原状回復費用の過剰な請求にご用心!退去時に気をつけるべきこと
賃貸物件を引き払う際に必ずおこなうのが、原状回復費用の計算(と差額を差し引いた敷金の返却)です。
でも「原状回復」って一体どこまでを指すのでしょう?
入居者はどれだけ負担すればいいのでしょうか?
賃貸マンションの大家をしているアサクラさんに、自身のマンションでの具体例をもとに原状回復費用について教えてもらいました。
アサクラさんは古い友人との会話で、驚いたことがあったといいます。
原状回復費用が14万円って高すぎない?
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友人は最近、転職をきっかけに地方都市から東京に戻ってきました。
3年間住んだ賃貸マンションを退去する際、原状回復費用として約14万円を請求されたというのです。
聞けば、料理もほとんどせずタバコも吸っておらず、部屋には寝に帰るだけの生活。
室内の汚れなどは、たかが知れています。
しかも、入居時の初期費用で「退去時のクリーニング費用」はすでに支払い済みだったそうですから、14万円はかなり高額。
というか、過剰な請求と言ってしまっていいでしょう。
賃貸の事情に詳しくない友人もさすがにこれは高いと思ったらしく、小一時間ほど交渉した末に3万円(!)に下がったということです。
「汚れた壁紙を取り替える費用に11万円ほどかかる」というのが不動産会社の言い分だったので、交渉の結果、その分は支払わないということで3万円に落ち着いたのだとか。
だれでも知っている大手の不動産会社が管理する物件だったといいますから、本当に驚きです。
原状回復の基本的なポイントをおさらい
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まずは原状回復のルールについて、「東京都住宅政策本部」のホームページを参考に基本的なポイントを確認してみましょう。
「貸主の費用負担」については「賃貸住宅の契約においては、経年変化及び通常の使用による損耗・キズ等の修繕費は、家賃に含まれているとされており、貸主が費用を負担するのが原則」とされています。
一方「借主の費用負担」については「借主の責任によって生じた、または故障や不具合を放置したことにより発生・拡大した汚れやキズについては、借主が負担するのが原則」と書かれています。
より分かりやすくまとめると、
・ふつうの生活で汚れた分は大家さん側の負担
・故意や不注意で汚した分は入居者さん側の負担
という感じでしょうか。
この基本ルールに加えて、賃貸契約書に「ハウスクリーニング費用を入居者さんが負担する」という「特約」を設けるのが一般的です。
(先に挙げた友人の例でいえば、入居時の初期費用に含まれていたクリーニング費です)
「特約」については契約書に必ず記載されていますので、賃貸に住まんでいる方は確認しておくといいでしょう。
うちのマンションの場合は「専門業者による室内全体のハウスクリーニング費用は室内の使用状況・使用年数・借主の清掃状況に関わらず、借主の通常の使用によるものであっても借主の負担とする」と記されていました。
「ハウスクリーニング費用」のみの請求がふつう
では、うちのマンションの例を見ながら、具体的に説明しましょう。
まずは、ある部屋の敷金返却明細をごらんください。
「原状回復費」はいたってシンプル。
「特約」に記された「ハウスクリーニング費用=32,400円(税込)」のみです。
うちのマンションの場合、ほとんどのケースがこれにあてはまります。
先日、23年ぶりに空室になった部屋の驚きの汚さをご紹介しましたが、
あの部屋でさえ、同じ32,400円(税込)でした。
そうなんです。「ふつうに」暮らした範囲ならば、いくら汚くなろうが破損しようが、余分にお金を払う必要はありません。
23年ぶりの空室では、風呂場の湿気で木製ドアがボロボロになっていました。
それでも、入居者さんの使い方に問題があるというより「お風呂の木製ドアを23年間ふつうに使えば、あんな風になっても仕方ない」という判断で、入居者さんに修理費は請求していません。
「部屋が汚くなったから原状回復費用も高くなる」と思われる方も多いようですが、必ずしもそうではないことを覚えておくといいと思います。
タバコのヤニ汚れは原状回復費用が高額に
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では「故意や不注意による汚れって何?」という話になりますね。
ここ数年でひと部屋だけ「ハウスクリーニング費用」以外に別途、原状回復費用をいただいたケースがありました。
こちらのお部屋にお住まいだった方は、かなりのヘビースモーカー。
ドアを開けた途端に強烈なヤニ臭さが漂ってくる状態でした。
見ればクロスやアコーディオンカーテン、エアコンに至るまでタバコによるヤニ汚れが付着していたのです。
また、お風呂もヘアピンが長期間置きっぱなしになっていたりして、サビ汚れがひどい状態。
これらはまさに故意や不注意による汚れに該当します。
タバコについては室内で吸わないようにすることで汚れを避けることはできたはずですし、お風呂についても常識的な頻度で掃除をしてさえいればサビは付かなかったでしょう。
その結果、ふだんの「ハウスクリーニング費用」とは別途に計3万円(税別)を請求させていただきました。
先ほど挙げた「東京都住宅政策本部」のホームページによれば、「引越し作業で生じた引っかきキズ、借主が結露を放置したために拡大したシミやカビ」なども、借主負担となる例として挙げられていますのでご注意ください。
基本的なルールをしっかり理解して身を守ろう
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「大家負担か、入居者負担か」のラインは分かりましたか?
ご紹介したのは、あくまでうちのマンションの一例なので、ひとつの目安と考えていただければ幸いです。
もちろんグレーゾーンとなるような領域もありますし、大家さんの方針や契約によって判断が変わってくることもありえます。
ただ、世の中には原状回復についてよく知らない入居者さんに法外な金額を「ふっかける」タチの悪い大家が存在するのも事実です。
賃貸物件を借りている方は、原状回復についての基本的な知識を踏まえたうえで、おかしいと思ったらきちんと説明を求めるといいですね。
【参考】