世界最大の自由貿易圏になる東アジア地域包括的経済連携(RCEP(アールセップ))がインド抜きで“見切り発車”する公算が大きい。だが、大小十六カ国がそろってこその構想。日本は参加を説き続けてほしい。
RCEPの交渉国は、日本、中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)十カ国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの十六カ国。実現すれば、人口で世界の約半分の三十五億人、国内総生産(GDP)は約三割の二十五兆ドルで、環太平洋連携協定(TPP)などをしのぐ。
バンコクでの首脳会議で、インドは関税の引き下げや撤廃に反対して不参加を表明。このため年内妥結の目標を断念したが、他の十五カ国は交渉がほぼ終了し、来年中の署名を目指す。インド抜きでの発足の可能性が高まった。
インドの参加あってのRCEPだ。もともと、途上国が多い東アジア諸国が貿易の関税を低くして豊かになり、米国や欧州連合(EU)に対抗しようという構想だ。人口約十三億のインドが参加しないと市場規模が大きくしぼむ。加えて、人口などで中国が突出する。
「中国は勝者に見えるが、わが国にも不参加の理由がある」とインドの新聞は書く。特に、対中貿易赤字の拡大への懸念。累積で六兆円という。関税が下がれば、中国製の安価な電気製品などが流入しさらに膨張しかねないという。
RCEP十六カ国では、国による経済格差が大きい。一人当たりGDPは、最大のシンガポールが最小のミャンマーの五十倍近い。貧しい国には関税引き下げ時期の先送りなどが導入される方向だ。インドも十四位に低迷し、この“特典”に注目しているともみられる。しかし、人口が多いため国全体のGDPはASEAN十カ国の合計に迫る約二兆七千億ドルあり、理解は得にくいもようだ。
今回の一連のASEAN会議には、米国ではトランプ大統領が三年連続で欠席。閣僚級も派遣されず「アジア軽視」とも受け取られた。対して中国は李克強首相が参加して存在感を見せつけ、中国への傾斜をにおわせる国もあった。RCEPもこのままでは、人口や経済規模が突出する中国の発言権が増す場になりかねない。
日本とインドの経済的結び付きは強い。安倍晋三首相とモディ首相は、ほぼ一年交代でお互いの国を訪れて会談する間柄。この十二月にも、安倍氏が訪印する予定。この機などにインドへ交渉復帰を強く働き掛けてほしい。
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