山手線で池袋の次の駅、大塚に日本でもめずらしいタルタル料理の専門店があるとの噂を聞きつけた私。
……「タルタル」って、エビフライやチキン南蛮などの上に乗っている、あのタルタルソースのこと!? 専門店にできるほどバリエーションがあるのでしょうか? さっそくお店のホームページを調べてみると、タルタル料理の本来の意味は「細かく刻んだ具材を組み合わせる」ことで、フレンチには欠かせない料理とのこと。
肉、魚介、野菜、フルーツなど、その組み合わせは無限大で、タルタルソースからは想像ができないような奥深さがタルタル料理の世界にはあるようです。
未知の味を求めて、実際に行ってみることにしました。
JR大塚駅から徒歩3分ほど、駅前とはいえ静かで落ち着いた一角に、そのタルタル専門店「クラフトバル レープレ」はありました。
店内は居心地がいい街のバルといった感じです。
オーナーの池田明弘さん(残念ながら顔出しはNGでした)と共に、厨房を仕切る杉本莉奈さんが店内を案内してくれます。イラストが得意ということで、絵本のようにかわいいメニューや、壁のイラストは杉本さん作だそうです。
キュートなうさぎグッズがあちこちに。オーナーの池田さんも、杉本さんも、実際にうさぎを飼っている、大のうさぎ好きだそう。
ユッケやなめろうもタルタル料理の仲間
では、さっそく「タルタル料理」とは一体何なのか、オーナーの池田さんに説明してもらいましょう。
池田さん:タルタルの定義としては、食材を細かく切って「セーブル」という丸い型に詰めたらなんでもタルタルになります。
代表的なタルタル料理としては、フランス料理で親しまれている「タルタルステーキ」という生の肉を細かく叩いたものが有名です。
──日本で言うところの、ユッケやなめろうのような料理ですね。
池田さん:そうです。もともとは、タルタル人というモンゴル帝国の遊牧民たちの食習慣だったのですが、それがヨーロッパに伝わって、フランスの食文化として発展しました。
──「タルタルソース」とは関係ないんですか?
池田さん:タルタルソースも、野菜などを細かく刻んだソースなので、タルタルステーキと語源は同じらしいです。ただ、うちで提供しているのはあくまでもタルタル料理の方ですね。
──日本では、タルタルステーキにあまり馴染みがないのはなぜでしょうか?
池田さん:もともと日本では生肉を食べる文化がなかったのと、2011年に焼肉チェーン店が集団食中毒を出して、肉の取り扱い規制が厳しくなったことも関係していると思います。
うちのタルタルに使用している肉は、食品衛生法で認められている低温調理の基準を満たしているので安心安全ですよ。
高級なイメージのフレンチを手軽に楽しんでほしい
ではさっそく、タルタル料理をいただきましょう。
▲牛肉とグラナパダーノのタルタル(1,045円)
こちらが「レープレ」イチオシの逸品。牛肉とグラナパダーノチーズを組み合わせたタルタルだそうです。肉の食感が楽しく、卵黄、チーズ、ソースと絡み合うことで旨味に深みが出て、赤ワインにぴったりです。
池田さん:タルタル料理を考えるとき、もともとある料理を一度崩して、オリジナルで再構築するというコンセプトがあるんです。
こちらのタルタルは、以前流行っていたローストビーフ丼をイメージしました。「丼」ということで、お肉のまわりにはお米を意識して「オルツォ」というイタリア料理に使われている大麦を散らしています。
お肉は低温調理で、基準を満たした最低限の加熱に抑え、極力生に近い状態で安全に食べられるラインで調理しています。食べるときは、お肉、チーズ、バルサミコソース、大麦を全部混ぜて食べてくださいね。
▲サーモンとオレンジのタルタル(935円)
こちらは、クレープで巻いて食べるスタイルのタルタルで、サーモンの塩味とオレンジのジューシーさが絶妙にマッチ。すっきり爽やかな味わいで、白ワインが進みます。
池田さん:冷たい前菜として楽しんでもらえるよう、タルタルメニューにカルパッチョみたいな、魚系のメニューを加えようと考えて作りました。
サーモンといえば、アボカドを組み合わせている居酒屋さんがたくさんありますが、それだと新しくないのでオレンジと組み合わせました。
オレンジもクレープもデザートのイメージが強いですが、フランス料理では普通に料理に使うので、そういう食文化があることも知ってもらいたいんです。
──どちらのタルタルも、素材の味を活かしつつ、新たな食感や味わいが生まれて、食べるのが楽しいです。
池田さん:タルタルは、単純に食材同士の組み合わせなので、料理の中でもかなりシンプルなものなんです。だからこそ、食べながら「この食材とこの食材って合うんだ」と、ダイレクトに感じてもらえると思います。
──しかしレープレさんの料理は、フランス料理にしては価格が安いように感じるのですが……。
池田さん:よく知らない料理が高いって嫌じゃないですか。まだタルタルは世間に浸透していないと思うので、あくまで手軽に楽しんでほしいなと思っています。
──採算のほうは……?
池田さん:ダメかもしれません(笑)。でも、タルタルという料理を知ってもらうことがお客様にとっての発見になったらいいなと。
素材を絞って手間暇をかけることで美味しさも増す
タルタル料理ではありませんが、「圧力パスタ」もレープレの評判メニューのひとつだそうです。
▲自家製サルシッチャと揚げごぼうのペペロンチーノ(1,045円)
──こんなもちもちのパスタは珍しいですね。クセになる食感ですが、「圧力パスタ」とは?
池田さん:パスタに圧力をかける特殊な調理法で茹であげています。生麺でもないし乾麺でもない、オリジナルなもちもち感が出るんです。調理法が特殊なので、1皿ずつしか作れず非効率的なんですが、他にはないものが食べられると思います。
──そして「サルシッチャ」とは?
池田さん:イタリアのソーセージのことです。腸詰めにする前の、ひき肉の状態を絡めています。こちらも自家製です。
──細かい食材まで自家製で、どの料理も本当に手間がかかっていますね。
池田さん:批判するわけではないんですけど、今の料理って、いろんな調味料を入れたり、膨大に加工したりするじゃないですか。レープレではそうではなく、純粋に「素材を楽しんで欲しい」という気持ちがあって、自家製にこだわっています。
料理をいかにシンプルにできるか、毎日実験のような気持ちで作っていますね。
──素材の味を活かす、ということですか?
池田さん:そう言われると聞こえはいいんですけど、どこまで余計な素材を「無くして」料理を作れるんだろうって。僕、反抗的なんです(笑)。
例えばリゾットだったら普通はチーズがたっぷり入ってたりしますけど、「米を食べようと思ったら、そんなにチーズを入れるべきじゃないよな」って思うし、牛頬肉の赤ワイン煮だったら、玉ねぎと赤ワイン、はちみつ、塩コショウくらいしか使わないです。
──それだけの素材で美味しくなるものですか?
池田さん:実験をしていてわかったことなのですが、例えば牛頬肉の赤ワイン煮を作る場合なら、ハーブなどを入れると美味しくなるんですけど、「結局それって時短のためなんだな」と。
ハーブを使えば3時間で作業が終わるけど、うちは煮込んで染み込ませてを繰り返して、3日間かけてるんです。そうすればハーブを使わずに作れることはわかったんですけど……まあ手間暇かけるのが好きなんでしょうね。
──本当に、ずっと実験している状態なんですね!
池田さん:デザートも、例えばパンナコッタだったら普通はゼラチンを使うんですけど、ゼラチンが開発される前は卵白とかで固めてたんですよ。ならそのレシピを再現してやろうと。そうすると3時間くらいかかる。でもその方が美味しいんですよ。
──脱帽です!
自分たちにもお客さんにも発見があってほしい
▲クラフトビールやワインの品揃えも抜群!
──そもそも、池田さんはどうしてタルタルの専門店を出そうと思ったのでしょうか?
池田さん:10年以上バーテンダーをやっていて、その頃から飲食業をやるならいつかは独立しようと思っていて。過去にコンサルティング業者について、いろいろなレストランを回っていたことがあるんです。
そのときフレンチのお店の前菜で、タルタルを出していたことからヒントを得ました。調べてみると、タルタルを専門的にやっているお店が日本に一軒もなかったのと、地元に近い大塚という街から、日本にまだないものを発信するのはおもしろいかなと思ったんです。
──メニューを考えるとき、タルタルの組み合わせなどで失敗したことはありますか?
池田さん:液体系をタルタルにするのは難しいですね。ローストビーフ丼やカルパッチョという既存の料理をばらしてタルタルに再構築してきたように、味噌汁とかもばらせるんじゃないかと思ったんですけど、うーん……(笑)。
でも、ゼラチンで固めるなどの工夫を施したら、液体系のタルタルもいけるのではと考えています。
──レープレさんに行くと、毎回新鮮な発見がありそうですね!
池田さん:僕は料理に対して、自分たちにもお客様にも発見があってほしいと思っているんです。
料理人の自分は素材の組み合わせなどを日々実験して発見を求めているし、お客様もせっかく外食するなら、「こんな料理があったんだ」という発見があったほうがいいんじゃないかと思っていて。
一見のお客様でも入りやすいように、今後は深夜にランチ価格で食べられる、夜ランチなども提供していこうと考えています。
話のネタにもなりそうな、珍しいタルタル料理。生肉が好きな方、外食に刺激が欲しい方は、大塚へ足を運んでみては!?
撮影:松沢雅彦
お店情報
Wine&Beer Craft Bar Lepre (クラフトバル レープレ)
住所:東京都豊島区北大塚1-14-9 宍戸ビル 1F
電話:03-5972-4151
営業時間:火曜日~土曜日/ 17:00~翌2:00(LO 1:30)、 日曜日/17:00~24:00(LO 23:30)
定休日:月曜日
書いた人:松子
石川県出身の、都内在住のOL。アラフォー。チェーン店で酒を飲むことがライフワー ク。365日毎晩どこかの酒場に出没中。趣味は海外旅行で、いろんな国の料理を食べ ること。とにかく、コスパよく美味しい酒が飲みたい!