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アンデッド・アンドロイド~転生したら最弱種族のアンデッドだったけど、ダンジョン化した終末の世界で成り上がる~ 作者:Indigo

最深層『星の最果て』

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No.02『レベルアップ&種族進化』

 ひたすらハイハイして、疲れたら休んでを繰り返す。ずっと同じ方向に進んでいるはずなのに、どこまで行っても赤い沼と暗闇が続いているだけ。

 壁や障害物にぶつかる気配はない。

 どうやらここは、思った以上に広いらしい。


「おおっ?」


 右手が何か柔らかいものを踏んだ。

 拾い上げてよく見てみる。


「これは……」


 黒っぽい肉塊が、赤くぼんやりとした光を放っていた。なんだかオモチャみたいで、あまりグロテスクには感じない。表面はツブツブで、握ってみるとグニグニしていてかなり弾力がある。

 クセになりそうな感触だ。


「もしかして、さっきの僕と同じ?」


 この姿でコロコロ転がって、小さな肉塊を吸収しながら大きくなったんだろうか。そうだとすれば、これを食べればさらに大きく強くなれるかもしれない。


「そういえば、画面には個体レベルって書いてあったっけ……」


 レベルが体の大きさや強さを表しているなら、これを食べればレベルが上がるんだろうか。

 ありえそうな話だ。


「……試してみようか」


 首が落ちても死なない体だ。

 毒や寄生虫ごときで、どうにかなってしまうとは思えない。よっぽどマズくなければ食べられるはず。

 そうと決まれば。


「はぐっ」


 目をつむって、おそるおそる口に入れた。

 記念すべき初めての食事。


(……無味無臭だ)


 プルプルとした食感。

 特に味という味はない。

 咀嚼しようとしてみたけど、歯が無いからできなかった。仕方なしに一気に飲み込んでみると、喉に引っかかる事もなくつるんと胃の中に落ちていった。


「おおお……」


 体の奥から元気が湧いてくる気がする。

 これはもしや、と思って画面を見てみたけど、レベルが上がっているという訳ではないようだ。それでも、体に悪いものではないらしい。


「他にも見つけたら食べてみるか……」


 ハイハイを再開する。

 たまに肉塊は落ちているけど、そのほとんどは食べごたえのない豆粒サイズ。ほのかに光っているおかげで、見つけるのはそう難しくない。


「こんな豆粒でも、成長したらアンデッドになるのかな」


 それなら、もっとアンデッドがウジャウジャいてもおかしくない気はするけど、これだけハイハイしているにも関わらず未だに遭遇はしていない。


「おおおっ」


 気がつくと、個体レベルが2に上がっていた。


「うーん。別になにも起こらないな」


 それでも、肉塊を食べる事に体から元気が沸くような感覚があるから、何かしらのパワーアップはしていそうだ。それを数字で保証してくれただけでも、どこか安心感がある。


「やっぱり、肉塊を食べるのがレベルアップに繋がるんだ」


 そうと分かれば、遠慮せずに食べて食べて食べまくろう。そうすれば、簡単には骨折しない体になれるかもしれない。ひたすらにハイハイをして、ひたすらに肉塊を食べる。

 たまに四肢がもげるのはご愛嬌。


「そういえば、画面に書いてあった限界レベルは3だったっけ」


 成長が限界を迎える。

 子供から大人になるようなものだろうか。

 そのままの意味で考えれば、あと一回レベルアップすればそれで終わりという事になる。


「それまでに、ハイハイは卒業したいところだけと……」


 肉塊を食べてもじんわりと力が湧く程度で、骨格や肉体までもが劇的に強くなっている感じはない。もしかすると、アンデッドはもとから四足歩行の種族なのかもしれない。


「あれ?」


 個体レベルが3になるのと同時に、表示されていた画面を上書きするようにして、ひと回り小さな青い画面が現れた。



『個体レベルが限界になりました。

 種族進化が可能です。

 進化先を選択してください。

 【下級(ウィーク)アンデッド】』



 選択しろと言っておきながら、選択肢らしき物は一つしか書かれていない。それでも、最下級から下級になるなら進歩はしていそうだ。


「種族進化か……」


 アンデッドは出世魚のように、成長していくと名前が変わる種族なんだろうか。いや、考えてもどうせ分からない事だ。むしろ、ここに来てからは今までの常識なんてほとんど役に立っていない。

 とりあえず、押してみる事にしよう。


「うわっ」


 画面に触れると、体がボコボコと音を鳴らし始めた。

 全身のいたるところが熱い。

 それこそ、心臓から指の先に至るまで。

 燃えるように。油にぶち込まれたように。

 それでも、不思議と苦しくはなかった。


(血が沸騰してるみたいだ……)


 いや、音からして実際に沸騰しているのかもしれない。

 体から力が抜け、横になってうずくまった。

 感覚の区別がつかなくなっていく。

 水面に触れている感覚が分からなくなり、地面から伝わってくる圧が分からなくなり、しまいにはこの体を襲う熱さえも、うやむやになっていく。

 体が溶かされているようだ。

 繭の中の虫は、こんな気分なんだろうか。


「はっ!」


 目をぱっちりと開く。

 まるで波が引いたように、その感覚は一瞬にして消えていった。まず視界に入ってくるのは、あの青い画面だ。



『名称:未確定

 種族:下級(ウィーク)アンデッド

 個体レベル:3

 限界レベル:5

 ナノマシン稼働率:100%

 ナノマシン汚染率:0%

 スキル

 【ハッキング】』



 種族名が変化していて、ついでに限界レベルも上がっている。これで成長は終わりかと思っていたけど、レベルの上限は進化をすれば上がるみたいだ。


「おお?」


 視界がかなり明瞭になっている。さっきまで足元しか見えなかったのが、十メートルほどの範囲を見渡せるようになっていた。それだけじゃない。手には爪が。口には歯が。そして目の前には、なにやら黒い毛のようなものが垂れ下がっている。


「これは……髪?」


 頭に触れてみると、どうやら頭髪にも感覚があるようだった。触覚や温冷覚があるのはもちろん、自分の意思で動かすことだって出来る。


「なにかに使うのは難しそうだけど、髪型を変えるくらいなら出来そうだ」


 グリグリと髪を動かして、結んだり解いたりしてみる。

 もっと難しい髪型でもできそうだ。

 今度は、三つ編みや団子結びにしてみる。

 これも問題なくできた。


「かなり複雑な動きもできるな……」


 変な感じだけど、なんだか面白くなってきた。


「うわっ」


 触った手を見ると、髪の毛がごっそりと抜けて張りついていた。毛根の脆さは、さすがアンデッドと言ったところか。

 痛覚がなくて本当に良かった。


「体も丈夫になってる」


 ハイハイ程度なら、ほとんど骨は折れなくなった。

 ものは試しと立ち上がってみる。ビキバキと骨が折れる音は響いたけど、二足で地面を踏みしめる事はできた。


「おっとっと……」


 バランスを取るのが精一杯で、歩くことはまだ出来ない。それでも、ハイハイがやっとだった事を考えれば確かな成長と言えそうだ。できなかった事ができるようになって、なんだかテンションも上がってきた。


「次に進化した時は、ちゃんと歩けるようになれるといいな」


 また楽しみが一つ増えた。

 おそるおそる体勢を低くしていき、両手をついてハイハイの状態に戻る。少し間違えば頭がどこかに行ってしまうから、こんなことでもおっかなびっくりだ。


「あれ?」


 暗闇の向こうから、二つの赤い光がこっちに近寄ってくる。赤い水面がジャブジャブと音をたて、好奇心と警戒心がかき立てられていく。


「ガイコツだ……」


 目の前でピタリと止まって、こっちをじっと見つめる二頭身の人型ガイコツ。サイズはちょうど、ハイハイのポーズをしている僕と目線の高さが同じになるくらいだ。

 その眼窩は赤くギラギラとした輝きを放っていて、おどろおどろしい雰囲気のわりにどこかゆるい可愛さがある。


『レベル2 最下級(ワースト)スケルトン』


 小さなガイコツの頭上に、青い画面と白い文字が表示された。他者であるからか、細かい情報までは表示されないようだ。


「かわいい……」


 そっとガイコツに手を伸ばす。ガイコツはまるで、好きなおもちゃを見つけた子供のように駆け寄ってきた。


「ぐへっ」


 そして、勢いのままに放たれた頭突きによって、伸ばした右手を砕かれる。それでもガイコツの一撃は止まらず、僕の頭部にめり込むようにして、バキベキと頭蓋骨を砕いていく。


「うげっ」


 目を潰されてなにも見えなくなったところに、さらに追撃の頭突き。それによって、頭部は木っ端微塵に叩き潰されてしまった。

 見た目に似合わぬ獰猛さ。

 そして怪力。


(や、やばい……)


 完全に油断していた。

 未知の生き物を相手に、うかつに手を出してしまうなんて。せっかく生き返れたのに、こんなところでくたばるわけには。


(戦うしか……!)


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