東京証券取引所は5日に株式取引のシステムを更新するのに伴い、値幅に関する新制度を導入する。株価の急変時に一定の条件で強制的に値動きを制限するほか、取引終了時に売買が成立しやすくする。高速取引(HFT)業者や指数連動の「パッシブ運用」の台頭など株式市場の構造変化に対応し、円滑に取引できる環境を整える。
東証が株取引システム「アローヘッド」を刷新するのは約4年ぶり。今回は注文の処理速度を従来の1.5倍にするほか、2つの制度を変更する。
ひとつは、ある銘柄の株価が上下に急変動した際に値動きを制限する対策の強化だ。
株価の急変時にはもともと、変動後の株価を上限や下限として1分間は一定の値幅に値動きを抑える制度がある。ただ、その間に十分な反対注文(急落の場合は買い注文)があると、制限された値幅を超えて取引できる例外措置があった。5日からはこの例外措置をなくす。
過去には2017年2月に東証1部上場の東ソー株が19秒で21%下落。同年11月にはインフォテリア(現アステリア)が7秒間に22%下げた。アルゴリズム取引で瞬時に注文を出すHFTが例外措置を逆手にとり、制限を解除していた。
こうした急落は中小型株で起きるケースが多い。過去の事例ではいずれも株価は瞬間的に急変した後に、元の水準まで戻っている。ただ、東証は市場の混乱を招きかねないとして、必ず1分間値幅を制限するように制度を改める。
もう一つの変更は取引終了時の値幅だ。東証は午後3時ちょうどから、市場に出ている売買注文を付け合わせて終値を決める。直前の株価からの変動幅はこれまで1.5~3%だったが、これを3~6%に広げる。株価指数に連動した運用を目指す投資家は取引終了時に多くの注文を出す傾向が強く、終値を決める際の値幅を拡大して取引不成立を防ぐ狙いだ。
個人投資家にとっては、午後3時ちょうどの値動きが大きくなる点に注意が必要だ。例えば株価が7500円台のトヨタ自動車はこれまで、取引終了時に最大で150円まで上下に動く可能性があったが、5日からはこの値幅が300円になる。
取引終了時の値幅は米ニューヨーク証券取引所(NYSE)が10%以内、英ロンドン証券取引所は3~5%程度だ。東証は「今回の変更で海外取引所と同程度の水準になる」としている。
制度変更の背景には株式市場で進む構造変化がある。高速で自動取引するHFTは東証の売買代金の5割近くを占めるとされ、10年から急増している。パッシブ運用も70兆円超と5年間で2倍近くに増えた。新たな取引制度でより円滑な値動きを目指す。
東証は10年に現在のシステムを導入し、15年に一度更新した。HFTの増加などに応じて注文の処理速度を高めてきた。今回の刷新後は、22年にも次の更新を予定している。