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アンデッド・アンドロイド~転生したら最弱種族のアンデッドだったけど、ダンジョン化した終末の世界で成り上がる~ 作者:Indigo

最深層『星の最果て』

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No.03『バトル&ハッキング』

 戦い方なんて分からない。

 それでも、逃がしてはくれなさそうだ。

 僕も男だ。こうなったら腹をくくれ。


(大丈夫だ。焦るな。レベルはこっちの方が高い。冷静にやれば勝てる!)


 頭突きしてきたところに、カウンターとばかりにパンチをお見舞いしてやる。デコボコしたところに当たった感触があった。おそらく、肋骨あたりにヒットしたんじゃなかろうか。


(効いてるのか!?)


 手から伝わってくるバキボキという振動。たぶんこっちの手が折れたんだろうけど、あっちにも何かしらのダメージはあるはずだ。

 いや、あると信じたい。


(とにかくもう一発!)


 腕を思いっきり後ろに引く。

 その反動で肘がボコッと取れ、どこかに飛んでいってしまった。その隙に放たれた頭突きが首の断面にヒットして、背骨や肋骨がバキバキと悲鳴を上げる。


(ぐえっ)


 押されている。

 いや、圧倒されている。

 一方的にボコられている。

 まずい。やばい。

 このままだと死ぬ。


(ああああああっ!!)


 もう肘だけでいいから、とにかく殴る。

 今度は衝撃で肩が外れてどこかに落っこちていく。

 両腕と頭部を失った。

 もうメチャクチャだ。


(こうなりゃヤケだ!)


 どうにでもなれと、頭突きを腹で受け止める。内臓が潰されてグチャリと嫌な感覚が伝わってくる。そんな事は気にせずに、ガイコツを地面に押し倒した。上から覆いかぶさるように、ガイコツに全身を打ち付ける。


(僕は死なない! なにがなんでも勝つ!)


 体を叩きつけるたびにバキボキと振動が響き、どんどん全身の原型がなくなっていく。もう全身がズタボロになっている気がする。

 とにかく今はこのガイコツを倒す。

 動くところは全て攻撃に使う。

 それだけに必死になっていた。


(やった……)


 はじめは抵抗していたガイコツも、次第に動かなくなっていった。もう自分の体が、どんな形なのかも分からない。


(そうだ……はじめの時みたいに……)


 円形を強くイメージして、体をコロコロと転がしながら散らばった肉片をかき集めていく。


(ちゃんとくっついてるみたいだ)


 とっさに考えた方法だったけど、なかなかうまくいったようだ。体はみるみるうちに大きくなっていった。体から頭が生え、手足がくっつき、感覚も戻ってくる。


「はぁ……はぁ……」


 視覚さえ戻ればこっちのものだ。

 残った肉片も、すぐに拾い集める。ガイコツはというと、骨のあちこちにヒビが入っていて、ピクリとも動かない。いったん落ち着いて、自分の画面を見てみる事にした。



『名称:未確定

 種族:下級(ウィーク)アンデッド

 個体レベル:3

 限界レベル:5

 ナノマシン稼働率:54%

 ナノマシン汚染率:0%

 スキル

 【ハッキング】』



 ナノマシン稼働率がガクンと落ちている。

 おそらく僕の体にはナノマシンがいて、体が再生できたりするのもそのおかげだろう。生命維持がやっとだった前世の医療用マイクロマシンと比べれば、その途方もない技術力がよく分かる。


「……こんな腐った体で生きていられるのも、たぶんナノマシンのおかげだ」


 それどころかむしろ、体じゃなくてナノマシンが本体という可能性すらある。

 この肉体はあくまで、ナノマシンの器。かなり突拍子もないけど、ありえなくは無さそうだ。そうでもなければ、頭を潰されても思考できる事に説明がつかない。生命維持に必要な役割は、全てナノマシンがやっているんだ。


「稼働率が下がったのは、ナノマシンがダメージを受けたから?」


 もしそうなら、肉体の再生だって無限にできるわけじゃないのかもしれない。そんな事を考えていると、ナノマシン稼働率が54%から55%に回復した。


「良かった。壊れて使えなくなったわけじゃないみたいだ。時間経過で回復するのかな?」


 とりあえずはひと安心だ。

 その後も、無事に稼働率は回復していった。

 改めて、ガイコツの方を見る。

 少し経ったけど、特に変わった様子はない。


「死んだのかな……」


 生きているようには見えないけど、その瞳は依然として赤い光を放っている。じっと見つめてみると、パキパキと音をたてながら少しずつ骨のヒビが塞がっていっている事に気がついた。


「……生きてる」


 そもそも、僕やこのガイコツはどうすれば死ぬんだろう。ガイコツに関しては臓器らしきものすら見当たらないし、どこが弱点なのかも分からない。


「僕だって、あんなボロボロになっても復活できたし。このガイコツだって、そう簡単にはやられてくれなさそうだ」


 このガイコツも、ナノマシンで動いてるんだろうか。骨だけで生きていられるなんて普通は考えられないし、たぶんそうだ。

 それなら、稼働率がゼロになるまでダメージを与えないと死なないのかもしれない。いや、時間経過で稼働率が回復するなら、ゼロからでも回復できる事だって考えられる。


「どうしよう……」


 逃げるなら今のうちか?

 それとも、復活しないように少しだけ殴っておこうか。拳を握りしめ、ガイコツの赤い目を睨み据えた。

 その時だった。


「おおっ。スケルトンを仕留めたのか」


「うわあああああああっ!?」


「うおわっ!?」


 いきなり背後から飛んできた声に、叫びながら振り返る。そこにあったのは、驚いて尻もちをつくアンデッドの姿だった。腐肉の体に質素な腰巻きだけを身につけ、転んだ拍子についた腕はメキリと折れ曲がっている。


「うわっ、ごめんなさい!」


「いや、謝らなくていいんだ。こっちこそ、いきなり話しかけて悪かった」


 アンデッドは腕の形を直しながら、二本の松葉杖を使って立ち上がった。その両目は、赤く輝いている。


『レベル5 下級(ウィーク)アンデッド』


 アンデッドの頭上にそう表示された。

 思えば、これが生まれて初めての会話だ。

 そう考えると、とたんに緊張が僕を襲った。胸がバクバクしてきて、呼吸まで苦しくなってくる。


「それより、どうするんだ。そのスケルトン、さっさとハッキングしないと復活しちまうぞ」


「えっ?」


「せっかく仕留めたんだ。ハッキングしないと勿体ないだろ。それとも、逃がしてやるのか?」


「ご、ごめんなさい。やり方が分からなくて」


「なんだ。そういう事か。それは悪かった。まず、画面に書かれてるハッキングの文字を押すんだ」


 言われるがままに、画面のハッキングと書かれている部分をタップする。とたんに体がドッと疲れてきて、右手が青いモヤモヤのオーラをまといだした。

 押した感覚は相変わらず無かったけど、しっかり反応してくれたようだ。


「よし。出来たな。そのオーラをスケルトンの体に当ててやれ。場所はどこでも構わない」


「は、はい」


 言われた通りにすると、オーラはどんどん広がってガイコツの全身を包み込んだ。ガイコツの頭上に灰色のバーが表示され、どんどん紫色で満たされていく。


「……このバーは?」


「スケルトンのナノマシン汚染率さ。それが満たされれば、そいつのナノマシンはお前のモノだ」


 バーはすぐに満タンになり、ガイコツの目から赤い光が消えるのと同時に、僕の右腕にじんわりと暖かい感触が伝わってきた。ガイコツは関節の繋がりが解けて、グシャリと潰れるようにバラバラになった。


「うまくいったみたいだな。スキルはもう一度押せば解除できる。発動しっぱなしだと疲れるだろ?」


「はい。すごく……」


 まるで全力疾走したような疲労感だ。

 ハッキングを解除しながら画面を見る。


「一気に二回もレベルアップしてる……」


 これで個体レベルは5になった。肉の拾い食いばかりしていた僕からすれば、驚きを通り越して少し引いてしまうくらいの効率だ。

 そして、限界レベルに達したという事は。



『個体レベルが限界になりました。

 種族進化が可能です。

 進化先を選択してください。

 【中級(ミディアム)アンデッド】

 【中級(ミディアム)スケルトン】』



 今度はしっかりと、選択肢が二つ表示されている。スケルトンが進化先に現れたのは、ハッキングによってガイコツの力を吸収したおかげだろうか。


「あの、何から何までありがとうございます」


「気にするな。困った時はお互い様だ。俺たちは同じ、弱いもの同士なんだからな。それよりお前、うちに来い」


「えっ? うち?」


「事情はあとで話すが、ここにいると危ないんだ」


「あ、危ないってどういう――」


「生まれたてなら気になる事は多いだろうが、とにかく話は後だ。ついて来てくれ」


「……分かりました」


 アンデッドのうしろをついて、暗闇の中を進んでいく。目印になるものは何もないのに、迷いなくどんどん先に進んでいる。しかも、僕に合わせてゆっくり歩いてくれているようだ。


「俺はラインだ。よろしくな」


「えっと、僕は……」


 名乗ろうとして、口ごもる。

 僕には名前がなかった。生前つけていた記憶転送チューブは、学校に通えない子供たちが遅れをとらないようにする為の道具でしかない。決められた情報しか伝えてくれないものだ。

 親が付けてくれた名前があるのかもしれないけど、僕にそれを知るよしは無かった。


「はは。今は名乗らなくてもいいよ。名前なら、長老様がつけてくれるからさ」


「長老様?」


「まあ、来ればわかる」


 アンデッドの村でもあるんだろうか。

 たどり着いたところにあったのは、一本の黒い柱だった。いや、柱というよりは木の幹だろうか。表面は冷たくでこほこしていて、太さは視界の収まりきらないほどもある。


「ただいま。新入りを連れてきたよ」


 表には、入り口らしき穴が空いている。木のウロのようにも見えるけど、小柄な人なら立ったまま通れるくらいの大きさはある。


「おお。おかえり。早く入りなさい」


 ウロの中に入ると、奥からアンデッドたちが出てきて迎えてくれた。中に進むと、下へと降りる階段が続いている。


「広い……」


 木目のある壁や床はウルシを塗ったように黒く、しなやかでひんやりとしている。ずっと沼の中をジャブジャブと進んでいた僕にとっては、その感触がとても心地よく感じられた。


「おお。ライン。新しい仲間か?」


「そうだ。こいつがなかなか出来るやつでさ。たった一人でスケルトンを倒しちまったんだ」


 地下の大広間では、たくさんのアンデッドたちが待っていた。ざっと三十人くらいはいるんじゃないだろうか。ずいぶん広いわりに家具は簡単なイス程度しか置かれておらず、みんなが自由に床に寝転がったりあぐらをかいたりして談笑している。


「あのスケルトンを一人で!?」


「すごい新入りだな……」


 どうやら、褒められてるみたいだ。

 なんだか照れてしまう。


「いえいえ……」


 アンデッドたちはそのほとんどが最下級で、中には下級もちらほら混ざっている感じだ。レベルもそんなに高くはない。


(でも、奥にいる一人だけは違うな……)


 尖った黒曜石のような簡素なナイフで壁を切り取って、杖を作っているアンデッドだ。そのアンデッドだけは中級まで進化していて、レベルは10もある。


(あの人が長老かな?)


 長い頭髪を後ろで結い、顔についたシワからは年季が感じられる。種族やレベルを抜きにしても、明らかに一人だけ雰囲気が違った。


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