伊澤理江

見知らぬ土地への転勤と激務で帰らぬ夫 「アウェイ育児」に苦しむ妻

11/5(火) 12:01 配信

上の写真に写っている男の子は2年余り前、母親の手で布団に投げつけられたことがある。幸い、子どもにけがはなく、家庭も平穏を取り戻している。なぜ、そんなことをしてしまったのか。夫の転勤で見知らぬ土地での慣れない子育て。夫は激務で帰りが遅く、頼れる知人もいない。「アウェイ育児」に追い込まれた末のことだった。そんなケースから浮かび上がってきたものとは──。(取材:伊澤理江/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「誰かに自分を止めてもらいたい」

「もう、いい加減にして!」

兵庫県に住む鈴木薫さん(30代・仮名)は、そう叫びながら生後6カ月の息子を薄い肌掛け布団に投げつけたという。

2017年8月。蒸し暑い曇り空の日だった。

息子は一度泣きだすと泣きやまない。その日も昼頃から泣き始めた。抱っこをしても、授乳をしても、おむつを替えても泣きやまない。既に2時間以上経過した、その時だ。1メートルほどの高さから布団に投げつけると、息子は一瞬、静かになった。そして、「ギャ――――」とさらに大きな声で泣きだした。

(イメージ撮影:穐吉洋子)

このままでは命を奪ってしまうかもしれないと、薫さんは児童相談所に電話をかけた。

男性の職員が出た。泣きやまない子どもを布団に投げつけたことを泣きながら伝えると、外傷の有無などを聞かれた。外傷はない。するとその職員は「児童館へ行ったり、保健師に相談したりしてみて」と言う。淡々とした口ぶり。短時間で終わったその通話を薫さんはよく覚えている。

「泣きやんだタイミングを見計らって、やっとの思いで電話したんです。動転していて、誰かに自分を止めてもらいたい、と。それをうまく伝えることができなくて」

薫さんは大学を卒業後、東京で就職し、外資系企業などで仕事を続けていた。企業名や仕事の内容を明かせば、典型的な「キャリア女性」に映るだろう。夫の転勤を機に30代半ばで退職。「わが子の投げつけ事件」は、初めての土地に移って1年足らずの時だった。

近くに家族や親族、頼れる友人はいない。メーカー勤務の夫は朝6時に家を出て、ほとんどの日は夜12時過ぎまで帰ってこない。残業に次ぐ残業で、週末もよく仕事に出た。

(イメージ撮影:穐吉洋子)

それにしても、息子はよく泣いた。泣きだすと、何時間も止まらない。周りの目が気になり、薫さんはバスで児童館に出かけることもできなかった。

「家の近くで過ごそうにも真夏のお散歩は1時間が限界で……」

「託児所なんてかわいそう」の言葉に抗しきれず

長い一日を子どもと2人でどう過ごせばいいのか。「夫は存在しないものとして考えていました」と明かす薫さんにとって、2年前のあの夏は何だったのか。

「私の母は、電車とかで小さい子が泣いていると、『親のしつけがなってない』とよく言っていました。泣かせ続けるのは、悪い親、しつけのできていない親だ、と。自分もそう思う節があって。泣き声を聞いているだけでつらい。早く泣きやませたかった」

(イメージ撮影:穐吉洋子)

丸一日、夫以外の大人と話すことのない日が続いていた。

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