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2019年9月11日
藤岡弘、さんが「仮面ライダー」に込めた思いと令和の日本に望むこと|MEDICOM TOY
MEDICOM TOY|メディコム・トイ
誰の中にも、ショッカーはいる。それに自分で気づき戦って打ち勝つのがヒーローです(1)
1971年4月3日から1973年2月10日まで全98話が放送された石ノ森章太郎原作・東映制作による特撮テレビドラマ「仮面ライダー」。誕生から約半世紀が経過しても、その人気は依然として絶えることはありません。中でも初代となる仮面ライダー1号/本郷猛を演じた藤岡弘、さんは日本のみならず、海外でも圧倒的な知名度を誇っています。今回はMEDICOM TOYから石ノ森章太郎生誕80周年記念商品「RAH 仮面ライダー旧1号 & サイクロン号 究極版セット」が発売されることを記念して、藤岡さんに当時この作品に込めた思い、そして未来に伝えたいことについてうかがってきました。
Photograph by OHTAKI Kaku Text by SHINNO Kunihiko Edit by TSUCHIDA Takashi
己を犠牲にしても敢然と命を守るために戦う正義のヒーロー
──今回MEDICOM TOYから「RAH 仮面ライダー旧1号 & サイクロン号 究極版セット」が発売されます。まずは、ご覧になった感想を教えてください。
藤岡 いやあ、身が引き締まりますねえ。当時の思い出が一気に蘇って、どういう気持ちで自分が取り組んでいたか突きつけられたといいますか。もう一回あの原点に立ち戻って、「心して行けよ」という声が聞こえてくる気がしますね。これを手にした皆さんも、再びあの頃の記憶が呼び覚まされると思うと嬉しくなります。
──藤岡さんは25歳のときに『仮面ライダー』の主演に抜擢。最高視聴率30.1%という人気番組となりました。
藤岡 嬉しい出会いでしたね。私としては、これからの日本を背負っていく子どもたちにとって重要な作品になるんじゃないかという予感をもって、この番組に向き合ったんです。
──このフィギュアには藤岡さんが演じた本郷猛の最初期イメージの頭部が付属します。仮面ライダーのマスク、スーツ、グローブなども当時のものを精密に再現していますが、藤岡さんは仮面ライダーのコスチュームを着用して、変身後のスーツアクターも兼務されていたそうですね。
藤岡 当時はCGなんてものはありませんし、スタントも私自身がやるのが当前だと思っていました。一発本番、命がけですよ。あの場にいた全員が固唾をのんで私の一挙手一投足に命を懸けていたんです。そういうスタッフの真剣な思いを背負って撮影に臨んだことを思い出します。
昭和はそれが当たり前だったんです。あの時代を生き抜いた皆さんは、戦後の廃退した状況の中、日本はこれからどうなるんだろうという不安を抱えながら「俺たちがやらなきゃ、誰がやる」という思いを抱いていたからこそ真剣な空気が漂っていた。まさに命懸けですよ。それがあったから今の日本がある。
予算もない。カメラもライティング機材も巨大で重い。それでもブレずに、迫力のある映像を撮るにはどうするか──人力(じんりょく)です。あらゆることが不完全な中、暗中模索でやるわけですから、時には失敗も起きます。
──撮影中に藤岡さんの乗ったオートバイが転倒し、大腿骨粉砕骨折という重傷を負った事故のことですね。
藤岡 どういう気持ちで生死をさまよいながら復帰したのか。それはここで自分が戻らなければ皆さんを失望させてしまう、このヒーローが終わってしまうという思いがあったからです。
復帰は絶対不可能だと言われたにも関わらず、勇気あるお医者さんがベトナム戦争で培われたという当時最新の医療技術を試してくださった。私も命懸けでリハビリに取り組みました。筋肉をもとに戻すためにバーベルで足を鍛え、毎日ビール瓶1、2本分の汗が下にたまっていました。あの苦難を乗り越えられたのは私の力だけではなく、皆さんの大いなる愛のおかげだったと思います。
──藤岡さんは3年前(2016年3月公開)、映画『仮面ライダー1号』で44年ぶりに本郷猛/仮面ライダー1号として劇場版ライダー作品の主演を務められました。出演を決めた一番の理由は何でしょうか?
藤岡 私も最初は懸念がありましたが、プロデューサーの誠心誠意を込めた説得に心を動かされまして。昔の恩師たち、共にこの作品に取り組んできたスタッフ、応援してくださった皆さんのために、もうひと踏ん張りするべきじゃないかと考えたんです。
──『仮面ライダー1号』では企画段階から参加され、子どもたちに命の大切さを伝えようとしたとうかがっております。
藤岡 それはどうしても伝えたかったので、私がアイデアを出しました。
人間は何のために生きているのか? この世に生を受けたことだけでも感謝すべきことではないのか。なのに、それを忘れて不平不満、私利私欲にまみれてしまう。それはちょっといかんぞ、という思いもあって。命の本質を再認識してもらえればいいなと思ったんです。
命とは天からいただいた唯一の贈り物。これほど感謝すべきものはないし、命はすべて等しく奇跡の存在だということに気付くべきだということですね。
そして命を破壊する人間は許されない。どんなことであっても命を守り、破壊するものを許さないという正義は絶対必要ということです。勧善懲悪の正義こそ大事だということは放送当時から認識していましたから。
──仮面ライダーはその後もシリーズ化され、長く愛されてきましたが、藤岡さんはこれまでずっと「1号」という原点を演じられた重みを支えてこられたんですね。
藤岡 やはり原点ですから大事です。子どもたちの心の中に正義を起こさなければいけない。どんな苦難や試練があろうとも正義は必ず勝つんだ、ならば正義に歩むべきだと。
己を犠牲にしても敢然と命を守るために戦う正義のヒーロー。これこそが子どもたちの心の中に灯したい私のメッセージであり、これまで仮面ライダーが続いてきた原点だと思います。