SMSから次世代メッセージサーヴィスに移行したいグーグルと、腰が重い通信キャリアとの攻防が始まった

携帯電話で使われるテキストメッセージ(SMS)に代わる次世代のシステムとして、グーグルが「RCS(リッチコミュニケーションサーヴィス)」の普及に動きだしている。英仏ではAndroidスマートフォンの「メッセージ」アプリにRCS準拠のサーヴィスも追加されたが、多額の設備投資を前に腰が重い通信キャリアとの連携が今後の課題になっている。

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グーグルが、携帯電話で使われるテキストメッセージ(SMS)を時代後れのものにしようと動き始めている。もし英国かフランスに住んでいれば、Androidスマートフォンの「メッセージ」アプリに、最近になって通知が送られてきたことだろう。“未来”のメッセージサーヴィスの紹介である。

グーグルは欧州の2カ国で新しいメッセージサーヴィスとして「リッチコミュニケーションサーヴィス(RCS)」[編註:日本で2018年に始まった「+メッセージ」のようなサーヴィス]を開始し、20年末までにすべてのAndroidユーザーに「広範に提供」したいというのだ。

SMSに代わる、最新のコミュニケーション方法を

「この言い方は嫌いなのですが、RCSはいわばSMSの“アップグレード版”です」と、モバイル市場調査会社Mobilesquaredのニック・レインは言う。

Mobilesquaredの予測によると、RCSのアクティヴユーザー数は、19年6月末の月間3億1,100万人から、19年末までに月間10億人、さらに23年までには月間32億人にまで増えるという。「単なるアップグレードと言ってしまっては、RCSに迷惑でしょう。RCSはメッセージに豊富な機能と能力を加えるのですから」

優れた写真・動画共有や既読マークなどの機能を搭載したこのサーヴィスを、レインは「WhatsApp」や「iMessage」に例える。だがグーグルいわく、このサーヴィスは「より現代的なコミュニケーション方法」なのだという。

「わたしたちは16年からエコシステムを形成し、通信キャリア43社とタッグを組んできました。目標は、いま標準となっているSMSベースの旧式のメッセージシステムを、ユーザーのためにアップグレードすることです」と、グーグルで消費者向け製品および通信サーヴィス担当ディレクターを務めるサナーズ・アハリは言う。「ユーザーにRCSを使ってもらい、期待通りの最新メッセージングサーヴィスを提供したいと思っています」

ところが、これは大仕事になった。これらの通信キャリア43社は、世界中に800以上ある通信キャリアのうち約5パーセントにすぎない。「これまでの成果は大変喜ばしいものですが、ユーザーの視点からすれば十分とは言えません」と、アハリは言う。

アハリは、10年以上かかった同サーヴィス立ち上げの経緯には詳しく言及しなかったが、第三者はもっと率直に述べている。「難所となったのは、統一のとれていないエコシステムと、全ユーザーに同一体験を提供するために必要なシステム統合とアップデートです」と、モバイルマーケティング企業の3CInteractiveでディレクターを務めるレイミー・リアドは言う。

GSM方式の携帯電話システムを採用している通信事業者や関連企業からなる業界団体のGSMアソシエーションは、SMSに代わるサーヴィスとしてRCS規格を受け入れることを08年に決めた。さらにグーグルは、RCS普及のためにJibe Mobileという企業をまるごと買収したこともある。

「グーグルは通信キャリア全社の約850社を引き入れようとしているのですが、これはほぼ不可能です」と、Mobilesquaredのレインは言う。「将来を見越した通信キャリアが何社か聞き入れてくれたとしても、ずっと遅れた考え方をもつキャリアもあります。そうなるとグーグルの成功は、市場が成熟しているか成長途中であるのかにかかってきます」

RCSは収益化のチャンス

英国に本社を置くボーダフォンのようにRCSを歓迎したキャリアは、高度なメッセージングサーヴィスに収益化のチャンスを見出したのだとレインは言う。

RCSメッセージでは、旅の計画から切符の購入まで、理論上あらゆることができる。しかも、モバイル搭乗券に似た「リッチカード」というインタラクティヴなメッセージ機能により、すべてがひとつのメッセージで完結するのだ。

「ユーザーを自社以外のサイトへ何度も転送したり、あちこちたどらせたりする必要がなくなります」と、レインは言う。「単一チャンネルで完結するシームレスな体験です。おそらくこれがRCSの最大の魅力でしょう」

ところが、RCSは技術システムの再設計を伴う投資が必要になるため、キャリアは乗り気ではない。ましてや第5世代移動通信システム(5G)の導入に向けて膨大な投資をしなければならない時期である(グーグルのアハリは、「わたしたちが全世界で提携している通信キャリアは、全社がメッセージサーヴィスをSMSからRCSに移行したいと熱意を示しています」と説明している)

レインいわく、通信キャリアがRCSシステム導入に必要な最大限の設備投資をすると、数百万ドル(数億円)かかるという。ただでさえ多くのユーザーはSMSメッセージでこと足りているか、WhatsAppのようなサードパーティのサーヴィスを使っているにもかかわらずだ。

しかもRCSには現時点では、エンドツーエンドの暗号化が適用されていない。これはSMSに対する最大の批判のひとつでもあった。ここ数年で、エンドツーエンドの暗号化はメッセージアプリに広く浸透している。iMessageやWhatsApp、プライヴェートメッセンジャー「Signal」もエンドツーエンドで暗号化されており、初期設定でメッセージ内容への第三者のアクセスが阻止されている。

RCSの未来はもうはじまっている

とはいえ、そんなRCSメッセージサーヴィスを標準化するほどの力をもつ会社があるとしたら、それは何百万台ものスマートフォンを従えるグーグルだ。

「(グーグルやWhatsAppのような)高度なメッセージサーヴィスの存在は、移動体通信事業者(MNO)にとって大きな圧力です。自分たちも高度でネイティヴなメッセージング体験を展開しなくてはならないというプレッシャーになっています」と、3CInteractiveのリアドは言う。「RCSならMNOでも運営できますし、企業向けのビジネスメッセージの収益によって投資を回収できますから」

課題は、どうやってすべての通信キャリアと端末とで互換性を確保するかだ。これにはコストがかかる。

「多くの端末とファームウェアがあるなかで互換性を確保するには、大きな技術的課題があります」と、グーグルでメッセージングの製品開発リードを務めるドリュー・ロウニーは言う。「これまでならアプリ開発会社と通信キャリアとの密な協力が不可欠でした。しかし、今回わたしたちは大がかりな技術的な統合なしに、これをなし遂げたのです」

技術的な統合を避けた理由を、ロウニーは時間短縮のためとしている。しかし、Mobilesquaredのレインは、アプリというかたちをとることによって通信キャリアを完全に排除するためだと指摘する。

「グーグルは独自のサーヴィスを立ち上げると宣言しました。そして、そのサーヴィスによって、O2やThree、EEといった通信キャリアの加入者の端末にもRCSが導入されることになるのです」と、レインは説明する。「グーグルはキャリアの尻を叩いているのです。RCSはもう始まっており、誰にも止めることはできません。これが未来です。問題は、その未来がいつ来るのか、いつすべての人の手にわたるのかにあります」

「グーグルは英仏のほかに、ヨーロッパの10カ国で同様のサーヴィスを立ち上げる予定です。おそらく数カ月以内にローンチするでしょう。どの国で立ち上げが進み、その後グーグルがどこに進出するのかを見極めるつもりです」と、レインは言う。次にRCSが立ち上げられる市場として、レインは米国やカナダ、メキシコ、ドイツ、ノルウェー、南アフリカ、韓国、日本を見据えており、20年末までにさらに26カ国を加えてほぼ世界制覇になるとみている[編註:日本ではNTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの3社が「+メッセージ」としてRCS準拠のメッセージサーヴィスを提供している]。

グーグルは次にどの国で立ち上げを行なうのかは明言していない。しかし、すでに開発は完了し、何の問題もなくユーザーに展開できることが実証されているため、幅広い採用を望んでいると強調した。

「わたしたちは、エンドユーザーが通信キャリアや端末のことを考えなくていいようにしたいのです」と、グーグルのアハリは言う。「Androidユーザーなら誰もが、箱を開けてすぐにスマートフォンでリッチなメッセージングを体験できるようにしたいと思っています」

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超巨大な望遠鏡は、宇宙空間でロボットが組み立てる:NASAが実現可能性を検討中

宇宙の謎を解き明かすために必要になる巨大な宇宙望遠鏡を、バラバラの部品としてロケットで打ち上げてロボットに組み立て作業を任せられないか──。そんなプロジェクトの実現可能性をNASAが模索している。このほど出された研究結果によると、「まぎれもない現実」なのだという。それでは、どこまで実現可能性は高いのか?

TEXT BY DANIEL OBERHAUS
TRANSLATION BY MITSUKO SAEKI

WIRED(US)

Astronauts in space

地球の軌道上を周回するハッブル宇宙望遠鏡にトラブルが発生した場合、これまでは宇宙飛行士が修理に当たるのが普通だった。今後の宇宙観測では、ロボットたちにおおいに働いてもらうことになるかもしれない。PHOTOGRAPH BY NASA

史上最大の宇宙望遠鏡を載せたロケットの打ち上げが、2021年に仏領ギアナで予定されている。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の名で知られるこの巨大望遠鏡を使って、天文学者たちは居住可能な太陽系外惑星から星雲の成り立ちまで、宇宙のあらゆる現象を調査する予定だ。

これほど巨大な望遠鏡が宇宙に打ち上げられるのはJWSTが初めてだが、もしかすると最後のケースになるかもしれない。次の巨大望遠鏡は、ロボットの手を借りて宇宙空間で組み立てられる可能性があるからだ。

この方法の優れた点は、望遠鏡を部品のままの状態で運べるため、プロジェクトが負うリスクを大幅に低減できる点にある。それにも増して重要なのは、宇宙に送れる望遠鏡のサイズに上限がなくなることだろう。望遠鏡をあらかじめ組み立てていく場合、ロケットの大きさに応じて制約が発生する。宇宙で組立作業ができれば、これまで不可能だった機器の使用や探査作業も可能になるはずだ。

「考えうる限り最高難度の事例」

これは天文学界にくすぶり続けるひとつの疑問に答えを出そうと研究を重ねてきた、米航空宇宙局(NASA)が出した結論だ。「宇宙空間で望遠鏡の組み立て作業を行うことにそれほどの価値はあるのか」という疑問である。

リスク軽減の点から見れば間違いなく価値はある、とニック・シーグラーは言う。彼はNASAで太陽系外惑星の探査プログラムのチーフテクノロジストで、今回の研究論文の共同執筆者でもある。

JWST級の巨大望遠鏡ともなると、ロケットの爆発のような大事故はもちろん、反射鏡の開閉トラブルといった小さな不具合でさえ、望遠鏡を一瞬にして100億ドル(約1兆884億円)分の宇宙ゴミに変えてしまうかもしれない。しかし部品のままの状態で宇宙に送り、ロボットに組み立てさせれば、壊滅的なエラーは避けられる。何か問題が生じた場合には、次に打ち上げるロケットで交換用の部品を届ければいいのだ。

シーグラーらNASAの調査チームは、口径20mの望遠鏡を宇宙空間で組み立てる場合を想定して研究を実施した。JWSTのおよそ3倍、地上最大の光学望遠鏡であるカナリア大望遠鏡の2倍ほどの大きさをもつ架空の望遠鏡を研究対象としたわけだ。

太陽系外惑星の探索を目的とするこの望遠鏡には、これまでの常識では考えられないほどの安定性と精度が求められる。シーグラーによれば、それは「考えうる限り最高難度の事例」だったという。

道具立てはすでに整った

NASAはまず、複数のロケットで望遠鏡の部品を宇宙に運ぶことになるだろう。初回の打ち上げで、メインの組み立て作業場となるプラットフォームと、望遠鏡の構造を支えるトラスをバラバラの状態で送る。一対のロボットアームも一緒だ。

口径20mの望遠鏡を完成させるには、その後11回の追加打ち上げを行い、残りの部品を納めたカプセルをプラットフォームにドッキングさせる。それが終わった時点で、ロボットアームを使った組立作業を開始する。

「最初に思ったのは、まるでSF小説だな、ということでした」とシーグラーは言う。「しかしこれはすでに、まぎれもない現実のオペレーションなのです」

実際、宇宙最大の人工物である国際宇宙ステーション(ISS)は、軌道上で人間とロボットが一緒に組み立てたものだ。ハッブル宇宙望遠鏡も、部品を新しく交換する作業をロボットに任せている。

ロボットアームはたびたび、荷物を積んだ宇宙カプセルをISSまで誘導したり、宇宙ステーション内を巡回して修理作業を行ったりしている。シーグラーによると、JWST打ち上げチームは2000年代のはじめにはすでにロボットに望遠鏡を組み立てさせることを検討していたという。だがその時点では、技術面で機が熟していなかった。

「しかしいま、NASAは新しいツールを手に入れています」とシーグラーは続ける。「これまでより斬新なアプローチで望遠鏡を設計することもできるようになっています。道具立てはすでに整っているのです」

果たしてコスト削減につながるのか?

宇宙で巨大な望遠鏡を組み立てるという試みには、宇宙空間ならではの技術上の困難がいくつもつきまとう。作業場となるプラットフォームが組み立て中に制御不能のスピン状態に陥るのを防ぐにはどうすればよいか、といった問題だ。だがシーグラーによると、問題解決に必要な技術のほとんどが一応は存在しているという。

そうなると、望遠鏡の組み立てを宇宙で行うことがコスト削減につながるのか、という疑問が浮かんでくる。その答えは架空の望遠鏡による想定ではなく、具体的なミッションが発生したときに初めて明らかになるだろうとシーグラーは言う。

数十億ドル規模の大型プロジェクトが始まるまで、宇宙での組み立てを実行せずにいる必要もない。もっと小型の望遠鏡にも候補者としての資格は十分にあるはずだ。例えば、地球以外の星の周りを回りながら太陽系外惑星を直接撮影するミッションで使われる予定の望遠鏡「HabEx」なども、宇宙で組み立てることができればメリットはあるだろう。

スターシェードも実現するか

HabExにはコロナグラフの取り付けが予定されている。観察対象の惑星が発する光線を遮断する装置だ。こうした機器類には極めて高い精密性が求められる。望遠鏡の精度が安定していなければ任務を遂行できない。

とはいえ、宇宙で組み立てられる望遠鏡は、あらかじめ地上でつくられたものより大型になる傾向がある。強度の高い材質が用いられることが多く、コロナグラフの安定性も守られるはずだ。

あるいはスターシェードを使った太陽系外惑星の観察も可能かもしれない。スターシェードとは、周囲に漏れる光線を遮るために望遠鏡と観察対象の恒星との間に設置する巨大な装置だ。これまでこの装置が宇宙に設置された例はないが、もし実現するとなるとまたもやサイズ制限の問題が浮上する。宇宙で組み立てない限り解消できない問題だ。

つまり、ほかの星に住む隣人たちを観察したい、または知的生命体の存在のしるしを銀河系のどこかで最初に見つけたいと天文学者たちが真剣に望むなら、宇宙ロボットは有力な選択肢になるということだ。ロボットたちが愛想よく宇宙人に手を振ってあいさつしてくれることを願おうではないか。

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