南米4カ国(メルコスール)とEPA 政府が検討 牛・鶏肉で懸念
2019年11月05日
政府が、ブラジルなど南米4カ国でつくる南米南部共同市場(メルコスール)との経済連携協定(EPA)交渉を検討していることが4日、分かった。自動車などの輸出拡大が狙いとみられるが、4カ国は世界有数の牛肉、鶏肉などの生産・輸出国。環太平洋連携協定(TPP)をはじめ大型通商協定の締結、発効が相次ぐ中、メルコスールとのEPAで関税が撤廃・削減されれば、一層の輸入増が懸念される。
メルコスールには、他にアルゼンチンとウルグアイ、パラグアイが加盟。欧州連合(EU)のように、域内では関税を原則撤廃し、域外には共通の関税を課す。
関係者によると、安倍晋三首相は16、17日にチリで予定していたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議への出席に合わせブラジル訪問を調整。同国のボルソナロ大統領と会談し、EPA交渉の可能性について協議する方向で検討していたという。だが、チリが反政府デモの影響でAPEC開催を断念し、日程は不透明だ。
日本はTPPや日欧EPAで、鶏肉の関税(8・5%か11・9%)を撤廃。牛肉の関税(38・5%)は9%まで削減する。メルコスールとEPA交渉を始めれば、こうした水準までの関税削減や輸入解禁を求められ、日本市場での競争力が高まりかねない。
自民党農林幹部は「日米貿易協定に合意したばかり。大型協定の交渉がこんなに続いては、国内農家の理解を得られない」と警戒する。6月には、メルコスールとEUの自由貿易協定(FTA)が基本合意に達したが、安価な農産物の流入への懸念などから合意に20年かかった。
4カ国のうち、ブラジルは日本の鶏肉の輸入量の7割を占める。牛肉の輸出量は186万トン(2017年)でオーストラリアや米国などを上回り世界一。ウルグアイは44万トン、パラグアイは38万トン、アルゼンチンは29万トンと有数の輸出国だ。ブラジルは世界最大の砂糖の輸出国でもある。
ただ、日本は4カ国産の牛肉について、防疫上の理由から、ブラジルとアルゼンチンの一部地域を除き輸入を禁止。ウルグアイからの輸入は条件付きだ。19年の輸入量は9月まででウルグアイ、アルゼンチン両国からの計717トン。輸入量全体の0・2%にとどまる。
メルコスールとのEPAは、日本経団連とブラジルの経済団体が共同で各国政府に締結を求める報告書を18年に作成。日本政府はEPAを契機に、成長市場だが日本との貿易量がまだ小さいブラジルを中心に、自動車などの輸出拡大を目指しているとみられる。
メルコスールには、他にアルゼンチンとウルグアイ、パラグアイが加盟。欧州連合(EU)のように、域内では関税を原則撤廃し、域外には共通の関税を課す。
関係者によると、安倍晋三首相は16、17日にチリで予定していたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議への出席に合わせブラジル訪問を調整。同国のボルソナロ大統領と会談し、EPA交渉の可能性について協議する方向で検討していたという。だが、チリが反政府デモの影響でAPEC開催を断念し、日程は不透明だ。
日本はTPPや日欧EPAで、鶏肉の関税(8・5%か11・9%)を撤廃。牛肉の関税(38・5%)は9%まで削減する。メルコスールとEPA交渉を始めれば、こうした水準までの関税削減や輸入解禁を求められ、日本市場での競争力が高まりかねない。
自民党農林幹部は「日米貿易協定に合意したばかり。大型協定の交渉がこんなに続いては、国内農家の理解を得られない」と警戒する。6月には、メルコスールとEUの自由貿易協定(FTA)が基本合意に達したが、安価な農産物の流入への懸念などから合意に20年かかった。
4カ国のうち、ブラジルは日本の鶏肉の輸入量の7割を占める。牛肉の輸出量は186万トン(2017年)でオーストラリアや米国などを上回り世界一。ウルグアイは44万トン、パラグアイは38万トン、アルゼンチンは29万トンと有数の輸出国だ。ブラジルは世界最大の砂糖の輸出国でもある。
ただ、日本は4カ国産の牛肉について、防疫上の理由から、ブラジルとアルゼンチンの一部地域を除き輸入を禁止。ウルグアイからの輸入は条件付きだ。19年の輸入量は9月まででウルグアイ、アルゼンチン両国からの計717トン。輸入量全体の0・2%にとどまる。
メルコスールとのEPAは、日本経団連とブラジルの経済団体が共同で各国政府に締結を求める報告書を18年に作成。日本政府はEPAを契機に、成長市場だが日本との貿易量がまだ小さいブラジルを中心に、自動車などの輸出拡大を目指しているとみられる。
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卸売市場の活性化 機能高める改善が急務
青果物の卸売市場経由率が低下し、市場経由量(取扱数量)減にも歯止めがかからない。市場は各JAなどと連携しながら産地づくりやブランド化に寄与してきた。市場が持つ付加価値向上や新規需要開拓などの機能を高め、市場を活性化することが必要だ。
市場経由率は、国内で流通した加工品を含む国産と輸入農畜産物(総流通量)のうち、卸売市場を経由した数量の割合。農水省は毎年、食料需給表や青果物卸売市場調査報告などを基に推計し、「卸売市場データ集」として公表している。
2016年度の市場経由率は前年度比0・8ポイント減の56・7%で、10年前に比べ7・9ポイント落ち込んだ。国産青果物も79・5%と調査をまとめ始めた02年度以降で最低となった。品目別に見ると、野菜は67・2%(前年度比0・2ポイント減)、果実は37・7%(同1・7ポイント減)と下がった。天候不順による国産青果物の流通量の減少が大きな要因とみられる。また、経由率は青果物の市場経由量を輸入品も含めた総流通量で割って算出しており、専門家は「簡便さでニーズの高い冷凍野菜や、果汁など加工済みの輸入品の増加も要因の一つ」とみる。
問題なのは、市場経由量が右肩下がりを続けている点だ。16年度の市場経由量は約1195万トンで、前年度から3・1%減、10年前からは19%減と大きく落ち込む。
さらに深刻なのが、国産青果物の経由率が減少傾向にある点だ。16年度は前年度1・7ポイント減の79・5%。8割が経由していると好意的な見方もできるが、過去最高だった03、04年度(共に93・2%)より13・7ポイントも落ち込む。業務需要の拡大や販売手法の多様化で、産地が市場卸を介さず直接取引するケースが増えているとみられる。
高齢化や担い手不足などで生産基盤の弱体化が進む中、実需者ニーズを産地に積極的に伝え、実需者と産地を結び付ける役割をこれまで以上に積極的に取り組むことが重要だ。
改正卸売市場法は来年6月に施行される。市場間や卸売会社間の競争は一層激しくなることが予想される中、専門家には「取引参加者が自らの社会的役割や流通機能を再認識し、産地や実需者との新たな事業に生かすことができれば、新市場法への移行は大きなビジネスチャンスになる」との声もある。
産地や実需者の期待にどう応えるか。卸売市場の活性化へ機能を高めることが急務となる。
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2019年11月07日
沖縄の黒糖 前例ない在庫過多 離島経済に危機感
沖縄県で黒糖の販売が苦戦していることを受け、JAおきなわは「特命プロジェクト推進室」を新設し、消費拡大に力を注いでいる。近年の豊作や加工黒糖、輸入物などとの競合が影響し、県内の製糖工場の在庫量は約2500トン(9月末現在)と過去にない水準だ。製糖業者は販売努力を重ねるが、国の制度が白砂糖と異なるため負担が重いと危機感を募らす。離島を支える重要品目だけに行政の支援を求める声が上がる。
JAおきなわや製糖業者でつくる県黒砂糖工業会によると、県内の黒糖生産量は過去20年の平均で年間約8000トン。一方、ここ3年は同9000トン超で推移した。同7000~8000トンとされる需要量を超え、工場段階で在庫が積み上がった。製菓業者など実需もそれぞれ別に在庫を抱えており、買い控えにつながっている。
類似商品との差別化が難しい面もある。黒糖に糖蜜などを加えた加工黒糖や、黒糖を使わない加工糖は、サトウキビだけが原料の純黒糖と異なる。だが、違いが十分に浸透しておらず、加工黒糖や加工糖を手にする消費者は多い。
安価な輸入物との競合も激しい。同会の本永忠久専務は「生産量が5000トン台に落ち込んだ2011、12年産に輸入に切り替えた業者もある」と説明。不作時に需要を奪われた影響が尾を引いており、「製糖工場の経営に響く」とみる。
県内で黒糖を生産するのは8離島の製糖工場。その一つ、本島北部の伊平屋村で工場を営むJA伊平屋支店によると、管内の黒糖の在庫量は538トン(9月末現在)。JAでオペレーターを確保して生産拡大を支えてきただけに、過剰に膨らんだ在庫は悩みの種だ。同支店の諸見直樹支店長は「増産を喜べるようにしたい」と言う。
同村の3・3ヘクタールでサトウキビを栽培する安里武雄さん(70)は、耕作放棄を防ぐために農地を引き受けて規模拡大してきただけに「生産を続けられるか不安だ」と訴える。輸送に時間を要す離島は生鮮野菜の栽培に向かないとして、「製品を保存でき、台風にも強いキビが島の生命線だ」と強調する。国境離島の基幹品目が行き詰まれば、安全保障上の問題にもなる。
関係者は販売拡大に乗り出した。JAは10月、黒糖の在庫解消などに当たる前田典男専務直轄の「特命プロジェクト推進室」を新設、実需者への働き掛けを強める。県黒砂糖工業会も、純黒糖をPRするマークを商品に表示して加工黒糖などとの差別化に努める。
国の支援を求める声もある。黒糖は白砂糖と違い、農水省ではなく内閣府の管轄。国の糖価調整制度に基づく交付金の支えがない。黒糖向けの補助事業が別にあるが、黒糖の工場は生産者に支払う額が白砂糖より多く、負担が大きいため、同会などは政府に白砂糖と同等の支援を求めている。
同会の本永専務は「在庫は大きな悩みだ。増産しても販売できる体制を国と共に整えたい」と要望する。
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2019年11月07日
地域で働いて旅費タダに 人手確保や関係人口増 若手起業家が新サービス
現地で農作業など人手不足に悩む農村や宿泊施設で働くことで、無料で観光できるアプリ「タイミートラベル」を農家らの協力を得て若手起業家が作った。繁忙期の農村地域の人手不足解消や地方の関係人口を増やす目的。「第二の故郷を見つける」をコンセプトに、地域での労働を通じて人々との触れ合いの機会を提供する。
アプリを開発したのは、空いている時間を活用して単発の仕事を探せるアプリを運営する企業「タイミー」。タイミートラベルでは最初に交通費を全額利用者に支給。アプリの利用者には、労働した分、農家ら現地の雇用主から給与がその場で支払われる。利用者は受け取った給与から雇用主に滞在費を支払うことで、交通費や宿泊費を実質負担することなく農山村へ行くことができる。雇用主は給与の30%をタイミーにシステム利用料として支払う。
同社代表の小川嶺さん(22)は「観光地ではなく、無料なら行ってみたい農山村や地域が誰しもあると思う。現地で農作業などに汗を流し、お試し移住のような形でアプリを使ってほしい」と説明する。
現時点の仕事は千葉県、鹿児島県、沖縄県などでの農作業や飲食店約20件。労働期間は1週間前後。試用期間中、1泊2日の体験者を採用した岐阜県高山市にある東農園を営む東信吾さん(32)は「食事の準備など懸念もあったが、実際に来てもらって作業が助かった。さらに新鮮な野菜がおいしいと言ってもらえてうれしかった。労働力の確保はもちろん、ファンづくりにもつながる」と期待する。
タイミーと業務提携するインターネット上の産直アプリ「食べチョク」を運営する秋元里奈さん(28)は「地域で同じ作物を育てていると繁忙期が重なり、地域全体で人手不足になる。このアプリは外部から人を呼べるので、農家が抱える人手不足の問題を解決できる」と実感。食べチョクに登録している生産者に利用を促す考えだ。
タイミーは同アプリの3年後の登録事業者数を1200件、利用者数18万人を目標にする。
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2019年11月02日
あと1年-再選狙うトランプ氏の思惑 「成果」日米協定だけ 農業で「第2弾」攻勢も
2020年11月3日の米大統領選投開票まで1年を切った。再選を狙うトランプ大統領は、日米貿易協定を貿易政策の成果として誇示する見通し。だが、日米協定以外に主だった成果は得られていない。前回選挙では、貿易不均衡への対抗を強く打ち出して当選を果たしただけに、数少ない成果である日米協定の「第2弾」の交渉などを視野に強硬な姿勢を示し、米国内の支持獲得を狙う可能性がある。
北米、対中 足踏み
共和党のトランプ氏は、16年の大統領選で、環太平洋連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、中国との貿易不均衡是正を掲げた。ただ、NAFTAは新協定に署名するも議会審議に入れず、発効の見通しは立っていない。中国とは追加関税の応酬が続き、終息していない。
TPP離脱は実現したが、米国の対日輸出条件がTPP加盟国よりも劣る状態になり、米国の農業者・団体の不満が増幅する結果となった。
農産品で譲歩を引き出した日米協定が「貿易政策で目立った唯一の成果」(日本の外交筋)とする見方が多い。
切り札の貿易も
支持固めを狙うトランプ氏にとって、貿易政策は貴重な切り札となる。
大統領選は来年2月3日、アイオワ州での共和、民主両党の党員集会を皮切りに本格化する。同州は選挙戦を左右する中西部の州の一部で、トウモロコシ生産が盛んな「コーンベルト」の一角だ。8月の日米首脳会談でトランプ氏が日本への大量のトウモロコシ輸出に言及したのも、大統領選を見据えたものとみられる。
日米貿易協定には、農業分野での再協議規定など、「第2弾」の交渉の余地を残す。選挙戦の中で、再協議や対日関係貿易関係について、トランプ氏が新たな言及に踏み込む可能性がある。
自動車・同部品への追加関税を発動するかどうかも注目される。これまでも発動をちらつかせてカナダやメキシコ、日本との交渉を有利に進める「脅し」として機能した。大統領選をにらみ今月13日の期限までに、どう判断するかが焦点だ。
民主党内も混戦
トランプ氏と対決する民主党候補の争いは混戦だ。貿易政策では、トランプ氏が否定し続けてきたTPP復帰に対し、民主党の有力候補、バイデン氏は、TPPを推進したオバマ前政権の副大統領を務めたにもかかわらず、「元の協定のままでは加盟しない」と再交渉の必要性を訴える。
日本政府関係者は「TPPを否定して当選したトランプ氏の残像があり、復帰は主張しにくい」と指摘する。
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2019年11月05日
宮川俊二さん(フリーアナウンサー) オンリーワンの味楽しむ
実家は愛媛県宇和島のかんきつ農家でした。父親はとても研究熱心で、自分でミカンの品種改良もやっていました。標高が高くなると気温が低くなる点を利用して、山の上の方で桃や梨も植えていました。
父はミカン農家
家の周りはブドウ園で、自家用に栽培していました。父はブドウを一升瓶に詰め、水を加えて、発酵させて飲んでいました。私も発酵前の渋いジュースを飲んでいました。
うちは7人きょうだいです。亡くなった兄は東大の農学部を出て、長野県の試験場で「ふじ」などリンゴの育種に携わりました。
今から50年も前の話です。兄によれば、ミカンは暖かい所ならどこでも作れるので産地の優位性が出しにくい。それに対してリンゴは、寒い地域でしかできなくて適地も限られるので、これからも有望だと言っていました。
あとは姉が5人いました。一番下が私です。両親は土地や山を切り売りしつつ、私たち全員、大学を出させてくれたんです。
研究熱心な父の作るミカンは、酸味と甘味のバランスが絶妙で、他のミカンとは深みが違いました。街の果物屋さんも「宮川さんのはいい」と言ってくれていました。でも誰も家業を継がなかったので、父は最終的には自宅の周り1・5ヘクタールくらいの畑でミカンを栽培し、80歳で亡くなりました。
東京の大学に入り、就職して、自然と農業から退いていった私ですが、子どもができてからは、父は何を考えて農業をやっていたのだろうと考えるようになり、何か農家の役に立てないかという気持ちが強くなってきました。
私は大学で教壇に立ち「他の誰にもない自分だけのもの」を大事にしろと言い続けてきました。では、取材や食べ歩きを通じて多くの生産者やシェフとつながりがあり、情報発信力もある私だからこそ、できることは何か?
生消の懸け橋に
徳島県の湯浅さんという方が、とても小さなシイタケを持って来てくれました。剣山の標高600メートルほどの高地で採集した菌を培養したもので、作っているのは湯浅さんだけ。まさに「他の誰にもない自分だけのもの」ですよね。うま味が凝縮されているのに、あまりシイタケ臭くないんです。そこで洋食にも合うんじゃないかと思い、恵比寿「ジョエル・ロブション」の渡辺雄一郎シェフのところに持って行きました。渡辺さんもとても気に入り、シャンパンのイベントの時に湯浅さんのシイタケを使った料理を提供したんです。私はその様子をブログで伝えました。すると他のシェフたちも「渡辺さんが使っているのなら」と興味を持ってくれたんです。
これだ! 以来、生産者とシェフや消費者をつなぐことで、農業の手伝いをするようになりました。シェフは気になる食材があれば、生産現場を訪ねて質問を繰り返しますし、消費者の嗜好(しこう)を教えてくれます。おかげで農家の方も、モチベーションが上がるわけです。
昔、父は酒を飲みながら、「俺がこんなに頑張って作っても、あんまり熱心じゃない人のミカンと一緒にされてしまうんだよな」とブツブツ言ってました。
たしかに当時の生産者は作るだけで、その先のことは分からないままでした。でも今なら、消費者とつながることができます。各地の農家の皆さんが作る「他の誰にもない自分だけのもの」を楽しみに食べたいと思っています。(聞き手=菊地武顕)
みやがわ・しゅんじ 1947年、愛媛県生まれ。70年にNHKに入局。93年に退職後、ベトナムで日本語講師として活動。帰国後はフジテレビ「ニュースJAPAN」などさまざまなニュース番組でキャスターを務める。2008年から早稲田大学非常勤講師を務めた。ワインに造詣が深く、名誉ソムリエの称号も持つ。
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2019年11月05日
農政の新着記事
病院あるから住める 顔なじみの医療必要 包括ケアどうなる 再編に現場困惑 鳥取県日南町
厚生労働省が、全国の公立病院などのうち、再編や統合を議論すべきだとする424の病院の一覧を実名で公表した問題が、地域医療を守ってきた農山村の病院や住民に波紋を広げている。誰もが、住み慣れた地域で安心して暮らせるのか。山間部の病院や住民は再編リストに疑問を感じ、「地域医療が農山村の命綱であることを知ってほしい」と声を上げる。
患者見守り地域連携
岡山県との県境に接し山に囲まれた鳥取県日南町。その中心部にある日南病院は、再編や統合を促された病院の一つだ。
インフルエンザの予防接種を終えた農家の田辺三枝子さん(81)は、手押し車に助けられ病院前のバス停に向かった。待ち時間も他の患者との交流の時間。「膝が悪くてもつえを突きながら生きがいの農業ができる。病院があるから古里に住み続けられるのよ」
田辺さんは週2回、デマンドバスやタクシーで片道30分かけて病院に通う。5年前に運転免許証を返納。同病院から車で20分程度の隣町に総合病院はあるが、田辺さんの集落からは1時間以上かかる上、電車とバスを乗り継がなければ通えない。駅の階段が上れない田辺さんにとって、病院の存続は死活問題だ。再編リストで名指しされたことに「なくなればみんな困る」と話す。
高齢化率5割、人口4500の日南町の医療機関は、歯科以外は同病院しかない。山間部の町には田辺さんのように高齢者が大勢いる。面積340平方キロと広い町にある複数の集落は、中心部まで車で30分以上かかる。過疎が進んでも高齢者が生活を続けられるよう、町は各集落との交通網も含め、関係者一体で住民を支える地域医療を築いてきた。
「病気を治すだけではなく、暮らしを守る。それが地域医療の根底にある」。同病院の佐藤徹院長は1962年の開設以来、病院が築いてきた地域医療を誇りに思う。
中でも毎週1回開く在宅支援会議は、地域ぐるみで患者を支える基盤になっている。病院の常勤医師6人と看護師やヘルパー、薬剤師、保健師ら医療、福祉、介護に関わる人が全て参加。退院した患者や介護支援対象になった高齢者ら、あらゆる住民の体調変化や暮らしぶりを関係者が報告し合っている。
さらに通院ができない人のために、訪問診療・訪問看護など、院長や名誉院長も自ら各集落に往診に出向く。
そんな地域に根を下ろしてきた同病院が再編リストに入ったことに、同病院の中曽森政事業管理者は「唐突な公表。病院の地域づくりへの役割が考慮されていない」と嘆く。厚労省が推進してきた住まい、医療、生活支援が一体の「地域包括ケアシステム」への配慮もないなど疑問点がいくつもある。佐藤院長は「地域医療の現場の努力と苦労を知ってほしい」と訴える。
再編リストには、地域の要といえる条件不利地の病院名が多く挙がった。万が一、不採算で病院が撤退すれば、地域が立ち行かなくなってしまう。
JA長野厚生連佐久総合病院の小海分院も対象となった。同病院の井澤敏院長は「病院がなくなることは、人が住むことが難しくなることを意味する。医療は地域の生活に不可欠な社会資本だ」と指摘する。
離島にある鹿児島県南種子町の公立種子島病院の羽生裕幸事務長は「島の医療を切り捨てないでほしいと国には(説明会で)伝えた。努力は継続するが、医師確保にも大きな影響が出てしまう」と訴える。
<メモ> 病院の実名公表
全国の公立病院や赤十字、厚生連など公的病院1455のうち、厚労省が再編や統合を議論すべきだとする424病院を9月に実名で公表。2017年6月の診療実績に基づき、がんや脳卒中など9項目の診療実績が低いこと、類似の診療実績を持つ病院が車で20分以内の場所にあることなどを基準とした。
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2019年11月07日
稲作土づくりに助成 農機補助拡充も 台風19号対策
政府は6日、台風19号で大規模な浸水被害を受けた地域での稲作農家の営農継続に向けて、土づくりなどの取り組みに10アール1万円を助成する方針を固めた。7日にまとめる包括的な追加支援策に盛り込む。農機や畜舎の復旧にかかる費用の国の補助率は、最大3割から同5割に引き上げる。浸水した果樹の樹勢回復や、病害のまん延防止の取り組みへの支援も拡充する。
19号に伴う大規模な水害で、各地の水田では土壌の浸食や表土の流出などの被害が発生。……
2019年11月07日
保管米浸水に助成 台風19号追加対策 果樹改植も拡充
政府が検討中の台風19号による農業被害への追加支援策の内容が分かった。収穫後に保管していた米が浸水した農家には、営農再開の支援策として10アール当たり7万円程度を助成する。リンゴなど果樹の大規模な改植が必要な農家には、早期の成園化や成園化までの経営継続の支援として同75万円を助成する。他の分野の支援策と合わせ、7日にも発表する。……
2019年11月06日
関係人口増目標に 地域政策巡り議論 次期基本計画自民政策委
食料・農業・農村基本計画の見直しへ、自民党は5日、農業基本政策検討委員会(小野寺五典委員長)の会合を開き、「地域政策」の方向性を議論した。集落の維持や人材の確保に向けて、外部人材への支援充実などを求める意見が相次いだ。同委員会顧問を務める宮腰光寛前沖縄北方相は、さまざまな形で地域と関わる「関係人口」の目標値を設定し、国を挙げて支援する必要があるとの認識を示した。
宮腰氏は「関係人口をどう増やしていくかが、これからの農山漁村にとって大事だ」と強調。新たな基本計画では「KPI(重要業績評価指標)の一つに関係人口を入れて、しっかり後押ししていく。組織的に推進していく形が必要ではないか」と強調した。
政府資料によると、2050年には全国の半分以上の地域で人口が半減すると推測されている。特に農村の高齢化率は都市部に比べて高く「機能の維持が困難な集落が今後増加する恐れがある」(農水省農村振興局)。
農水省は、基本計画の見直しに向けて、小規模農家や農家ではない住民、移住者なども含めた「多様な人々」の重要性に着目。その人々が「農村で暮らしていくための所得と雇用機会を確保できる環境づくりが必要」との方向性を示している。
会合では、担い手確保や集落の維持へ、明確な目標設定と具体策を求める意見が相次いだ。
野村哲郎農林部会長は「単発の政策ではなく、全国で集落を維持するにはどんな金が必要か、どう人を育てればいいか」との観点を提起。「一律の対応ではいけないが、散らばっている施策をまとめて実証事業的にできないか検討してほしい」と訴え、体系的な農村政策の構築を求めた。
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2019年11月06日
南米4カ国(メルコスール)とEPA 政府が検討 牛・鶏肉で懸念
政府が、ブラジルなど南米4カ国でつくる南米南部共同市場(メルコスール)との経済連携協定(EPA)交渉を検討していることが4日、分かった。自動車などの輸出拡大が狙いとみられるが、4カ国は世界有数の牛肉、鶏肉などの生産・輸出国。環太平洋連携協定(TPP)をはじめ大型通商協定の締結、発効が相次ぐ中、メルコスールとのEPAで関税が撤廃・削減されれば、一層の輸入増が懸念される。
メルコスールには、他にアルゼンチンとウルグアイ、パラグアイが加盟。欧州連合(EU)のように、域内では関税を原則撤廃し、域外には共通の関税を課す。
関係者によると、安倍晋三首相は16、17日にチリで予定していたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議への出席に合わせブラジル訪問を調整。同国のボルソナロ大統領と会談し、EPA交渉の可能性について協議する方向で検討していたという。だが、チリが反政府デモの影響でAPEC開催を断念し、日程は不透明だ。
日本はTPPや日欧EPAで、鶏肉の関税(8・5%か11・9%)を撤廃。牛肉の関税(38・5%)は9%まで削減する。メルコスールとEPA交渉を始めれば、こうした水準までの関税削減や輸入解禁を求められ、日本市場での競争力が高まりかねない。
自民党農林幹部は「日米貿易協定に合意したばかり。大型協定の交渉がこんなに続いては、国内農家の理解を得られない」と警戒する。6月には、メルコスールとEUの自由貿易協定(FTA)が基本合意に達したが、安価な農産物の流入への懸念などから合意に20年かかった。
4カ国のうち、ブラジルは日本の鶏肉の輸入量の7割を占める。牛肉の輸出量は186万トン(2017年)でオーストラリアや米国などを上回り世界一。ウルグアイは44万トン、パラグアイは38万トン、アルゼンチンは29万トンと有数の輸出国だ。ブラジルは世界最大の砂糖の輸出国でもある。
ただ、日本は4カ国産の牛肉について、防疫上の理由から、ブラジルとアルゼンチンの一部地域を除き輸入を禁止。ウルグアイからの輸入は条件付きだ。19年の輸入量は9月まででウルグアイ、アルゼンチン両国からの計717トン。輸入量全体の0・2%にとどまる。
メルコスールとのEPAは、日本経団連とブラジルの経済団体が共同で各国政府に締結を求める報告書を18年に作成。日本政府はEPAを契機に、成長市場だが日本との貿易量がまだ小さいブラジルを中心に、自動車などの輸出拡大を目指しているとみられる。
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2019年11月05日
あと1年-再選狙うトランプ氏の思惑 「成果」日米協定だけ 農業で「第2弾」攻勢も
2020年11月3日の米大統領選投開票まで1年を切った。再選を狙うトランプ大統領は、日米貿易協定を貿易政策の成果として誇示する見通し。だが、日米協定以外に主だった成果は得られていない。前回選挙では、貿易不均衡への対抗を強く打ち出して当選を果たしただけに、数少ない成果である日米協定の「第2弾」の交渉などを視野に強硬な姿勢を示し、米国内の支持獲得を狙う可能性がある。
北米、対中 足踏み
共和党のトランプ氏は、16年の大統領選で、環太平洋連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、中国との貿易不均衡是正を掲げた。ただ、NAFTAは新協定に署名するも議会審議に入れず、発効の見通しは立っていない。中国とは追加関税の応酬が続き、終息していない。
TPP離脱は実現したが、米国の対日輸出条件がTPP加盟国よりも劣る状態になり、米国の農業者・団体の不満が増幅する結果となった。
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切り札の貿易も
支持固めを狙うトランプ氏にとって、貿易政策は貴重な切り札となる。
大統領選は来年2月3日、アイオワ州での共和、民主両党の党員集会を皮切りに本格化する。同州は選挙戦を左右する中西部の州の一部で、トウモロコシ生産が盛んな「コーンベルト」の一角だ。8月の日米首脳会談でトランプ氏が日本への大量のトウモロコシ輸出に言及したのも、大統領選を見据えたものとみられる。
日米貿易協定には、農業分野での再協議規定など、「第2弾」の交渉の余地を残す。選挙戦の中で、再協議や対日関係貿易関係について、トランプ氏が新たな言及に踏み込む可能性がある。
自動車・同部品への追加関税を発動するかどうかも注目される。これまでも発動をちらつかせてカナダやメキシコ、日本との交渉を有利に進める「脅し」として機能した。大統領選をにらみ今月13日の期限までに、どう判断するかが焦点だ。
民主党内も混戦
トランプ氏と対決する民主党候補の争いは混戦だ。貿易政策では、トランプ氏が否定し続けてきたTPP復帰に対し、民主党の有力候補、バイデン氏は、TPPを推進したオバマ前政権の副大統領を務めたにもかかわらず、「元の協定のままでは加盟しない」と再交渉の必要性を訴える。
日本政府関係者は「TPPを否定して当選したトランプ氏の残像があり、復帰は主張しにくい」と指摘する。
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2019年11月05日
餌ワクチン 山林はヘリで散布 自衛隊機が協力 豚コレラ
農水省は、防衛省と協力し、豚コレラのイノシシ向けの経口ワクチンを自衛隊のヘリコプターから山林へ散布する。12月に予定する第3期ワクチン投与に合わせて取り組む。人の立ち入りが難しい険しい山奥、設置・回収に長距離の移動が必要な地域などで使う。効率的なワクチン散布で、豚コレラウイルスの封じ込めを狙う。……
2019年11月04日
遊休農地 活用進まず 全国9・8万ヘクタール解消頭打ち
全国の遊休農地(2018年)が9万7814ヘクタールに上ることが、農水省のまとめで分かった。前年に比べて700ヘクタール減少したが、最近3年間は10万ヘクタール前後で推移。農家の高齢化や担い手不足などを背景に農地が有効に利用されていない実態が改めて浮き彫りになった。
18年まとめ
各市町村の農業委員会が農地法に基づき毎年1回、農地の利用状況を調査。その結果を同省が集計した。
最近3年間のうち、16年は前年から3万680ヘクタール減り、10万4155ヘクタールにまで縮小した。ただ、17年は9万8519ヘクタール、18年は9万7814ヘクタールとほぼ横ばいだ。
遊休農地9万7814ヘクタールのうち、耕作されておらず、今後も耕作されないと見込まれる農地は、全国で9万1524ヘクタール。前年から930ヘクタール減った。減少した面積は再生利用されたか、非農地に転換したことなどが考えられるという。
残り6290ヘクタールは、周辺の地域の農地に比べて著しく利用度が低い農地。前年より226ヘクタール増えた。農家の高齢化などに伴い、十分に活用できない農地が増えているとみられる。
都道府県別に見て、遊休農地が最も多いのは福島の7397ヘクタール。次いで茨城6582ヘクタール、千葉6313ヘクタール、鹿児島5536ヘクタール、長野4741ヘクタールと続く。逆に最も少なかったのは富山の155ヘクタールだった。
農地法では、遊休農地の解消に向けた措置を定めている。農業委員会が遊休農地の所有者に耕作や貸し付けの意向を調査。その意向通りに対応しない場合は、農地中間管理機構(農地集積バンク)との協議を勧告する。それでも放置している場合は、都道府県知事の裁定で同機構が農地中間管理権を取得する仕組みになっている。
勧告を受けた農地には課税が強化され、固定資産税が1・8倍になる。同省によると、勧告を受けている遊休農地は19年1月時点で481件、計93ヘクタール。うち18年に新たに勧告を受けた遊休農地は102件、32ヘクタール。これまでに裁定に至ったケースはない。
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2019年11月03日
農水被害2100億円超 台風15、19、21号 来週にも追加対策
農水省は1日、台風15、19、21号関連の農林水産関係の合計被害額が、2188億円(同日午前7時時点)に上ったと公表した。政府は来週にも追加対策をまとめる方針。収穫後の米の浸水被害や壊滅的な被害を受けた果樹農家への支援策などを盛り込む方向。江藤拓農相は同日、今週末に宮城、福島、千葉各県の現場を視察し、被災農家らの意見を追加対策に反映させる考えを示した。
2019年11月02日
日米協定 来週の採決見送り 衆院外務委 審議持ち越し
日米貿易協定の承認案を審議する衆院外務委員会は1日、予定していた質疑を取りやめ、6日以降に持ち越した。自民党の河合克行氏の法相辞任などを受けた与野党の対立が影響した。与党は、これまで目指していた承認案の来週採決を見送る方針。5日開催で合意していた農林水産委員会との連合審査は7日以降に開く。農産品の影響試算の根拠などの課題に対し、十分な審議ができるかが問われる。
自民、立憲民主、国民民主の与野党3党の国会対策委員長が1日、国会内で断続的に会談。安倍晋三首相が出席する予算委員会の集中審議を衆院で6日午後、参院で8日午後にそれぞれ開くことで合意した。1日は6時間の質疑を予定していた外務委をはじめ、全委員会の開催を見送った。
日米協定を巡り、与党は、憲法が定めた協定の衆院優越規定を踏まえ、来週中の衆院通過を目指していた。ただ、衆院外務委の定例日は、今回与野党が合意した衆参予算委の開催日と重なるため、審議時間を十分確保できるかどうか不透明な状況となっている。
自民党の森山裕国対委員長は会談後、協定の審議の見通しについて「当初予定していたものよりも少し遅れてくるが、参院でも努力をいただけると思う」と述べた。与党は中旬に衆院を通過させ、参院での審議を経て、12月9日までの会期内の成立を目指す。
衆院外務委は早ければ6日に開かれる。連合審査は農産品、自動車・同部品などの合意内容の議論を深めるため、野党が求めていた。外務、農水、経済産業各委員会の合同で7日にも開かれる。
日米協定は10月24日に衆院本会議で審議入り。25日に外務委で茂木敏充外相が趣旨説明し、実質審議入りする予定だったが、菅原一秀氏の経産相辞任の影響で30日にずれ込んだ。それ以降、茂木外相と与野党の本格的な質疑はまだ始まっておらず、会期末まで1カ月余りとなる。
協定の内容を巡っては、生産額は減るが国内対策によって生産量や農業所得は減らないとする政府の影響試算の根拠や、環太平洋連携協定(TPP)並みの関税削減を受け入れた牛肉に対するセーフガード(緊急輸入制限措置=SG)の実効性確保、農産品の譲歩に見合う経済効果があるのかなど、論点は多い。十分な審議時間を確保し、踏み込んだ議論ができるかが焦点になる。
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2019年11月02日