東京五輪マラソン・競歩コースの移転問題は、国際オリンピック委員会(IOC)による決定を日本側も受け入れ、東京の暑さを避けて札幌市で実施することで決着した。五輪の花形種目であるマラソンが開催都市以外で実施されるのは史上初のことになる。
開幕まで9カ月を切った段階でのコース移転はあまりに唐突で、東京都とIOCの信頼関係にも深い溝が生じた。暑さ対策の準備を進めてきた選手や関係者にも、無念さや不安の声が広がっている。
とはいえ、遺恨を引きずったままでは事態は好転しまい。移転先の札幌市には、コースの設定と整備、テロ対策をはじめとする警備態勢の構築、宿舎やボランティアの確保など課題が山積している。IOC、大会組織委員会、政府、そして東京都の4者は、一致協力して札幌を支援すべきだ。
IOCは、数カ月前まで東京都と組織委の暑さ対策を評価していたにもかかわらず、移転計画を突然、発表。コーツIOC調整委員長は「決定は既になされた。IOC理事会にはこのような決定を下す権限がある」と言い放った。あまりに強権的ではないか。
IOCは、中東カタールのドーハで開かれた世界陸上選手権で、マラソンと競歩に多くの途中棄権者が出たことに危機感を募らせた。選手に良好な環境を提供するため、より気温の低い札幌での開催が好ましいと考えるのは理解できる。とはいえ、科学的、合理的な根拠も示さず、東京でも同様の事態が予想されると直ちに結論づけたのには強引さが否めない。
IOCは、移転案を組織委には事前に連絡しておきながら、東京都にはぎりぎりまで通知しなかった。相談しても反対されるに違いないと判断したのかもしれないが、開催都市に対してあまりに非礼であり、批判されても仕方あるまい。都は既に、遮熱性舗装を含むマラソンコースの整備や、9月に実施した五輪のテスト大会などに約三百数十億円の税金を投入している。小池百合子都知事が憤るのも当然だろう。
IOCは、われこそが選手に寄り添う五輪運動の主導者であるとアピールしたかったのかもしれないが、そのために、東京のコースを走りたいと願い、準備してきた選手や、沿道から声援を送ろうと考えていた都民、チケットを確保していたファンの夢が奪われてしまったことを肝に銘じるべきだ。
土壇場でのコース移転は、金のかからない大会開催とレガシー(遺産)が開催国と開催都市に残ることが大切だとするIOCの方針にも反している。ただ、いつまでもそうしたことに拘泥していては、ただでさえ残り少なくなった時間を無駄にするだけだ。
コース変更を、日本の適応力の高さを証明する好機だと捉える柔軟さも必要だろう。選手や観客らが「札幌で良かった」と本当に思えるレースとなるよう知恵を絞りたい。札幌開催が成功すれば、スポーツによる地域振興を目指す国内の地方都市の励みにもなる。
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