死亡事故を起こしたUberの自律走行車は、「車道を渡る歩行者」を想定していなかった:調査報告から明らかに

Uber自律走行車のテスト車両が道路を横断していた女性をはねて死亡させた2018年の事故に関して、新たな事実が調査報告によって明らかになった。テスト車両に搭載されていたソフトウェアは、横断歩道以外の車道を渡る歩行者を発見できるようには設計されていなかったというのだ。これ以外にも、ずさんな安全管理などの問題が次々に明らかになっている。

Uber

AARON JOSEFCZYK/REUTERS/AFLO

アリゾナ州で昨年、道路を横断していた女性をUber自律走行車がはねて死亡させた事故。そのテスト車両に搭載されていたソフトウェアは、横断歩道以外の車道を渡る歩行者を発見できるようには設計されていなかった──。そんな事実が、当局による事故調査の一環として公開された文書から明らかになった。

今回の新情報は、この事故に関して過去に公開された大量の文書から明らかになった情報のなかで、最も悪質なものである。だが、それ以外にも新しい文書からは、Uberの自律走行車の技術では人間の実際の動き方を考慮できていなかったことが、さまざまな点から示されている。

この文書は、Uberの自律走行車が起こした事故に関する20カ月の調査に関連して、国家運輸安全委員会(NTSB)が11月5日(米国時間)に公開した。NTSBは航空機や大型トラックなどの事故を主に調査する政府の独立安全委員会である。NTSBは事故に関する最終報告書を2週間後に公表する予定だ。

数百ページからなる40部以上の文書には、2018年3月18日に発生した事故の詳細がつぶさに記されている。

この事故では、イレーン・ハーズバーグという49歳の女性がアリゾナ州テンピで暗闇のなか道路を横断していたところ、44歳のラファエラ・ヴァスケスが運転席に乗っていたUberの試験車両にはねられて死亡した。事故当時、この試験車両の運転状況とソフトウェアの状態を監視していたのは、この運転手ひとりだった。事故の1週間後に公表された映像には、衝突間際のヴァスケスが動揺しながら対応する様子が記録されている。

社内の「安全文化」にも問題

新しい文書では、専門家が呼ぶところの「安全文化」という観点から見て、Uberの社内体制に明らかな過失がいくつかあったことが指摘されている。例えば、自律走行車による試験プログラムには運行の安全を管理する部署が存在せず、安全管理者もいなかった。

なかでも目に付いたのが、ソフトウェア関連の問題だ。Uberのシステムは、横断歩道以外の車道を渡る歩行者を発見したり、それに対処したりできるようになっていなかったのである。

また、Uberのエンジニアは誤作動によるアラートの発生を恐れたのか、衝突の危険性を検知してから車両が反応するまでに1秒のタイムラグを設定していた。さらにUberは、ボルボ製の自律走行車に組み込まれていたボルボの衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)のシステムを無効にしていた。

のちにボルボは、自動ブレーキを有効にしていれば、女性に衝突した際には相当に減速していたか、衝突そのものを回避できていた可能性もあると結論づけている。ちなみに複数の専門家は、車両側の自動ブレーキシステムを無効にしたUberの判断は、技術的には理にかなっていると指摘している。同じような機能をもつふたつのソフトウェアを同時に動作させ、車両に“指示”させるのは安全性に問題があるからだ。

「歩行者」を認識できなかったシステム

車両が女性を発見した時点では、停車するためには十分な時間が残されていた。ところが、車両は時速70kmで彼女に衝突し、23m先まではね飛ばした。こうした事態が起きた理由は、ブレーキのソフトウェアの問題でおおかた説明がつく。

女性の存在を自律走行車が最初に認識したのは、衝突の5.6秒前である。だが、そのとき車両は彼女のことを「自動車」であると誤って認識していた。続いて認識は「その他」に変わったが、再び「自動車」に戻り、「その他」「自転車」「その他」を経て、最終的に「自転車」に落ち着いた。

女性が歩いていたことを車両が認識できなかった理由は、単純だが腹立たしいものだった。Uberは車両に対して、横断歩道以外の車道で歩行者を探すようには指示していなかったのだ。「システムの設計は横断歩道以外の車道を渡る歩行者を考慮していなかった」と、NTSBの「Vehicle Automation Report」には書かれている。

車両は検知した“謎の物体”が何であるのかを推測しようとするたびに、その物体(すなわち横断していた女性)の向かう先を予測する処理を最初からやり直していた。そしてシステムは衝突の1.2秒前になってようやく、車両が女性に衝突すること、ハンドルを切っても回避できないこと、そして急ブレーキをかける必要があることを認識したのである。

その結果、Uberが「動作の抑制(action suppression)」と呼ぶ機能が動作した。システムは「発見した危険の性質」を検証するために1秒間、ブレーキをかけずに待機する結果となったのである。

この1秒間に、運転席に「安全オペレーター」として座っていた男性は“最後の砦”として車両の制御を取り戻し、自分でブレーキを踏むことができたはずだ。しかし、そのとき彼は道路に視線を向けていなかった。車両が衝突0.2秒前に警告音を出して初めて、彼はステアリングを握り、自動運転システムを解除したのである。女性に衝突してから1秒近くたって、ようやくオペレーターはブレーキを踏み込んだ。

Uberは安全チームの組織体制を変更

Uberの広報担当者は、同社が「2018年の事故を遺憾に感じている」としたうえで、自動運転技術部門のAdvanced Technologies Groupが安全プログラムを改善したと強調している。Uberが事故調査の一環としてNTSBに提出した文書によると、同社は事故後20カ月の間に安全運転教育を改善し、各車両に安全オペレーター2名を乗車させるようになったという(Uberは自律走行車の試験をピッツバーグで実施しているが、この11月からダラスでも開始する予定だ)。

さらにUberは安全チームの組織体制を変更し、従業員が匿名で安全上の問題を報告できる仕組みを設けた。「NTSBによる徹底的な調査を深く尊重します」と、同社の広報担当者は語っている。

今回の事故の要因は、もうひとつある。現場付近の道路の構造だ。女性が自転車を押して渡った車道の付近には、一見すると歩行者用につくられたかのように見える通路があった。しかし実際には、最寄りの横断歩道からは110mも離れていた。

NTSBは11月19日、ワシントンD.C.で事故に関する会合を開く予定だ。この会合では調査官が事故に関する包括的な報告書を公表し、何が起き、どのような過失や問題点があったのかを詳しく明かすことになる。また事故調査官は、自律走行車の技術を牽引しているUberなどの企業と規制当局に対し、同じような衝突事故を防ぐ方策について勧告することになる。

事故で亡くなった女性にとっては、一連の動きは遅すぎたことだろう。なお、遺族は事故から11日後にUberと和解している。

※『WIRED』による自律走行車の関連記事はこちらUberの関連記事はこちら

RELATED

SHARE

フェイスブックの新しいロゴは、果てしなき巨大化の動きを視覚的にも示している

フェイスブックが、グループ全体の企業ロゴを刷新した。InstagramやWhatsAppなどのアプリで「from FACEBOOK」と大文字で示されるようになった新しいロゴは、ひとつのデザインの下に集うひとつの会社としての存在感を強めると同時に、その際限なき巨大化の動きを視覚的に示してもいる。

TEXT BY ARIELLE PARDES

WIRED(US)

Facebook

MICHAEL SHORT/BLOOMBERG/GETTY IMAGES

マーク・ザッカーバーグフェイスブックを創業してからの15年間、このプラットフォームは何度も模様替えを実施してきた。フェイスブックは、ハーヴァード大学の学生が寮で騒ぎながら“セクシーさ”を競う場から、ネット上で米国の政治について訴える場へと成長した。

2012年に株式公開を申請した際にザッカーバーグは、フェイスブックを単なるアプリとしてつくったのではなく、単なる企業としてつくったのですらないと説明した。「さらに開かれ、つながった世界の実現」という、もっと野心的な目標のためにつくられたと言うのだ。

そうした使命における実績は波乱に富んでいる。しかし現在、少なくともひとつだけ明らかなことがある。企業としてのフェイスブックは「Facebook」というアプリにとどまらない。そしてフェイスブックは、そのことを周知したいと思っているのだ。

「どこか明るい展望を感じさせる」デザイン

こうしてフェイスブックは11月4日(米国時間)、同社の幅広いプロダクトに影響するブランドのデザイン変更について、まるで家族写真用の揃いの衣装のように紹介した。

フェイスブックのロゴは、いまや新たな字体と「感情移入できるカラーパレット」(Instagramはピンク、WhatsAppはグリーン)で輝いている。それらのカラーは、ザッカーバーグの広大な支配領域をさらに明確に特徴づけるものだ。InstagramやWhatsAppでは、誰がボスなのかを大声で知らせるかのごとく、新たにすべて大文字で「from FACEBOOK」と表示されるようになった。

Facebook

IMAGE BY FACEBOOK

「新たなブランディングでは明快であることを意図しています」と、フェイスブックの最高マーケティング責任者であるアントニオ・ルシオは、新たなデザインを紹介するブログ記事で説明している。同社のデザインハブに関する別のブログ記事では、チームが「特別な字体や丸みを帯びた角、開放的な文字の形、大文字化により、いかに企業名とアプリ名の視覚的な区別を図ったか」について、さらに詳細に説明している。

良質な書体には世界を変える力があるという信念なのだろうが、こうした言い回しには、デザインブリーフを一度でも読んだことのある者ならば馴染みがあるだろう。「角や斜線をわずかに柔らかくしたことで、どこか明るい展望を感じさせるものにしました」と説明されているが、何に明るい展望を感じればいいのか、詳しいことは書いていない。

強まる「ファミリー」の絆

これらすべてのデザイン変更から明らかに分かることがある。フェイスブックは単なる“ビッグ・ブルー”以上の存在であるということだ。すなわち、WhatsAppやMessenger、Instagram、Threads、Oculus、Portal、Workplaceを通じてユーザーの人生を支配するソーシャルテクノロジーなのである。

もしフェイスブックが規制や大衆的イメージという課題の迷宮を突破できれば、新たな仮想通貨「Libra(リブラ)」のデジタルウォレット「Calibra(カリブラ)」も間もなく含まれることになる。いつの日か、Facebookブランドのブレイン・コンピューター・インターフェイスも含まれるかもしれない。

将来的にフェイスブックが、さらにどんなものを吸収していくのかは誰にもわからない。だがフェイスブックが何をしようと、それが「フェイスブック製」であることを、誰も忘れないようなかたちで提示してくることだろう。

ザッカーバーグは長年、自身の帝国をアプリの「ファミリー」と表現している。だがここ数年の苦難を経て、最近ではこれらの家族の絆はこれまで以上に強くなっているようだ。

興味深いタイミング

今回の再ブランディングは、自社のさまざまなメッセージングサーヴィスをバックエンドに統合するという、今年1月から始まったフェイスブックの計画に続くものだ。この計画でフェイスブックは、MessengerやWhatsApp、Instagramを連携させようとしている。

そしてフェイスブックは今夏、さらに多くの自社製品に「Facebook」の名を追加することにより、こうした“同化”の方針を加速させた。大きなデパートで独占的に売られるデザイナーコレクションのごとく、Instagramは「Instagram from Facebook」となったのだ。司法省や連邦取引委員会、それに全米各地の州司法長官47人から反トラスト法に基づく複数の調査を受けている企業にしてみれば、興味深いタイミングではある。

大統領候補のエリザベス・ウォーレンは、フェイスブックのさまざまな買収の解消をマニフェストの重要な部分として挙げている。フェイスブックの共同創業者だったクリス・ヒューズまでもが同社の分割を規制当局に求めており、反トラスト関連問題の学術研究や政策を支援する独自のファンドを立ち上げている。

ひとつのデザインの下に集うひとつの会社へ

フェイスブックが所有するアプリへのラベル付けやプラットフォーム横断的な統合の推進は、フェイスブックの独占のイメージを薄めはしないだろう。これまで以上に巨大なイメージを与えるだけだ。字体が開放的になり、さらに大文字になったことで、その巨大さはさらに際立つ。

だが、今回の再ブランディングによって、フェイスブックが常に優先してきたわけではないある種の透明性確保の試みが続くことになる。「#deletefacebook」(Facebookを削除せよ)という今年はじめのキャンペーンを思い起こしてみよう。

キャンペーン後、多くのユーザーがソーシャル活動の軸足をInstagramに移したが、プラットフォームの所有者が変わらないことはおそらく認識していなかった。今後は、すべて大文字で鮮やかな色の「FACEBOOK」表記があらゆる製品に貼り付けられ、所有者がはっきりと示されることになる。

今回のフェイスブック製品の大規模な統合は、この企業が競合他社を吸収し、それをひとつの大きな「コミュニケーションのシチュー」に融合してきた全過程を思い起こさせるかもしれない。それと同時に、ひとつのデザインの下に集うひとつの会社として、フェイスブックが一連のファミリー製品を携えて前進しようとしていることも示している。

際限なき巨大化

アプリとしてのFacebook自体の成長が止まり、会社の評判が芳しくない時期には、それは特に重要なことだろう。だが、誤解するなかれ。フェイスブックは依然として利益を上げている。

しかし、その未来はInstagramやWhatsAppといったアプリや、次に登場するものに特に依存している。新たな「from Facebook」という表記がInstagramアプリの下の方にひっそりと存在していたところに、いまではすべて大文字で、無視できないようなフォントで記されている。それは会社としてのフェイスブックの際限なき巨大化を視覚的に示すものなのだ。

※『WIRED』によるフェイスブックの関連記事はこちら

RELATED

SHARE