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【社会】芸術展 公認撤回 ネットで批判、国会議員が照会 外務省が忖度か
ウィーンで開催中の芸術展の公認を現地の日本大使館が取り消した問題では、公認撤回の前から、インターネット上では安倍政権を風刺する展示内容などに批判が続出していた。「電凸」と呼ばれる電話攻勢を促し、外務省へ圧力をかける動きもあり、複数の国会議員が同省に照会。行政の忖度(そんたく)や萎縮につながった可能性もある。 (小倉貞俊、望月衣塑子) ネット上では十月半ば以降、同展について「反日プロパガンダ」「日本を誹謗(ひぼう)中傷している」などの書き込みが相次いだ。政府に抗議を呼び掛ける書き込みもあった。 外務省中・東欧課によると、匿名、実名による複数の問い合わせや意見が寄せられ、現地の大使館員が展示内容を調査したという。 今回の判断について、同課の担当者は「もともと省として共催や後援、補助金交付をしていない。展示内容が両国の相互理解や友好関係を満たすものではないと判断した。展示は続いており、表現の自由を狭めているわけではない」とした。 この間、外務省に働きかけた中には国会議員もいる。自民党の大西宏幸衆院議員の事務所によると、一般市民からの問い合わせやネット上で議論になっている内容を踏まえ、十月末に電話で同省に事実関係を確認。大西氏はブログで、三十日の党の部会で、天皇を題材にした作品について外務省職員に「説明を改めて要求」したと記している。 同党の長尾敬衆院議員も先月末以降、ツイッターで「友好百五十周年にふさわしくない(芸術展)」「不快感しか覚えない作品?が両国友好に資するとは思いません。追及を続けます」と記した。 この問題で、芸術展に作品を出品している会田誠さんはツイッターで「実際の映像を見ておらず、事実誤認に基づいている。今回、匿名のネトウヨたちと、彼らの進言で具体的に動いた政治家が『日本』を傷つけた」などと批判している。 ◆理不尽 検閲と受け取られる識者からは、国際的な日本の文化発信への悪影響を懸念する声が相次いだ。 「あいちトリエンナーレ」への補助金不交付決定に抗議し、文化庁委託の日本現代アート委員会副座長を辞任した林道郎上智大教授(美術史)は「全く理不尽で国際的なスタンダードからしたらあり得ない判断だ。政府や外務省のお墨付きがついた芸術作品しか、日本では公認されないのだ、と海外から疑問視される状況を生んでいる」と批判する。 表現の自由などに詳しい慶応義塾大法科大学院の横大道(よこだいどう)聡教授(憲法)は「展示が現在も続いており、表現の自由が侵害されたとまでは言えないのではないか」とみる。その上で「国際的にどう見られるのか、という視点に立てば、決定は政治的に賢明な判断だったとは思えない」と指摘した。 東京大の明戸(あけど)隆浩特任助教(社会学)は「取り消しは、海外では検閲的に受け取られる。外務省は、日本の芸術や文化のありようが海外にどう伝わるかを考えるより、『(われわれは)反日ではない』ということを官邸に伝えることを優先したように見える」と指摘。 明戸氏は「国際社会で経済を含めて、海外の日本に対する期待値が下がりつつある状況下で、日本の市民や官僚、政治家が『別にもう先進国と言われなくてもいいよ』と、ある種の開き直りがあるようにも見える」と話した。 PR情報
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