践型のプログラムで、生徒同士学びあう教育手法は、AI業界にかかわらず横展開ができると思われる。これからのメインストリームな学び方として、どこまでインパクトを残せるのか見守りたい。

ファッションAIのニューロープ、第三者割当増資により1億円調達──週間AI業界資金調達ニュース

Ledge.aiでは、AI業界の資金調達ニュースを毎週金曜日にお届けする。10月7日〜10月11日のニュースは以下の通り。

先週の記事はこちらから。

ファッションAIのニューロープ、第三者割当増資により1億円調達。需要予測やトレンド分析のSaaS開発に先行投資

調達額
1億円


調達先
大和ベンチャー1号投資事業有限責任組合 無限責任組合員 大和企業投資
ディノス・セシール
中京テレビ放送
Reality Accelerator1号投資事業有限責任組合 Reality Accelerator有限責任事業組合
ニューロープはファッションに特化した人工知能を企業向けにSaaS提供するスタートアップ。

在庫が経営を圧迫する「デッドストック問題」は、長らくファッション業界最大の課題の1つだった。それに対しニューロープは、人とAIが有機的に手を結ぶことによって、売れる商品はしっかりと売りながら、売れにくい商品も適正量を作って必要とする人に届けて売り切り、ブランドが次のクリエイションを育むための原資を生み出せると考えているという。

関連記事:AIがアパレル廃棄問題に終止符を打つ? SNSトレンド分析で”売れる商品だけ”をディスプレイする時代へ

業界の価値を生かしたまま課題を解決するため、今回調達した1億円を先行投資し、またディノス・セシール社との協業を通して、需要予測やトレンド分析などの領域で仮説検証をスピーディに進めていくという。

フューチャースタンダードが東京理科大学ベンチャーファンド「TUSIC投資事業有限責任組合」から1.65億円を調達

調達額
1.65億円


調達先
東京理科大学イノベーション・キャピタル等を引受先とした第三者割当増資
フューチャースタンダードは「世界中の技術を世界中の人々が使えるようにする」というビジョンのもと、映像解析AI分野に特化したプラットフォームである「SCORER(スコアラー)」を開発・運営している。「SCORER」は、カメラや映像に関する最新技術をブロックのように組み合わせることで、映像解析AIを活用したシステム開発を安く・早く・簡単にする。

関連記事:AI映像解析「SCORER」通行量調査の自動化実験。目視を画像認識で代替する

今回の資金調達を通じ、映像解析AIの導入をサポートするコンサルタント人材とプラットフォーム開発に向けた人材の拡充を行い、映像解析AIサービスの立ち上げ・展開を支援する体制を強化していくという。

映像処理技術の専門企業NSENSE、3億円規模の調達

調達額
約3億円


調達先
シンガポールのVC
エンセンスはコアエンジン基盤のソリューション開発及びライセンスを提供する映像認識技術の専門企業。2005年本社設立の後、2011年5月映像処理技術の開発強化に向けて韓国に研究所を設立し、最近海外市場進出を模索している。映像認識分野で2つの技術に関する特許を保有し、今後も追加での特許申請を予定しているという。

また、エンセンスはAIとIoT時代の「目」に該当する認識技術を追求し、人の顔と動きを認識・認証するソリューション「PTAS(ピタス)」、空間認識エンジン「NVIS(エンビス)」と画像・映像認識ソリューション「ARme(アルミ)」を提供している。

今回の投資は以下の理由で映像認識技術力を基にしたエンセンスの成長可能性が高く評価されたという。

  • 映像認識技術の活用度が高い人工知能(AI)とディープラーニング技術の発展によるリアルタイム映像分析(Video Analytics)技術向上
  • 知能型CCTVを活用した選別管制市場の拡大
  • 5Gの商用化にAR/VR(仮想拡張現実)産業を含めさまざまな産業群の拡大

投資資金については、映像認識技術競争力強化のため専門人材の拡大、及び技術施設へ積極的に活用するという。

Adansons、MAKOTOキャピタルより資金調達を実施

調達額
非公開


調達先
MAKOTOキャピタルSalesforce Ventures
Adansonsは、2019年6月に東北大学発のAIベンチャーとして、CEOの石井晴揮氏、CTOの中屋悠資氏、技術顧問の木村芳孝氏によって立ち上げられた。独自技術の「参照系AI(特許出願中)」を用いたソリューションを提供している。

機械翻訳が発展する未来に英語学習は必要か?日本の英語教育の現在地

2020年から2022年にかけて、初等中等教育で学習指導要領の改訂と、それに伴う英語教育改革が行われることはご存知だろうか。

それに伴い、各教育課程では英語のスピーキング教育に力を入れ始めている。ただ、多くの学校でスピーキングを正しく指導できる先生が少ないのも事実だ。

その課題に、中国発のAI技術を担いで立ち向かうアイードという会社がある。

今回は、アイード株式会社代表取締役宮澤瑞希氏と、執行役員の勝見正輝氏に日本の英語教育の現状と、スピーキング評価AI「CHIVOX」について話を聞いた。

宮澤瑞希(写真右)
アイード株式会社 代表取締役CEO
信州大学理学部卒業/上海外国語大学修了。新卒で丸紅株式会社に入社。金融・不動産投資事業部にて不動産投資ファンド及び丸紅系REIT向け投資案件の組成や投資物件等の管理業務に従事。その後、株式会社産業革新機構(現:株式会社産業革新投資機構)に参画し、ベンチャー・グロース投資グループのアソシエイトとしてAI・ICT・ロボティクス領域への投資業務に従事


勝見正輝(写真左)
アイード株式会社 執行役員兼技術本部長
上海外国語大学卒業。日本の小学校を卒業後、単身上海に渡り大学卒業までの10年間を上海で過ごす。Snail Digital Technology Co,Ltdの日本法人立ち上げに参画。運営/開発/マーケティングを担当。運営部門のユニットマネージャーを経て、現職

英語の重要性はどんどん増していく

昔からずっと英語の重要性については議論されているが、今回の学習要項の改定に合わせて、受験科目として英語を取り入れる学校が増えているそうだ。

──宮澤
「これまで中学生から学んでいた『教科』としての英語が、2020年には小学校5年生から正式教科になります。そのため、すでに急増している『中学入試で英語を試験科目に採用する学校』は今後さらに増えると見込まれています(※)。また、中学校や高校では、よりスピーキングの重要性が増してきています」

※英語(選択)入試を実施した私立・国立中学校は首都圏で2014年の15校から2019年には125校に増えた

東京都は、現在の中学1年生が2年後に受験する都立高入試からスピーキングテストを導入することを発表。それに追随する形で長野県や福井県もスピーキングテストの導入を目指し、検討を進めていることが明らかになっている。

また、今の高校生は大学入試でこれまでの英語のリーディング・リスニングに加え、ライティングとスピーキングの能力が求められる。これらの背景から、少なくとも目先10数年は学生にとって英語学習が重要であることは間違いない、と宮澤氏は語る。

──宮澤
「インバウンドの観点でも、2018年に訪日外国人が3,000万人を超えましたが、政府はその数字を2030年に6,000万人まで伸ばすことを目標に掲げています。ビザ発給要件の緩和で、外国人労働者も増えています。

グローバル化の益々の進展に伴う英語の重要性はどんどん増していくと思います。今は大きな転換期だと考えています」

スピーキング評価の現状。評価者の気分や状態によって左右されてしまうことも

英語力やスピーキングがより重要なスキルになっていくことはわかったが、現状の教育現場ではスピーキングを正しく教育できる人材の不足に悩まされている。

人材の不足だけではなく、そもそもスピーキングを人が評価すること自体に課題があると宮澤氏は語る。

──宮澤
「スピーキングの採点/評価のような、正誤判断の難しいモノを人が行うのには限界があると思っています。明確な評価基準が作りにくいのに加え、評価者によっても評価がブレるからです」

英語学習教室などでも、ある先生の元ではスピーキング能力が高いと評価されたのに、他の先生の元では評価が低くなるなど、人による評価が原因で点数がバラつき、生徒の不満が出るケースはよくあるそうだ。

もちろん英語学習教室でも基準は用意しているものの、どうしても均一化は難しいというのが実情だ。

──宮澤
「また、どうしても人間なので、採点する人の気分や状態にも大きく左右されます」

TOEICなどが開催するスピーキングテストは、PCのマイクに向かって受験者が英語を話し、マイクで録音した音声データを採点官が実際に聞いて採点を行なっている。

もちろん、厳しい基準を通過した採点官が採点をしているが、それでも1日中同じような音声を聞いていれば集中力は散漫になり、疲れなどの影響で正しく採点できないことも多いのは間違いない。

──宮澤
「こういった問題に対して弊社が扱っている『CHIVOX』は非常に相性がいいと思っています」

中国で爆伸び中のスピーキング評価AI「CHIVOX」

CHIVOXとは、ひとことで表すと英語のスピーキング評価を自動で行えるAIだ。中国のCHIVOX社が開発をしているが、日本ではアイード株式会社が独占販売権を持っている。

中国では未上場で時価総額3,000億円以上ある「VIPKID」や、NYSEに上場している「好未来教育集団」「51TALK」をはじめ、1,000社以上に導入されている。主に予習/復習シーンでのスピーキングトレーニングツールやスピーキングテストの自動化等などに使われている。

──勝見
「特徴はさまざまなシーンに応じた評価ができることですね。ワード単位、センテンス単位、パラグラフ単位での評価をすることができます。

米式/英式英語の発音基準に対してどうなのか、発話が流暢かどうか、なども評価できます。また、チャイルドモード、ノーマルモード、ネイティブモードという3種類のモードを持っていることで、幅広い英語力に対応できることも強みです」

CHIVOXは教師データの違いによって、モードを変化させているそうだ。

ネイティブレベルで評価を行ったデータで学習した評価モデルだと、特徴的な子供の発音は「悪い」と評価されてしまうケースがあるが、レベルに合わせてモードを持つことで、その問題を解決している。

──勝見
「オープンクエスチョン(二者択一ではなく、自由に回答できる質問)にも対応しています。また『発音』『流暢さ』以外にも『文法』と『内容』といった項目でも評価が可能です。この部分の評価が可能なシステムというのはまだ国内にはなく、CHIVOXの強みとなっています」

──勝見
「弊社のビジネスモデルは B2B PaaS(Platform as a Service)です。これらスピーキング評価AIモジュールを配置したクラウド上のプラットフォームを、インターネットを介して顧客にAPI提供していますが、これが弊社サービスの大きな特徴です。

また、SDK(Software Development Kit)の使い勝手が非常によく、開発がしやすいため、顧客独自のプロダクト開発にご活用いただけるところもポイントです」

実際に編集部でも、APIを使ったデモを使わせてもらった。

デモの画面。今回は用意されている文章を読み上げ、その採点をしてもらった

上記画面はデモの一部だが、リアルタイムで即時に採点/フィードバックされるので、どこが悪かったのか改善点がすぐにわかるようになっている

また単語レベルでは、どの単語でどの発音記号を間違って発音しているのかフィードバックがもらえるため、自分でも意識しやすいような形になっていた。確かに、英語学習に大きな影響を与えそうなプロダクトだ。

──勝見
「このデモでは結果が点数で表示されていますが、たとえば幼児向けプロダクトを開発するのであれば、点数より『good』とか『great』とかの表示の方がいいこともある。顧客・サービスごとにUI/UXの部分に注力してもらえるような設計になっています」
──宮澤
「お話させていただいた通り、英語はこれからますます重要になってきます。スピーキング能力は実際に話さないと向上しません。ただ、日本の文化として複数人の前で英語をしゃべるのは恥ずかしいという人も多い。CHIVOXはそういう日本の文化とも非常にマッチしていると思います」

AI時代における教育の価値

atama+やQubenaなど、AI×教育によって、個人でも能力が伸ばせる環境は少しずつ整いつつある。特徴としては個人のペースで、個人が苦手な部分にフォーカスして能力を伸ばせるところだ。1対多で授業をしていた今までとは大きな変化である。

AI技術によって、これからの教育の形は大きく変わることが予想される。これからの教育はどうあるべきかのか? 未来の教育像についてもたずねてみた。

──勝見
「中国の英語の授業を見ると、各生徒がタブレット端末を持っていて、生徒はタブレット端末に向かって英語のスピーキングをずっとしているんですね。

先生は、その様子を管理用の端末でみていて、誰がどのくらい進んでいるのか、どこで止まっているのか、正答率がどのくらいなどかを確認し、生徒ごとの学習状況に応じた介入判断に活用しています。場合によっては英語を話せない先生がその立場にいることもあります」

──宮澤
「数年で日本も教育現場の形は大きく変わるでしょう。これはあくまで私見なのですが、求められているのはもっと生徒に寄り添える先生なのではないかと思っています。

現場の先生達に伺うと、学内外向け問わず、いまはやるべきことが増えすぎていて、先生が生徒に使える時間が減ってきています」

──宮澤
「これから先生には『生徒の学習をマネジメントする力』と、その時間を確保する為に自身の可処分時間を向上させたり、生徒の学習状況を把握/理解したりするための『ITを使いこなす力』がより一段と求められるのではないかと考えています」

自動翻訳技術が発展すればするほど、英語は重要になる

最後に、気になる質問をしてみた。英語学習の話になると「自動翻訳の技術が発達してくれば、英語学習は不要になる」という極端な意見もよく出てくる。それについて、だ。

宮澤氏は「自動翻訳技術が発展すればするほど、重要性は増す」と、その意見に真っ向から反対した。

──宮澤
「3つの観点があります。
1つ目は自然言語処理技術の限界です。NLP(Natural Language Processing)技術は確かに発展はしているものの、統計アプローチがベースとなっている以上、例外だらけの我々人間のコミュニケーションを完結するのは難しいのではないか? と考えているからです。

2つ目は、自動翻訳技術が発展すればするほど、英語がハブ言語として重要になっていくからです。世界には多くの言語がある中で、すべての組み合わせ(英語→日本語、イタリア語→フランス語などの言語ごとの組み合わせ)毎に翻訳プログラムを開発していくのは困難です。

簡単なレベルであれば実用レベルに到達している英語単体で見ても、研究開発が始まってから数十年経ったいまでも万能レベルには至っていない。自動翻訳技術の発展は、英語がハブとなる形で進むのが現実的だと考えています」

──宮澤
「最後に、自動翻訳の性質の観点です。自動翻訳は英語ができる人の能力を拡張させる特徴があると思っています。

自動翻訳技術がどんなに進歩しても、機械が行ったアウトプットに対して機械がそのアウトプットの責任を取るとは思えません。最終的にはやはり人が責任を持つことになると思います。まずは機械が一次訳をする、ということは間違いなく増えると思いますが、英語と日本語の両方をわかる人が最終的にきちんとチェックすることになると思います。

そういう意味でいうと、自動翻訳技術が発展すればするほど、英語ができる人の価値は一層向上すると思います」