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民間試験の導入で英語教育は良くならない

入試を変えれば「話せるようになる」は幻想だ

寺沢拓敬 関西学院大学社会学部准教授

「話せる」指導の処方箋はすでにわかっている

英語入試拡大9月下旬にある高校が配布した、英語の新入試や共通IDについての説明資料。こうした対応はすべて無駄になった

 たしかに、英語民間試験をめぐる混乱の直接の原因は制度設計の杜撰(ずさん)さにある。

 一方、本稿で見てきたとおり、その背景をなすのは、日本人の英語力向上のためには四技能入試を導入すればよいという素朴な「切り札」思考である。それは、「○○を変えたら人々は××のように行動を変える」という単純すぎる人間観の反映であり、学術用語を妄信する権威主義の結果であり、そして、「シンプルな解決策がどこかにあるはずだ」という幻想の現れである。

 実は、「シンプルではない解決策」であれば、多くの英語教育関係者がすでに気づいている。スピーキング指導について言えば、たとえば次のような処方箋(しょほうせん)が有効である。

 ●(たとえば40人の生徒を相手にしたスピーキング指導は実効性に大いに疑問があるので)学級規模を大幅に縮小して指導を行いやすくする。
 ●スピーキングの意義を感じていない教師に対し、行政がその重要性を丁寧に解くことで、意義を理解させる。
 ●スピーキング指導に経験や自信のない教師のために、行政がふんだんな研修機会および授業準備の時間を与える。

 いずれも人々の意識・行動に直接働きかける施策であり、その点で実効性が高い。 一方、実現のためには、財政的にも教育行政的にも多数のハードルがあり、決して気軽に実行できる施策ではない。その点が「シンプルではない」と評した所以(ゆえん)である。

 結局のところ、英語教育改革にとって何を改善すべきかは既にわかっている。したがって、これらを一気に解決できるなどと称する呪文めいた「切り札」に安易に飛びつくことなく、既知の問題点をひとつひとつ地道に潰していくことこそが、現代の私たちに求められている。

 また、今回の改革論議において、こうした呪文を安易に称揚した政治家・官僚は猛省してもらいたい。また、政治家・官僚に、呪文を「入れ知恵」した教育関係者・教育企業・研究者も大いに反省すべきだろう。

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筆者

寺沢拓敬

寺沢拓敬(てらさわ たくのり) 関西学院大学社会学部准教授

1982年長野県塩尻市生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員(PD)、オックスフォード大学ニッサン日本問題研究所客員研究員を経て、現在、関西学院大学社会学部准教授。専門は、言語社会学・教育社会学・外国語教育政策。とくに、日本社会における英語をめぐる世論・言説・政策を研究している。主著に『「なんで英語やるの?」の戦後史』(第6回日本教育社会学会学術奨励賞受賞)、『「日本人と英語」の社会学』、"English Learning in Japan: Myths and Realities" (翻訳)がある。https://www.amazon.co.jp/-/e/B00JG2KKCQ

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