カスタマーレビュー

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2019年10月17日
前回の「日本国紀の副読本」と同様の対談本である。
「日本国紀」「副読本」のネタをリサイクルしつつ、
万世一系と大御心のありがたさを強調し、戦後教育とメディアの批判を繰り返す。
総じて根拠があいまいで、つまみ食いしたエピソードと偏見、
個人的経験に基づいた、薄っぺらい歴史放談である。

「日本国紀」間違い探しをお楽しみになった方であれば、
本書も大変刺激的で、楽しめる内容であることは請け合いだ。
男系の説明を誤って重版時に訂正を余儀なくされたのを棚に上げて、
「男系」「女系」の意味が正しく理解されていないと嘆く。
また、無断引用を指摘され、重版時に修正した「民のかまど」を数少ない根拠として、
天皇の間で古代から現代まで連綿と民を思う「大御心」が受け継がれたと主張する。
あるいは、「万世一系を否定している」と批判を受けたことについて、
武烈・継体天皇の例を補足して弁解した直後に、また応神天皇による簒奪説を取り上げる。
さらに、「副読本」では山川出版社の高校教科書を引用したものの、
ほとんどまともな批判ができていなかったことを踏まえてかどうか、
今度は東京書籍の小学生用の教科書を持ち出して、記述が不十分だとやり玉に挙げているのは、
微笑ましくもある。
そして、百田先生に対して絶妙のタイミングで繰り出される鮮やかなヨイショを目にするたび、
思わず「待ってました!」の一声でもかけたくなる。

日本国紀や副読本を未読の方でも、矛盾やツッコミどころが沢山用意されており、楽しめる。
例えば、本書は、たびたび戦後教育について「天皇という存在を歪めている」などとし、
天皇の事績を伝えないことなどを批判しているが、
本書も日本国紀も、天皇の事績はほとんど伝えず、「天皇という存在」が具体的に
どのようなものだったのか、説明に乏しい。
本書でまとまった量言及があるのは昭和天皇、仁徳天皇、崇徳天皇くらいか。
鉄板ネタの使いまわしなのだろうが、もう少し広げてほしい。
仁徳天皇と昭和天皇の例だけを挙げて、受け継がれた大御心のありがたさを強調するのは、
さすがに手抜きというものだろう。
「大御心を世の中が想像しすぎます」などと有本氏が「左翼」を揶揄する一方で、
百田先生はたびたび天皇の心中を推測するというのは、冗談なのか気づいていないのか。
そのあたりを含めて楽しめるなら、手にとってはいかがだろうか。

そうでなければ、本書は、数々のいい加減さや矛盾を抱えるだけでなく、
目新しい論点・視点が見いだせるわけでもなく、
天皇を学ぶ、あるいは、歴史を学ぶという点で、お勧めできない。
ただ、日本人たるもの天皇について一席ぶちたいのでいっちょ楽にネタを仕込みたい、
という向きには、大変読みやすくお買い得だろう。
少し歴史をかじった人ならどこかで聞いたような話ばかりなので、
説き聞かせたいなら相手を選んだ方が良いだろう。

なお、日本国紀については、
(1)多数の誤り(2)記述の矛盾(3)先行研究の無視・軽視
(4)都合の悪い史実の無視(5)引用元の不明(6)著者・版元の不誠実
などの多くの問題点があり、「日本通史の決定版」などと呼べる代物ではないと考えている。