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「好きなことだけを、わがままにやってきた50年なんです」細野晴臣インタビュー

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 「はっぴいえんど」や「Yellow Magic Orchestra」の中心的存在として、また数多くのミュージシャンや映像作品への楽曲提供、演奏で知られる細野晴臣が、今年でデビュー50周年を迎えた。1日から公開されている記念ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』(佐渡岳利監督)では、幼少期からの貴重な資料・映像とともに、変幻自在で自由な細野の音楽の世界が描かれている。

編集部では映画公開にあわせ、改めてこの50年について振り返ってもらった。


ーー1年にわたって関連企画が続いています。率直に、この状況をどう感じていらっしゃいますか?

細野:僕はあまり自分に興味がないんです。だから「50年やったのか」という感慨もないし、「何かやろう」、というのもなくて、基本的には“他人事”でした。還暦記念のライブをやったことがあるくらいでしたから。

でも周りの人たちがなんだか楽しそうにやっているし、これは受け入れていくしか無いな、“パンダの気持ち”になればいいのかな、と(笑)。まあ、これが最後の節目で、ここから先は自由だぞと。そういう心境です。

ーーレッドカーペットを歩いてみて、いかがでしたか?

細野:『万引き家族』のときに2回歩いたんですけど、自分だけ先に歩いちゃって、気が付いたら、みんなが後ろの方にいるっていう(笑)。3回目ですが、まだ慣れませんね。


ーー細野さん=“天才”というイメージを持っているファンも多いと思いますが、記念展『細野観光』(4日まで開催中)では、思想や宗教に関する膨大な蔵書や、世界各国の音楽やアーティストについての“研究ノート”がとても印象的でした。実は相当な情報収集がベースにあるんだと。

細野:やっぱり音楽以外にも色んなことに興味が向いちゃって、自然と集まっちゃうんです。それは生まれて70年くらい経ってるから、あれくらいになるんですよね。捨てられないだけなんですけどね(笑)。

ーー音楽配信やYouTubeなどによって、今はそういう古今東西の音楽にもアクセスしやすくなっています。

細野:僕自身はレコード世代ですから、CDが出てきた時も、配信が出てきたときも、ちょっと抵抗はあったんです。今となってはそうでもないですけどね。それでも、聴くだけで所有しない、ということについては、まだ抵抗があるんですよね。

やっぱり良い音楽を聞いたら、誰が作ったのか、どういう人やものに影響されて作ったのか、それを知るのが大事なことなんで、そこをすっ飛ばしてしまっているとしたら、もったいないですよね。

ーー日本人であるということは、音楽をやっていく上でどんな影響がありましたか?

細野:大変だったことのほうが多いですよね。小学生の頃、FEN(Far East Network)を聴いてましたけど、なにしろ“Far East”、“極東”ですからね。もう、その頃から、アメリカの音楽がいかに巨大な存在で、追いつけない偉大なものなんだと思ってました。地図で見ると、ちっちゃな島国の片隅で音楽やってるんだな、って思い知らされるしね。

でも、そんな我々がやる音楽なんだから、肩肘を張らず、遊んでればいいじゃない?って、逆に気が楽になることもあったというかね。もうYMOの頃は、そういう感じでしたね。

ーーはっぴいえんどの作品群や、一枚目のソロアルバム『HOSONO HOUSE』を聴いていると、懐かしい、東京オリンピックで消えゆく古い東京やその近郊の風景が浮かんでくるようです。来年には2度目の開催ですが、いかがですか。

細野:昨日まであったはずの古い中華料理店とか喫茶店が無くなっちゃった、そういうことが増えていますよね。そういうものが消えてしまった街はなんだか居心地が悪いなと感じてしまうし、僕にはとても影響があるんです。一度無くなってしまった味はもう取り戻せないですからね。

それは音楽をやっていても感じます。一度無くなっちゃった音楽はもう取り戻せないんです。だから無くなっていくもの、これが若い頃よりもとても気になりますね。

ーー逆に、聴かれ続ける音楽、後の世代に再発見・再評価される音楽もあります。

細野:例えばブラジルの人たちを見ていると、過去の音楽にとても敬意を払っていて、受け継いでいこうという意識が高いんでしよね。そういう中で、音楽が“流れ”として残っていくんだと思います。

ーーまさに細野さんの音楽がそうだと思います(笑)。ナレーションを担当されている星野源さんを始め、細野さんの音楽に出会い、受け継いでいこうという若い人たちもいます。

細野:自分の音楽がそうなのか、自信はないんですけどね(笑)。好きなことだけを、わがままにやってきただけですから。でも、逆にそれが良かったのかもしれないですね。他人に気を遣って音楽を作っていたら、今ほどは聴いてもらえなかったのかもしれない。

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