衛宮士郎「その後の日常と非日常」   作:kairaku

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第3話

オールドストーンモール

 

表向きは改修工事となっている無人のオールドストーンモールに慌ただしい足音が響く。

五人のフードを被った、現代ではあまり見ないローブ姿の男達が険しい眼で辺りを見回す。

 

「いたか?」「いや」「生体反応がある」「近くにいる」「油断するな」

 

小さく声が聞こえるくらい近くに遠坂凛はいた。ブランドショップの入口近くのカウンター、レジの下で息を殺して隠れている。

 

遠坂凛は落ち着いている。表向きはそうしてる。

 

『あの時』。転移魔術を仕掛けられたときは焦りを感じたが、魔術師としての本能なのか冷たく静かに服の裏に隠していた宝石を握って襲撃に備えることが出来た。

 

転移した場所を確認する暇なく囲んでいたクルイドの部下が襲いかかってきたが、逆に魔力を込めた宝石をブーストにしガンドで返り討ちにした。

 

凛(とりあえず二人は動けなくしたはず……)

 

そのまま空いた敵陣から脱出し隠れながら応戦していた。

 

凛(どうして転移した場所がオールドストーンモールなのかは分からないけど)

 

おかげで隠れる場所には困らなかったが、敵に自分の居場所を探知出来る魔術師がいるのかすぐに見つかってしまう。

 

その状態で今まで逃げ延びてこれたのは、相手の不手際によるものだと凛は考える。

相手は戦闘経験が浅い。魔術師の腕前=戦いの強さではないことを実戦で経験した凛はよくそれを理解していた。

相手は人数の優位にたかをくくり、遠坂凛を舐めている。

 

遠坂凛は落ち着いている。

 

『入学前のくそ忙しい時期に手前勝手な言いぐさで人の大事な魔術回路を奪おうとする大馬鹿迷惑な奴らをぶん殴る為』に遠坂凛は落ち着いている。

 

クルイドの部下「この中だ」

 

三人の部下が凛のいるブランドショップに入ってくる。部下達が完全に中に入りきった瞬間。

 

凛「くっ!!」

 

全力で店を飛び出す。

 

クルイドの部下「いたぞっ!」

 

出入口にいた魔術師二人がこちらに呪術を向ける。が、それに構うことなく凛は呪文を唱える。

 

凛「『灯を竃に』(ひをかまどに)――『爆破』(はぜろ)――」

 

自分がいた場所に仕掛けた三つの宝石が凛の魔力に呼応し紅く震え破裂し、大爆発を起こす。凄まじい音と振動が辺りに広がる。

 

クルイドの部下「グアアアアアァッーー!!!!」

 

出入口にいた二人は爆破で吹っ飛び倒れた。

ガラガラと音をたて崩れる店から悲鳴が聞こえ、中に入った三人はそのまま崩れた店の下敷きになった。

 

凛「ハアッ、ハアッ、どんなもんよっ!」

 

大事な宝石を3つも使用した豪華な一撃の戦果にガッツポーズした凛だったが、それと同時に失った3つの宝石の金額が与えた『デカイ一撃』に半分ヤケクソな凛だった。

 

凛「これで相手も大分戦力が落ちたはずだけど……」

 

宝石はまだひとつある。行くべきか、引くべきか。

 

『優雅であれ』は遠坂の家訓だが、それを実行出来るほど自分は『まだ』優秀な魔術師ではない。

それはかつて経験した聖杯戦争で学んだことだ。悔しいが、ホント悔しいが!

相手の戦力が不明で手駒がない以上、今はここから(オールドストーンモールから)逃げるしかない。

 

凛は携帯電話を確認するが着信は無い。士郎は危なっかしいが、さっき自分が相手にした程度の魔術師ならなんとかなるだろう。

 

凛「さて、出口は……」

 

凛が動きだそうした瞬間、辺りの空気が、一変した。文字通り、『変わり』だしたのだ。

 

凛「なに!?」

 

慌ててその場から離れ、近くの店に飛び乗るが、その店自体も異質なものへと変化していく。

店の上から見るにモール全体が『機械化された工場』のようなものへと塗り替えられていった。

 

凛「これは?!」

 

クルイド「『社長は自分でチャンスをモノにするのではなく、部下にチャンスを与えることで組織を大きくするものである』――とビジネス書に書いてあったが、やはりなかなか上手くいかないね~」

 

凛「クルイドッ!」

 

凛の立つ真向かいの店にクルイドが現れる。

 

クルイド「どうだい私の『工場(ファクトリー)』は? 君なら理解出来るかな?」

 

凛「……『固有結界』」

 

クルイド「うーん惜しいが私のテストではチェックかな。これは私の中にあるモノでなく、私の根源を元に一から築き上げて作った魔術結界さ。もともと、このモールに仕込んであるんだ。私の根源である『分解』と『融合』で産み出した私の研究の到達点さ。……いいものを見せよう」

 

先程凛が壊した店が変化し巨大なパイプに繋がれた冷蔵庫のようなモノになっていた。

 

クルイド「『分解』『再構成』――『結合』――『エメト・ゴレィム』」

 

冷蔵庫のようなものの中から巨大な石像が現れ、ゆっくりと歩き出す。

 

凛は戦慄した。その工程はここからでも見てとれたがそれは魔術というルールから逸脱したモノだった。

 

凛「どういうこと?! 『アルケミー(錬金術)』で分解、構築され『ルーン文字』で結合された『ユダヤのゴーレム』ですって?!馬鹿げてるわ!」

 

クルイド「しかし本物だ。魔術師3人で作った『本物の』ゴーレムだ!」

 

凛「魔術は系統によるルールがあるわ。アルケミーにはアルケミーの。ルーンにはルーンの。それぞれの神秘はそれぞれの信仰に基づいて魔術として成立してる。でもこれはめちゃくちゃだわ。こんなことしても神秘が失われるだけで魔術は発現しない……なのに」

 

クルイド「私の造り上げた魔術式(プログラム)は本来なら混じりあわない魔術を『分解』し、『融合』することでより効率的な術式へと変化させる。さすがに無から造る事は出来ないが、元となる魔術(ソフト)の概念さえ取り込めば、後は自由に引き出せる」

 

凛はクルイドを睨み付ける。この男はイカれた研究者かも知れないが、間違いなく時計搭の魔術協会に一席を置く異才の魔術師だった。

 

凛「……これで何をするつもり?」

 

クルイド「時間稼ぎのつもりかね?でもいいよ君には知ってほしいからね」

 

 

オールドストーンモール周辺の道路

 

士郎「っ!? オールドストーンモールに遠坂はいるのか?」

 

リムジンの中でルヴィアに手当てを受ける士郎。

 

ルヴィア「そうですわ。魔術師の直観と言いたいところですけど、今は便利なモノがいっぱいありますわ……GPSとか」

 

士郎「それで遠坂は無事なのか?!」

 

ルヴィア「落ち着きなさい! 慌ててもどうにもなりませんわ……」

 

ルヴィア「……ミス・トオサカはわたくしが認めたライバル。そう簡単にくたばりませんことよ!そうよね?」

 

士郎「……あぁ、そうだな。……けど、ありがとうな。一緒に付いてきてくれるなんて」

 

ルヴィア「構いません。どうやらアナタ達だけの問題じゃなかったようですし」

 

士郎「どういう事だ?」

 

ルヴィア「相手の目的が分かりました」

 

士郎「!? いったい奴らは何を?!」

 

ルヴィア「クルイド魔術会の目的は『人工的にマナを生み出す』ことのようですわ」

 

士郎「『マナ』って自然界にあるモノだろ?それを人工的にって」

 

ルヴィア「そうですわね。『マナ』はどこにでもある自然の魔力。そして当然ながら自然豊かな土地であるほど多くマナが生み出さる。クルイドはその『マナ』を人の多く住む土地で大量に発生させることを計画しておりましたの」

 

ルヴィア「わたくしもどういう理論で考え出されたモノかは分かりません。しかしクルイドはそれを実現しようし、実際に実験しています」

 

士郎「もしかして……」

 

ルヴィア「今向かっているオールドストーンモールでその実験は行われました。結果どうなったか分かりませんが……人の命が100名近く失われたようですわ」

 

士郎「そんなヤバい奴、どうして魔術協会はほっといたんだ!」

 

ルヴィア「クルイドが時計搭で優秀な魔術師であったこと、相応の権力を持っていたこと、いろいろあるでしょうが何も追求が無かったわけじゃないようでしたの……」

 

執事「お嬢様着きました!」

 

ルヴィア「よろしい。士郎はそこでお待ちなさい!」

 

士郎「そんなわけいくかっ! 俺も行くに決まってる!」

 

士郎は満身創痍である。身体の傷もそうだが宝具級の投影を繰り返した無茶のせいで士郎の魔力は無く、魔術回路もボロボロである。

 

ルヴィア「足手纏い!もしもの時は庇えませんことよ!」

 

士郎「上等! 俺一人でも遠坂は助ける!」

 

ルヴィアは少しだけ困ったように顔を曇らす。

 

ルヴィア「先程の続き。クルイド魔術会は証拠隠滅の為オールドストーンモールを一見関係ない企業に売却したの。その企業がわたくしの知り合いのオーナーの会社。そこから『シッポ』が掴めたわけだけど。……どうやらエーデルフェルトの資金がクルイド魔術会に流れていたみたいですの」

 

ルヴィアは優しく士郎を見る。

 

ルヴィア「これはわたくしの家の問題でもあるのよ。だから――」

 

その時、オールドストーンモールが異常な魔力に覆われ形を変えていく。

 

ルヴィア「!? これは固有結界!?」

 

士郎「ルヴィア」

 

ルヴィア「――!」

 

士郎「たとえどんな理由があっても遠坂が危ないなら俺は行くぞ!」

 

士郎の真剣な眼差しにルヴィアの心は熱くなる。

 

ルヴィア「ふ、いいでしょう!」

 

リムジンから降り異形化し始めたオールドストーンモールに向かう。

ルヴィアは袖を捲り両手に宝石を出す。まだ異形化してない外壁に魔力を込めた宝石を叩きつける。

 

ルヴィア「リングインは淑女の花舞台!乱入はド派手にいきますわよ!!」

 

士郎(待ってろ遠坂!)

 

 

固有結界 ファクトリー内部

 

クルイド「『マナ』は自然の魔力、地球(ほし)の息吹き。だが人間だってそうさ自然物さ」

 

凛「言いたいことは分かるわ。私達のオド(人間の持つ魔力)は魔術師以外にも持っている人がいる。だけどそれを使うのは人間を束縛して殺すも一緒よ!」

 

クルイド「そうでもないのさ。人間の日々の営みも自然の営みのひとつだよ?」

 

凛「意味が分からないわ!」

 

クルイド「……私は研究で世界各地を放浪していたときにある『現象』にあった。それは町ひとつが人々の噂や恐怖、あらゆる感情で覆われ、ありもしないものが形を持ち『怪奇』として生み出されるという現象だった。後からそれは一体の『死徒』が持つ概念だと知ったが、私はそれに感銘を受けた」

 

クルイド「その現象によって発生した魔力たるや、マナと同等。人々の持つ生命のエネルギーを体感出来たよ!人々が日々抱く感情、意識。そこから魔力を産み出す! 私の生涯の研究テーマが生まれた瞬間だ!」

 

凛は頭を抱える。

 

凛「……出来る出来ないはともかく。それがアナタのいう世のため、人のためになるの?」

 

クルイド「あぁ、人類による人類のための新しいエネルギー供給の始まりさ!」

 

凛「……ホントあきれたわ。言ってること分かってんの? そんなこと、時計搭も教会側も許すものですか」

 

クルイド「どうかな? 少なくとも時計搭の連中は私を見逃してる」

 

凛「なんですって――」

 

クルイド「君も二十年、いや君なら十年で分かるかな。魔術を学ぶ程に思うだろう。私達の知る神秘などほんの上辺に過ぎないと!――それと、これは私の個人的な意見だが……今更火や風を起こす起こさない程度の魔術などどうでもいいと思わないか?」

 

凛「…………」

クルイド「ふふ、話を戻そう。私はどうにかその死徒の血液を手に入れ、その研究の完成にフルイシの陰陽道を利用した。陰陽道に使われる『自然の気の流れを掴む術式』はまさにマナ操作に持ってこいだった。異なる概念だが私の魔術式なら問題ない。……しかし実際のところ問題は起きた!」

 

クルイド「私は『工場』に概念を組み込み術式を完成させたが、いかんせん『人手不足』だった」

 

凛「アナタそれって……」

 

クルイド「ん?あぁ。そりゃそんなデカイ魔術、私一人の魔術回路じゃムリだよ。いくつかの魔術回路を持つ人間を要所要所に『設置』したのさ。いやぁどうしたもんかと思ったけどさ。流石に搭の魔術師はもったいないからね。山奥とかジャングルの奥地にまで行って探して来たよッ!!」

 

凛のガンドがクルイドに撃ち込まれる。

 

しかし周りの機械化した建物が隆起してクルイドを守る。

 

クルイド「ふ、いいじゃないか。この世はいつだって弱者の犠牲で成り立っているんだ。それにちゃんと満足するような金は与えたぜ?」

 

凛「アナタもう喋らなくていいわ『口が臭い』もの」

 

クルイド「傷付くね。しかし私は喋る。魔術を完成させた私はこのモールに術式を仕組んでさっそく実験した」

 

凛のガンドを避けながらクルイドは語る。

 

クルイド「結果は大失敗。生み出した魔力で花火でも上げようと思ったけど、その前に爆発。あれは色々酷かった……『私を守れゴーレム』」

 

命令されたゴーレムはその巨体から想像出来ないほど恐ろしい速さで凛に迫った。

 

凛「このっ!!」

 

迫るゴーレムにガンドを放つが全く効果がない。逃げようとするが、突然足元に機械じみた鎖が現れ足を拘束する。

 

クルイド「ここは私の世界さ遠坂君。『捕まえろゴーレム』」

 

ゴーレムの腕に捕まる凛。

 

クルイド「……そう『命令』なんだ。術式は完璧だった。しかし組み込んだ人間の意識と、またその違う場所に組み込んだ人間との意識のズレのせいでスムーズに魔力が通らない。そして暴発する」

 

凛「ぐ、くぅ……」

 

容赦ない締め付けに意識が飛びそうになる。

 

クルイド「複数の人間の意識をスムーズに切り換えることが出来る『スイッチ』が必要だ。そう君の『令呪』だ。神話の英雄ですら従わせる『強制力』。これで完璧な装置になる」

 

クルイドの手が凛の腕に触れるようとした瞬間――

 

巨大な爆発が外で起こる。

 

クルイド「……なんだ?」

 

クルイドの意識が凛から外れた。薄れゆく意識の中、凛は最後の宝石を点火させる。

 

 

凛「――――バン」

 

 

稲妻のようなガンドがゴーレムの腕を抉り、そのままクルイドに撃ち込まれる。

 

クルイド「――ぐぅ!? お、おのれぇ!!」

 

ゴーレムから解放される凛、未だ劣勢ながらもその瞳は凛々しく、その闘志は服と同じく赤々と燃えていた。

 

凛「長々とお話ありがとう。けどもう終わりよ。アナタの魔術も研究も――」

 

凛「私『達』が終わらすわ!」

 

 

 

固有結界『工場(ファクトリー)』内部

 

士郎「オォ!!」

 

士郎は手にした金属バットで家電製品で出来たゴーレムを打ち抜く。投影ではなく近くのスポーツ店で調達したものだ。

 

ルヴィア「はぁっ!!」

 

炎で出来た狼をガンドで打ち消すルヴィア。

 

士郎「キリがないな!」

 

襲い来る敵を倒しても、機械化された店舗から次々と化け物が生産されていく。

 

士郎「クルイドってヤツはとんでもないな!これだけのモノを行えるなんて!」

 

ルヴィア「いえこれは一人で出来る規模を越えてますわ。恐らく魔術回路も魔力も別のところから供給してますわね」

 

士郎「それって!?」

 

ルヴィア「……10人。いや、『20人』は必要ですわね」

 

士郎は金属バットを地面に叩きつける。

 

士郎「クルイドのヤツ――」

 

ルヴィア「許せないですわっ!!」

 

恐ろしい剣幕のルヴィア。

 

ルヴィア「何の罪もない民を犠牲にしてまで己の利に走るなど魔術師の風上にも置けません!必ず報いを与えますわ!」

 

猛るルヴィアに士郎は初めてルヴィアの『素』を垣間見た気がした。

やっぱりいいヤツじゃないか。改めて士郎はそう思う。

 

士郎「けど、どうする。このままじゃ遠坂まで辿り着けない!」

 

ルヴィア「大丈夫よシロウ。敵は大きな誤算をしてるわ……シロウ少し時間を稼いで頂戴」

 

士郎「任せろ!」

 

ルヴィアは地面に宝石をばらまくと静かに目を閉じる。

ルヴィアから溢れる強力な魔の力に当てられ、異形の化け物達がルヴィアに迫るが士郎がそれをさせない。

 

ルヴィア「敵の誤算はただひとつ。このルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトを『本気で怒らせた』ことですわ!」

 

ばらまかれた宝石が輝き出すと地面に溶け込んでいった。

途端に辺り一帯の機械化された風景が壊れたように歪み始める。

 

 

固有結界『工場』 中心部

 

クルイド「ムッ!?」

 

凛に撃ち込まれた腹を庇いながながらクルイドは『工場』に起きた異常事態を感じた。

 

クルイド(私の工場の機能を力業で止める魔術師がいるとは……)「君の『恋人』はなかなかにやるようだ……」

 

凛「あの馬鹿また無茶して」

 

工場にノイズのようなものが走り、さっきまで活発に動いていた機械の一部が止まっていくのを凛は感じた。

 

クルイド「まさかフルイシが倒されるとはね。何故フルイシが君ではなく彼を警戒するのか理解出来たよ」

 

凛「で、どうする?降参する?」

 

クルイド「まさか。工場は今だ動き続けている。君の令呪を頂いた頃には機能回復してる、さっ!」

 

クルイドが地面を剥ぐように腕を振るうと呪いの波が地面を走った。

黒い波は凛に近づくにつれ津波のように大きくなっていく。

 

クルイド「呪いの波に溺れろっ!!」

 

呪いの波が凛を飲み込む。

 

クルイド「君は優秀さ、魔術師の卵としてはね。だが本物の魔術師の私には及ばないね。…………!?」

 

凛「オォーーリャッ!!」

 

呪いの波を突き抜けてクルイドに向かって突進する凛。

 

クルイド「な、何をす――!?」

 

クルイドのお喋りを遮るように容赦ない顔面パンチ。

しかしクルイドもギリギリで防壁魔術を完成させる。

 

クルイド「ふざけ――」

 

凛の攻撃は終わらない。

魔術でコーティングされた脚で飛び膝蹴り。

打撃。蹴撃。繰り出される連撃に魔術を使う暇を与えない。

 

クルイド「――ふざけるなっ!」

 

防壁魔術が破られそうになる前に凛から逃げるように大きく距離を取るクルイド。

 

クルイド「魔術師の決闘に拳を使うなど――まったくフルイシといい、最近の若い魔術師は魔術師としての誇りは無いのか!?」

 

凛「アナタに言われたくないわね。『世の理』を知ろうとする魔術師が世を乱そうとするなんて本末転倒だわ」

 

クルイド「乱そうとはしてないさ。私はね遠坂君。『魔術』というものを世に知らしめたいのだよ。なぜ魔術師が表舞台に立たず、裏に生き秘密とされているのか分かるか?」

 

凛「……魔術を護るためよ。魔術の力は神秘性を保つことで世の理として再現できる。先祖から伝えられた魔術の知恵と能力(ちから)を守り、伝えていく為にも魔術師はその存在を隠していかなければならないのよ」

 

クルイド「それは魔術師の都合だ。我らの使っている魔術は我々だけのものではない。世の中に活かされるべきなのだ!」

 

凛「なるほどね。何となくアンタを擁護する魔術協会の『派閥』みたいなのがどういう考えを持ってるか分かったわ……」

 

ふたたび凛がクルイドに詰め寄る。

 

凛「アンタの考えはご立派よ。けどね!その考えの結果が人間を犠牲にしたマナ発生装置だなんてお笑いよ!そんなもの認められるわけないでしょ!」

 

クルイド「君の考えている『人の社会』は小さいな遠坂君。少ない犠牲で社会が生きるのなら犠牲にならない大部分の人々は私を『英雄』と称えるだろう。それが社会で新たに認識される魔術師の存在だ!」

 

再びクルイドの周りに呪いの波が沸き立つ。

対して八極の構えを取る凛。

 

凛「そんな最低な野望の為に他の健全な魔術師を巻き込まないで欲しいわね!」

 

クルイド「世間知らずの魔術師が!先程の攻撃と同じとおもうなよ――『渦巻け』『風切れ』『昂れ』『駆けろ』!」

 

呪いの波が燃えるように昂り、渦を巻きながら勢いを増し呪いの竜巻となる。

 

クルイド「様々な呪術を掛け合わし造り上げた私の傑作だーー降参するかね?」

 

凛「……魔術回路を取られれば私は死んだも同然だわ」

 

クルイド「そうかね……ならば『二度』死んでもらおう!」

 

クルイドから放たれた呪いの竜巻は、最早周りの建物さえも巻き込み巨大な嵐となって凛に迫る。

 

クルイド「逃げ場無しだ!我が呪いに燃え上がれ!」

 

遠坂凛は逃げない。呪いの嵐に立ち向かう。

 

凛「――――『逆巻け』『納まれ』『靡散れ』『裂けろ』!」

 

嵐が凛を飲み込もうとするが凛に触れる前に呪いが全て掻き消される。

 

凛「はぁああああっ!!」

 

嵐を突破しクルイドの懐に入る。

 

クルイド「ばかなっ!?」

 

凛「終わりよ!!」

 

寸勁。回転足払い。回転肘撃ち。崩拳。

 

全ての技がクルイドに叩き込まれる。

 

クルイド「ガハッ!?――あらゆる属性の魔術を打ち消すとは……そうか、君は……」

 

凛「悪いわね。私は『全部持ってるの』」

 

クルイド「く、く、くく。魔術師として負けるか……だが、それでも、君は甘い!」

 

クルイドの足下から機械の腕が造られる。

工場の機能が回復したのだった。

 

凛「しまった!?」

 

咄嗟にクルイドから離れるが間に合わない。

身構える凛。

 

――――機械の腕が凛を捉えそうになる瞬間。

 

 

クルイドと凛の間にあった店舗が爆発した。

 

クルイド「誰だ!?」

 

凛「士郎!?」

 

ではなかった。

噴煙と共に現れた乱入者は蒼いドレスコート。

美しい金髪をフワリと巻き上げた見目麗しい生粋の貴婦人だった。

 

凛「ルヴィア!?」

 

ルヴィア「どりゃあああ!!」

 

ルヴィアは爆風の勢いのまま踵落としで機械の腕を打ち砕く。

 

クルイド「く、フルイシの報告にあったエーデルフェルトの当主か!?」

 

流れるような動きでクルイドの背後を取るルヴィア。

 

クルイド「へ?」

 

ルヴィア「わたくしの怒りを喰らいなさいっーー!!」

 

――クルイドは地面から引っこ抜かれ

――空を仰ぎ

そのまま脳天から叩き落とされる。

 

クルイド「――ヘギィ!!?」

 

美しいジャーマンスープレックスにより地面に沈むクルイド。

 

ルヴィア「ふぅ。多少スッキリしましたわ」パンパン

 

凛「………………アンタねぇ……空気読みなさいよ!」

 

ルヴィア「何をおっしゃって?せっかく助けに来てあげたのに」

 

士郎「大丈夫か遠坂!?」ダッ

 

凛「ダーー!!」ゴツン!

 

士郎「な、なんだ!?洗脳魔術か!?」

 

凛「あたしゃ正気よ!なんでルヴィアより早く助けに来ないの!」

 

士郎「いや俺もヘトヘトで……ホント無事で良かった」

 

凛「!? ふ、ふん私一人でどうにかなったわ……。でも、その、ありがとう……」

 

ボロボロな士郎に巻かれた包帯に優しく触れる。

 

ルヴィア「面白くありませんわね~~」フンッ

 

和やかな雰囲気が流れる中、ゴゴゴゴゴと周りの機械化された建物が動き出す。

 

士郎「元に戻るのか?」

 

ルヴィア「……何か様子がおかしいですわね」

 

クルイド「く、くくくく――」

 

凛「クルイド!?」

 

クルイド「今『スイッチ』を入れた。間もなくここにマナが満ちる……」

 

凛「!? 令呪がなければ暴発するんでしょ!?」

 

クルイド「そうだよ。ハハ、大変だね」

 

士郎「オマエ! いい加減にしろ! 魔術を止めろ、さもなないとっ!」

 

クルイド「殺すか?意味無いね!この術式は一度動き出したら止まらん。仮にスイッチを入れた今の術式を無理矢理止めようとすればその時点でドカンだ!」

 

クルイド「この術式を止める方法はひとつ」

 

クルイドの横から『腕ひとつ収まるくらいの穴の空いた装置』が現れる。

 

クルイド「君達の腕を術式に繋ぎ、止まるよう命令するんだ!」

 

ルヴィア「……一度繋いだら魔術回路ごと繋がりそうですわね」

 

クルイド「やるべきだよ遠坂君、衛宮君!今回は前よりも『気合いを入れた』からね!ここら一帯が吹っ飛ブッーー!?」

 

ルヴィアの容赦ない蹴りがクルイドの腹にブチ込まれた。

 

士郎「凛…………」

 

凛「私は嫌よ。私でも士郎でも。こんな事で腕を無くすのも、命を無くすのも」

 

士郎「そうか――」

 

ルヴィア「…………シロウ……ミス・トオサカ」

 

 

 

士郎「ならやることは一つだな!」

 

凛「そうね、方法は一つね。クルイド!」

 

クルイド「!?」

 

凛「アナタは色んな手で私達を追い込んだつもりでしょうけど、どれにしたって絶望なんかとは程遠い障害物よ!『あの時』に比べれば!」

 

ルヴィア「……アナタ達いったい何を?」

 

凛「ルヴィア!宝石まだあるわね?」

 

ルヴィア「それはもちろん!」

 

凛「それ士郎に埋め込んで!」

 

士郎「おう!……え?」

 

凛「いいから埋め込んで!」

 

ルヴィア「…………ふむ。アナタのやりたいことは何となく察しがつきましたけれど」

 

ルヴィアは士郎に近づくと顎を掴み寄せる。

 

ルヴィア「ちゃんと受けるのよ?」

 

士郎「へ?――んっ」

 

ルヴィアは士郎に口づけると恋人同士がするような濃厚なキスを繰り広げる。

 

凛「~~~~っ! ――オラッ!」

 

クルイド「――なべっ!?」

 

凛の八つ当たりで今度こそ間違いなく気絶するクルイド。

 

ルヴィア「ふぅ。(ほっこり)こっちの方が手っ取り早いわ♪どうシロウ?」

 

士郎「……え、あ、あぁルヴィアから魔力が伝わってくる」

 

ルヴィア「うふふ。まぁ即席のリンクですから10分位しか持ちませんからお早く」

 

凛「ルヴィア……アンタ覚えておきなさいよ……」ゴゴゴゴゴ

 

ルヴィア「あら恐い。……さてシロウの実力見せてもらいましょう」

 

凛「…………頼んだわよ士郎」

 

 

 

士郎は意識を集中する。

唇を噛み締め、痛いくらい拳を握る。

 

――そうしなければ

 

――思わず笑い出しそうになるからだ。

 

 

 

――――体は剣で出来ている

 

やはり俺は『あの戦争』から

おかしくなってしまったのだろうか。

 

――――血潮は鉄で心は硝子

 

本来なら絶望的なこの状況を

苦しみ嘆くべきなのだろう。

 

――――幾たびの戦場を越えて不敗

 

しかし『そういう気』がまったく起きない。

 

――――ただの一度の敗走もなく、

 

――――ただの一度の勝利もなし

 

この魔術をしくじる気もない。

 

――――担い手はここに独り

 

――――剣の丘で鉄を鍛つ

 

ただここに遠坂とルヴィアがいるだけで

俺は何も恐くない。

 

――――ならば我が生涯に意味は不要ず

 

『アイツ』はこんな気持ちで

この魔術をつかえたことはあるのだろうか?

 

――――この体は、

 

――――無限の剣で出来ていた

 

 

士郎を中心に士郎の心象風景が 現実世界を侵食する。

 

剣の丘は『工場』で造られたマナを吸収しモール全体に拡がっていった。

 

固有結界により丸ごと書き換えられた工場はその機能を失い消失していく。

 

本来その風景は、担い手のいない剣達が墓標のようにたたずむ

寂しい風景のはずだった。

 

しかし今、その剣の丘には花が咲いていた。

 

凛々しい赤と誇らしい青の花。

 

それだけで衛宮士郎の風景(こころ)は

満たされ、輝くのであった。

 

 

 

エピローグ

 

時計塔近くのカフェテラス

 

ルヴィア「クルイド達は魔術協会で裁判にかけられるようですわ。アナタの師匠のおかげね」

 

凛「あの人じゃないわ。多分あの人の弟子のおかげよ」

 

クルイド達との決着は着いた。

やり過ぎたクルイド達は協会からも見放され判決を待つ身となった。

 

クルイドの『工場』に利用された人々は救出され、今は凛の師のもとで保護されている。

 

ルヴィア「しかしシロウには本当に驚かされるわ。魔術の素人が魔術師の目指す高みのひとつに到達するなんて……称賛、と言うより嫉妬してしまうわ」

 

凛「まったく人の努力をこけにする反則技よ」

 

ルヴィア「うふふ。それでもわたくしはよりシロウに――シロウ?」

 

士郎「…………」

 

あの後、遠坂からクルイドの野望を聞いた。

とてもじゃないが認めることの出来ない

おぞましいものだと俺は思った。

 

しかしと思う。

『アイツ』はどうだろうか?

 

『小』を切り捨て『大』を生かしてきた

あの英雄はクルイドの思想を聞いて何を思うだろう。

 

凛「士郎!――聞いてるの?」

 

士郎「ん?あぁ……」

 

『アイツ』は俺を否定した。

俺もアイツを否定した。

アイツは今も聖杯に導かれて違う俺の前に現れているのだかろうか?

 

今の俺はアイツの後ろで

俺はアイツの続きなのだろうか?

 

答えはまだずっと先だろうか。

 

隣の凛を見る。

 

士郎「『あの時の俺』、格好良かったか?」

 

凛「そうね。英雄みたいだったわ」

 

士郎「おい……」

 

凛「……あの時やめてと言っても士郎はやるでしょ?どうしたってアンタは無茶するんだもの、隣にいる私の身にもなってよ」

 

士郎「……フルイシが言っていた。俺は普通じゃないと。俺につるんでいるヤツも普通じゃなくなると」

 

凛「ふん。あんな小悪党の言うこと気にするなんて、心の贅肉よ。言っておくけど、アンタに付いていく私じゃなくて、アンタが私に付いてくるのよ!……そして私の目の前の障害物を全部ぶっ飛ばすの!」

 

凛「そして――そして、その見返りにアンタは幸せになるの。いや『してやる』!いい?『士郎は士郎で士郎のまま』よ!」

 

士郎「凛…………」

 

凛「だいたいね!こんな事件が可愛く思える程、面倒くさいやつらがこれから行くとこにはいっぱいいるの! だからアンタもこれくらいで泣き言なんて言うんじゃないの!――ふん!」

 

凛は顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

それを見る士郎は優しく笑う。

どこかの誰かに似た笑みだったが、

それより早く手に入れた優しい顔だった。

 

ルヴィア「――ゴホン!まったく、人前ではしたない。全然面白くありませんわ!」

 

凛「出たわ士郎、最初の障害物よ」

 

士郎「おいおい」

 

ルヴィア「まぁ今は好きにさせますわ。勝負は最後に笑ってる者の勝ちですもの」フニュン!

 

士郎「ルヴィア?そう近いといろいろと困るんだけど?」アセアセ

 

ルヴィア「ねぇシロウ、今ちょうど執事を求人募集中なの、やってみませんこと?」

 

凛「あら、ごめんあそばせ?士郎はこれからと~~っても忙しくなるの。そんな暇無いわ!」ペトッ!

 

ルヴィア「ちなみにお給料の方は……」ゴニョゴニョ

 

士郎「のった!」

 

凛「士郎っ!?」

 

士郎「いやだって、今回宝石とか使い過ぎただろ?後から賠償されるかもだけど当分先だろうし……」

 

凛「ぐぬぬ……」

 

ルヴィア「交渉成立ですわ!今日からアナタは私の『シェロ』ですわ!」

 

士郎「シェロ……まぁよろしく頼む」

 

ルヴィア「ふふ、まずは美味しい紅茶の淹れ方に、正しい礼儀作法。社交術も身に付けてもらわないと!」

 

士郎「……なんか気を急ぎ過ぎたかな」

 

凛「ふん!せいぜい私と士郎の幸せの為の資金を貢ぎ続けるがいいわ!」

 

――――ブチッ

 

ルヴィア「あら~~シェロを幸せにすることにミス・トオサカが必要、ということはないんでございまして~~?」

 

凛「どういう意味かしらね~~それ~~」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

凛「いい加減、人の弟子に手を出すんじゃないわよ!!」ドツキ!!

 

ルヴィア「今はわたくしの執事ですわ!!」タックル!!

 

士郎「ハハッ、仲良いな」

 

笑う士郎。止まる赤鬼、青鬼。

 

凛「あ~~何その感じ腹立つわね……」

 

ルヴィア「さっそく躾が必要かしらね?」

 

士郎「は、はは、ホント仲良いね……」

 

 

その後のその後も続いていく。

日常はコメディに非日常はシリアスに。

この時が『アイツ』に繋がるか分からない。

けどもしかしたら、

 

ほどほどに厳しくて、

 

そこそこに紳士で、

 

なかなかに笑える英雄が生まれるかも知れない。

 

そんな可能性の『その後の日常と非日常』。

 

 

衛宮士郎「その後の日常と非日常」 了

 




pixivに載せていたものをこっちに持って来てきました。
実はちょっぴり変えてあります。
FateGOにハマりまたこういう感じのSS書きたいなということで、いつになるかはFateGOのイベント次第ですがw思いついたら書きたいです。

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